ビルに突入してすぐに、戦意がじわりと感じられた。それもかなり近い。
罠だとまた感じ方は変わってくるし、相手の“個性”はそういったものに関係したものではない上、準備時間はたったの五分しかない。これで何か仕掛けられているということはほぼないだろう。
そしてこの気配は、イイダではない。ならば近くにいるのは、
「アオヤマの気配が近い。恐らくしかけてくるぞ」
「わかった。前は任せる」
「了解」
それだけ言葉を交わし、数メートルほどの間隔をあけて先に進む私。
一方後ろから来るトコヤミは、ダークシャドウをコスチューム内に潜ませていつでも使える状態をキープしつつ、奇襲に備えている。
……このビル、先にも述べたが今までの演習舞台とは間取りが少し違う。四階、五階はそっくりだが、一階から三階までが吹き抜けになっているのだ。ご丁寧に、一階の入り口から入るとすぐの場所がだ。待ち受けるうえで、これほど奇襲を仕掛けやすい場所はそうはない。
しかも、遮るものが何もない。であれば、ここで何が起こるかは突入する前から想像できる。
その予想通りに、中に入って数秒でうなじ付近にチリッと嫌な予感が走った。
「四時の方向から来る、横にずれろ」
「何だと? ……ッ!?」
私が一言、攻撃を予言した直後だ。まさに指摘した方向から、光り輝くレーザーが襲ってきた。
これをギリギリで回避するトコヤミと、最低限の動きで回避する私。
そして回避しながら、攻撃の方向に振り向きながら声を上げる。
「行け!」
「……ッ、ああ!」
そして私たちは、当初の位置関係と入れ替わるようにして跳んだ。
私はもちろん、トコヤミもまた“個性”によって多大な跳躍が可能だ。トコヤミはレーザーが飛んできた場所からちょうど死角になる二階へ、私は逆に狙いやすい位置の二階へ跳び上がる。そのまま私たちは別行動を開始した。
私はアタロの要領で目立つように、しかし最小限の動きで三階まで登っていく。もちろん、その間に飛んでくるレーザーはすべて回避してである。
そうして、最初から攻撃位置がほとんど変わっていないアオヤマと対峙した。
「……やるね、マドモアゼル☆」
余裕しゃくしゃく、という雰囲気で声をかけてきたアオヤマ。顔もそういう様子で、上手いこと隠しているが無駄だ。
フォースは告げている。彼がかなり動揺しているという事実を。
ならば、私はそれをさらに揺さぶろう。
「ふむ……どうやら、長い間照射はできないようだな。そして、連射もそこまで可能ではない」
「……! それは、どうかな?」
見抜いた事実を、淡々と述べる。述べながら、ゆるりと前へ進む。
レーザーが飛んでくる。
だが、当たらない。ブラスターと同じだ。いくら光速で飛来しようと、来るタイミングがわかっていれば誰だって回避できるのだから。
「ここまでだ、ヴィラン。神妙に縛につくがいい」
「……フフ、捕まれと言われて、素直に捕まるヴィランがいると思う?」
「いないだろうな」
「そういうことさ! アデュー☆」
さすがに、得体の知れなさが勝ったのだろう。撤退を選んだアオヤマの判断は間違いではない。引き際をわきまえているということは、優秀さの条件の一つだ。彼は間違いなく、その条件を満たしている。
しかも、撤退方法が独特、かつ理にかなっている。彼は50メートル走で見せたように、跳躍してからのレーザーでもって移動したのだ。攻撃と移動を両立する妙手と言えよう。
相手が私でなければ、だが。
「いっづ……!?」
反撃を受けたアオヤマが着地に失敗して床を転がり、攻撃を受けた右足を押さえてうずくまる。その顔は驚愕に染まっていた。
私としては、ある意味で見慣れた顔である。彼が見せた表情は、ジェダイ相手に放ったブラスターを弾き返された人間と、まったく同じであった。
「ぼ、ボクのネビルレーザーを、跳ね返した……!?」
逃げることも忘れてこちらを向くアオヤマに、私はライトセーバーの切っ先を掲げることで応じる。
そう、ライトセーバーを持ったジェダイに、単発のレーザーなど意味をなさない。アナキンクラスになると、セーバーがなくても意味をなさないだろう。
ジェダイがブラスター全盛の共和国で、独自の戦力として存在していられた理由はこういうところも大きい。
「投降したまえ。これ以上の抵抗は無意味だ」
「く……っ!」
私の宣言に、アオヤマは悔しそうな顔をして逃げを打つ。
片足を引きずりながらなので、その速度は遅い。それでは私から逃げることはできない。
「ぅわっ!?」
ヒミコ同様、フォースプルでアオヤマを引き寄せると、私は確保判定用のテープを彼の胴体に巻きつけた。
『青山少年、確保!』
これで一人確保だ。
「……やるねキミ」
「ありがとう」
「それにその武器……トレビアンだね☆」
「ありがとう。私も、これは宇宙一洗練された武器だと思っている」
悔しそうにしながらも、ばちんとウィンクを飛ばしてきたアオヤマに頷いて返す。
……フォースで感じる限り、「悔しい」と感じているところが演習の勝敗よりも、ライトセーバーのほうが若干比重が大きいように思うが、それは言わないほうがいいのだろうな。話が長くなりそうだ。
さて、残るはイイダだが……トコヤミのほうはどうなっている?
上のほうから戦いの気配が伝わってくるので、既に会敵したのだろうが。
『飯田の速さが予想以上だ、来れるか?』
「了解、すぐに向かう」
通信しながら走る。通信を終えると同時にさらに速度を上げ、ほどなくして二人が争っている部屋に辿り着いた。
中を窺ってみると……なんとイイダは身体より大きな模型を抱えた状態にもかかわらず、速度でトコヤミを圧倒していた。
なるほど、よく鍛えられている。身長以上の大きなものを抱えながら、あの速度を維持して、しかも決して広くはない部屋を走り回るということは、並大抵ではない。
トコヤミもダークシャドウを駆使してがんばっているが、見たところトコヤミ自身はさほど身体能力が高くないようだ。結果、あと一歩を詰め切れずにいる。
そんな光景を見やりながら、私は開始前のやり取りを思い出していた。次いで残り時間を確認し、改めてトコヤミに通信を入れる。
「トコヤミ……到着したのだが」
『なんだ?』
「説得してみてもいいだろうか?」
まだ時間は五分以上残っている。今なら話し合いに失敗しても取り返しがつくだろう。
『……わかった、任せてみよう』
果たしてトコヤミの許可を得た私は、イイダの行く手をふさぐ形で部屋に踏み込んだ。
「増栄くんまで来たか……!」
「そうだ。もう残すは君一人だ、イイダ」
それでもイイダは足をとめず、戦いを続けようとする。もはやほぼ勝ち目のない戦いを。
私はそんな彼に、フォースを乗せた声で語りかけた。
「やめたまえ、もうこれ以上君が戦う必要はない。君は見捨てられたのだ」
「……!? 何を……!?」
「君が家族を人質に取られ、ヴィランに身をやつしたことは調べがついている。だがその親玉は、先程悠々と出国していったぞ。君がこうやって核爆弾を持ち出して注目されている間にな」
「な、な……それは、」
最初は理解不能といった様子のイイダだったが、すぐに意味を理解したのだろう。気を取り直して、しかし明らかに動きが鈍った。
「君がここまで身体を張る必要は、もうないんだ。さあ、我々と帰ろう。家族が待っているぞ」
「し、しかし……! しかし僕は! 取り返しのつかないことを!」
「大丈夫、我々が口添えしよう。減刑にも、執行猶予にも掛け合う。君が社会復帰できるよう、協力もする。大丈夫だ」
「あ……」
一歩だけ前に出て、手を差し出す私。
そんな私に、イイダもよろけながらも近づいてくる。
そして――
『――ヒーローチーム、WIN!!』
彼は自ら、確保テープに飛び込んだのであった。
***
「う……っ、ううっ、増栄くん、常闇くん、僕は、僕は帰れるんだな……!」
「……飯田? 訓練は終わったが」
「……はっ!? ぼ、俺は何を!?」
「うーむ……君はなんというかその、とても素直な性格なのだな……」
「バカショージキ」
「沈黙は金だ、
勝敗が宣言された直後の私たちの会話である。
我ながらあまりにもスムーズに行きすぎたと思うのだが、これは恐らくイイダが素直すぎることが大きいのだろう。
確かに私はフォースを声に乗せて説得力を底上げしたが、それはあくまで説得の補助でしかない。あそこまで役に没入させる効果などなく、それはマインドトリックを使ったとしても困難だ。
そして聞くところによると、イイダはヒミコのなりきりぶりを見て非常に発奮したらしく(ヒミコのあれはなりきりではなく本気だと思うが)、全力で悪役に徹するべくずっと自らに言い聞かせていたとのことなので……つまりはそういうことなのだろう。彼の自己暗示にフォースが噛み合いすぎたのだ。
「いい勝ち方をしたね、増栄少女!」
とは、オールマイトの第一声である。そして彼は、私を今回のMVPだと宣言した上で、周りの意見を聞くのではなく私に声をかけてきた。
「さて増栄少女。君はどうして説得という手段を選んだのか。参考までに教えてくれないかな?」
参考も何も、オールマイトほどの人物ならわかっているだろうが……これは他の生徒のために、ということだろうな。
私は了承を告げ、口を開く。
「今回の演習の目的は、現時点での我々生徒の戦闘力を把握するためと考えます。その観点で言えば、私の選択はあまり正しくないかもしれません。
ただ今回の演習には、核爆弾というこの星における最大級の破壊兵器が付随していました。ふとしたはずみで核爆弾が作動する可能性をゼロにするためには、何よりも戦闘行為は極力避けるべきだと判断した結果、説得による無力化がヒーロー側における最善手と考えました。訓練ですから、イイダが乗ってくることはほぼないとも思いましたが……それでもヒーローとしてやるべきだとも」
そう説明すると、なるほどという顔色が並んだ。
対してオールマイトは、満足げに頷いている。
「最初に私にヴィラン側や核の詳細な設定を確認したのも、その判断材料にするためだね?」
「はい、マスター。これがもし他の設定が提示されていたら、場合によっては武力制圧を優先したでしょう」
実際は、ジェダイが最初にそれを選ぶことはほぼあり得ないが。それは私のスタンスの話になるので、ここで言う必要はないだろう。
「いい判断だ! そして大事な思考だぞ! たとえ訓練とはいえ、『もしこれが本当に起きた事件だったら』って考えることはね!」
うんうんと何度も頷き、オールマイトが生徒たちを順繰りに眺めやる。
そして、先に二組の講評を終えているからか、今までよりも淀みない語り口で話し始めた。だいぶ慣れてきたらしい。元々人前で話すことには慣れているのだろうな。
「ヒーローは目立つ職業だし、“個性”の使用が公認された職業だ! しかしだからといって、無闇に使っていいというわけでもないことはここまでの授業でみんな理解してくれたと思う! もちろん、それで事件を解決することの難しさもね! だからこそ、それができるということは素晴らしいことだ! 人にも建物にも環境にも、被害が出ないことに越したことはないからね!
だから君たちも、訓練中に考えたことがもし訓練の趣旨からちょっと外れていたとしても、あんまり恐れずにやってみてくれ! それがヒーローとして正しいなら、私たちが減点することはないからね!」
そして彼はそう言ったあと、「ちなみに」と前置いてとあるヒーローの懐事情に触れた。
なんでも、強力な“個性”の持ち主だがそれゆえに周辺被害が出やすく、その補填のため経営が赤字になりがちなヒーローは案外いるのだという。具体的な名前は明言しなかったが、実際に独立を維持できなくなってサイドキックとして再就職した、といった話もさして珍しくないのだとか。
「そういうときのための保険とか控除なんてあるんスね……」
いきなり暴露された世知辛い現実にどこか拍子抜けしたと言いたげな面々の中、セロが苦笑しながらつぶやいたのが印象的だった。
しかしそうか、ジェダイと違ってヒーローは言ってしまえば営利目的の自営業だ。ジェダイはその辺りは非営利組織のようなものだったので、あまり考えなくてもよかったものだが……ジェダイを復興する上では、そうした金銭面についても考えなくてはならないな。恐らく、ドロイドと翻訳機の特許使用料だけでは足りないだろう。
保険のような制度があることはわかったが、他にも何かあるのだろうか。いずれ授業でその辺りも詳しく扱うらしいので、その日を待つとしよう。
さて、そうして授業はすぎていき、解散となった。みなそれぞれ有意義な時間だったのではないだろうか。私も思うところがないわけではないので、やはり実践に勝るものはないなと感じるところだ。
まあ私はこのあと案の定、制服に戻って更衣室を出てすぐにヒミコによってトイレへ連れ込まれ、休み時間ギリギリまで吸血されたのだが。久々のやや乱暴な吸血であり、あまりのくすぐったさに声を我慢するのに苦労したよ……。
唐突なネタバレ:
今回の戦闘訓練の話で、青山くんを不在にしなかった理由の大体半分くらいを達成しました。
いやその、うん。だって、ねえ? ジェダイと言えばやっぱアレ、やりたいじゃない?
主人公の相方が常闇くんになったのは、レーザーを出せる青山くんの相手をスムーズに主人公に任せるため。
飯田くんを主人公の対戦相手にスライドさせた理由も、ジェダイ=平和の調停者らしいことができる機会ってもうここくらいしかないんじゃないかと思ったからですね。原作だと相澤先生が言ってますが、飯田くん話を作る側からしても超便利。いやマジで。
というかヒロアカ世界、人の話を聞かないヴィランが多すぎるんじゃよ・・・。
最初は他の子たちも組み合わせガラッと変えようかなと思ってたし、そうできなくても彼らの戦闘シーンは入れたかったんですが、その間シナリオは実質進まないので原作同様全部カット。すまぬ。
そして謝罪:
実は昨日投稿した話の後書きに、今回の話で使うはずだったやつを間違っていれてしまっていました。
そのため、唐突なネタバレがマジで誇張抜きでガチなネタバレになってしまっていました。申し訳ありませんでした。
お詫びと言ってはなんですが、今回の話の最後に触れられた「やや乱暴な吸血」シーンを用意しました。どうぞお納めください。
【挿絵表示】
なお絵には間違いなく誇張がありますが、自覚もないままに少しずつ開発が進んでいることも間違いない事実です。