銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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4.バレンタイン狂騒曲 3

 さて、夜である。夕食はクラスメイトたちとのチョコレートパーティとなり、クリスマスもかくやな賑やかな食卓となった。

 

 ここ最近はインターンがほぼ全員に課せられていたから、二十人が全員が揃って食卓を囲む機会は実はあまりなかった。そんなところに、バレンタインデーというイベントが来たのだ。これ幸いとばかりに、私たちは大いに盛り上がった。

 私としても、とても楽しい時間だった。チョコレートフォンデュはぜひとも毎週やりたい。あんな素晴らしい料理があったなんて。夢のようだ。

 

 ……ここ最近。特にヒミコが帰ってきてからというもの、こうした友人との交流が以前にも増して楽しく感じる。そう思える自分が嬉しい。

 

 だからこそ、私を今の私にしてくれたヒミコには、本当に感謝しているのだ。そんな彼女に、少しでも何かを返せたらいいなと思う。

 今日のような日は特にだ。既に私のすべてを彼女に捧げているのだが、それでももっと、もっとと、何度でも思う……。

 

「コトちゃん、お待たせしました」

 

 夕食も、その後の談笑の時間を終えた頃合い。一足先に部屋に戻った私の下に、ヒミコが遅れて戻って来た。その手には、何もない。

 これに私は首を傾げた。解散となったタイミングで、ヒミコはトールに呼び止められていたのだ。バレンタインだし、覚悟の色が見えたのでチョコレートと共に告白されるのだろうと思い、私は先に戻ったのだが……。

 

「……え、何もなかったのか?」

「はい。今ここで告白したとしても、これからコトちゃんとすることで上書きされちゃうだろうから明日、ですって。それはそれとして、おしゃべりはしましたけどね」

「なるほど、一理ある」

 

 そういう作戦ということか。

 

 実際、これから私たちがすることは()()()()()()であるからして。現状ではヒミコの相手は私だけなのだから、そうなることは当然のこと。それを避けるという判断は、理に適っていると言えよう。

 

「明日は期待してて、だそうです。んふふ、楽しみです」

「……確かにトールとのことは一切とめないとは言ったが、それはそれとしてこうしているときに目の前でそう言われると、複雑なものがある」

 

 わかってはいるが、それでも今ここにいるのは私とヒミコだけなわけで。私以外の人間に意識を向けられるのは、心がざわついて仕方がない。

 これがどういう感情なのかもわかってはいるので、これ以上言うつもりはないが。それでも、一晩置いただけでは私とのことを上書きできないくらいには、ヒミコとまぐわいたいとは思う。

 

 だから、というわけではないが……ようやく二人きりになれたので、私は用意していたものを渡すことにした。

 

「……ともかくそういうわけで、チョコレートを……その、受け取ってもらえると嬉しいのだが」

「私がコトちゃんのプレゼントを嫌がるなんて、そんなのあるわけないじゃないですかぁ」

「うん……それはわかってはいるのだが。しかし実際問題、あまりいい出来ではないことは客観的事実だろう?」

 

 私が選んだものは、初心者向けという触れ込みで提示されたいくつかの候補にあった、チョコレートトリュフ。去年ヒミコが贈ってくれたチョコレートと同じ種類であるが……結果はまあ、見ての通りである。

 

 形はあまり整っていないので、見栄えからして微妙なところだ。味も正直自信がない。

 私個人としては悪いとまでは思わないが、こういうものは上を見ればきりがない――というか、この国は元々市販の菓子すらどれも非常に美味なのである――し、根本的に技術ではヒミコに絶対に敵わない。

 

 要するに、私は少し意地を張ってしまったのだ。可能な限り自分にできる範囲は自分でやりたかったから。

 だって、筋が通らないだろう。恋人に贈るものを作るに当たって、その恋人にあれもこれも手伝ってもらうなんてことは。

 

 ……と、そういうわけなので、食品としての価値はあまり高くないと思う。今の私が出せる全力で作り上げたマスターピースではあるのだが……所詮は素人の作品だ。

 だからこそ、そんな代物を愛する人に食べさせてしまっていいのかとも思うわけで……。

 

「ふふ、そですね。でも、いいのです」

 

 だがあちこちに視線を泳がせながら言葉を濁す私に対して、ヒミコはにっこりと笑った。

 そのまま受け取った包みを開封すると、中にあったチョコレートを躊躇うことなく口にした。彼女の表情が、たちまちチョコレートのようにとろりと溶ける。

 

「そんなこと、最低限の味さえ確保できてれば、別にいいんです。あのコトちゃんが、私のためだけにチョコを作ってくれたってだけで、私……すごく、すっごく、幸せなのです」

 

 言葉の通り、幸せそのものと言った顔を向けられて、思わず見惚れる。世界一カァイイ女の子がそこにいた。

 胸が高鳴る。好きという気持ちがあふれてとまらない。

 

 ああ……ああもう、もう。一体全体、私は何回この女性に惚れ直せばいいのだろう。

 そんな顔をされたら、私も。私だって、嬉しくて嬉しくて、幸せになってしまうじゃないか。

 ただでさえ今は幸せなのに、ただでさえたくさんのものをもらっているのに、これ以上幸せをもらったら、溺れてしまう。

 

 ……いや、とっくに溺れているか。しかしだからこそ、これ以上幸せを注ぎ込まれたら、小さな私の身体は本当に物理的にどうにかなってしまいそうだ。

 

 だから、息継ぎをするかのように身体を跳ねさせる。身体の中でこもってしまいそうな大好きという感情のエネルギーを放出するように。

 その勢いに任せて跳び上がって、ヒミコの身体に抱き着く。ブレることなく抱きとめてくれた彼女の動きに合わせて顔に顔を近づけ、そのまま彼女の頬に頬ずりをした。

 

「……来年は、もっと上手に作るよ。どうせなら、君には最高のものを味わってほしいんだ」

「はい、期待してます」

「それはそれとして、また一緒に作りたいな。こういう日もたまには悪くない」

「んふふ……はい、私もです。どうせなら、コトちゃんと一緒がいいです」

「ん……ヒミコ……愛している。大好きだ」

「はい、私もです。私も愛してます。大好きです」

 

 そして、私は唇を奪われた。

 今日のキスは、チョコレートの味だ。物理的にも、心情的にも、とてもとても甘いキス。おかげで私の思考は、あっという間に溶けていく。

 

 ああ、そういえばチョコレートはかつて媚薬としても扱われていたのだったかな……などと、どうでもいい知識が脳裏をよぎる。実際にそういう効果があるかどうかはさておき、今の私たちにとってはそれはある種の真実だろう。気分が昂っていくのがわかる。

 

「ぁ……っ」

 

 けれど、すぐに唇は解放された。それがどうにも名残惜しくて、離れる彼女を追ってしまう。もっと、とねだるように唇を突き出しながら。

 

 だが、間に人差し指を差し込まれた。文字通り、お預けというポーズだ。それが物足りなさを助長して、私は思わずしょんぼりとうなだれる。

 

「ふふ……待て、ですよぉ。そんなカァイイ顔しないでください、このままおいしく食べたくなっちゃう……♡」

 

 私のそんな様子を見て、ヒミコの嗜虐心がむくりと鎌首をもたげた。愛によってとろけながら、しかし壮絶な色を湛えた笑みが私をまっすぐに見つめている。

 

 ()()()私の下腹部が甘くうずいた。これから行われるであろう夜の営みを自然に想像して、身体が小さく震える。

 

 滅茶苦茶にしてほしい。そんな淫乱な気持ちが、頭の中を占有し始めていた。

 

「……私からも、はい。ハッピーバレンタイン、なのです♡」

 

 だがそんな私でも、目の前に差し出されたかわいらしい小箱を見たら、さすがに現実に戻って来るというものだ。

 

 彼女がパーティ用、クラスメイト用とは別に、私宛てのものを作っていたことには気づいていた。というより、予想の範疇と言うべきか。

 だからいつ渡されるだろうかと楽しみにしていたはずなのに、それを忘れるとは。ああもう、本当に私は快楽に弱い。少し()を注がれるだけですぐその気になってしまう私は、なんとふしだらな女なのだろう。

 

「気にしなくっていいんですよ? 私はそんなコトちゃんが大好きなので」

「……君はそうだろうが、私にとってはそうもいかない。大体こんなの……こんな体たらくでは、いつまで経ってもジェダイを名乗れない……」

 

 小箱を受け取りながら、私は思い切り顔を逸らす。鏡を見るまでもなく、今の私がひどく赤面していることだろう。

 

「んふふ、えっちなジェダイがいても私はいいと思いますけどね。でもコトちゃんがヤって言うなら、今日はシないでおきますか?」

「そ……それ、も、イヤだ……」

 

 それでもなお、夜の営みを拒むどころか求めてしまうのだから、私はもう本当にダメだ。

 でも……もう、それでいいか。

 

「ふふ……♡ コトちゃんの……えっち♡」

「……っ♡ う、うるさい……君がそうしたんじゃないか……!」

 

 耳元でささやかれて、全身がぞくりと震える。気持ちいい。

 

 けれどその誘惑をどうにか振り切って。さながらこの話題を強引に打ち切るように、受け取った小箱を開封する。

 

 そして、私は目を丸くした。身体に宿り始めていた官能的な熱が、一瞬掻き消える。

 

「……これ」

「驚きました? でも、そうしようと思ってたわけじゃないんですよ」

 

 そこにあったのは、私が作ったものとまったく同じ種類のチョコレートだった。つまり初心者向けらしい、チョコレートトリュフである。もちろんこちらのほうが圧倒的に整っているが。

 

 一年をかけて腕を磨いたヒミコなら、もっと高度なものだって用意できただろうにと思う。けれどそうしなかったのだ。きっと、あえて。

 

「なんとなく、これがいいなって思ったんです。……まあその、去年は気合い入れすぎて空回りしてあんまりおいしくできなかったので、おんなじのでリベンジしたかったってのもあるんですけど。それでも、コトちゃんと同じの作ろうって思ってはいませんでした」

「……なのに二人して同じものを作ったのか。しかもこれ……用意した数まで同じとは」

「ねー。なので……ふふ、嬉しいのです。何もなくっても、私たち一緒なんだなって。コトちゃんになれたみたいで」

「……ああ、そうだな。私も嬉しいよ。好きな人と同じ、ということがこんなにも嬉しいなんて、思ってもみなかった」

 

 ヒミコのチョコレートを口に運ぶ。たちまちに素朴で、けれど深い甘さが口の中いっぱいに広がった。私の顔も、チョコレートのようにとろけた。

 

 思わず笑みがこぼれる。きっと私は今、先ほどのヒミコと同じ顔をしている。そう確信できる。そのことが、何よりも嬉しく思う。

 

「……うん、おいしい。やっぱり、ヒミコの作る料理が一番だ」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 口の中のチョコレートを嚥下すると同時に、にっこり笑顔のヒミコの唇を奪いに行く。先ほど彼女がしたようにだ。

 そこから広がる味も、きっと先ほどと同様で……。

 

 当然だ。私が作ったチョコレートのレシピは、そもそもヒミコからもらったのだ。材料だって同じものを使っている。技術の差による質の違いはあれど、根本は変わらない。

 また精神的な意味でも、今の私たちの心は先ほどからずっと同じ色、形の幸せで満ちているのだから。同じになるに決まっているのだ。

 

 つまり、私の思考は溶けていく。これはそういう味だった。

 そしてそれは、やるべきことを済ませたヒミコも同様で。

 

「ん……ちゅ、んむ……あむ……♡」

「んあ……♡ んちゅ……っ、んむ……♡」

 

 もう、お互いに深いことは何も考えていなかった。まるで貪るように、奪い合うように、私たちは深いキスに没頭する。

 これがいつまで続くかは、わからない。永遠ということはないが、それでも永遠にこうであったら……などと思う。

 

 しかし、これはあくまでただの前戯。これが終われば、待っているのは互いに互いの愛を正面からぶつけ合う、ただの獣となる時間だ。それが、心の底から待ち遠しい。

 

 いい加減にしなくては、と頭の片隅では思っている。

 けれど、思っているだけだ。私はきっともう、この快楽の沼から上がることはできない。

 

 そんな気も、今はなかった。

 

 今は、今は彼女と一緒に、ただ気持ちよくなることが何よりも大事なのだから。

 




ヒミコトイチャラブ回でした。
爛れに爛れている・・・すっかり快楽堕ちしてしまってこの子は・・・。

まあ書いててめちゃんこ楽しかったので、反省はしていないんですけどね!
もちろんこれだけだと話進まないし胸やけしてくるんですけど、こういう回があってもいいでしょう? イチャラブはやはり健康にいいんですよ。

あ、ちなみに今回はえっちな幕間はナシです。
文章から期待していた方には、その、すまない。
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