日本の、しかも学生である私たちに出番はないだろう。それで私たちは意見を一致するところだった。
ところが、オセオンで起きたヒューマライズのテロはあっという間に規模を拡大し、日本に住む私たちも無関係ではいられなくなってしまった。
というのも、ヒューマライズは世界中二十五か国に支部を持っており、日本にもその一つがあったからである。
また、オセオンの事件を受け世界各国は合力しての対策に乗り出した。支部が存在する国はもちろん、それ以外の国からもヒーローや警察や集まって統括司令部を作り、一斉検挙をすることになったのだ。
しかし、この星の治安はとても悪い。毎日何かしらの事件が起こり、人の命が脅かされている日本だが、それでも世界でもトップクラスに治安のいい国と認知されているくらいには悪い。日本ですらそれなのに、いわんや他国の事情は、である。
そんな事情があるからか、ヒーロー飽和社会とすら言われる日本は、一部のヒーローを諸外国に派遣することになった。
中でも突出した実力者がいない、かつヒューマライズの本部があると目されるオセオンには、日本のトップヒーローにしてオールマイトをも超える事件解決数を誇るエンデヴァーが、事務所全員を引き連れて派遣されることになったという。
他にもホークスなどの実力者が軒並み海外に派遣されることになった上に、統括本部にはオールマイトも派遣されるため、一部からは批判の声も出た。無理からぬことではあるが、この件はそれだけ世界全体の問題であると認識している人間のほうが圧倒的に多かったため、こればかりは仕方ないという認識が大多数のようだ。
これに伴い、それぞれのヒーローの下でヒーローインターンをしていた雄英のヒーロー科生たちも、その代表ヒーローの指揮下で海外へ赴くことになった。エンデヴァーの下にいるイズク、カツキ、ショートの三名はオセオンへ。ホークスの下にいるフミカゲ、そしてヒミコはアメリカへ……という具合だ。
つまりあの日、誰もがこの事件を黙して見ていることを良しとしなかった私たちは、図らずも事件に関わる権利を得たということになる。喜べることではないが、関われるということに決意を新たにしたものも多いだろう。
もちろん全員が全員、この作戦に関われるわけではない。作戦に参加しないヒーローも多く、そこでインターンをしているものは対象外だ。
けれども、だからといって作戦に駆り出されないものたちが蚊帳の外というわけではない。むしろ彼らこそ、普段以上に頑張らなければならない立場にある。
何せこれからしばらくの間、日本はトップヒーローたちの多くが不在になる。そんな中で、今まで同様の治安を維持しなければならないのだ。やらなければならないことは今までの比ではないだろう。
「本当は私たちも行きたい……けど!」
「ほんっとにね! でもみんながいない間は、私たちが日本を守らないとだ!」
「ウィ☆ こっちはボクたちに任せて、世界を舞台に思う存分キラメいてきなよ☆」
「ウム! みんなくれぐれも気をつけてくれたまえ!」
居残りとなったミナ、トール、ユーガ、テンヤたちに見送られ、私たちは雄英をあとにした。
そしてホークスと共にアメリカに行くことになったヒミコは空港に向かうために、別行動となる。
「寂しいが、しばらくはお別れだな」
「ううう……私はいつになったらコトちゃんと一緒にお仕事ができるんでしょう? とってもとっても不本意です」
「まあ、学生の間は仕方ないだろうな。できることが多く、それが重なる私たちを同じ場所で運用する意義は薄い」
「わかってます……。ほん……っとーに! ほんっとに不本意ですけど、わかってはいます。仕方ないのです。でも、何かあったら来てくれますよね?」
「当然だ。君だってそうだろう?」
「えへへ、もちろんなのです!」
そんな話をして、一度キスを交わして。
互いにフォースと共にあらんことを祈って、私たちは分かれた。
さて私がどうなったかといえば、多少いざこざはあったものの、日本におけるヒューマライズ支部の検挙に参加することになっている。多人数を運用するノウハウを十分に持ち、多くの実績を上げているインゲニウムがそれを買われてこの作戦に組み込まれたからな。
今回の検挙において重要な点は、ヒューマライズの団員たちを捕縛することももちろんだが、一番は例のテロで使われた”個性”を強制的に暴走させる薬品である。
調査によるとこれは、”個性”を必要以上に活性化させるイディオ・トリガーという薬品をより強く効果を及ぼすように細工・強化されたものを、爆発的に拡散する装置に組み込んだものらしい。
ゆえに、作戦本部はこれをトリガーボムと呼称。以降は私もそれにならうことにするが、このトリガーボムの有無の調査と見つかれば安全に無力化、解体することも必要だ。
個性終末論をこじらせたヒューマライズの思想的に、世界のあちこちでトリガーボムを一斉に起爆すればその目的に一気に近づく。
であれば、各国の支部にそれが存在する可能性は高いだろう。そんな劇物を、なるべく迅速に発見するためにはとにかく人手がいる、という判断を上はしたわけだ。
「あれが日本のヒューマライズ支部か……腕が鳴るぜ!」
「おうよ! ……と言いてぇトコだが……」
「……まあな」
作戦開始の直前。遠目に見える支部を眺めながら気炎を上げるテツテツ……リアルスティールに応じたレッドライオットは、苦々しい顔を隠さない。これを受けて、リアルスティールも同じような表情を浮かべた。
無理もない。何せヒューマライズに所属している団員の多くは、無個性なのだ。武装がなくば”個性”に、またそれを鍛えてきたヒーローたちに対抗することのできない人々なのだ。彼らに手を上げるということに対して、思うところがあるのだろう。
もちろんやったことがテロである以上、目こぼしはあり得ない。あり得ないが、彼らの心情は多少なりとも同情の余地があることも事実。
「今の時代、無個性に対する風当たりは強いと聞く。異形型に対するものとはまた少し異なるのだろうが……」
「ん……そういうことをされた人が『”個性”持ちは絶滅すべき』なんて言い出すのは不思議じゃないよね」
テンタコルとイヤホンジャックの言う通りだ。特に私たちは、”個性”の発現が十四歳と遅かったがために色々とあったと簡単に推測できるデクがクラスメイトだ。ヒューマライズに身を寄せた人々のことは多少なりとも気にかかる。
まあデクの場合は本当に無個性であり、彼の”個性”は極めてまれなケースなのだが……それは機密事項であるし、どちらにしても辿った経緯自体は同じだったであろう。
とはいえ、先にも述べた通りやったことがやったことだ。同情はしても、手心を加えてはならない。
「罪は罪だ。同情の余地があるから罪の程度をどうこう、などと考えるのは司法の役目。私たちは私たちのすべきことを遂行するのみだ」
「アヴタスの言う通りだ。手加減はいらん、思い切りやれ!」
「まあここに来てる中で、加減を間違えても即死に繋がるような”個性”の持ち主はいないことはわかってる。考えすぎないようにな」
「せやで。油断しろとは言わんけど、気負いすぎんようにな」
私たちのインターン先であるギャングオルカ、インゲニウム、ファットガムが口々に言う。
いずれも正論である。だからみんなも表情を引き締めて、力強く頷いた。
「ええなぁ、今年の雄英一年はホンマ軒並み有望株やで。サンイーターもそんな隅っこで壁と話しとらんと、こっち来んかいな」
「無理……です……! こんな……こんな初対面の人だらけの場所で、そんな……畏れ多い……!」
なお、サンイーターの人見知りは爆発していた。相変わらず、彼の上がり症は絶好調のようだ。
うーむ、死穢八斎會事件のときにある程度克服できたらしいと聞いていたのだが。どうやら本番にならないとダメらしい。難儀な男だ。
とはいえ、彼のそういう姿があるからこそ、一年生組の緊張がほぐれたことも事実。いざ作戦が始まれば、ビッグスリーの名に劣らぬ活躍をすることはファットガムが認めているのだから、今はそっとしておくとしよう。
***
作戦は統括司令部のオールマイトの合図に応じる形で、二十五か国同時に開始された。
他の場所ではどうかはわからないが、日本においてはプレゼントマイクの大声という名の広域音響兵器から始まった。対処が難しい音による、しかも広範囲の攻撃によって先手を打った形だ。
これに続いて、ヒーローたちが一斉に動き出す。轟音に耳をやられて苦しむヒューマライズ団員たちを無力化および捕縛を進めるチームと、施設内を捜索するチームに分かれた。
私は後者の一チームを率いるインゲニウムと共に、施設へと踏み込んだ。施設内にも相応の団員がいるが、プレゼントマイクの先制攻撃は施設内には効果が薄かったらしく多くが健在だった。
とはいえ、やはり無個性の人間が武装したヒーローたちに対抗できるはずはない。”個性”がなければどうにもならない現代社会の縮図を見た気分だが、それはそれ。私もインゲニウムたちに続いて団員を無力化していく。
「アヴタス、予定通り君は先に行け! 君は君の仕事をするんだ!」
「了解いたしました、マスター。先行します」
ある程度戦力に余裕ができたところで、私は一人で先行する。これは事前に打ち合わせていた通りだ。
何せ私はフォースによって広範囲の索敵ができるし、他者の心を読むこともできる。これらのことは
もちろん私に否はない。私自身もこれがもっとも合理的な配置だと納得しているし、言われなかったら私から進言するつもりだった。
私の負担が大きくはなるが、それは問題ではない。やれるものが私しかいないのだから、私がやるべきなのだ。
「これ以上やつを進ませるな!」
「撃て! 撃てぇ!」
一人でどんどん奥へ向かう私を、ヒューマライズ団員たちが必死にとめようと銃撃を浴びせてくる。
だがただの銃火器程度では、どれほどの弾幕を展開しようと私の脅威にはなり得ない。両手を前に出し、フォースプッシュで弾丸を押しとどめる。
もちろんそのさなかでも前進はやめない。弾が切れて斉射が終わったところでくいと両手を下に向け、弾丸を落とす。
「ぐえっ!?」
「ガッ!?」
「ば、化け物め……うぐっ!」
と同時にライトセーバーを抜き、瞬間的な長さの増幅で鳩尾に突きを入れて気絶させていく。空いたほうの手ではフォースグリップを用いて身体を左右に吹き飛ばしながらだ。
「……妙だな」
そんな中、攻撃を緩めないまま私はひとりごちた。
おかしい。抵抗が散発的すぎる。戦いを取りまとめる指揮官役がどこにもいない。これではただの烏合の衆だ。
いくら私がフォースユーザーで”個性”の持ち主だといっても、一人でできることには限界がある。適切な指示の下、適切な用兵がなされればもっと苦労するはずだ。
だというのに、そんな気配はどこにもない。プレゼントマイクの先制攻撃でダウンしたものたちはまだしも、そこから先は最深部に来るまでずっとそうだった。これではあまりにもあっけなさすぎる。
「どういう状況だ? 説明してもらおう」
「だ……れ、が……!」
だから無作為に選んだ団員複数にマインドプローブをかけた。
その結果、私は渋い顔をしながらもトランシィにテレパシーを飛ばすことになり、さらに彼女の回答に顔をしかめる羽目になった。
「……そういうことか。日本のアヴタスより統括司令部、応答を」
『こちら統括司令部オールマイト。どうしたんだい、アヴタス?』
「日本の支部には末端しかいない。幹部勢は昨日のうちにトリガーボムを持って退避している。恐らく他の国もそうだろう」
『……本当かい、それは』
「トランシィには確認済みだ。アメリカでもそうだったとなれば、可能性は高い。いずれにしてもあと十数分もすれば明らかになるだろうが……肝心のトリガーボムが今、どこに、どういう状態にあるかは現状一切不明だ。つまり」
『ヒューマライズは既に行動を済ませている可能性が高いと見たほうがいい、ということだね。……君の言う通り、アメリカから。それに今し方フランスからも同様の報告を受けたよ。……ハードな仕事になりそうだな、これは』
通信越しに、オールマイトのため息が聞こえた。私もまったく同じ心境である。
出動、ということですが理波の基本インターン先はインゲニウムのところなので、オセオンへの派遣チームには入りません。トガちゃんも同様です。
そのため物語の視点がオセオンにないので、デクくんとロディの心温まる交流はまあ大体カットです。すまんな。
この他原作との違いとして、生存しているナイトアイが前章の幕間からリューキュウとのチームアップを続けている関係で、彼とミリオがフランスにいます。
本作におけるお茶子ちゃんのメインインターン場所はナイトアイですが、この影響で彼女だけは原作通りフランス派遣されてる形ですね。
ナイトアイの指揮に加えてミリオがいるから鬼に金棒。フォースユーザーがいる日本、アメリカに次いでフランスが準最速でことを済ませたのはその辺りの関係です。