仁くんの「二倍」は、複製体を手から作り出す”個性”です。シンプルですけど、複製するものは脆くても大元と同じ性能なので、とっても強い”個性”だと思います。
自分の複製はできないみたいなので、無限に倍々ゲームにはなりませんが……それができたらいくらなんでも無法すぎるので、できなくていいです。
でもその生成速度は、びっくりするほど早いです。さすがに私がコトちゃんに変身するときほどじゃないですけど、ちょっと好きな人に変身するときよりは早いと思います。
ただ、私はここで仁くんに何もさせないまま終わらせるつもりはなかったりします。もちろん本気でやりますけど、それはそれとして瞬殺っていうのは何か違うって思うんですよね。
だってこれは殺し合いでもヒーローとヴィランの戦いでもなく、お友達同士のケンカなので。
だからこそ私はあえて先手を譲り、複製された二人の襲ちゃんを万全の態勢で迎え撃つことにしました。
「頼むぜ襲ちゃん!」
「はいはいわかったよ」
「死ねぇ!」
勢いよくこちらに近づいてくる二人の襲ちゃん。対照的に、距離を取る仁くん。
さらに一定の距離まで来たところで、いきなり襲ちゃんたちが目の前に現れました。憤怒でも超再生でもない、襲ちゃんの三つ目の”個性”である瞬間移動ですね。
ですが攻撃のタイミングは、フォースが教えてくれます。私はこの場に漂うフォースに身を任せながら、ソレスで一瞬の二連撃をさばきました。
確かに瞬間移動による攻撃はすごいものです。普通にしてたらまず対処はできないと思います。
ただ、瞬間移動はあくまで移動だけのもの。襲ちゃん以外のもの、たとえば周りに転がってる瓦礫とか、そういうのを瞬間移動させられるわけじゃないので、回避さえできればあとはわりとなんとでもなっちゃうんですよね。攻撃に使うときの使い方が一つしかないんですから。
なのでフォースユーザーである私にとって、この”個性”はそんなに脅威じゃなかったりします。近づいてきた以上、やるのは剣と剣の戦いですから。もちろん、先読みを失敗すると死ぬのでそこは全力でがんばりますけど。
……あとは、時折仁くんがムチにもなるメジャーでちまちまとお邪魔して来るので、そっちに気を取られすぎないように、ですね。
「ああもうちょこまかと……!」
「オマエさっさと死んじゃえよなぁ!」
「ヤーでーすー!」
とはいえ、二人の襲ちゃんと剣を交え続けるのはさすがにしんどいです。
襲ちゃん、パワーファイターですからねぇ。何せ出久くんが今安定してできるフルカウルくらいのパワーは、間違いなくあります。
襲ちゃんの剣術自体はまだ粗があちこち見えるので、やりようはそれなりにあるんですが二人ですからね。こっちから攻めるスキが少ないんです。
おかげで都度都度下がらざるをえません。どんどん後退させられてます。たまーに背後に瞬間移動して挟み撃ちにしてくるので、そっちも気が抜けません。
このまま下がり続けると……確かセメントス先生が開けた側なので、壁がないはず。何も考えずに行くと落ちちゃいますね。
でもそういうことなら、いっそそのまま勢いに任せて落ちてしまいましょうか。
「トガちゃん!?」
「アイツがこれくらいで死ぬわけないだろ!」
「てゆーかオマエはどっちの味方なのさトゥワイス!」
「ごめんて……ぶえ!?」
楽しそうに漫才してるところごめんなさい。ワイヤーフックを使ったロープアクションで、ぐるりと二階部分の吹き抜けを通過して仁くんの真横に回り込みました。
そのまま三階に戻りつつ、太ももで仁くんの顔に一発です。吹き飛ぶ仁くん。
ちょっとやりすぎたかなって思いましたけど、太ももの感触に対する感想が最初に出てたみたいなので大丈夫でしょう。
私の身体は余すことなくコトちゃんのものなので、それはそれとしてちょっと怒りますけど。
「でやぁ!!」
「逃げるなよ金髪!!」
「ひゃっ、……今のはちょっと危なかったです、ね!」
再び一瞬で距離を詰めてきた二人の襲ちゃんですが、今度の攻撃は完全に同時に来る予感だったので、片方はフォースプッシュで防ぎます。
憤怒でパワーアップしてる襲ちゃんの剣を斥力だけで防ぐのは正直とっても厳しいんですけど、やってやれなくはないです。シディアスのおじいちゃんを見習って、がんばって余裕たっぷりに見せながらなんとか受け切ります。
ただ、この防ぎ方は想定してなかったんでしょう。襲ちゃんが二人とも、びっくりして目を真ん丸にして固まってます。カァイイね。
でもそれは間違いなく特大のスキでした。なので私は遠慮なくセーバーを回転させて、オレンジ色の切っ先を隙間にねじ込むようにして襲ちゃんを切り伏せました。
続いてもう一人……と思いましたが、さすがにこっちは防がれました。けどまだ動揺しているので、こっちが有利ですね。メンタル的な方向の訓練はしてなさそうですもんねぇ。
けどこのまま一対一の戦いを続けるわけにはいきません。私は不意にその場に膝をつく勢いでしゃがみ込みました。その頭上を、襲ちゃんの剣が通過します。
次に、しゃがみ込んだ勢いをそのままに、床に手を突いて逆立ち。カポエイラの要領で、後ろから奇襲してきたばかりの五人目の襲ちゃんの顎を蹴り飛ばします。
「ごぇッ!?」
「クソ……! クソッ、クソッ! 二人がかりなのになんでオマエに勝てないんだ!?」
彼女が泥になっていくのを尻目に床を勢いよく押して、後方に跳びました。残っていた三人目の襲ちゃんが納得できないって感じで声を上げます。
空中でくるくる回りながら、彼女の後ろにあるガレキをフォースプルして後ろ頭にぶつけてあげつつ、うーん、と少し考えます。
「連携する気がないのが一番悪いと思います。ここ狭いですし……って、もう聞こえてないですかね?」
ガレキがぶつかった衝撃で溶け始めた三人目の襲ちゃんに心の中で謝りつつ、私は空中で回転した勢いそのままにライトセーバーを振り下ろしました。
すると六人目の襲ちゃんの剣に勢いよくぶつかって、ライトセーバー同士がぶつかり合うのに似た独特の音が響きます。
思いっきり勢いをつけたので、これにはさすがに襲ちゃんも防ぎきれず、ぐぐっと低く押し込まれた体勢になりました。剣が折れれば一番よかったですけど、複製物とはいえさすがにフォースウェポンですかね。
まあ、今回はそれでいいんですけどね。七人目の襲ちゃんからの攻撃に対する盾にする形で、六人目の襲ちゃんの身体で視線を遮ってる。この位置関係に持って来れればよかったので。
「おやすみなさぁい」
ということで、襲ちゃんたちが怯んでるスキに左腕をミッドナイト先生に部分変身させて、六人目の襲ちゃんの鼻先で眠り香を発動です。
ミッドナイト先生への好き具合から考えるとそろそろ血のストックが打ち止めだと思いますが、あと一回分だけ残ってれば十分です。
仁くんの”個性”は何度でも複製できますが、一度に複製できるのは二つまで。それ以上の複製をするためには、複製したものが消滅する必要があるみたいなんです。
なので襲ちゃんを一人は眠らせて、無力化させておくだけで私に有利になるのです。それだけで仁くんは複製を半分に制限されますから。
マヒとかだとダメージと認識されて消えちゃう可能性があったので、これが一番無難だと思います。まあ、できれば変身は使わずに済ませたかったですけどね。
「あっ、ずっこいぞトガちゃん!」
「ふざっけんなよオマエ!? そんなのアリか!?」
「それ言ったらそっちは三人じゃないですか。そっちのほうがずっこくないです?」
「確かに!!」
「納得すんなトゥワイスのクソバカ!!」
さて、一対一なら襲ちゃんには負けません。本体相手だと勝てないかもですけど、複製体なら大丈夫です。ちょっとでも攻撃が入ればそれで勝ちですからね。
特に剣の腕なら負けないのです。これでもジェダイとシス、両方のセーバーをきちんと習ってるのです。剣を勉強し始めて一年未満の襲ちゃんに負けたら、ますたぁたちに呆れられちゃいますからね。
すさまじい勢いで繰り出される攻撃ですが、その一つ一つに丁寧に対応します。
フォームはまたマカシで。向かってくる攻撃を利用するという意味ではソレスと似たような対応ではあっても、その応じ方は攻撃的なやり方で。
次々に繰り出される襲ちゃんを、順番に切り伏せていきます。そして一人倒すごとに、数歩分前へ。そんなカタツムリみたいな速さで、けれど着実に前へ前へと進んでいくのです。
さっきとは逆の展開ですね。仁くんが追い詰められていきます。私との違いは、その先が落ちるんじゃなくて壁ってことですか。
たまに仁くんが下の階に飛び降りて距離を取ろうとするそぶりも見せますけど、それはさせてあげません。そのときは数歩下がることを受け入れつつ、フォースでお邪魔虫なのです。
くるり、くるりとセーバーを動かします。何度か剣が弾かれ、直後に一閃。もう何人目かもわからない襲ちゃんが消えました。
そして、私は勢いそのままにセーバーを目の前の仁くんにつきつけます。
「……私の勝ちですね、仁くん?」
「おう……俺の負けだぜトガちゃん……」
両手を挙げて、壁に背中をつけた仁くんが絞り出すように言います。
けど、マスクで見えないですけど、それでもわかります。マスクの下の顔は、どことなく穏やかなものでした。
「あーあ、俺もいよいよお縄かぁ。まあ、俺にしちゃ頑張ったほうか……。もうみんなのためになれないのだけが残念だぜ……」
「会いに行きますよ、刑務所でもどこでも。……あ、そうだ。せっかくだし、出所したら結婚式に来てくださいよ。結婚式って、お友達も招待できるんですもんね?」
「なにそれ超見たいじゃん。見たいよ。ウェディングドレスのトガちゃん、すっげぇきれいなんだろうな……今から俺泣きそうだよ……」
「じゃあ、そのときは招待しますね! 連合のみんなも一緒に!」
「ああ、楽しみにしてる。へへ……なんだよ……。意外と……こういうのも悪くねェんじゃん……」
「でしょ? えへへ、ありがとう仁くん、私を信じてくれて!」
そして私は、先ほどのように左腕をミッドナイト先生に部分変身させて、仁くんに眠り香をかがせました。途端に意識を失い、崩れ落ちる仁くん。
彼の身体を優しく受け止めつつ、抱き上げ……ようとして。
私はとっさに後ろにフォースプッシュを放ちました。
激しい音と一緒に、蒼い炎が襲ってきています。範囲が狭くて私だけを的確に狙った攻撃だったので、完璧に防ぐのは難しいですね。逸らしましょう。
……うん、成功です。
にしても蒼い炎……ってことは、次は彼が来たみたいですね。
「おいおい……これはちょっと想定してなかったぜ」
「荼毘くん! お久しぶりですね、夏以来です?」
「イカレ女の分際で、よくもまァトゥワイスをたぶらかしてくれたもんだな。そういうのが得意なのか?」
「? 連合のみんなはお友達じゃないですか」
「無自覚かよ。サークルクラッシャーかテメェ」
こつこつとブーツの音を響かせながら、炎の中から荼毘くんが姿を見せました。その手から、蒼い炎がちろちろと舞っています。
「なんでもいいや。とにかくトゥワイス返してもらうぞ。そいつがいりゃあ俺の夢は確実に叶うんだからな」
荼毘くんはそう続けて、炎を発射してきました。うそぉ。
「ちょっと!? さっきもそうでしたけど、仁くんいるんですよ!」
慌てて仁くんを抱えて横に跳び、半壊していた扉を蹴破って部屋に入りました。
んんん、逃げるならワイヤーフックかコトちゃんに変身しての立体機動のほうがよかったかも。閉所で、しかも袋小路じゃないですか。
ちょっと失敗しましたね。ベランダはあるので、出られないわけじゃないのは不幸中の幸いですかね。
「大丈夫だろ? ヒーローってなァ咄嗟に人命救助しちまうもんだからな」
「あーっ、そういう!? 荼毘くん性格悪いって言われません!?」
部屋の入り口をふさぐように立った荼毘くんが、にたぁと笑います。
「よかったよ、イカレ女でもまっとうなところはあるんだな」
「シツレーしちゃいます。私ほど普通の女の子はいませんよ?」
「テメェのどこが普通だよ。普通じゃないから死柄木にスカウトされたんだろうが」
「あ、でもそうですね。コトちゃんの隣にいつでもいるちょっと過激な女の子になりたいので、最近は普通じゃないですね!」
「聞けよ。相変わらずイカレてんな……」
むぅ、荼毘くんにそんな呆れ顔されるのはちょっと納得できないですよ?
そういう荼毘くんだって、エンデヴァーいじめに一生懸命じゃないですか。それしか頭にないんだから、荼毘くんが言うところのイカレてるってことでしょう?
まあ、それを言って警戒されるわけにはいかないので、ここでは言いませんけど。納得いかないのは別問題でしょ?
「そこで納得してねぇのが何よりイカレてる証拠だろ……あー、もういいや。テメェと話してると色々と面倒だ」
蒼い炎があふれる手がこっちに向けられました。
あーもう、フォースで読むまでもないです。また仁くん巻き添えにする気満々です。
もちろん私は守りますし、荼毘くんもそれが確信してるからこそではありますけど、これで私が荼毘くんが言うところの「
「……いいですよ。そっちがその気なら、私にだって考えがあるんです」
「ほざいてな! ……!?」
荼毘くんが炎を放とうとするより早く、私は既にコトちゃんに変身していました。行動が終わるまでの時間って意味では、コトちゃんへの変身はどんなヒーローの必殺技にだって負けない自信があるのです。
ともかくそういうわけで、荼毘くんにはフォースイレイザーをプレゼントです。
個性因子の活動を低下させるだけで停止させるわけじゃないので、炎の発射はとめられませんでしたが……十分です。出てきたのはせいぜいが普通の火炎放射くらいの赤い火だけでしたから。
いつもの蒼い火に比べたら、勢いも規模も温度もぜーんぶよわよわです。私たちのヒーローコスチュームは、防刃性や防寒性はもちろん、耐熱性も抜群の優れもの。これくらいどってことないのです。
「考えがあると、言っただろう」
「! こいつ……!」
フォースイレイザーの欠点は、”個性”をある程度以上鍛えてる人に対しては消しきれないこと。
逆に利点は、発動さえすればあとはほっといても一定時間効果が継続することです。その効果時間を任意で決められることも利点ですかね。
なのでこれから数分、荼毘くんはろくに”個性”が使えません。無防備ではないですが、でもその状態の彼相手にコトちゃんが……私のヒーローが、負けるはずないのです。
「私たちの前から去れ。君にトゥワイスは渡さない」
「ぐ……ッ!」
それに私、怒ってるんです。荼毘くんのことお友達だと思ってますけど……仁くんだってお友達。
二人だってお友達同士ですけど、だからって仁くんを平気で攻撃に巻き込むようなことするのはヤです。仁くんがそれを許してるならまだしも、今の仁くんは眠っててそんなこと言えるはずないのに。
だからでしょう。改めて放ったフォースプッシュは、今日一番の威力でした。強烈な斥力に荼毘くんが吹き飛ばされて、山荘の残っている壁を何枚かぶち抜いていきました。
「……ちょっとやりすぎたかもしれません」
変身を解除しながらつぶやきます。
でも、謝るつもりはありません。あれは荼毘くんが悪いと思います。
「荼毘を吹き飛ばしたのはフォース……ああ、やっぱりトガさん」
「あ、ルクセリアさん」
とりあえず今はここを離れなきゃ。そう思って仁くんを背負ったところで、さっきまで荼毘くんがいたところにルクセリアさんがいました。
そういえば、連合に潜入してたんでしたっけ。ヒーローの突入に合わせて、動いたって感じでしょうか。
そんな彼の背中には、傷だらけで気絶している見覚えのある人影が乗せられていました。
「……と、マスタードくん?」
「マグネ共々捕えたかったのですが、この子がなかなかかわいい顔して男を魅せてくれましてね。思わず興奮してしまいまして。そちらはトゥワイスですか。お手柄ですね」
「そっちこそ」
妙に和やかな雰囲気が流れました。
けど、お互いフォースユーザー。ずっと下のほうから感じてた嫌な気配が決定的に大きくなったのを感じた私たちは、どちらからともなくうんと頷き合いました。
「離れましょう!」
「はぁい!」
そして、私たちが窓を突き破って外に脱出した、その瞬間。
巨大な人影が、床を突き破って姿を見せたのでした。
複製で出てきた襲が弱いのは、トガちゃんも言ったように連携と閉所での戦闘経験がほぼないのに加えて、トゥワイスの個性の仕様が関係しています。
トゥワイスはなんでもかんでも複製できるわけではなく、対象物についてある程度以上の情報を持っている必要があります。その情報が更新されると前の情報に沿った複製はできなくなるので、下手に情報を更新すると弱いやつしか出せなくなったりもします。
つまりゲームのセーブデータのようなものがあって、その情報が更新されない限りは何回やっても情報を最後に取得したときのものしか複製できないし、そのセーブ枠は一つしかありません(公式設定)。
ではここで複製されている襲はいつの襲なのかというと、一か月近く前(ヒューマライズ事件の直後くらい)のです。具体的に言うと、フォースライトニングを習得したタイミングの襲。
その後のレベルアップが反映されていないので、このあと理波と戦う本体はもうちょっと強いです。