予想通り、すべての国でヒューマライズの支部からの収穫はなかった。どの場所もいたのは末端の構成員のみで、幹部はゼロ。トリガーボムの情報も一切残されていなかった。
このため一級の戦力であるヒーローチームは一時待機となり、まずはそれ以外の人員による人海戦術でしらみつぶしに周辺を探すこととなる。
今回ほど、センス・エコーが使えないことを悔やんだことはない。物質に宿る記憶を見ることができれば、追跡も捜査も格段に進むのだが……。
しかしセンス・エコーは各人の才覚に大きく左右される技だ。できない人間は何をどうやってもできない。
これは本当に生まれついてのセンスが物を言うので、過去で人の一生分くらいの鍛錬を重ねたヒミコにも使えない。彼女とフォースダイアド……同質のフォースを持つ私もそれは同様だ。
彼女に引き上げられる形でここ二か月の間にフォースの技量が急上昇したが、それでもなおセンス・エコーは及ばない領域の技なのだ。
しかし、私とトランシィは待機には従わなかった。
もちろん無断で動いたわけではない。きちんと許可を取ってのことだ。
何せ私たちは、コンピューターにほぼ自由にアクセスするフォースハックが使える。ヒューマライズ各支部には相応の電子機器が置かれていたので、それらを調べる手伝いを買って出たのだ。
当然というべきか、残されていた機材にはろくなデータはなかった。恐らくは重要なものであろう機材に至っては、物理的に軒並み破壊されていた。
しかしそれでも、調べようはある。この星のコンピューターはまだまだ発展途上だからな。もちろんシガラキ・トムラの”個性”のように、塵にでもされていれば話は別だが、そこまでではない以上はなんとかなるのだ。伊達に銀河共和国から来たわけではない。
それに破壊してまでデータを消そうとしたということは、そこにあったデータはそれだけ意味を持つということでもある。もちろん罠の可能性もあるが、そこは破壊した人間をマインドプローブすることでブラフではないことを確認済だ。
であれば、あとはやるだけである。
そうしてフォースハックを駆使しつつ、I-2Oも駆り出して全力でデータを復元した結果、トリガーボムの具体的な数が判明した。すべてのトリガーボムを見つけたと思ったらまだありました、などという事態はこれで防ぐことができる。
また、トリガーボムが肝心要の薬剤に関する部分のみ本部で製造され、それ以外の部分は各支部に持ち込まれてから組み立てられたということもわかった。
物理的に破壊することでデータを消そうとしていた理由はそこにあったのだろう。おかげでコンピューター部分の設計図データが手に入った。
これがあればやれることはある。見つけたときにどういう対処を施せばいいかが分かったも同然だからだ。
幹部とトリガーボムの所在まではわからなかったが、ひとまずこれだけのことがわかればだいぶ心理的にも楽になったことだろう。
それを見届け、オールマイトから謝辞を受け取ったところで、私とトランシィはようやく仮眠を取ることにしたのだった。
***
……で。
仮眠を終えて他のチームメンバーと合流したら、デクがオセオンで指名手配を受けていた。何が何だかわからない。
「オセオンで十二人を殺害したって……」
イヤホンジャックが説明してくれたが、それでもわからない。
わからないが、とりあえず今すぐにでもわかることが一つある。何なら確信を持って断言できることが一つ。
「デクがそんなことをするはずないだろう。他者を救けるためなら何度でも自分の命を平気で懸ける男だぞ、あれは」
「同感だ」
「ああ! きっとハメられたんだ!」
私の言葉に、テンタコルもレッドライオットも同意した。
これは私たち同級生のみならず、デクと関わったことのある人間の総意と言っていいだろう。周囲もそういう感情で満ちているからな。
「しかしだとすると、オセオンは警察内部にもヒューマライズの信奉者がいることになる。それもかなり上位の立場にだ」
「その通りだ。しかしヒーローには元々捜査権がないからな……エンデヴァーも掛け合ったとは聞いたけど、なしのつぶてらしい」
「仮にあったとしても、今この状況で警察にガサ入れなんぞできるわけないしなァ。そこに人数取られたら、それこそヒューマライズの思うツボやろうし」
インゲニウムとファットガムの言葉はもっともである。
しかし、そうか。そんなところにまでヒューマライズの魔の手が入っていたとは……。思っていた以上に規模の大きい組織だ。それだけヒューマライズの思想が、無個性の人々に響いたということなのだろうか。
「……私かトランシィがオセオンにいたなら、色々と調べられるのだが」
そうつぶやいたが、私の言葉にはわずかに怒りが乗っていた。
「仕方ないよ、メンバーを決めたのは上の判断だし……」
「わかっているよイヤホンジャック。わかっている、その裏にある思惑も含めてな」
「? どういうこと?」
「言えない。言わないのではなく、言えない」
「……そ。わかった、じゃあ聞かない」
「すまない」
……実はこの件については、国の政治的な判断が絡んでいる。今回の案件はもちろん最悪の場合世界の滅亡に繋がりかねないので、関係各国は全面的に協力を結んでいるわけだが……しかしそれでも、国家というものは自国を最優先に考えるものである。
だからこそ、どの国も自国のトップテンに入るヒーローは海外派遣していない。エンデヴァーを外に出す判断をした日本が例外中の例外なのだ。
しかし日本政府の、そしてその下部組織であるヒーロー公安委員会の本命は、私とトランシィである。マインドプローブを中心とした情報収集能力がそれだけ重視している彼らは、万が一のときを考え私たちを日本から動かさない判断をした。つまるところ、エンデヴァーは言い方は悪いが囮なのだ。
もちろんオセオンに突出したヒーローがいないことは事実であり、どこかの国がその穴埋めをせざるを得ず、その役目が回ってくるのが高い治安を誇る日本に回ってくることはある種の必然ではあった。
上層部はこれを逆手に取ったわけだ。日本はナンバーワンヒーローを出すという特大の譲歩を行うことで各国からのやっかみや横やりを防ぎつつ、オセオンを中心に多大な恩を得ようとしたのだ。
さらにはこれを隠れ蓑に、今作戦において多大な活躍が予想される私とトランシィは国内に抱え込んだ。
しかし片方……トランシィは伝統的な友好関係にあるアメリカに派遣することで、アメリカにも恩を売る。万が一思惑に感づかれても、「自分の国のことしか考えてなかったわけではないですよ」というアピールができる余地を残したのだ。
日本にとっては、それだけの価値がアメリカにはある。逆に言えば、オセオンという国はそこまでする価値がないと判断されたのである。
そして私たちはこれを、一応は承知している。私だけでも特別措置としてオセオンに派遣してくれとオールマイト伝いに提言していたのだが、封殺された形だ。
いつぞやの仮免許の借りを返してくれと言われれば、否とは言えなかったわけだが……あの借りを手札として切らせるために少々交渉をした結果でもあるので、それ自体は悪いものではない。あのときはそう思った。
だがこうなってくると、あの判断は少々軽率だったかもしれない。
エンデヴァーも彼のサイドキックたちも凄腕だが、それでも少数にはできないことも多い。インターン中の学生すらも駆り出されたのはそのためだが、そこで身内から指名手配犯が出たとなれば、真偽に関係なく様々な意味で手を焼かされることだろう。
だからこそ、私は怒りを乗せてつぶやかずにはいられなかったのだ。
しかしとりあえず、頭の中で発散はできた。今はそれよりも今後のことを考えなくては。
オセオンでデクが窮地に陥っているとしても、現状日本にいる私たちにできることはほぼない。逆にできることと言えば、日本に隠されているトリガーボムへの対処を考えることくらいのものである。
この状況で、私には二つの選択肢がある。一つはいまだに成果の上がっていないトリガーボムの捜索に参加すること。もう一つは、トリガーボム対策に装置を開発することである。
前者は正直、費用対効果に見合わない。私は確かにフォースで周囲の索敵ができるし、人間の悪意に敏感だ。しかしフォースの索敵はあくまでソナーのようなものでしかないし、悪意に関しても私に向けられたものでなければ大した効果が期待できないからだ。
だから私が選ぶのは後者になる。データをサルベージしたことで、トリガーボムの構造は理解できている。起動がどういう手順なのかもだ。であれば、それを妨害する装置を作ってしまえばいい。
幸いにして、機械は私の得意分野だ。部材は手すきの人間に頼めばなんとかなるし、機材に関しても持ち込んでいる。
これはトランシィも同様なので、映像通信で意見交換をしつつ、二人で一緒に設計・制作を進めることになった。無論、I-2Oも一緒だ。
「場所は違いますけど、これも一応は一緒にヒーロー活動、ですかねぇ」
トランシィは手早く配線を繋ぎ合わせながら、画面の向こうでそう苦笑していた。
いつか本当の意味で並び立つ日が来るさと返し、私も苦笑する。周りでは、クラスメイトたちが頭の悪い夫婦を見る目で見ていた。
俗にバカップルと言うらしい。何も否定できなかったので、それには触れないでおく私である。
それはさておき、作業自体はそこまで難しいものではない。少なくとも私とトランシィにとっては。
データを見るに、トリガーボムは遠隔からの通信を受けてタイマーが作動し、そのタイマーがゼロになることで内部の薬剤を散布する仕組みになっている。なので、このタイマーから先の部分をどうにかしてしまえばいいわけだな。
具体的には、タイマー部分と起動部分の連結を解除してしまえばいい。もちろん連結を解除した瞬間に起動してしまわないようにする必要はあるが、それは当たり前のことだ。
問題は、それをどうやってトリガーボムに行使するか。私かトランシィがその場にいればフォースハックで即座に停止させられるが、他の人間ではそうはいかない。
なので、そこを実際に行うプログラムを持つハッキングシステムを構築することにした。このシステムを飛ばす発信装置を組み込んだ外部接触型の電子キーを作るのだ。
細かいプログラムに関しては、設計と並行してフォースハックでコンピューター上に再現する。それをあとで出来上がったキーに組み込めばいい。
システムの投入については、トリガーボムの通信機能を利用する。受信する機能はあるわけだから、そこに割り込む形だな。
「やー、サッパリわからへんわぁ」
一通りの説明をしたところで、ファットガムにばっさりと切り捨てられた。周りの反応も似たようなものだ。
まあ、別にわかってもらう必要はない。ただ一人の技術者として、言わずにはいられなかっただけだからな。
……そんな作業を進めながら、私の頭には常に別のことを考えている部分があった。なぜなら私には、三つ目の選択肢があるのだから。
三つ目の選択肢。それはずばり、私が直接オセオンに向かうというものである。
これはデクたちの救援という意味ももちろんあるのだが、ヒューマライズの本拠地を叩くという意味合いが大きい。
なぜならシステム上、トリガーボムの起動に関する指令はオセオンから発せられる手はずになっていた。つまりそこを押さえることができれば、トリガーボムはどうにでもなるはずというわけだな。
ただ、今からオセオンに向かったところでどうなんだという話でもある。移動には時間がかかるし、万が一移動の最中にヒューマライズが動いてしまったら、私は空の上で進むことも引くこともできなくなってしまう。
それだけは避けねばならないので、三つ目の選択肢と言いつつ現実的ではない。ない、のだが……私の出自がそれを否定する。
そう。私には、その移動時間を十数分程度に抑える手段が、ないわけではないのだ。
しかしそれを使ってしまうと、私は多くの法を犯すことになる。いくら緊急事態とはいえ、すべきことではない。していいはずがない。
ただでさえ私は今、暗黒面にいるのだ。こういう無法なやり方は自重しなければならない。
だから耐えてくれ、私の心よ。私にこれ以上、闇の力を使わせないでくれ。
己にそう言い聞かせながら、私は懐にしまい込んでいる超圧縮収納装置をローブの上から撫でつけた。
原作で日本のナンバーワンヒーローをわざわざ国外に派遣した理由はよくわかりませんが、本作では今回書いたような駆け引きがあったためということにしました。
良くも悪くもものすごく重要視されてる二人です。
こういうことがあるから、スターウォーズにおけるジェダイは国家から一定の距離を置いていたわけですね。
まあクローン戦争では、シディアスの策謀で強制的にその距離を縮めさせられたわけですけども。