「き貴様っ、きっ、貴様ダケは、わ私が殺ス……!」
こちらに向けてかざされた両手の爪が、機関銃のように乱射された。
そのすべてをフォースプッシュでせき止めつつ、ライトセーバーの切っ先を向ける。
「死亡し、脳無に改造されてなお……いや、だからこそか? ともかく私に対する敵愾心は健在とはな。哀れと言うかなんと言うか」
そしてライトセーバーの刀身を増幅する直前、ナインの眼前に金色に輝く半透明の膜が展開される。バリアだ。
ライトセーバーがそれに弾かれ、私の身体も軽くたたらを踏むようにして後ろへ弾かれる。
爪の弾丸の発射も、バリアも、生前のナインが使っていたな。かつてナインが使っていた”個性”は、すべて生きているものと考えて戦ったほうがいいだろう。
だが、脳無と化している以上、敵の武器はそれだけでない。
「シャアアァァッ!」
「身体能力はしっかりと脳無だな」
かつてUSJで対峙した脳無も、恐るべき膂力を持っていた。この脳無ナインも同様で、すべてを破壊するほどの巨腕が目にもとまらぬ速さで振るわれる。
だがフォースにより先読みでそれを回避しつつ、振るわれた腕をすれ違いざまに切り落とした。
「むう……」
「アアアアア!?」
思っていたより手ごたえが悪かったため、つい唸った。
だが、腕が切り落とされた脳無ナインが暴れるので、すぐに下がる。
滅茶苦茶に振り回される腕や足を、ためらうことなく回避していく。”個性”による攻撃も伴っているが、いずれも既に見たことがあるものばかりなので、避けるだけならさほど難しくはない。
そもそもガラキ複製体から読み取った記憶によれば、脳無ナインは他のハイエンド脳無と違って急ごしらえらしい。”個性”そのものはあまり強化できていない上に追加された”個性”もほとんどないらしいので、私にとっては比較的対処しやすい相手だ。
自律思考はできないがハイエンドスペックの脳無をガラキはニアハイエンドと呼称しているようなので、脳無ナインは一応はハイエンド脳無なのだろうが。
しかし自律思考を獲得したために、死体ながら脳無ナインの攻撃にははっきりと意思が乗っている。フォースで先が読めるのだから、諸々強化すれば対処は難しくない。USJで戦った脳無のほうがまだやりづらかったぞ。
もちろんたった三か月ほどで、しかもトムラ改造の片手間にこれほどの兵器を造り上げる技術はすさまじいし、比較的対処しやすいとは言っても体力も時間も有限。早急に何とかする必要はある。
しかしライトセーバーをも防ぐバリアに加えて、肉体そのものもライトセーバーの刃の通りが悪い。ここまで片付けてきた雑魚脳無のようにはいかない。
……そう。この脳無ナイン、ライトセーバーの通りが悪い。最大出力なのにもかかわらず、切断に余計な力が必要になる。
私が見た目通りの幼女であったら、まず間違いなく切断は不可能なほどの膂力がいる。
これはこの脳無ナインに、「耐熱」の”個性”が追加されているからだ。脳無改造後に追加された唯一の”個性”のようだが、その性能はかなりのものである。
何せエンデヴァーの赫灼熱拳ジェットバーンを、正面から何事もなく耐えてしまうほどだからな。
プラズマの超々高温による溶断を行うライトセーバーを完全に防ぐほどではないのだが、下手な金属よりもよほど切りづらいのだから十分に高性能だ。
さらに広範囲にバリアを常時展開しているせいで、なかなか攻め手が見当たらない。
しかしそれでも、この脳無ナインの相手は私がすべきなのだ。
広範囲への攻撃、継続したダメージ源を用意できる上に、現ナンバーワンヒーローという最高戦力の彼を、こんなところで必要以上に消耗させるわけにはいかない。
何せこのあとには、トムラたちとの戦いが待っている。だからエンデヴァーより私が先行したのだ。これは作戦と予知の概要を聞いた、全員の総意である。
と、そうこうしているうちに脳無ナインの腕が再生し終わる。まったく、改めて見るとでたらめな性能をしているな。
「オアアアア! し死シね! 消えロロロ!!」
脳無ナインの背中がばくりと割れて、そこから金属質な龍のようなものが二体現れた。これも見覚えがあるな。島で使っていた。
まるで脳無ナインとは別の意思を持つかのように、それらが暴れ始める。その威力はすさまじく、恐らくだがこの”個性”にも脳無特有の強化された膂力が影響していると思われる。床や壁がどんどん陥没していく。
だが大きい。大きすぎる。いくらこの地下室が広いとはいえ、乱戦の場だ。ヒーロー側だけでなく、脳無たちもそこに巻き込まれてしまっている。連携も何もあったものではない。
脳無ナインは生えそろった腕から天候を操る”個性”によって風も繰り出してきているのだが、これも逆効果だろう。
「邪魔だ新入リ!!」
「うウザい」
「ガッ!?」
結果として、脳無ナインは他の脳無たちから総攻撃を受けて吹き飛ばされた。
なるほど、急ごしらえとはこういう意味もあるのかもしれない。連携に関する情報のインプットが足らないか、脳無たちを仲間と認識できていないかのどちらかかな。
まあ敵対する側としては、相手の仲間割れは歓迎すべきことである。ありがたく利用させてもらい、私は脳無ナインの懐へ一気に飛び込んだ。
「そこだ!」
「アアアア゛ア゛!!」
勢いよく振り抜いたライトセーバーが、脳無ナインの両腕を再び切り落とした。雷を放つ予兆が起こっていたが、間に合ったな。
ナインだった頃から、彼の”個性”の起点は手のひらだ。どうせすぐ再生するが、それでも切り落とせるなら切り落としておくに越したことはない。切りづらいものを切断した衝撃はなかなかだったが、そのかいはあったというものである。
まあすぐに超再生が動き始めていたが、切断と同時に焼灼するセーバーの傷跡の再生が通常よりも時間を要することは、USJのときにわかっている。だからこそ、私は攻め手を緩めることなく攻撃を続けた。
脳無ナインも粘る。腕が使えないならとばかりに、背中から生える龍で私を迎え撃つ。さらには身体をねじりながら跳ね上げて、蹴撃を私に放ってきた。
同時に三方向からの攻撃。いかに未来が読めるとは言っても、同時に別方向から飽和攻撃を受ければひとたまりもない。
「甘い」
「ヌ!?」
だがそれは、普通であればの話。増幅によって空気を瞬間的に膨張させた私は、いつもの立体機動を駆使してすべての攻撃を回避した。
急激かつ、無理やりな方向転換を繰り返したことによるGの負担が身体にのしかかるが、これくらいはスターファイターでドッグファイトをすればよくあることだ。魂がこの感覚に慣れているし、耐Gの仕組みはコスチュームにしっかり組み込んである。問題はない。
「シッ!」
「ア゜……ッ!? オ、オッ……」
高速かつ変則的な動きで脳無ナインの眼前に辿り着いた私は、これまた高速で身体を回転させながらライトセーバーを振るう。あらゆるものを溶断する超熱に加えて、運動エネルギーの後押しを受けたセーバーが、脳無ナインのこめかみから上を刎ね飛ばした。
そこから間髪を入れず、さらに身体をその場で急旋回。今度は上から下への回転を身体にかける。これに応じてライトセーバーも動き、刎ね飛ばした脳無ナインの頭部上半分ごと頭の下半分を左右に両断した。
さらには勢いが余ったのだろう。その切っ先は、鈍い音を響かせながら脳無ナインの胸を通り越して腰周辺にまで達し、遂には床にまで抜けて見せた。
つまり、脳無ナインの身体は完全に両断された。これに加えて脳も四分割されたのだから、撃破完了と思いたいところだが……脳無という兵器ならここから巻き返してくる可能性も否定できない。
実際、脳無ナインから感じるフォースはまだ死んでいない。それを証明するかのように、背中から生えた龍はまだ動いている。燃え尽きる直前のロウソクが激しく燃えるかのように、今までで一番激しい攻撃が私にまっすぐ突っ込んできた。
だが私は回避行動を取らなかった。そのままライトセーバーを構え直し、攻撃を続行したのだ。
なぜか?
「AAAAHHHHHHH!!」
私を避けるように、頭上を凄まじい音が吹き抜けていく。人の身に余る音量は、もはや兵器と言って差し支えない。そんな攻撃が、二対の龍を文字通り消し飛ばした。
これこそ、我らが雄英高校英語担当教師でもあるプロヒーロー、プレゼントマイクの必殺技だ。これに続く形で、私は再びライトセーバーを振るう。四分割された脳無ナインの脳にX状に切りつけて、八分割にする。
――脳無ナインの身体が、床に倒れ伏す。その音は、ナインを倒したときよりも明らかに大きかった。
「アヴタス、よくやった!」
「クラスト! 加勢する!」
「殻木はどこに!?」
直後、室内にエンデヴァーたちがなだれ込んできた。病院内に湧いた雑魚脳無たちを蹴散らしてきたのだ。
これに応じる形で、私は今一度室内に意識を向ける。まだ動いているハイエンド脳無は三体。これがクラストを中心としたヒーローたちを押している。守りに特化したクラストがいなければ、とっくに全滅していただろう。やはりハイエンド脳無は強敵なのだ。
だが一方で、ミルコと彼女が一度蹴り倒した脳無の姿はどこにもない。ないが、奥のほうから戦っている気配が感じられる。ガラキとトムラの下に向かったミルコを、超再生で復帰した脳無が追いかけそこで戦闘になっているようだ。
「奥だ! ミルコが向かったが、脳無が一体続いて戦闘になっている! 加勢を頼むエンデヴァー!」
「任された!」
クラストの説明を受け、エンデヴァーが奥へと飛んでいく。
これを一体の脳無が阻止しようとしたが、その身体から”個性”が放たれることはなかった。
何故なら、既に彼らはイレイザーヘッドの視界の中。イレイザーヘッドが瞬きをしない限り、”個性”は動かない。
これにより攻撃手段だけでなく、超再生をも封じられた脳無を私が破壊することは容易かった。ライトセーバーの刀身を増幅し、”個性”が使えずとも即立ち直ってエンデヴァーに追従しようとした個体の脳を瞬間的に貫く。
「アヴタス、お前も行け。ここは俺たちだけで十分だ」
「了解しました、マスター。フォースと共にあらんことを」
そして私は、今攻撃した脳無が完全に機能停止する様を見届けることなく、エンデヴァーを追って奥へと向かった。
走りながら、懐からゼリー飲料を取り出して口につける。
この戦いは長丁場になる。まだ身体の栄養にはそれなり以上に余裕があるが、わずかな時間でも補給できるなら補給しておくに越したことはない。
イレイザーヘッドもよく摂取しているこれは、栄養の量もバランスがいい。何より短時間で摂取も可能と、任務中の補給には最適の一品だ。
願わくば、残り二本のストックを使い切る前に戦いが終わってほしいところだし、そうすべく尽力はするが……嫌な予感は戦いが始まってからずっと、つきまとい続けている。
ナインに与えられた耐熱は、ナインの死骸に残る痕跡を見たドクターがただの切断ではなく溶断であると見抜いて搭載した個性。
その判断は正解なんですけど、純粋なプラズマエネルギーで形成されたセーバーを防ぎきるにはまだ力不足でした。着けた個性を強化する時間がなかったとも言う。
エンデヴァーのヘルフレイムに耐えられるレベルではあったので、予知された未来においては対エンデヴァー用にメタを張った兵器という扱いで登場し猛威を振るったとかなんとか。
ちなみにイレイザーヘッド御用達のゼリー飲料は、いつかどこかで使いたかったのでここでようやく使えて満足してます。
あの人、アングラヒーローやってなかったら絶対ゼリー飲料の広告塔としてオファー来てるよね。