銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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8.ヒューマライズの裏で

 時間は少し遡る。オセオンで起きたテロを受け、世界にまたがる統括司令部が発足。日本のヒーローたちが諸外国に派遣されることが決まった時点でのことだ。

 群訝に置かれた秘密基地、その奥まった会議室で、一人の男が数人の男を相手に状況の詳細を説明していた。

 

「……と、そういうわけなんで、今回ばかりはヒーロー側のお話を蹴るわけにはいかんのですわ」

「うむ……あらゆる意味で今回は仕方あるまい」

 

 ヴィラン連合……超常解放戦線にてスパイ活動にいそしむナンバーツーヒーローホークスは、リ・デストロたちの求めに応じてここに来ていた。同時に今回ばかりは戦線を手伝えないこと、この件が解決するまでは日本を離れる必要があることも伝える。

 

 加入当初はスパイ疑惑を懸けられ逐一監視されていたホークスであるが、今はそれも解除……されておらず、今でも軽い監視体制下にある。それだけナンバーツーヒーローという肩書は重いのである。

 

 ただ、今ホークスの前にはヴィラン連合出身者は一人もいない。ヴィラン連合のメンバーは、いずれも「自分のやりたいことを、やりたいように自由にやる」ことが目的で集ったものたち。つまり個人主義者だからだ。

 彼らは「一度すべてを破壊したい」という死柄木弔の理念に共鳴することで、一定のまとまりを得ている。超常解放戦線と名を変えた異能解放軍との関わりを拒んでいないのは、その目的のために超常解放戦線の力が有用だからに過ぎない。

 

 ただそもそもの話、ヴィラン連合には大規模な組織を運営するノウハウなどない。おまけにリーダーである弔は、肉体の強化改造中につき不在だ。

 だからこそ、現在の超常解放戦線で発言権を、権力を持っているものは大半が異能解放軍側の幹部たちであり、こういう組織の方針を決める状況であってもそれは変わらないのであった。

 

「ヒューマライズ……個性終末論の亡者ども、か」

「異能の持ち主たちを絶滅させ、持たざるものだけの世界を作ろうとするとは、まったくもって度し難い。なんと前時代的、なんたる無知蒙昧」

「理解不能ですよね。いやほんと、意味がわからない」

「我々とはあらゆる意味で相容れない。ホークス、あなたもそうは思いませんか?」

 

 順にリ・デストロ、スケプティック、外典、トランペットだ。いずれもその口調は荒く、吐き捨てるような色を含んでいる。

 

「そッスねぇ。これからの時代、異能を自由に使えることこそが人類の発展には必要不可欠! ……だっていうのになんともまあ、時代の逆を行く思想ですわ」

 

 無理もない。ホークスが代弁した通り、彼らの本来の思想とは”個性”の自由使用とそれにともなう”個性”による階級化なのだから。

 そんな彼らにしてみれば、ヒューマライズがしようとしていることは人類の救済などではなく、文字通り世界を滅ぼす悪魔の所業でしかない。

 

 おまけに、万単位の戦力を持ち街一つを基地とする超常解放戦線にとっても、世界二十五か国に拠点を持つなどという大きすぎる規模には至れていない。長年地下に潜伏し、機を窺ってきた彼らにしてみれば、ヒューマライズには先を越されたというやや理不尽な怒りもある。

 そういう意味でも、両者はまさに不倶戴天の敵であった。

 

 そんな状況であるからこそ、ホークスという特級のコマをこの時期に使えなくなる点は痛手だが、それでもヒューマライズの所業は異能解放軍にとっては絶対に阻止しなければならない事案なのだ。

 

 なお今この場にいない旧ヴィラン連合所属の面々にとっては、「こういうときこそ働けよ、ヒーローなんだろ?」といった程度のことだ。だからこそここにいないのであるが。

 それはある意味で、ヒーローを信じているとも言えるかもしれない。ただそれはそれとして、ヒーローが失敗するところを見て悦に浸ろうというほの暗い欲求が強いのも事実である。

 

 中でも荼毘とマスタードはこの姿勢が顕著であり、「勝手にしろよ」という反応である。荼毘は特に、そんなことよりも来たるべき日のための()()()()に忙しい。

 

 もちろん例外がいないわけでもない。ただその例外にしても、異能解放軍側のメンバーとそりが合わないので、どのみちこういう場には顔を出さないのである。

 

「トランペット、全解放戦士たちに通達を。ヒューマライズ案件に関しては、全面的にヒーローおよび警察に協力するようにと」

「畏まりました、リ・デストロ」

「それから外典。諸外国のヒーローたちに水面下で協力させられるよう、パスポートを持っている戦士たちを選別して派遣するように。小隊規模くらいで構わない」

「はい、リ・デストロ。お任せください」

「スケプティック、君には戦士たちが安全に出入国できる手順、ルートの用意を任せる」

「お任せを。一切のミスなく完璧に仕上げて見せましょう」

「スケプティックへの負担が少々大きいが、君ならばやり遂げてくれると信じているよ」

「ええ、ええ、もちろんですとも! この私に、失敗はもう二度とあり得ない!」

 

 かくしてヴィラン連合側の幹部が不在の中、超常解放戦線は今回に限りヒーローたちに全面的に協力することを選んだ。

 普段は何かと監視される立場にあるホークスだが、その縛りも今回だけは例外的に解除された。今回ばかりはホークスにも全力で働いてもらう必要があり、彼の羽に余計なものを取り付けておく余裕はなかったのだ。

 

 そのことに多少の解放感を覚えながらも、ホークスを疑わない戦線のメンバーからの叱咤激励を背に秘密基地をあとにしようとしたときだった。

 

「ホークス」

「おや、襲ちゃん。どうかしたんで?」

 

 ヴィラン連合のサブリーダーであり、連合にとっての「例外」である死柄木襲から声をかけられ、彼は心の守りを固めながら振り返る。その顔は、いつも通りの軽薄な笑みを湛えていた。

 

 対する襲の顔は、どこか不本意そう。ただ彼女の機嫌の良し悪しに関わらず、ホークスは何か無茶振りでもされるのかと笑顔の裏で身構えるばかりなわけだが。

 

「確かホークスって、インターンとかであの金髪預かってるんだよね?」

「金髪……ああ、トランシィのことかな。その通りだけど、どうかした?」

「せっかくの機会だし、アイツの力の使い方とかこっそり調べといてよ。最悪録画しとくだけでもいいから」

「えぇー、また無茶なこと言う。知ってるでしょ? その力があるあの二人、めちゃくちゃ勘が鋭いんですって」

 

 やっぱりな、と思いつつ面倒なことになったとホークスは心の奥の奥で舌打ちする。

 

 フォースに関わるあれやこれやは、ホークスにとってかなりの部分が既知である。公安警察所属で、同じく超常解放戦線にスパイとして潜入しているルクセリア経由で、かつてフォースについて書かれた書物に目を通しているからだ。

 しかしそれを、襲に対して話したことは一度もない。そんな義理はないし、必要もない。あくまであれは、襲のフォースに対する防衛のためという意味だったからだ。

 

 だがこうやって襲から求められた以上、ある程度は「成果」を提出しなければならない。それくらいの理不尽は要求してくるのが悪の組織というものである。

 それはつまり、襲の強化に。ヴィラン連合の、超常解放戦線の強化に繋がるわけで……隠しているだけで光の側であるホークスにとっては、これ以上に断りたい話はそれこそ殺人などの犯罪くらいのものだろう。

 

 だからと言って断れる立場ではないので、ホークスにはほどほどに受け流したあとで引き受ける以外の選択肢がないのだが。

 

「えぇ~? できないのぉ? ふーん、ナンバーツーなんて言っても、しょせんヒーローなんてざこざこなんだぁ?」

「そーなんスよー。所詮俺なんて速いしか取り柄がないんで、どーにもこーにも」

「……つまんない。ボクがこういうこと言えば大体のヤツはカッカして使いやすくなるのに」

「そりゃどーも、すいませんねぇ。何せ素直なのが取り柄なもので」

「このウソつき!」

「そんなぁ、心外だなァ」

 

 ヘラヘラと笑うホークスに対して、襲は不機嫌だ。かすかに赤い光が身体の周りを取り巻いている。

 

 襲にとって、ホークスは扱いづらい存在だった。その感情の動きが読めないこともそうだが、何よりこれまでの人生で培ってきたやり方が通用しない。色々と揺さぶりをかけてみても、のらりくらりとかわされるばかりで実に腹立たしかった。

 

 それでも現状、襲にとって超能力……フォースの習熟は最優先事項だ。だからなんとかして、ホークスにこの要求を呑ませなければならない。

 万策尽きた彼女は、結局のところ正攻法に頼るしかなかった。

 

「……ボクはもっと強くならなきゃダメなんだ。じゃないともしものとき、エリを救けられない。連合の仲間のことも……。だからそのために、超能力のこともっと知らないといけないんだよ」

 

 だがその正攻法こそが一番よく効くということを、襲はこのとき初めて知った。そういう人間がいるということを、初めて。

 

「はぁー……しゃーないスねぇ。やれるだけのことはやってみますんで、そんな悲壮な顔はしまっときましょ」

 

 繰り返すが、ホークスは超常解放戦線に対するスパイだ。つまり秩序の側であり、光の者。彼の心の中では、今も熱く平和を愛する心が燃え滾っている。

 

 だからこそ彼に対しては、仲間のために、大切な誰かのためにという本音を、まっすぐぶつけたほうが効くのだ。そういう人間としての善なる部分を隠さずさらす姿は彼にとって眩しく、だからこそそういう頼み方を幼い外見の少女にされると少々弱かった。

 

 彼のそうした心の動きの一端をようやくつかむことができた襲は、目を丸くする。今まで壮絶な人生を歩んできた彼女にとっては、思いつかない考え方だった。

 けれど同時に、理解できないものでもなかった。それは、それは確かに、

 

(……お姉ちゃん……)

 

 かつて愛した人と、同じ考え方だったから。

 

(はぁーあ、やりづら~。トゥワイスにしろこの子にしろ、根っからの悪人ってわけじゃないっぽいのがなぁ、ほんと困ったもんだよ。まいったね、どうも)

 

 一方、ホークスは内心でため息をこぼしていた。今ちょっと内心が漏れちゃったなと、またこのままでは絆されかねないなと自戒しつつ。

 

 ただそれをわかってはいても、襲を励ます言葉をとめることはできない辺り、やはりホークスはヒーローなのだろう。

 それがまた襲にとっては眩しいので、互いに互いの目を無自覚に焼き合っている二人なのであった。

 

「……あ、そーだ。ホークスぅ」

「はい?」

「ホークスがどうしても、どぉーしても、自分たちじゃむーりーってなったら、いつでも呼んでくれていいよ。ボク、トゥワイス引きずって手伝いに行ってあげるから。そのときはぁ、たーっくさんバカにしてあげるぅ♡」

「え、マジ? 手伝ってくれるの!? じゃあお言葉に甘えちゃおうっかなァ!」

「……怒れよぉ! もー! 調子狂うなぁ!!」

「はっはっは、痛いんで脛蹴るのやめてくんないスかね?」

「むぅー!! この! このっ!」

「はっはっは」

 

 かくして対ヒューマライズ作戦の一部に、超常解放戦線が潜り込むこととなった。

 もちろんそれは、ホークスから暗号によってヒーロー公安委員会に報告されたが……彼らは元々清濁併せ呑む組織である。躊躇なく超常解放戦線の参戦を黙認した。今は人類存亡の危機であるから、と。

 

 それが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰にも分らない。

 

***

 

 そしてこの二人もまた――

 

「ラブラバ! どうやら世界の危機らしい!」

「ジェントルの出番ね! どこまでもついていくわ!」

「……ところで具体的にどこで何をすればいいんだろうね?」

「えっと……と、とりあえず統括司令部とやらにハッキングしてみるわ!」

「すまない、君にばかり負担を強いてしまう……!」

「いいのよジェントル! 私が好きでやってるんだもの!」

「おおラブラバ……我が人生の伴侶よ……!」

「ははは伴侶なんてそんな! えへ、えへへ……」

 

 ――参戦……しようとはしていた。

 




原作ではこの時期の超常解放戦線が何をしていたのかは明らかにされていませんが、彼らの理念からしてまず間違いなくヒューマライズとは相容れないので、何かはしていただろうと。
もちろん表立って協力していたらそれは犯罪なので、重要な決起を控えている以上は水面下であれこれやっていたんじゃないかなぁと思ってこうなりました。

ただし本作では瞬間移動ができる襲がいるので、彼女だけは自分の信念から能動的に協力します。
まあ彼女の周辺を描写する余力があまりなかったので、あまり出番はないんですけどもね。

あと本作のジェントルはほぼほぼヴィジランテなので、ここで協力しないわけがないだろうなと。
ただし情報と人手がなさすぎるので、どれくらいのことができるのかというと・・・。
トリガーボムのことなんかはラブラバの技術があれば調べられるでしょうが、そのあとボムそのものを探したり無力化するとなると・・・。
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