銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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7.戦闘訓練 2

「ひ……っ」

 

 誰がどう見ても立派なヴィランの姿を惜しげもなくさらすトガを見て、お茶子は思わず声を漏らした。

 だが、彼女とて多くの人間の中から選ばれたヒーローの卵だ。すぐに気合いを入れなおして、乱れた精神を立て直した。

 

 これは彼女が、あくまで訓練という思考でいることが大きい。爆豪でもあるまいし、まさかトガが本気で害してくるようなことはしないだろう、と。この態度は、そういう演技なのだろう、と。

 

 が、()()()()トガにそんなつもりはなく、今の彼女は完全にお茶子から血を吸う気しかない。

 

 しかしそれは、お茶子の第一印象がよかったから……お茶子がかわいいから、お茶子と仲良くなりたいから、という親愛の情がさせるものだ。

 好きだから、仲良くしたいから、()()()血を吸う。 悪意のない悪意だ。それをまっとうな環境で、まっすぐに育ったお茶子に見抜けというのはいささか無理な話であった。

 

 とはいえ、お茶子は解釈は間違えども、選択は間違わなかった。彼女は意識を切り替えると、トガに背を向け一目散に逃げ出したのだ。

 だが、ただ逃げたわけではない。なぜなら、この部屋にはヒーロー側の勝利条件となる核の模型がある。そして今、それに近いのはお茶子のほうだ。彼女は、戦闘になる前に核を確保してしまおうと考えたのである。

 

 その発想は正しい。この状況で取り得る判断としては、一番と言えるかもしれない。なぜなら、残酷な話ではあるが、トガとお茶子の戦力差は大きいのだから。それほどフォースユーザーとそうでないものの差は大きい。

 

 しかし、周囲にある柱を利用することなく、一直線に模型を目指したこと。それは間違いなく、悪手であった。

 

 なぜなら。

 

「やーん、お茶子ちゃん待って!」

「ぅえっ!?」

 

 そう、トガはフォースユーザー。

 ゆえに彼女は、迷うことなくフォースプルを使った。フォースによって引力を起こし、対象を自らに引き寄せるジェダイの――ひいてはシスの、基本中の基本技。

 

 背後に気にかける余裕のないお茶子が、これに抗えるはずもなく。彼女はほとんど無抵抗のままトガのほうへ引き寄せられた。

 

「つっかまっえたっ♪」

「うひゃう!」

 

 そしてそのお茶子を、トガは後ろから抱きしめる。

 

 ただ抱きしめるのではない。この半年近くの間、教えられた技を駆使して簡単には逃げられないように封じ込めながらだ。もちろん、お茶子の“個性”を大枠で知っているトガは、彼女の手が自分に触れないようにしている。

 フォースも使ったこの拘束に、格闘の心得がないお茶子が抗えるはずもない。

 

「ふふ、お茶子ちゃん。素敵。なんでかな、不思議と同じ匂いがするような気がするんですよ」

「な、なんのこと……? って、ちょ、な、何してるん!? そんな、匂いなんて嗅がんといてって……!」

 

 拘束した状態のまま、お茶子のうなじに顔をうずめて鼻を鳴らすトガ。だんだんとその表情が昂っていく。

 紅潮した顔で舌なめずりをするその様子に、地下のモニタールームではエロに人一倍関心が高い小柄な少年こと峰田が大層心拍数を上げていたが、それはともかく。

 

「ごめんねぇ、もう我慢できないの。ごめんねお茶子ちゃん……!」

「え、ええぇぇ……! ま、まさか被身子ちゃんって、そっちの……ういいぃぃ!? ちゅ、注射!?」

「チウ――チウ――」

 

 無理な体勢を承知で、お茶子が後ろのトガに振り返ろうとした、まさにその瞬間。

 トガはいつの間にか取り出していた注射器を、お茶子の太ももに意識の外から突き立てた。

 

 この注射器は、特製のサポートアイテムだ。痛みが生じない代物で、何もしなくとも採血が可能。そして一定まで吸い上げたら、それ以上は動かないというセーフティつきの。

 

 設定上、この注射器が吸い出せる血の量は多くない。30シーシー程度だ。それでも、人前でかみついて血を補給するわけにはいかないからと、理波が説得を重ねて用意させた(理波自身も同じものを持つことで承諾を取りつけた)ものである。

 

 当の理波はモニタールームでこの様子を見ながら、持たせておいて正解だったとホッとしていた。この状況でそれを使ってくれたことにも。

 

「んー……! おいしい! お茶子ちゃん、やっぱり素敵!」

「え、えええぇぇ……」

 

 そして当の本人たちはと言うと。

 

 引き抜いた注射器を早速開封して口に向け、中身をあおって飲み干したと思えば、心底嬉しそうに歓声を上げるトガと。

 目の前で自分の血を飲まれた上に、大興奮する様を見せられたことで心底ドン引きするお茶子という両極端な図となった。

 

 それでも、お茶子は諦めていなかった。注射器から血をあおった瞬間に、わずかに緩んだ拘束の隙間を縫ってトガに接触。“個性”によって、トガにかかっている重力をゼロにした。

 

「ん? あれ?」

「っし……! 脱出成功っ!」

 

 トガはきょとんとした顔のままふわりと空中に浮かび、逆にお茶子は完全に拘束から抜け出して、一目散に核へ向かう。

 

「んー……待ってよぉー!」

 

 彼女に向けて再びフォースプルをかけようとするトガだったが、無重力状態ゆえに向きが定まらず、なかなか上手くいかない。

 

 ならばと彼女は、手首に装着されたサポートアイテムに手をかけた。フックを打ち込み、それに繋がるワイヤーを巻き取る形で移動する未来の鉤縄とでも言うべき代物。理波謹製のサポートアイテムであり、ライトセーバーやドロイド同様、銀河共和国仕様の逸品である。

 

「うひゃあ!?」

 

 それによってトガはお茶子を追い越し、正面から迎え撃つ形を作り出した。

 しかしそれだけではない。彼女はすれ違いざま、自らの“個性”を発動していた。

 

 そして、()()()“個性”を発動していた。

 

「う、え!? わ、私……!?」

 

 その結果、トガに続きお茶子もまた無重力状態となって空中を漂うことになった。

 

 だが、その正面にいるはずの人間は、トガの姿をしていなかった。

 そこにいたのは、負ったばかりの傷すら寸分違わぬ、お茶子であったのだ。

 

「これ……! 私の『無重力(ゼログラビティ)』!?」

「そうですよ! えへへ、これでお揃いだねお茶子ちゃん!」

 

 そう答えたもう一人のお茶子の顔は……しかし普段の彼女ではあり得ない、邪悪な笑みで染まっている。

 トガだ。

 

 そう、彼女の“個性”は――

 

「――『変身』! それが被身子ちゃんの“個性”ってことか!」

「わーい、わかってくれた! 嬉しい!」

 

 ぷかぷかと空中を漂う同じ姿、同じ声の二人が言葉を交わし合う。だが、互いに無重力状態となり、しかし解除は相手に依存する状況。

 おまけに移動も、攻撃も手段がない両者には、もはやお互いに打つ手がなかった。千日手である。

 

「うおー……! なんにもできん……! 自分の“個性”やけど、実際に食らうとこんなに厄介やってんな……!」

「でもこれ、楽しいです。私は好きですよ!」

「そ、それは、えーと、ありがとう?」

「どういたしまして!」

 

 なお、トガは本来なら打つ手がある。いくつかのサポートアイテムを持っているし、フォースもある。

 だが彼女の“個性”「変身」は、服装や装備まで含めた完全な変身である。そのため変身すると、変身相手の服を元から着ていた服の上から着る形となってしまう。当然非常に動きにくく、それを避けるためにコスチュームを自身の毛髪由来の特殊繊維にすることでコスチュームともども変身するようにしているのだが……お茶子のコスチュームは全身をぴったり覆うボディスーツだ。それに圧迫されて、装備しているサポートアイテムはすべて使用不能状態である。

 そしてフォースもまた、細胞レベルで変ずる性質上今のトガは使えなくなっていた。今の肉体はお茶子のそれであり、彼女はミディ=クロリアン値が低い非センシティブなのだから。

 

 ……実のところトガは、このデメリットを知悉しておらずとも予測していた。だがそれよりも、暗黒面に身を委ねた彼女は今、訓練で相手に勝つことより己の欲求を満たすことを優先した。

 引き分けとも言うべき状況はそれゆえであり、最初からトガが本気で倒すつもりでいたならば、もっと早く、それこそあっさりと終わっていただろう。

 

 とはいえ、である。まだ完全に終わったわけではない。

 

 なぜなら、お茶子には“個性”を限界以上に……あるいは自分に対して使い続けると、どんどん酔いが回るというデメリットが。

 トガには変身相手の“個性”を使い続けると、変身可能時間があっという間に激減するというデメリットがある。

 

 すなわち、ここからの戦いはいかに相手より我慢できるか。それに集約された。

 

(うぷ……っ、き、気持ち悪なってきた……自分にかけてないはずなんに、自分にかけたときみたいや……!?)

「あう、あーあー、やっぱり人の“個性”使うと、すぐダメになっちゃう……とっても残念……」

 

 だんだん顔が青ざめていくお茶子。だんだん顔が崩れていくトガ。傍から見ると、ものすごく不穏な絵面であった。

 もしもこれがバラエティ番組であればある種の撮れ高になったのだろうが、あいにくと戦闘訓練である。そういう「ウケ」は無用だ。

 

 しかし、終わりは彼女たちとは違うところから、突如としてやってきた。

 

「行くぞ麗日さん――――SMAAAAASH!!」

 

 下から。少年の雄叫びとともに、凄まじい衝撃が襲いかかり、ビルを激しく揺らす。同時に一階から屋上にかけて風穴が開き、最後に遅れて轟音が響き渡った。

 

「え、わ、わーっ!?」

「デクくん来た……! ここや!」

 

 その衝撃により、今までなんとか堪えていたトガの変身が解けた。同時に、お茶子にかかっていた無重力も解ける。

 

 一方で無重力状態が維持されたままのトガは、猛烈な衝撃波にあおられて吹き飛んでいき、重力を取り戻したお茶子だけが屋内に取り残された。

 

「ふぐ……、た、た……ー……っち……!」

 

 そして彼女は継続し続ける酔いの気持ち悪さをこらえ、襲いくる嘔吐の衝動を口を押さえる形で無理やり抑え込み、核の模型へ這いずっていく。

 

 そして……

 

《ヒーローチーム! WIN!!》

 

 お茶子が震える手で模型に触れた瞬間、オールマイトのアナウンスがビル全体に響き渡った。

 

 そのアナウンスを受け、お茶子はなんとかギリギリで保っていた緊張の糸が切れた。

 同時に、我慢し続けていた吐き気に遂に屈服し、嘔吐する。歳相応に羞恥心があるので、カメラに映らないところでとは思ったが、手遅れだった。模型の陰に顔を押し込むだけで精いっぱいである。

 

 その背後に、戻って来たトガが立った。手には新たに取り出した注射器を持ち、お茶子から血を吸う気満々の顔で。

 

 だが青い顔でえづくお茶子の様子を見た瞬間、トガの全身にみなぎっていた暗黒面のフォースは潮騒のように引いていった。

 

 ()()()()()()()()。本能的にそう思った。これ以上やったら、きっと斎藤くんのときみたいに嫌われるから……。

 

「お茶子ちゃん、大丈夫です?」

 

 だからトガは注射器を捨てながらそう言って、お茶子の背中をさする。その姿は、あっという間に理波のものへと変じていた。

 

「ふえ……こ、理波ちゃん……やない……ぅえ、ひ、被身子ちゃん……?」

「はい、トガですよ。酔っちゃったんです?」

「ぅ、ん……ぎぼちわりゅい……」

「わあああ、な、なんとかするので! お茶子ちゃんもがんばってください!」

 

 お茶子の背をさするトガの手から、理波の“個性”が発動される。触れたもののなにがしかを選んで増幅する“個性”。

 今回それが増幅したものは、お茶子の三半規管の機能だった。乗り物酔いに酷似しているから、という判断である。トガも、伊達に雄英のヒーロー科に受かっているわけではないのである。

 

 実際この見立ては正しく、お茶子はほどなくして回復に向かい始めた。いつもならもっとかかるはずなのに、と思いながら、彼女はなんとか回るようになってきた思考でぼんやりと理波……に、変身している被身子の顔を見る。

 

 そこには、つい先ほどまで見ていた壮絶な表情はなかった。ヴィランとしか言いようのない笑みはどこにもなく、あるのはただ、心配そうに見つめながら、大丈夫だと繰り返す友人の顔だけだ。

 だからお茶子は、ほっと息をつくことができた。

 

 よかった、と。

 あれは役になり切っていただけなんだ、と。

 

 そう思った。

 

「……ありがとう、被身子ちゃん。もう大丈夫……」

「本当です? 無理はダメなのですよ、コトちゃんもお義父さんも、いつも言ってます」

「うん……もう大丈夫! 被身子ちゃんの“個性”、すごいね!」

 

 だからお茶子は、にっと笑った。

 それを受けて、トガもまたにまりと笑った。……どろりと全身を融解させ、元の姿に戻りながらだ。

 

「ひゃっ!? そ、それ心臓に悪いよ!」

「あは、ごめんなさい。こればっかりはどうにもならなくて」

 

 そうして二人は、あははと笑い合った。

 まるで普通の友人のようなやり取り。お茶子にとっては、普段と何も変わらないやり取りだ。

 

 だが、トガにとっては……本当の自分をしまい込んだやり取りで。楽しくも、どこか心の中に澱が溜まっていくような感覚があった。

 

 いつか見せられるだろうか。彼女は、理波のように受け入れてくれる人だろうか。

 そんな思いが頭の中に湧いてくる。そして最後に、あの日手酷く振られたときの記憶が脳裏をよぎった。

 

 ――お茶子ちゃんから、あんな風に嫌われたくないな……。

 

 そして、そう思った。()()なら、あり得ない思考。()()とは異なる出会いと、一年間を過ごしたことによる明確な違いがそれを生んでいた。

 

 けれど、それを表に出すことはない。隠すことは、不本意だけど慣れているから。

 

「おーい二人とも! 講評するぞ、早く下りておいで!」

 

 と、そこにオールマイトの声が下の階から聞こえてくる。

 

「あっ、はーい! 被身子ちゃん、行こ!」

「はい!」

 

 そうして二人はどちらからともなく立ち上がると、肩を並べてモニタールームに足を向けたのだった。

 

「……うっ、ごめん、やっぱまだちょっと気持ち悪いかも……」

「お茶子ちゃんー!?」

 




原作のトガちゃんがどういう流れで斎藤くんをぶち切ってチウチウしたか、はっきり描写されていませんが・・・恍惚とした表情ながら滝のような涙を流してるので、たぶんこっぴどく振られたこと自体は変わらないと思うんですよ。
で、原作ではそこで「もうこれ以上我慢できない!」「もう自由に生きてやる!」って吹っ切れたんじゃないかとボクは思うわけです。
ただ、それでも原作の彼女は振られるの、かなり覚悟していたとも思うんですよ。ダメ元というか、わかっていてもとめられなかった状態だったんじゃないかって。

しかし本作では振られる直前にどっかのジェダイが希望を持たせるようなことを言ってしまったので、原作より期待が大きくなっていて。
それでこっぴどく振られたせいで呆然してしまっていた、という想定で物語を書いています。
一度持ち上げられてしまったので、落差が原作よりも巨大になってしまっていたという感じです。覚悟して色々備えて三階から飛び降りるのと、五階から備え無しで突き落とされるのと、どっちが痛いかって言ったらまあ後者ですよね。

そのショックは理波が「全部受け入れる」宣言をしたことで偏執的な愛に変換され、一年ほどの付き合いの中で強烈な依存が足されていったわけですが、ショックを受けた記憶自体が消えるわけではないわけです。
なので、本作のトガちゃんは原作よりもちょっとだけ臆病という設定になります。仲良くなりたいと思った人に拒絶されることに対しては、むしろ人一倍かも。
一応の自重や理性は、そういうところから来ている部分もある感じで。

・・・理波が同世代でもっと早い段階から顔を合わせて付き合いがあったら、原作みたいに積極的にチウチウしにいくヒーローなトガちゃんになったかもしれないんですけどね。
書き始めた当初はそこまで考えてなかったので、トガちゃんには申し訳ないことをしたかなと思いつつも、ヤンデレなお姉さんとTS幼女のカップリングとか正直超好きなので反省も後悔もしていない(真顔
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