ライトセーバーを構える私を見るスノークは驚いていましたが、すぐににやりと表情を変えました。
「……なるほど、そう言うことか……。よもやジェダイの師がダークジェダイだったとは……これは想定しておらんかった。しかも霊体になって肉体に潜り込むとは、随分とうまくやったな……敵ながら見事と言うほかあるまい……」
そしてそう言う彼の左手首が、ゆるゆるっと元の形に戻っていきます。
別に驚きはしません。ここは心の中、ここは私の精神世界。ここで大事なことは意思の力で、こうなんだっていう強いイメージこそが何よりも意味を持つのです。それは侵入してきたスノークも例外じゃないのです。
でもだからこそ、ここでの私は実体を持っています。本来なら未来に置いてきたはずのライトセーバーもです。それができる場所なのです。
格好がヒーローコスチュームじゃなくって雄英の制服なのは、ご愛嬌ですけど。
「だが肉体を持たない……うーむ、オーダー66を無様に生き延びた腰抜けか?」
つまりここにいる私は、正真正銘の全力を出せる状態。なので遠慮なく切りかかりましたが、普通に回避されました。
何度も攻撃を繰り返しますが、全部かわされます。にやにや笑いながら、会話しながらそれなので、ちょっと凹み……ません。
確かに実力差はありますが、それっぽく見せてるだけであっちも余裕綽々ってわけでもない感じです。ひっくり返す目はそれなりにありそうですね。
うん。私、こっち来てからも鍛錬はサボってなかったんですけど……がんばっててよかったです。
「それとも……尋問官(銀河帝国時代にフォースユーザー狩りのため組織された、闇のフォースユーザーたちのこと)の一員かな……? ふむ……」
ただ、やっぱりフォースだけの戦いだと不利を覆すのはかなり難しそうなのです。プルスウルトラしないといけない感じ。時間を稼ぐくらいなら余裕なんですけどね。
そんな中、スノークが一際強く念じたことで世界が少しずつきしみ始め、じわじわと景色が塗り替わっていきました。
マインドプローブが進んでいます。侵食されています。
ほんと、呆れちゃうくらいの技量ですね。回避しながらでリソースが分散しているからか、進行がかなりゆっくりなのが不幸中の幸いでしょうか。
「……おお、なんと……! かの素晴らしき暗黒卿、ダース・ヴェイダーの弟子なのか……!」
「アナキン・スカイウォーカーの弟子……ですっ」
「謙遜することはない! 伝説のシスの一人に師事できたことは、むしろ誇るべきだ……我が不肖の弟子が聞いたら、さぞ羨むことだろうなぁ……!」
侵食を食い止めるためにも一層激しく攻撃をしますが、相変わらず全部回避されます。
うーん、攻撃と防御の切り替えがものすごくうまいですね。技に無駄がまったくない気がします。行けそうな気はするんですけど。
ふむん。それじゃ、こういうのはどうでしょう?
「それがなぜあの娘を保護することに……むっ!?」
侵食され始め、さらに深い私の心の奥に少しずつ魔の手が迫る中、突然景色が一瞬にして切り替わりました。見渡す限り一面の砂漠。ジャクーの景色です。
「……あの娘の心の景色か。ぬう……」
かと思えば、次の瞬間また景色が切り替わります。雄英の景色にです。
そこから数秒おきに、世界が断続的に切り替わり続けます。ジャクーと雄英の景色が、反復横跳びに切り替わり始めたのです。
ジャクーの景色は、スノークが察した通りレイちゃんの心象風景です。それが私のものと入れ替わり続けているのは、実際その通りに魂が推移しているから。
そう、私は今、間借りしているレイちゃんの身体の主導権を握ってすぐに手放して、を繰り返しています。こうすることで私たちの魂の位置関係が短時間で入れ替わることになり、結果として読心に対するジャミングとして機能するわけですね。
名づけて、マインドシャッフルってとこですか。もちろん、すごい限定的な状態でしかできない技ですし、そもそもが付け焼刃な技なんですけど。
「ていやっ!」
「ぐっ!?」
今はそれでも十分です。何せ相手としても、初めて見る技ですからね。
「ふふ。やっと一発入りました、ね?」
ちょっとだけ距離を取って、にっこり笑います。スノークの右脚が、ざっくり切られていました。
「……調子に乗るでないぞ」
まあそれはすぐ元に戻りましたし、なんだったらフォースライトニングの反撃が飛んできましたけどね。
でも全力のものじゃないっぽかったので、自分を試す意味も込みでとりあえず左手を前に突き出しました。手のひらに展開したフォースバリアが青白いいかづちを集め、受け止め、防ぎます。
「ほう……? その程度のことはできるのか。だが……どこまで耐えられるかな?」
が、それを見たスノークはすぐにライトニングの威力を上げてきました。
うん、これダメですね。十年以上練習し続けましたけど、どうもこれ系の技って苦手なんです。
コトちゃんもあんまり得意じゃないみたいなので、フォースダイアド的にたぶんそういうことなんでしょう。普段ならお揃いって喜ぶところですが、状況が状況なので素直に喜べません。
「ふー……っ!」
「む!?」
なので次は、闇のフォースを引き出して私もフォースライトニングを撃ってみました。スノークのライトニングが、私の放つライトニングでどんどん押し返されていきます。
きっと今の私の目の色は、ダークサイドの金色になっているでしょう。これもたくさん練習したんですよ。
「……素晴らしい。自らの意思で、即座に闇の深奥を引き出せるか! だがもったいないな……時代が時代ならシスの本流にも乗れたであろうに!」
「あなたに褒められても、別に嬉しくなんかないです……!」
でも私が押し返せたのは少しの間で、またすぐに押し返され始めました。うー、やっぱりその道のプロにはちょっと勝てないですねぇ。
仕方ないのでライトセーバーで受け直しつつ、距離を取ります。あんまりしたくなかったですけど、このまま正面からやりあっても力負けするだけなので。
あとやっぱり闇の力だけではどうにもならなさそうなので、ひとまずフォースを光の側に戻します。
それを見て、スノークはせせら笑いました。
「おや……もう闇の力は使わないのかな?」
「はあ……わかってるくせに。闇の人たちってそういう言い方、ほんと大好きですね?」
「多少言葉を弄した程度で相手が揺らぐのだ、やらぬ理由があるまい? どうせ元手はかからんのだからな……」
効けば儲けものだからとりあえずやれるだけやっておく、って理屈はわかるんですけどね。される側としてはうっとーしいので、別に嬉しくもなんともないのです。
まあ、悪い人のすることは銀河が違っても同じってことなんでしょうけどね。コトちゃんが地球で感じてた実感を、私が感じることになるなんて思ってなかったですけど。同じ気持ちになれたことは素直に嬉しいものです。
「それで? もう札は品切れかな?」
「んー……」
ないわけじゃないんですけど。もうちょっとだけ、私だけでやってみたいって気持ちがあるっていうか。
とはいえ、余裕がないのは間違いないのです。あっちも攻防とマインドプローブを両立していますが、私だって攻防とマインドシャッフルを両立させているのです。これだって、別に片手間でやってるわけじゃないのです。
「出し惜しみをしている余裕があるとは……わしも舐められたものだな……」
実際、私がちょっと悩んで手が緩んだ瞬間に、スノークは隙を突く形で攻め手を強めました。おかげで侵食が再開しました。
ん、これは潮時ですね。無駄な抵抗はやめてしまいましょう。
ということで、一気に抵抗がなくなった世界はあっさり砕けました。
ですがもちろん、心の奥底を覗かれることに対する抵抗をやめたってだけで、スノークという侵入者への抵抗をやめたわけじゃないのです。
それが伝わっているのでしょう。スノークもいぶかしげに、けれど警戒を強めてこちらを観察する動きを見せました。
ええ、そうでしょうね。そうするでしょう。普通なら誰だってそうします。
だってここにあるのは、私が普段表に出さない感情ばかりなのです。
そんな気持ちだけが、どろどろに煮詰まって沈殿する、私の心の奥の奥。
心の中のすべてをさらしているっていう特大のデメリットはありますけど……別に、コトちゃんが大好きってことは隠すことじゃないのでそこはいいのです。私の愛は、私の好きは、誰にだって否定させやしないのですから。
でも、私の愛を……十年以上溜めに溜めた、溶岩のように熱く煮えたぎる愛を直視した人は、なんでかみんな引くのです。不思議ですよね?
「色恋に狂った輩だったか……拍子抜けだな」
スノークもそうみたいです。わかってもらえるとは思ってなかったですし、もらいたいとも思ってませんが、それでも今確かに少し引きましたね。ついでに嫌悪感と侮蔑を露にしますが……その一瞬のスキさえあれば十分。
「ぐっ!?」
無造作に切っ先が掲げられていたセーバーが、一瞬だけものすごく伸びてスノークのお腹を貫通します。
何もおかしなことはありません。ここは私の心の中。私のイメージですべてが決まる世界。
だから、変身だってできるに
「……何者だ? どちらが本当のお前だ?」
「その問いに答える必要性を感じない」
一時増幅、一時増幅、一時増幅。一時増幅の連打です。
スノークは顔を歪めながら回避しようとしますが、無駄です。一瞬だけのセーバー刀身増幅は、文字通り一瞬だけの超々遠距離攻撃。音速どころか光速すら越える、ゼロ秒の技です。
そんなものを連続ですれば、普通相手はすぐに死んじゃいます。だからコトちゃんは絶対にしない技ではあるんですが。
ここは心の中で、ライトセーバーの直撃も厳密には死に直結するわけじゃないので、ギリギリセーフでしょう。
そしてこれを受けて、死なない相手が次にどうするかはフォースを使わなくても大体わかります。死なないなら鬱陶しいだけの攻撃なわけですから、被弾を無視して攻撃してくる。
そうでしょう?
「く……っ! 舐めるでないぞ!」
はい、正解です。スノークは、両手から特大のフォースライトニングを放ってきました。
なので、フォースライトニングに対する耐性を全力で増幅します。これでちょっぴり痛い程度で済みます。
頭悪いですって? いえいえ、ここはインパクト重視ですよ。
「馬鹿な……!?」
ほら、動揺しました。
私知ってますよ。フォースの戦いにおいて、こういう動揺は命取りだってこと。
「そこだ」
「ぐおおぉ!?」
だから、反撃します。掲げた手の先で、スノークの顔が爆発します。
フォースブラスト。私がコトちゃんの身体で最初に開発した技です。二人の愛の結晶って言い換えてもいいでしょう。うふふ。
一応、威力だけならフォースライトニングのが上です。ですがあれには、相手までの距離を踏破しないと当たらないっていう欠点があります。
いえ、雷速で放たれるフォースライトニングで、それは普通欠点にはならないんですけど。フォースで触れた場所をそのまま爆発させられるフォースブラストと比べると、射程の自由度と速射性でどうしても下回るのです。
だから今みたいな状況だと、断然フォースブラストのが効果的なのです。
「去れ、闇の者。ここは私たちの場所だ。何人たりとも侵させはしない」
「ぬうぅぅ……ッ! 小癪な……!」
繰り返される爆発で、スノークの身体がどんどん押し出されていきます。心の外へ、外へです。
あと少しかな?
何がって、別に外に追い出せるのがあと少し、って意味じゃないですよ。
「暗黒面の力を見せてや――――!?」
「……ああ、どうやら時間のようだ」
突然ピタリと動きをとめたスノークを見て、私はにんまり笑います。
そんな私を無視して、スノークが緩慢な動きで自分の後ろ――現実の世界を振り返りました。信じられない、って顔でした。
でも、これが現実なのです。
そう、表で。
現実の世界で、ベンくんがテレキネシスで遠隔起動したますたぁのライトセーバーにスノークの腰が貫かれた、ってことは。
まぎれもない、現実なのです。
「ば、か、な」
「レイが言っただろう? お前は私たちを見くびっていると。そうとも。お前は誰あろう、ベン・ソロを一番見くびっていた」
スノークの生命が、急速に消えていきます。ベンくんが遠隔で動かした青いライトセーバーが、左右に動いてスノークの身体を上半身と下半身に真っ二つにしています。
「逃がすものか」
だから、現実に戻って抵抗しようとするスノークを一瞬だけこの場所に拘束します。
同時に、このまま私の中に残られても困るので、確実に消滅させるために私も攻撃を仕掛けます。フォースと増幅で、丁寧にスノークを消していくのです。
「お――――の、れ……ま、さか……わし、が――――こん――――ところ――――……」
そして現実でも心の中でも、スノークが消える直前。
私は
VSスノーク。トガの勝ちデース!(ペガサス並感
もちろんレイの中でこんな精神的な戦いがされてることは、レイにしかわかりません。
傍目から見ると、スノークのマインドプローブに驚異的な精神力で長く抵抗し続けるレイにしか見えなかったでしょう。
ただ、その抵抗にこそ心を動かされるものがいた。彼はそういう人だと信じた人がいたというお話。
なおこの心の中に関する設定ばっかりは、さすがにマジでガチの本当に独自設定です。