銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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3.バレンタイン狂騒曲 2

 事件? が起きたのは、夕方を控えた頃だった。

 チョコづくりが一段落し、休憩に入る面々をよそに私とヒミコ、それにトールは仕上げと夕飯の準備を並行していたので事件を直接目撃したわけではないのだが……まあ、予想通りミノルがやらかしたらしい。

 

 ことの発端は、別学年の女生徒がチョコレートを持ってきたことだった。彼女はよほど緊張していたのか、誰宛てかを言わないまま渡してほしいとチョコレートを寮棟の外で休憩中だった女性陣に預けたのだ。

 

 お人よしの権化のようなヒーロー科だ。彼女たちはその精神を如何なく発揮して、女生徒の意を汲んだ。つまり、誰宛てかはわからずともきちんと目当ての相手に渡してあげようと奮闘したのだ。

 男性陣を巻き込んであれこれやった結果、その女生徒がチョコレートを贈ろうとしていた相手はなんとミノルであることが判明する。例の紳士ぶった態度で行動していたときに、運悪くその毒牙にかかってしまったらしい。

 

 それでもみんなでミノルとその女生徒を対面させる機会を運よく得たのだが……付け焼刃の化けの皮など、やはりすぐにはがれるもの。彼はすぐに普段通りの性欲丸出しな態度を露にしてしまい、あえなくその場で振られるに至ったそうな。

 

 その場に私たちがいれば当人の思考を読んですぐにでも応対できただろうし、ミノルにもう少しアドバイスもできたのだろうが。いかんせん台所で立て込んでいたので、口を挟むどころかその場に居合わせることすらなかった。

 

 だが、事件はまだ終わらない。

 作業を終えて、チョコの仕上げをそろそろ始めようとみんなを呼びに来た私たちが見たものは、生きる屍と化したミノルの姿と。彼を見下ろしてゲラゲラと大笑いする見慣れぬ女生徒の姿だった。

 

 私とヒミコのあれそれで死んでいるときとは明らかに違う、生気のないまさに「死体」なミノルはさすがに気の毒なのだが、しかし彼に追い打ちをかけている女性は一体何者だろうか?

 

「はー……一生分笑わせてもらったわ。笑いすぎて腹筋がシックスパックになったわね!」

 

 生真面目なモモに軽く咎められて、その女性はようやく笑うことをやめた。それでも時折笑いかけていたので、よほど面白かったのだろうが……あまりよろしい趣味とは言えないように思う。

 

「あ、アタシ経営科一年の北条(ほうじょう)(ゆたか)って言います。よろしくね。で、このクサレブドウとは……まあ……なんていうか……宗教。そう、信じるモノは同じ的なアレで縁がある感じなの」

 

 彼女はそう名乗った。宗教? と全員が首を傾げたのは言うまでもない。

 

 私ももちろん傾げた。なぜなら、彼女が脳裏に浮かべていたものが仏像でも鳥居でも十字架でもなく、私とヒミコだったからだ。一体、いつの間に私たちはご神体になったのだろうか。よくわからない。

 

 だが次の瞬間、私とヒミコに向かって無言で合掌しながらひざまずいたので、なんとなく理解した。できてしまった。

 ので、顔から表情という表情がすべて抜け落ちて虚無になった私たちである。

 

 なるほど、信じるモノは同じ。つまり、ミノルと同じ穴の狢というわけか。あの手の輩は彼一人で十分だったのに……。

 

「クッ……テメェ何しに来やがった……! いくら同志とはいえ、返答次第ではオイラはお前に天罰を下さなきゃならねェ……!」

 

 そこに、かろうじて復活を果たしたミノルが食い気味に突っかかる。

 

 と同時に、なるほど彼が以前口にしていた「同志」とはこのホージョウのことかと私は一人納得する。

 だが意外だ。まさか()()ミノルの同志とやらが、女性だとは思ってもみなかったぞ。彼と同じく人一倍性欲に旺盛な男だと勝手に思っていたのだが。

 

 そう思っているものは私だけではないらしく、この場に居合わせた全員がほぼ同じような思考をしていた。いきなり現れた、ミノルと気安い態度で接する女性の姿に多くの視線が集中している。特にミナとトールは、興味津々だ。

 

「何って、そりゃーやっぱ一度くらいは生のお二人を見たかったんだもの」

「お前壁のシミか背景の観葉植物になりたいとか言ってたダルルォ!?」

「背景になりきれずにお二人のてぇてぇの隅に毎度毎度割り込んでるアンタにだけは言われたくないわね!」

「やめろ!? 人が地味に気にしてることを!」

「まあおかげでアタシもてぇてぇの供給をいち早く受けられてるわけなんだけども」

「そうだろオイラに感謝しろよオォン!?」

「あとはあれね。今日という日に盛大にやらかすだろうアンタもついでに見れるかなって。ぷふっ、思った通りだったわね!」

「ぐわあああああ!!」

 

 そんな中である。言葉の暴力で思い切り殴られたミノルが、おもむろに自分の足元にもぎもぎを数個落としたかと思うとその上に雑に飛び乗り、十メートルくらい後ろに吹き飛んだ。その勢いのまま冬の地面をさらに数メートル転がった彼は、やがてうつ伏せの状態で動かなくなる。

 

『ええ……』

 

 この場にいた全員が、謎のやり取りを見て絶句した。今、私たちの心は完全に一致している。

 カツキですら一致していた。こんなことで一致したくなかった。いや本当に。

 

 そんな中、一人いち早く我に返ったトールがこちらに視線を向けてきたので、私は首を振る。

 

 ホージョウに害意がなかったことは明らかなので、ミノルが吹き飛んだ原因は操られたとかそんなことはまったくなく、完全に自分からだ。

 彼の意思を垣間見る限り、完全にその場の勢い。こういうものを、ノリと言うのだったか。

 

 ……いや、なぜそんなことをわざわざ……。前世ではできなかったことやわからなかったことなどに触れる機会は、いずれもいい経験だと思っているのだが……こういう、なんというか若者特有の勢い任せなやり取りはいまだによくわからない。

 

 だが同じくトールから視線を向けられたヒミコは、神妙な顔で頷いていた。この反応に、トールの思考が華やぐ。なぜだ。

 

 わけがわからないままヒミコを見上げる私。同じタイミングでこちらを向いた彼女の視線と思考は、「見るべきところはそこじゃない」と告げていた。一体どういうことなのだろうか。

 

「まあでも、さすがに人の失敗を思いっきり笑いに来るのは悪いとは思ってたわよ?」

 

 そんなことをしている間に、ホージョウはミノルに近寄って身体を仰向けにさせていた。笑いながら言う彼女。仰向けにするのも、かなり雑にしていたので本当に容赦がないなと思ったのだが……。

 

 しかし、同時に彼女からミノルを気遣う心が見えて、私はますますわからなくなる。ミノルをあれほどこき下ろしておきながら、同時に気遣っているのか? そんな心境、あり得るのか?

 

「同情するならチョコをくれェ……!!」

「そう言うと思って……はい。あげるわ」

 

 私が首を傾げながら見守る中、ホージョウは懐から小さな箱を取り出すと、仰向けのまま動こうとしないミノルにそれを軽く投げ渡した。

 

「……え?」

「アタシらのクラスでも色々作ってたのよ。だから恵んであげる。どーせアンタのことだから、冗談抜きにまったくもらってないんでしょ?」

「……ど、同志……!」

「……か、勘違いしないでよね! それは友チョコ用に作ったやつの余りなんだからね! ほら! せっかくの施しなんだから泣いて喜びなさいよね!」

「おお同志よ……すまねぇ……すまねぇ……! 大切に保存する……!」

「いやそこは食べなさいよ!? 食べ物なんだから腐っちゃうでしょ!? うわマジ泣きしてる……嘘でしょ……ホントに泣いて喜ぶとは思わないじゃん……」

 

 小さい……本当に小柄なミノルの片手にすらちょこんと乗る程度の小箱を、さながら真舎利を手にした僧侶のように大事そうに抱えて号泣する姿は、確かに宗教に心身を捧げるもの特有の何かがあった。

 理解したくはなかったが。ホージョウも呆れている。

 

 呆れている、のだが……その内心は、ものすごく嬉しそうにしている。ミノルが大袈裟なまでに喜んでいることに、彼女もまた喜んでいる。

 そしてその心の動きは、今までのものとは違って私にも理解できるもので。

 

 つまるところあれは――

 

「え? ということは、ヒミコ……あれ……」

「ですねぇ。いやあ……なんていうか……あんなテンプレみたいなツンデレ、現実にあるんですね……。フィクションにしか存在しないって思ってました……」

 

 ――どうやらそういうことらしい。

 

 だとすると、先ほどさもどうでもよさそうに投げ渡されたチョコレートは、本命チョコということに……?

 

 ……え、えええ……? に、人間の心というものは……なんともまあ、実に複雑なものなのだな……。

 

 ヒミコがストレートに感情をぶつけるタイプだし、偽りを良しとしないジェダイだった私にとっても、想いや気持ちはなるべく素直に伝えるべきものだ。生まれ変わってから親しく付き合いがあるものも多くがそのタイプだし、本心を隠すにしても相応に理由がある場合がほとんどだったから、こういうパターンは考えたこともなかった。

 

 いや、想いを伝えるということを気恥ずかしく思う気持ち自体は、一応理解できるのだ。私だって、ヒミコに愛を告げることをためらう場面はあるのだから。

 あるのだが、それにしてもあそこまで露骨に本心を隠そうというのは、ちょっとよくわからない。

 

 私が新しく得た知見をどうにかこうにか飲み下そうとしているのをよそに、ホージョウは「てぇてぇ案件があったらすぐに知らせなさいよ!」とミノルに言い放ち、勢いよくこの場を去っていく。

 

 かと思えば途中で一度足をとめて振り返り、「()()()()の調達は任せなさいよね!」と傍目にはわけのわからないことを告げて、今度こそ帰っていった。ミノルはそれを厭うこともなく、素直に応じながら手を振っていたわけなのだが……うーむ、蓼食う虫も好き好きか……。

 

 しかし……ミノル……。仮にも夜の道具を、女性に調達させるのはどうかと思うが……。

 私もヒミコも、それを既に楽しんでしまっているから何も言えないな……。人目もあるし……。

 

「……裁判長、どう思いますか」

「んー……峰田のやつ、アレ絶対気づいてないよねぇ?」

 

 知りたくない真実を知ってしまい遠い目で煤ける私とヒミコをよそに、一連の流れを見送って少ししてからトールがミナに畏まった口調で問いかけた。

 応じたミナが、私たちに視線を順繰りに向けていく。

 

「うん、まあ、気づいてないんじゃない?」

「だと思いますわ……」

「せやろなぁ……」

「トガもそう思います」

「ケロ」

 

 どうやらホージョウの心の動きは、フォースがなくても筒抜けらしい。居合わせた男性陣は一部わからないものもいたようだが、少なくとも女性陣は全員理解していた。

 

 そして私たちの意見を一通り確認したミナは、少しの間もったいぶって考えるポーズを取ったあとに、

 

「うん! 面白そうだから、しばらく保留で!」

 

 実に……それはそれは輝くような実にいい笑顔で、そう宣言した。

 彼女の決断に対して消極的か積極的かはともかく、異議が上がらなかったことは言うまでもないだろう。

 

「なんだこれ」

 

 最後に実にくだらなさそうに吐き捨てたカツキの姿が、妙に印象的だった。

 




雄英白書回でした。
ただし後半はオリジナル展開で、峰田がある意味で主役回です。峰田が報われるヒロアカ二次があってもええやろがいという勇気。
せっかくだし前々から峰田が同志と呼んでたやつを抜擢するか、と思い立った当時のボクは冴えてたと思います。

なおここに来ていきなり名ありのオリキャラが出ましたが、ボクは基本継続した役割のないキャラには名前をつけません。
今回出てきたオリキャラに名前がついているということは、つまりそういうことです。

そう・・・夜の道具の調達先としてな!!

まあ実を言うとそっちはおまけで、他にちゃんと意味はあります。ちょっとですがこの先に出番もあります。
とはいえ半モブみたいなものなのは変わらないで、あまり深く気にしないでも大丈夫です。
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