銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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10.授業を終えて

 

 で。

 

 とにもかくにも初めてのヒーロー基礎学は終わったわけだが……その放課後のことである。

 

「せっかくだし、みんなで今日の訓練の反省会やろうぜ! 交流会も兼ねて!」

 

 ホームルームが終わったあとだ。めいめい帰路につこうかというところで、キリシマがそう声を上げた。彼の提案に、ほぼ全員の視線が集中する。

 

「いいねソレ!」

「おう! その話、乗った!」

「オイラも!」

「すまねぇ、今日は外せない用事がある」

「そうか、そりゃ仕方ねぇな! また今度誘うわ!」

「ああ」

 

 トドロキは帰ってしまったが、それ以外はまさかの全員参加である。うーむ、みななんと向上心が高いことか。素晴らしいことだ。

 まあ、まだ怪我が治りきっていないミドリヤをにらみ続けるバクゴーのようなものもいるが。

 

 というか、バクゴーがここにいることが意外だ。彼は訓練直後、ずっと茫然自失のようだっだのだが……保健室から遅れて戻ってきたらしいミドリヤと更衣室で何かあったのか、教室に戻ってくる頃には普段通りに戻っていた。

 

 ……いや、元通りではないな。彼からはそれまでとは異なり、慢心が消え、破壊衝動にも似た攻撃性も薄れていた。

 そしてどこまでも高い自意識から生まれる、どこまでも果てしない上昇志向が前に出てみなぎっていた。怒りもあるが、それはほとんど自身に向けられている。

 

 細かい経緯はわからないが、ミドリヤとの会話で立ち直ったのだろう。そして早速、これから先のことに目を向けようというのだろうな。

 だからなのか、暗黒面の気配も薄れている。それほどミドリヤに負けたことがショックだったのだろうが、そこで相手を陥れようという発想に至らない辺り、バクゴーもまたヒーロー志望ということか。

 

「すまない。反省会には参加したいのだが、職員室に用事があるんだ。終わったら戻ってくるから、私のことは気にせず進めてくれて構わない」

「お? なんだ、入学早々呼び出し?」

「いやいや、爆豪くんじゃないんだから」

「あァン!? 黒目テメェ殺されてぇか!?」

 

 アシドの茶々入れに、バクゴーが爆発する。……前言は撤回したほうがいいだろうか?

 

 まあ、それはともかく。

 

「いや、申請したいことがあってな。通るかどうか以前に、そもそも制度としてどうなっているかわからないから、どうなるかもわからないのだが」

「申請ですの?」

「ああ。父上から聞いたのだが、雄英は申請すれば放課後などに訓練施設を生徒が使えるらしいのだ。その辺りのことについてな」

「訓練施設!?」

『それ詳しく!!』

 

 ほぼ全員が私に殺到してきた。そんなに訓練がしたいのか、彼らは。ジェダイでもこれほど向上心の強いものはなかなかいなかったものだが、うーん、感心なことだ。

 

「みんな落ち着こう! 増栄くんはそれを詳しく聞くために職員室に行くのだろう!?」

「あ、そうか」

「早合点しちゃったね」

「……そういうわけだ。だから、みんなは先に話し合っておいてくれて構わない。施設云々については、あとで私からみんなに説明するよ」

 

 そういうことで、私はクラスメイトを置いて教室を後にしたのだった。

 

***

 

 丁寧に言葉を重ねて教室を出て行った小さい同級生の背中を見送って、1-Aの面々はそれぞれの思いを胸にそれぞれがため息をついた。

 

「……はー、信じられないけど、あの子あれで年下なんだよなぁ……」

 

 その中で、最初に口火を切ったのは尻尾を持つ尾白猿夫(ましらお)である。

 

「飛び級だっけ。すごいよね……何歳なんだっけ?」

 

 直前の訓練で彼とタッグを組んでいた葉隠透が二の句を継ぐ。

 

 彼女は言いながら、理波と仲のいいトガへ視線を向けた。

 

「コトちゃんは今年の八月で十一歳ですよ」

「十一!」

「ってことはまだ十歳じゃねーか!」

「若い!」

「っつーより幼い?」

「それであの成績か……とんでもないな」

「悔しいけど、輝いてたよね☆」

「光る剣超かっこよかったよねぇ」

 

 それを聞いた賑やかな面々が、口々に声を上げる。

 彼らのリアクションに、トガはなぜか誇らしげだ。

 

 だが爆豪勝己はそんな面々には見向きもせず、理波が去っていった扉のほうを睨むようにして顔を向けていた。

 

 彼の心中では、主に怒りが嵐のように荒れ狂っていた。だがその怒りの原因の大半は、自分にあると既に理解している。だからこそ、彼は表向き静かにたたずんでいる。

 

 己は今日、負けたのだ。今までずっとデクとさげすんでいた、路傍の石でしかなかった幼馴染に。それは誰に対しても偽りようのない事実だ。

 

 それに、である。

 

 一瞬にしてビル一棟を凍り付かせてしまった、轟焦凍(しょうと)。彼にかなわないのではないかと思ってしまった。

 最初から最後まで一貫して的確な分析をしてみせた、八百万百。彼女から受けた指摘に反発するより先に納得してしまった。

 何より、最小限の行動で敵を圧倒するのみならず、言葉で事態を鎮めてみせた増栄理波。彼女にも勝てないかもしれないと、思ってしまった。

 

 そんな自分が何よりも不甲斐なかった。更衣室でふと見えた鏡の中の自分を見て、そんな己を殺してしまいたいとすら思った。

 

 そんなことをしていたものだから、他のクラスメイトがみな着替え終わり、教室に向けて更衣室から出て行ったあと。保健室に搬送されていたがために、遅れて更衣室に来たデク……緑谷出久と鉢合わせる羽目になってしまったのだ。

 

 緑谷はとても気まずそうにしていた。少なくとも今日、彼は爆豪に勝ったというのに、どこか怯えたような様子で。その態度が、なおさら爆豪の神経を逆なでした。

 だから、いつものように激昂して、爆破してやろうと思った。完全な腹いせでしかなかったが、それでもしようとして――

 

「――かっちゃん。これだけは、君には言わなきゃいけないと思って……」

 

 突然緑谷の口から語られたフィクションのような話に、思わず硬直した。

 爆豪がそうして思考を巡らせている間にも、緑谷はあれこれと語った。

 

 いわく、人から授かった“個性”なのだと。

 そして、それをいつかちゃんと自分のものにして、己の力で爆豪を超えると。

 

 そう締めくくり、「しまった」という顔をする緑谷に、爆豪の怒りは頂点に達した。

 彼は爆発するかのように、心の内でマグマのようにたぎらせていた感情を言葉にして緑谷に叩きつける。

 

「こっからだ!! 俺は……!! こっから……!! いいか!? 俺はここで一番に()()()()()!!」

 

 そして宣言した。俺に勝つなど二度とない、と。そう啖呵を切って教室に戻って来たのである。

 

 ……爆豪勝己という少年は、間違いなく才能ある少年だ。彼を揶揄して才能マンと言う向きもあるが、それは厳然たる事実でもある。

 だがそれゆえに彼には、その高すぎる能力を競う相手が今までの人生で、一人もいなかった。そして周囲もそれを無責任に褒めそやした。彼は子供の世界という狭い世界の、圧倒的な王様だったのだ。それは間違いなく、彼にとって不幸だった。

 

 結果として、彼は自尊心のみをひたすらに肥大化させることとなり天狗となり……そしてその高い鼻は、今日まさにへし折れた。全国から集まってきた、優秀な同級生たちによって。

 

 けれども、彼の心までは折れなかった。今回の負けを認めつつも、今よりも成長し勝利することを誓った。

 自分に初めて土をつけた緑谷に切った啖呵は、その決意の表れ。自らを鼓舞するための宣言だ。

 

 そして、そう決めたからこそ。

 

ナンバーワン(オールマイト)はまだめちゃくちゃ遠ェ)

 

 そう自覚できたからこそ。

 同級生からの反省会の誘いに、彼は断りの言葉を半分ほど口に出しかけながらも飲み込み、参加すると答えたのだ。少しでも上へ進むために。

 

 だから、彼にとって理波が年下ということは関係ないことだ。上へ行くに当たって、そんなことはどうでもいい。倒すべき相手のパーソナルデータなど、能力と装備、あとはせいぜいが性格だけで十分だった。

 

 彼にとって大事なことは、勝つこと。そして、オールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになること。

 

 だからこそ、

 

「テメェら……! 話し合う気がねェなら俺ァ帰るぞ……!」

 

 彼は両手を軽く爆破させて、周囲を威嚇する。

 話の腰を折るな。そんなことをしている暇はない。言外にそう示すかのように。

 

「お……オォ! そうだな! よっしゃ、そんじゃ一回戦から順番にやってこうぜ!」

 

 そんな爆豪に、ひるむことなく応じながらも自然と司会を始めた同級生……切島鋭児郎。

 こいつはマシかと思いながら、やっと進んだ話に爆豪は鼻を鳴らす。どかりと机に腰を下ろし、ふてぶてしく構える姿に飯田天哉がいちいちうるさいが、それもどうでもよかった。

 

「つっても一回戦の問題って、爆豪の独断専行以外になんかあったっけ?」

 

 まあ、それも上鳴電気の言葉に吹き飛ぶのだが。

 

 そんな吼える幼馴染の姿をちらりと眺めた緑谷の表情は、どことなく爆豪と似ていた。上を目指す気概という点で。

 

「いや、僕も問題だらけだったよ……その、かっちゃんが冷静だったら、きっと十回やっても十回負けてたと思うし……」

「そう? 緑谷いい感じだったじゃん」

「そうそう、爆豪の攻撃ちゃんと凌いでたしすごかった!」

「チッ……!」

 

 どこにいようが聞こえるレベルの舌打ちに一瞬怯えながらも、緑谷は苦笑をクラスメイトに向ける。

 

「い、いやでも、そのあとの行動は全部まずかったからさ……」

「最後の一撃、どう見てもやりすぎでしたものね」

「ケロ。一歩間違えたら、お茶子ちゃんや被身子ちゃん、あるいは核爆弾に直撃していた可能性だってあったわ」

「そうなんよね……八百万さんの指摘聞いて、単純にMVP取れたし勝ててよかったなんて喜んでる場合と違ったなって思った……」

「僕もだよ……一応、使いこなせてなかった“個性”の解決の糸口は見えたんだけど……」

 

 ははは、と乾いた笑いを浮かべる緑谷。

 

 だが周りの面々は、それよりも彼の発言に反応した。

 

「出久くん、糸口が見えたって本当です?」

「マジか! やるなー緑谷!」

「い、いや、これも増栄さんのおかげなんだけどね。昨日保健室で、“個性”を使うときのイメージとか、ちょっとアドバイスもらって……その通りに今日やってみたら、うまくいきそうだったんだ。まだダメだったけど、いけそうだ、って思って……」

「よかったじゃないか緑谷くん!」

 

 周りからたくさんの祝福が寄せられることに慣れておらず、緑谷は目を白黒させながらはにかむ。

 爆豪だけが、面白くなさそうにそれを眺めていた。

 

 本を正せば幼馴染でありながら、こじれにこじれて歪んだ関係の二人。その関係が今、少しだけ変わろうとしていた。

 




今回は箸休め回+緑谷と爆豪について少し。
ストーリーの進展がほぼないのですが、原作における重要なファクターなので、二人については主人公の影響で変わった部分はなるべく描写したいなぁと思っています。
とはいえタイミングが悪いとできない可能性もあるので、必ずしも触れるわけでもないんですけど。

現時点での変化は

緑谷:
原作より個性周りの成長が早い
原作より負傷の程度が軽い
原作より早くかっちゃんとの関係性について考えが及び始めている

爆豪:
原作より改心がちょっとだけ早い
原作より改心の度合いがちょっとだけ深い
原作よりクラスメイトとの交流回数がちょっとだけ増えた

辺りですかね。
全体的に二人とも原作より進展が早くなってる感じ。
爆豪から緑谷への印象というか、考え方は原作と同じ。今はまだ。

次回予告:
「次の話の出だし部分は百合の瞬間風速が強めだぞ。……ところで、なぜ急に花の話題が……?」
「フッ、おこちゃまにはまだ早ぇ話さ……」
「峰田くん、守備範囲なんですね……」
「あたぼうよ!(いい笑顔でサムズアップ」
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