1.穏やかな?日曜日
私とヒミコが、関係を二人だけに終わらせない覚悟を決めてからおよそ一か月ほどが経った。その間にあった授業やヒーローインターンについては、特に目立ったことがないので割愛する。
強いて言えば、色々な経験を積めということで全員インターン先がたまに変わることと、リハビリだけでなく授業の遅れがあるために一人だけインターンから除外されているヒミコと離れる機会が多い分、夜の営みが激しさを取り戻したくらいか。
いや、互いに距離を無視できる関係であるので、関係ないと言えばないのだが。それはそれ、これはこれである。
なお、ヒミコも補習が落ち着き次第インターンを始める予定なのだが、今のところホークスから打診があるとのこと。
……I-2Oの調べによって、ホークスがヒーロー公安委員会に所属している紐つきのヒーローであることは、既にわかっている。
なのでこの件は、そういうことなのだろう。公安の側が、ヒミコに……というよりはフォースなどについてより興味を強めているのだろうな。
そしてそのホークスは、なぜか本拠地福岡を不在にしており、どこにいるかはサイドキックの面々もよくは知らないのだという。これはフミカゲも同様だ。
であればホークスは現在、公安委員会からの指示にかかりっきりになっているのだろう。だからちょうど良かった。
「逆に色々と引っこ抜いてやるといい」
ホークスからの打診だと聞いてすぐに色々と悟った私は、ヒミコにそう言った。彼女の返答はいつも以上に獰猛な笑みだったので、彼女もやる気なのだろう。
まあ、直後にトールから「二人とも悪い顔してる!」と指摘されて我に返ったのだが。
「入学直後はあんなに品行方正だったことちゃんが、そんな顔するようになっちゃって。私は悲しいよ~」
「……朱に交われば赤くなる、とはよく言ったものだと思うよ」
「ひみちゃんのせいにするのはどうかと思います!」
「……うん」
「私は嬉しいですけどね。一緒になれたみたいで」
「ひみちゃんはそうやってすぐことちゃんを甘やかすんだからー! そういうとこだぞ~?」
と、そんなやり取りもあった。
こうやって本物のヒーロー志望であるトールと話していると、たびたび私はまだ暗黒面にいるのだなと思わされることがあって、少し複雑な心境である。私としては、中間くらいにはいるつもりなのだが……たまに物騒な発想をしてしまうのだ。
よくアナキンはここから帰還できたものだと思う。いや、彼の場合帰還してすぐに死んだわけだが。
ああそうそう、最後の試練については進捗ゼロである。これについてはもう、すぐには無理だと開き直ることにした。
話を戻すが、トールの指摘を煩わしいとは別に思っていない。むしろもっとしてくれと思っている。
私はいつか光明面に帰還して、ジェダイを再興しようと思っているのだから。光の側の視点から、俯瞰した意見をくれるトールの存在はとてもありがたいのだ。
ヒミコについても、無意識のうちの同化願望に根差した発想や発言をすることがあるため、そこを指摘してくれるのは本当に助かっている。
もう大丈夫だとは思うが、やはり三大欲求に近しい欲求を消すことは不可能。だからこそ、日ごろから意識して気をつけなければ。
とはいえ今のところ、過剰変身の兆しはない。無意識下での変身もほとんどなくなった。気持ちに整理をつけたことで、落ち着いたと見ていいだろう。
さて、そんな私たちの生活スタイルは以前と少し変わっている。
具体的には、ヒミコが他のクラスメイトと積極的に関わる機会が増えた。それは主にヒミコからという意味であるが、トールからという意味でもである。
どうやらトールの恋愛スタイルは、ヒミコを全面的に参考にしたストロングスタイルらしい。ボディタッチを多めに、ヒミコが喜ぶであろうことを積極的に行って、気を引こうとしている。たとえば料理とか。
「まさかセンシティブですらないのに、見抜かれるなんて思ってませんでした」
とは、トールがヒミコと一緒に調理場に立ち始めたその夜のヒミコの言葉である。私は単純にトールがヒミコと一緒に料理がしたかったのだと思って調理場を眺めていたのだが、どうやらきっかけはそれだけではないらしいのだ。
なんとトールは、ヒミコの料理が私向けに特化しているからこそ、ヒミコの味の好みからは外れている場合もあると見抜いたのである。だからこそ、彼女はヒミコのために料理を覚えることにしたのだという。
私もそれは気づいていたが、ヒミコはそれでいいと言っている。二人の間では合意が既にできているのだ。けれどトールは、それを見過ごせなかったのだろう。
今はもちろん始めたばかりなので、トールの立ち位置はヒミコの調理の助手のような形だが……いずれはそうではなくなるのだろう。愛する人のためなら、人間はどこまでもがんばれるということを私は既に知っている。
なお先の発言に対するトールの答えは、「好きな人のことってさ、なんでも気になって見ちゃうよね」である。御見それした。
だからなのか、あのヒミコが時折たじたじになっている姿を見かけることがあるし、脳内にヘルプコールが届けられることもある。
それは実に珍しいことで、私には引き出せなかった姿なので少し悔しいが……まあ、私はヒミコに攻められたり弄ばれたりするほうが好きなので、きっとトールのやり方はできないだろう。そこはそういう役割分担だと思って、気にしないことにした。
「一生懸命尽くそうとしてる女の子の気持ちに一年以上気づかないし、なんなら告白されてからもたっぷり三か月はなびいてくれなかったコトちゃんって、すごかったんですね?」
「……それは褒めているのか?」
「やっぱりジェダイって人の心がわからないんですねぇ……」
「それ以上はいけない」
こんなことでジェダイを貶めないでいただきたい。否定は一切できないのでとても心苦しい。
それはともかく、他に目立ったことと言えば私たちのことではないが、イズクのワンフォーオールにさらなる力が目覚めたことか。
聞けばワンフォーオール、歴代の継承者の意識と”個性”が取り込まれているらしい。力をストックする”個性”が元になっているからそうなったのだとか。
つまり先の対抗戦のときにイズクを襲った”個性”の暴走は、今まで蓄積してきた歴代の”個性”が目覚めたから起こった現象だったらしい。
もちろんワンフォーオールのことは秘密であるため、周りにはその真実は知らされていない。発現した力はすべてそれらしい推測をでっちあげているが、元々秘密を知っている私とヒミコには本当のところまで知らされている。
そしてオールマイトいわく、今回目覚めた力は「浮遊」。彼の師の”個性”であるらしい。
文字通りただ浮くだけの”個性”ではあるのだが、先に目覚めている黒鞭と組み合わせれば機動力は非常に高くなるだろう。
まだ他にも四つの”個性”が眠っていることを考えると、まったく規格外な”個性”だ。私も人のことは言えないとは思うが、しかしどんなものにも上には上があるものだな。
その他の出来事としては、ミレニアムファルコンの修理にようやく取り掛かることができたことも大きい。
手に入れてから一か月も何をしていたのかと思われるかもしれないが、ファルコンは元々貨物船だ。地球に来るに当たって、ヒミコがファルコンに載せて持ち込んだものはそれなりの数になる。その確認と整理に実に一か月もかかったのである。
何せファルコンはスターシップとしては小さいほうだが、それでも相応に場所は取る。となれば、人目にもつく。ましてやそれが学校の敷地内となれば、絶対に人の目を引く。
だからこそ、気づかれないように慎重に慎重を重ねながらだと、どうしても使うことができる場所と時間が少なかったのだ。
それは修理においても同様なので、進捗は全体的に緩やかだ。ヒミコが過去で機械技術を習得してきていなかったら、完全に一人でなんとかしなければならかっただろう。その場合一体どれくらいかかっていたことか。
ただこのままだと近いうちに資材の仕入れが滞ることになるのは明白なので、サポート科に持ち込んで手を借りることも検討したほうがいいかもしれない。ハツメであれば、否とは言わないだろうしな。
***
そんなこんなで、二月も初週が終わろうとしている。
今日は日曜日。言うまでもなく休日だが、学校……もといヒーロー公安委員会主導のヒーローインターンは継続中なので、寮は閑散としている。
だが私とヒミコはひとまずのところ今日は何も予定がなく、終日休みである。
なので今日くらいはゆっくり過ごそうと思っていたのだが……ここ一か月、私の部屋は急激にモノが増えた。
原因はファルコンから持ち出したものの、工房に入りきらなかった銀河共和国の機材や工具などだ。おかげで室内を歩くのも難儀する状況にある。
ということで休日であるものの、私たちは掃除に精を出すことにしたのだった。
「ひみちゃん、このコス衣装ってクローゼットでいい?」
「そですね。でも使う機会はそこそこあるので、前のほうにお願いします」
「何に使うのかなー? 私気になっちゃうなー?」
「何って、そりゃあ……」
「ヒミコ、棚ができたぞ。入れられるものは入れていくといい」
「わ、もう? ありがとうございます!」
「ふへー、やっぱことちゃんは手先が器用だねぇ」
トールが一緒にいるのは、彼女も今日が休みだからだ。私たちとしては二人きりで過ごしたかったのだが、掃除となると人手は多いほうがいい。彼女も理由はなんであれヒミコと一緒にいたいということで、今回は互いの利害が一致した形である。
その掃除であるが、ヒミコの私物は大半が彼女の部屋にしまわれることになった。彼女の私物が私の部屋にある理由はもちろん、寮に入ってから彼女がずっと私の部屋で生活していたからである。
今までヒミコの部屋にあったものは、最低限の家具だけ。大半のものが私の部屋に置いてあったのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
しかも教科書類ですら、最初は一応自室に置いていたのに最近は私の部屋に置きっぱなしである。いかに何もなかったかがわかっていただけるかと思う。
仮にも寮の自室を物置にするのもどうかと思わなくもないが、先述の通りモノが増えすぎた私の部屋にはこれ以上置き場所がなく、すぐに使える空きスペースとなるとヒミコの部屋くらいしかなかったのである。
繰り返すが彼女は完全に私の部屋に住んでいる状態なので、ヒミコの部屋が物置になったとしても居住に関しては問題ないしな。
「……? なんだろこの箱」
と、そんなこんなで黙々と作業を進めていたときのことである。トールがつぶやくように疑問の声を上げた。
とはいえ、それについて追及するつもりはなかった。私にもやるべきことがあるし、大体のものはヒミコの私物なのだからそちらに尋ねるだろうと思っていたからだ。
その選択を、私たちは後悔することになる。せめて視線だけでもそちらに向けていれば、この後の悲劇は避けられたはずなのだ。
「わァ……ぁ……っ!」
次の瞬間、そこでは箱の中身を見たトールが真っ赤になって固まっていた。
「……あーっ!? 透ちゃんそれは……っ!!」
「? あっ」
なぜか?
答えは単純。トールが開いた箱は、その、夜の道具が入ったものだったからである。
「「「…………」」」
トールの視線が何度も私とヒミコと、それから箱の中身とを行き来している。その間、当然と言うべきか、私とヒミコは何も言えず、一寸たりとも動くことができなかった。
気まずい。沈黙がとても気まずい。こういうとき、一体どうすればいいというのか。
そのまま時間の感覚が麻痺するくらいの時間が経過して。ようやくある程度思考がまとまったのか、トールが大声を上げた。
「……ふ……二人とも! そこに正座!!」
「「はい」」
「ふ、二人がその、そういうことする関係ってことは知ってたけど! でもこれはちょっとどうかと思う!! 私たちまだ高一なんだよ!? ……っていうか、ことちゃん十一歳だったよね!? さすがにこれはどうかと思うなぁ!」
結果、私たちは日が落ちるまで説教を喰らう羽目になった。当然掃除は中断である。
……今回はまったくもって災難だった。張形以外の道具について、トールが理解していなかったことを不幸中の幸いだと思うしかあるまい。張形がなければ、あるいは気づかれることもなかっただろうにとも思うが。
「い、いつか私にも使ってくれるなら……だ、黙っててあげる、から……!」
あと、そんなトールも終盤はかなり脱線していた。説教しているうちに混乱してしまったのだろう。
ただそんな状況であっても、「あれ? もしかしてこれで言質を取れたりして?」などと思っている部分もある辺り、トールもしたたかな女性だと思う。あるいはやはり、朱に交われば赤くなるのだろうか。
もちろんその心は筒抜けなので、ヒミコは断言しなかった。誘惑するように服を少しはだけようとしたトールの頭に、軽く手刀を入れていたくらいである。トールの超えるべき壁はまだまだ高いらしい。
……ところで、これは蛇足のようなものなのだが。
「……ね、ねえ? あのさ、こんな……その、こういうのって、どこで手に入れたの? どうやって寮に持ち込んだの? っていうか、そもそも未成年に買えるものだっけ?」
「あ、それは峰田くんからのクリスマスプレゼントで」
「ヒミコ!」
「え? あっ」
「は? ……峰田くん!!!! ちょっと話があるんだけど!!!!」
「「…………」」
……最終的に、私たちにできたことは合掌だけであった。
すまないミノル。骨は拾う。成仏してくれ。
お待たせしました、本日より更新再開です。
EP13「テイルズ・オブ・ニュージェダイ」は本編15話+幕間3話、糖度高めでお送りしてまいりますのでお楽しみいただければ幸いです。
感想、評価などいただければなおありがたく。
初っ端からかっ飛ばした内容になっていますが、事前に予告していた通り今回は劇場版三作目、ワールドヒーローズミッションを中心としたお話です。
それ以外は小説の「雄英白書・桜」由来のお話になっています。
これについては劇場版成分が思ったより少なくなったというより、雄英白書のネタが思ったより筆が乗ったと言ったほうがいいんですけどね。
おかげでラブな話題が多めになりましたが、愛は世界を救うということで平にご容赦を。
あと、先週から更新しているハンターハンター二次の「一般TS転生者はちんちんを取り戻したい」も併せてご覧になっていただけると嬉しいです。
よろしければそちらもなにとぞよしなに。