銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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8.戦闘訓練 3

 マスター・オールマイトの宣言により、演習一戦目は終わりを迎えた。

 

 しかし、とんでもない終わり方である。ミドリヤは制御のできない”個性”を使った反動と、正面からバクゴーの猛攻を受けたことで、全身がボロボロ。

 ウララカは”個性”の反動か、模型の陰に顔だけを隠して嘔吐していて。

 ヒミコは無重力状態で派手に吹き飛んだことで、壁に思い切り叩きつけられて少しうめいていたし、バクゴーに至ってはよほど負けがショックなのか、茫然自失で立ち尽くしていた。

 

 そして会場となったビルもまた、無残な状態だ。ほぼ真ん中を全階層貫く風穴が空いているし、バクゴーが派手に破壊した一角もある。戦闘訓練の場としては、もはや使い物にならないだろう。

 

 こうなる前に中止すべきだと、キリシマと一緒にオールマイトには何度も掛け合ったのだが……彼は葛藤しながらもとめることはなかった。私としては、納得しかねる結果である。

 

 ただ何をさておいても、ミドリヤは保健室に直行だ。ぜひとも同行したいところだが、そうはいかないだろう。

 ということで、マスター・リカバリーガールのせめてもの助けになればと、ミドリヤには応急処置と、身体の回復効率の増幅を施して送り出すこととした。()()()()()()()()()()()()()ので、私が施した内容についてリカバリーガールに伝えるよう言い含めて。

 

 ちなみに応急処置用の医療品は、ヤオヨロズに作ってもらった。演習前に”個性”を使わせてしまって申し訳ない。あとで何かしら礼はする約束である。

 

 と、なんとか処置を終えて搬送されるミドリヤを見送ったのだが……処置の最中、私はおやと思っていた。ヒミコが私に変身した状態で、ウララカに増幅を使っていたのだ。体調にかかわる何か……恐らくは三半規管に向けてだろう。

 

 演習中の様子はまさに暗黒面の権化みたいな有様だったのだが、今は落ち着いている。……いや、落ち込んでると言ったほうがいいか。

 その姿に、ああやはり彼女は普通の少女なのだなと思う。ウララカに嫌われたくないと思ったようだ。

 

 だから、テレパシーで大丈夫だと伝えておく。ウララカなら、きちんと説明すれば受け入れてくれるはずだと。

 

 とはいえ、これに関してはすぐに踏ん切りがつくものでもないだろうから、根気よく大丈夫だと伝えていくしかないだろう。

 それに、ヒミコは私以外の人間にも心を開けるようになるべきだ。私しか心の支えがないようでは、万が一私に何かあったときすぐさま暗黒面に沈んでしまいかねない。

 

『あとで……チウチウさせてください……』

 

 ……うん。この返事の様子から言って、下手したらこの授業の直後に求められそうだな。人の目につかず、二人きりになれる場所というと……トイレくらいか? あそこなら多少血がこぼれても水も掃除用具もあるし……。

 

 ともあれ了解と返して、モニタールームに戻った。

 さて、先の演習の講評である。

 

「さて、ひとまず一戦終わったところで、講評と行こうか! まず今回のMVPは……少々判断の難しいところもあるが、麗日少女がMVPかな!」

「ぴっ!? わ、私!? ですか!?」

「その通り! 理由はもちろん、決め手となったからというのが一番だ。追い詰められた状況でも諦めず、勝ちの目を探り続けた! 見事だ! 途中も目立った重大なミスもなかったしね!」

「ふええ、あ、ありがとうございます!」

「しかーし! そんな彼女とMVPを争った子がいるのも事実! さて、それが誰で、なぜだかわかる人はいるかな!?」

「はい、オールマイト先生」

 

 生徒自身に考えさせようというマスター・オールマイトの問いに、ヤオヨロズが即座に手を挙げる。

 マスターは彼女に視線で続きを促し、それを受けて彼女は口を開いた。

 

「まず間違いなく、MVPを競ったのは渡我さんかと。彼女は一番状況設定に順応していました。お見事なヴィランぶりでしたし、核を囮に使ってはいても気は遣っておられました。ただ、いつでも麗日さんを確保できる状況に持ち込んだにもかかわらず、”個性”で遊ぶような振る舞いを繰り返したのはマイナスポイントだったかなと思います。

 爆豪さんと緑谷さんは、論外ですわね。完全に私怨丸出しの独断で動いていましたし、先生が仰ったように屋内での大規模破壊は愚策。相方に全部任せきりだったと言わざるを得ないかと」

 

 淀みなく言い切ったヤオヨロズに、場が一瞬静まり返った。

 

 うむ、見事な講評である。思わず拍手をしてしまった。私につられて、拍手が場に満ちる。

 マスターも、思っていた以上に言われたと言わんばかりの顔だ。

 

「ま……まあ、”個性”で遊ぼうとするヴィランは珍しくないから、設定に即している以上減点はさほど多くはなかったりするんだが……まあ……正解だよ、くぅ……!」

「常に下学上達、一意専心に励まねばトップヒーローなどなれませんので!」

 

 腰に手を当てて、ふんすと鼻を鳴らすヤオヨロズは、普段の優雅な立ち居振る舞いに比べると年相応で、微笑ましいものがある。

 

「う、うん、さすが推薦合格者だな。その向上心を忘れないように!」

 

 ほう? 推薦合格者……なるほど、能力が高いはずだ。

 先程医療品を頼んだときも、淀みなくほとんどの時間差なく作ってくれたし、その出来も既製品と差はなかった。相当に訓練してきたのだろうなぁ。

 

「ではそろそろ、次の訓練に行こう! ……と、その前にビル、変えよっか! このままだとこのビル、いつ崩れてもおかしくないからね!」

 

 ともあれ、次である。オールマイトの案内で別のビルに入った私たちから、四人が離脱して配置につく。

 

 二回目の組み合わせには、暗黒面に包まれたトドロキがいる。ヒーロー側だ。

 さて、彼がどのような戦い方をするのか……見せてもらうとしよう。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

 演習はほぼ一瞬で決した。トドロキは、なんとビル全体を凍らせることでヴィラン側を完封してしまったのである。

 彼に対していたのがこの冷気に対抗できる”個性”を持たないオジロとハガクレであったため、どうすることもできなかった。

 あとは、凍りついたビルを悠々と進んだトドロキが、模型に触れるだけであった。

 

「さっむ……!」

「瞬殺かよ……」

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、なおかつ敵を弱体化!」

「最強じゃねーか!」

 

 周りも騒然としている。

 

 しかしそれとは別に、一つはっきりしたことがある。

 

「……透ちゃん、大丈夫ですかね?」

「そうだな。ブーツまで脱いで完全な全裸になっていたから、この寒さはさぞ堪えるだろうな」

「あ。そーか、そうだよね」

「やはりコスチュームの変更をすべきですわよね、彼女」

 

 ということである。

 

 実際、戻ってきたハガクレは凍えていたので、ヒミコが再び私に変身して、彼女の体温を増幅していた。ちなみに、ツユちゃんも寒さで動けなくなっていたので同様に処置していた。

 

 私は傷のほうに対処した。念のため、授業後にはリカバリーガールに診てもらうように伝え、私たちは再び場所を変えることになった。

 何せ、トドロキがビルを凍らせ、その後それを溶かしたため全体がひどく水浸しなのだ。これでは演習どころではない。

 

 その溶かすという行為だが。演習終了後、自身がやった凍結を溶かすために炎を出していたトドロキは、明らかに普段より暗黒面の力が強まっていた。

 どうやら彼の心の闇は、左右で効果が違うらしいその”個性”が関係していそうだ。

 

 そんなことを考えながら、私はトコヤミと共にビルの外へ向かった。

 次の第三戦は、私の番である。

 

***

 

 私・トコヤミペアの相手は、アオヤマ・イイダペアである。振り分けは私たちがヒーロー側、イイダたちがヴィラン側だ。

 

「常闇踏影(ふみかげ)だ。よろしく頼む」

「マスエ・コトハだ。こちらこそ、よろしく頼むトコヤミ」

 

 舞台となるビルを前に、トコヤミと向き合った。簡単に挨拶を済ませ、ビルの見取り図に視線を落とす。

 

 今回のビルは、今までの二回と少々間取りが異なる。生徒間でなるべく差異が出ないようできるだけ同じ間取りのビルを選んでいるのだろうが、まったく同じとはいかなかったのだろう。

 

「さて、どうする?」

「まずは互いの能力を軽く擦り合わせよう。私の”個性”は『増幅』、ものに限らず人間の能力や概念的なものも対象となるが、栄養を使うため使いすぎると死ぬ」

「死……昨日のテストを見る限り、それは緑谷のようなハイリスクなものではない、と考えても?」

「構わない。今日の昼は普段よりも食べたから、十五分程度なら全力を出し続けられる。……それから」

 

 説明とともに、私はその辺りに転がっていたそこそこのサイズの石に手を向けた。

 

「……! テレキネシスか」

「それも可能だが、これは厳密には引力だ。逆に斥力として使うこともできる……このように」

 

 フォースプル、からのフォースプッシュを披露する。あまりいたずらにフォースを使うべきではないが、時間の限られた今はこれが最も合理的だ。

 

「他にもあるが……これらを総称してフォースと言う」

「”個性”を二つ持っているのか?」

「……いや、違う。”個性”によって内に眠れる超能力を一時的に増幅しているのだ。言っただろう、概念的なものも対象だと」

 

 毎度のことだが、もちろん違うがね。

 

「なるほど……心強いな」

 

 トコヤミの顔は表情がわかりづらい造形だが、どことなく興味深々といった様子だ。

 

「次は俺だな。俺の”個性”は……こいつだ。『黒影(ダークシャドウ)』」

「アイヨッ」

 

 そんな彼の呼びかけに応じて、彼の懐から影が飛び出してきた。ただの影ではない。鳥の形をした、立体の影だ。

 しかもその影は彼の姿とはかけ離れている……のみならず、明確な意思を持って私に話しかけてきたのだ。

 

「これは……意思を持った”個性”なのか?」

「そうだ。俺の”個性”はこの『黒影(ダークシャドウ)』を自由自在に操るというもの。攻撃はもちろん、防御、索敵、すべてにおいて隙はなしと自負している」

「トーゼンダゼ!」

 

 うーむ、本当に”個性”はなんでもありだな。この感想を、この十一年近くの人生で一体何度抱いたことか。

 今日は一日でそう思う回数を更新してもおかしくなさそうだぞ。

 

 というかトコヤミ、鳥の異形系”個性”ではなかったのか……。ではその顔は一体……。

 い、いや、それについてはきっと深く考えないほうがいいのだろう。うん、きっと。

 

「……なるほど。君たちもとても心強いな。つまりこの演習、実質人数の面で我々は優越しているわけだ」

「いかにも。ただ……『黒影(ダークシャドウ)』は光があると弱体化してしまう。ゆえに恐らく、青山のレーザーは相性がよくない」

「なるほど? ”個性”で意思を持っていたとしても、影は影ということか。うむ……ならば、アオヤマは私が引き受けよう。レーザーなら対処できる」

「……そう、か」

 

 彼から大きな驚愕の気配がした。だが、少なくともそれを顔に出さないのは素晴らしいと言える。

 

 しかし、だ。

 

「だが光に弱い……となると、私たちは少し離れて行動したほうがいいかもしれない。何せ私のメインウェポンは発光する」

「む……ならば、お前に先行してもらう形が妥当か?」

「そうだな。私の”個性”も汎用性は高い。どちらが先行して来たとしても対処は可能であろう。問題は先に来たものがどちらかで、その後の対応をどうするかだが」

「青山が先に来たら、任せていいか? 逆に飯田なら、俺が」

「うむ、私もそのほうがいいと思う」

「あとは……二人で来た場合、あるいは二人とも来なかった場合だが」

 

 ああそうだな。可能性は低いとは思うが、これも考えておかねばなるまい。

 

「その場合は、私が先行した状態のまま前衛をしよう。ダークシャドウの射程範囲はわからないが、私はそもそも遠距離攻撃の手段がほぼないからな」

「確かに」

 

 そういうことになった。

 

 さて、ここで開始まであと一分というところだが……。

 

「最後になるが、トコヤミ。これは私のわがままなのだが」

「聞こう」

「相手に投降するよう説得を試みたいのだ。可能ならば最初に」

「説得を……? そんなことができるのか?」

「わからない。だが意味はあると思っている。私はヴィランのすべてが救いようのない悪人だとは思っていないんだ。中には他に選択肢がなかったものもいるだろう」

 

 重力ヒーロー・バンコの娘としても、ジェダイとしても。それが正しいことだと思うのだ。

 もちろん、それが優先されるべきではない状況というときもあるだろうから、常にそうできるとも思ってはいないが……少なくとも訓練なら、やることに意義はあるはずだ。

 

「否定はしない。だがそのようなものばかりとは限らないだろう」

「ああ。だが今回の演習はヴィラン側に設定がない。それをどうするかはあちら側が決めることになる。可能性はあるはずだ」

「む、なるほど」

「だが、この演習は制限時間が短い。説得に時間を割いていられるかどうか不明だ。だから、これは私のわがままなのだ。どうだろうか」

「…………」

 

 私の言葉に、トコヤミは顎に手を当ててしばし考え込んだ。その間、この場は沈黙で満ちる。

 彼が再び口を開いたのは、開始の合図が出る直前であった。

 

「……最初に、というのは却下させてほしい。増栄の言い分は否定しないし、むしろ現実であれば考えるべきとも思う。あるいはそこまで考えが及ぶかどうかも、オールマイトは見ているのかもしれないが……やはり制限時間がネックだ」

 

 口数の少ない彼にしては、長めの言葉であった。

 

「だがどちらか一人を下し、時間に余裕がある状態なら、構わない」

「わかった。ありがとう」

 

 トコヤミの回答に、私は心からの謝礼を述べる。

 

 まさかここまで思考を尽くした回答が来るとは思っていなかった。断られるだけなら十分あり得ると思っていたが。

 言葉を尽くして意見を述べ、それに対して譲れるところは譲り、譲らないところは譲らない回答が出る。理想的な意見交換である。

 

「礼は不要」

「そうだな。結果で応えるとしよう」

 

 ゆえに、私は満足して頷いた。

 

 その様子を見たトコヤミは、数回目を瞬かせる。

 

「どうした?」

「いや……お前が本当に年下なのか、疑っていたが……そういう仕草は年相応だなと」

「……そうだったろうか?」

 

 自分ではそんなつもりはなかったのだが。

 

 しかし、問答はここまでであった。オールマイトによって、演習の開始がアナウンスされたのである。

 




主人公の戦闘の配役、実は敵味方全員が徹頭徹尾側の都合だったりします。
本当はダイスで全部決めたかったんですけど。ていうか本当にダイスで最初はやろうとしたんですけど。
それやったら相手側がフォースユーザーに一切抵抗できないタイプのキャラだけが集まってしまって、ローグワンのヴェイダー卿大ハッスルシーンみたいなことになりかけたので・・・。
で、結果としてもう全部やりたいことのために配置しようとなりまして、不在キャラが確定した次第。実は連載始めた段階で、ここまでストックがもうあったりしたのです・・・。

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