銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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9.運命の闘い~橙と赤~

 次の瞬間、目の前にカサネがいた。

 攻撃は既に半ば終わっている。白銀の刀身が陽光に照らされて、禍々しく輝いていた。

 

 それをライトセーバーで受け止めれば、バシリと振動音が響く。セーバー同士がぶつかり合ったときによく似た、甲高い衝突音だった。

 

 走る足をとめて、続く攻撃に対応する。右、上、左。瞬間移動を挟んで真上、真下……。

 

 矢継ぎ早に放たれる攻撃を、焦ることなくソレスでいなしていく。断続的に衝突音が響き続ける。橙色の光と白銀の刃が、更地と化した廃墟に幾度となく閃きあう。

 

 だがカサネの攻撃は、先ほどよりも明確に威力が下がっているというのに、対処が難しくなっていた。

 巧くなっている。剣筋から、何より立ち回り方から、猪突猛進とも言うべき勢いが消えている。無理に押し込もうとはせず、冷静かつ柔軟に次の手に切り替えていく戦い方だ。

 

 それでいて、攻めるときは躊躇なく踏み込んでくる。マカシにも似たこの動きはいまだ粗削りの我流とはいえ、間違いなく明確な術理に裏打ちされた技。剣と戦うための剣術そのものだ。

 

 なるほど、憤怒の出力を落とすことで冷静な戦術眼と思考力を取り戻したか。これが今のカサネ本来の実力なのだろう。本当に強くなったな、この子は。

 

 何せ先ほどまでのようにカウンターを挟み込めるような隙は、ほとんどない。一切ないわけではないところが、いまだカサネが発展途上であると示しているものの……超再生のある彼女にとって、この程度の隙は隙と呼べるほどではないだろう。

 その隙を突いたとしても、ろくなダメージを与えられない以上反撃されるだけだ。むしろ逆効果になってしまう。

 

「むぅ……!」

 

 正面から叩きつけられた重い剣を受け止める。直後、カサネの姿が消えて背後に回り、すぐさま攻撃が放たれる。

 

 向きはそのままに、セーバーだけを後ろに回してこれを受け止めつつ、しかし無理に堪えないで押し出されることにする。

 備えていた身体は、跳躍したかのように前へ大きく動く。これを空気の増幅で行う立体機動で補いつつ、身体をねじって仰向けの形へ。

 

 振り下ろされてきた剣を、そこからさらに立体機動で低空飛行をするように回避しながらも、横回転を加えてカサネの足元を薙いだ。

 

 当然のように回避されるが、勢いそのままにくるくると回転を続けることで、接近を牽制しつつ態勢を整える。

 牽制は回転斬りをするセーバーだけではない。回転しながらセーバーの切っ先で地面を触れることで、土砂をまくり上げて砂塵を巻き上げさせている。

 

 カサネの瞬間移動のためには、視界が必要だ。見えていないところには移動できない。

 もちろんそれは彼女も理解しているので、すぐに砂塵を晴らそうとフォースプッシュがかけられた。

 

 しかし私が放ったフォースプッシュのほうが強い。砂塵はカサネのほうへと吹き飛んでいく。

 

「チッ!」

 

 舌打ちの音が聞こえてくる。苛立った様子ではあるが、しかしプッシュの押し合いの不利を悟って即座にプッシュをやめた辺り、やはり冷静だ。

 

 空中にカサネが出現する。真上に瞬間移動したのだ。

 確かにそこからなら、私の場所も丸見えだろう。一瞬、空中の彼女と目が合った。

 

 ()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

 すると瞬間移動してきたカサネの攻撃は、すれすれで私に当たらなかった。

 

 カサネの瞬間移動は、運動を伴う直線移動ではない。距離や障害物を無視して、目的地に即座に到達する。

 であればこそ、タイミングを合わせて前に出ることができれば、移動後の互いの位置関係をずらすことができる。カサネが移動した先に既に私はなく、彼女の攻撃は不発に終わった。

 

 その隙を突く形で、振り返りながら攻撃を放つ。私が直前までいた場所に攻撃をしかけていたカサネの背中めがけて。

 

「っく、っそ!」

 

 コンマ遅れてカサネの身体が離れた場所に出現する。

 だがそれも見えていた。だから私は、薙ぎ払いながらセーバーの長さを増幅していた。

 

 慌てて瞬間移動したカサネの移動先は、単純に距離を取っただけだった。距離があるだけで、私の前方であることには変わりない。

 

 だからこそ、伸ばしたセーバーはそのままカサネを捉えた。

 

「ぅわッ!?」

 

 かろうじて防御が間に合ったカサネだったが、あくまでかろうじてだ。不安定な防御はセーバーの勢いを受け止めきれず、大きくバランスを崩した。

 

 この隙を逃さず、私は長さを再増幅した突きを放つ。カサネが小柄なぶん狙った地点を正確に貫くことは難しく、利き手を狙ったつもりが二の腕周辺を貫く形になってしまったが、ともかく彼女の身体に穴が開いた。

 

「舐めるな!」

「舐めてなどいない」

 

 しかしこの位置関係であれば、向こうからもこちらが見えている。当然瞬間移動で攻撃にそのまま転じることができる。だからカサネは一撃を喰らってもひるむことなく、私に追撃させる間もなく反撃に転してきた。

 

 だがそれも想定内だ。というより、これくらいはやるに決まっているというある種の信頼があった。

 

 目の前まで転移してきたカサネに言い返しつつ、互いの間の空気を増幅。軽い爆発音を響かせながら、膨張した空気に押し出されて私は後退。カサネの攻撃を空振りに終わらせた。

 

 かなり近い位置だったので、カサネの体勢が再び崩れる。その身体を、フォースを使って地面に叩きつけた。

 

「ぐぇッ!?」

 

 本来はジェダイのやることではない。だが今の私はどちらも使う。光の力も闇の力も、分け隔てなく。それが今の私の在り方だから。

 

 うつ伏せになったカサネを、フォースプルで引き寄せていく。

 

「こ……んのッ!」

 

 だがずりずりと引き寄せられてくるさなかに、カサネはフォースライトニングを放ってきた。

 

 これにはさすがに攻撃だけにかまけてはいられない。フォースプルをフォースバリアに切り替え、押し寄せてくる電撃を手のひらで押しとどめる。ライトニングの威力によって手が、身体が少しずつ押しのけられていく。

 

 そうこうしているうちにカサネが態勢を立て直した。まだライトニングの処理が終わっていない私に、ここぞとばかりに切りかかって来る。

 

「甘いぞ!」

 

 そこに、今まで受け止めていたライトニングを跳ね返す。私自身のフォースを混ぜることで、ライトニングはそのまま威力を上げてカサネに襲い掛かった。

 

「ああああッ!?」

 

 フォースライトニングはただの電撃にあらず。攻撃の意図が込められた破壊の一撃であり、それによって生じる痛みはただの電撃の比ではない。

 カサネもまた、その痛みに驚いて悲鳴を上げた。痛みを逃すように、その身を悶えさせる。

 

「負……ける、もんかぁ!!」

 

 それでも彼女は怯むことなく、踏み込んできた。痛みも麻痺も、超再生任せということではない。これは明確に、己の限界を超えた踏み込みだ。

 

 ああ、そうだな。プルスウルトラ。さらに向こうへ。それは何も、ヒーローたちの特権ではない。人が人である以上、それは等しく誰にでも与えられた権利だ。もちろん、ヴィランであっても。

 

「それは……こちらのセリフだ……!」

 

 だがだからと言って、素直に踏み越えられるつもりなどない。

 私はフォースライトニングを返し終えると同時に、全力のフォースプッシュを放った。眼前に迫りくる剣を、それで受け止める。白銀の切っ先が、私の手のひらの手前で斥力に遮られてピタリと止まった。

 

 さらにその直前から、私の身体は動いていた。剣の動きが斥力に阻害されて動きが鈍り始めたタイミングで前に踏み出していた。

 そうして、カサネの剣が止まったその瞬間に、橙色の剣閃がカサネの身体を逆袈裟に切り裂いた。

 

「ぐぅ……!」

 

 とっさにのけぞって直撃をかわしたカサネが、うめき声を上げながら消える。

 即座に私が後方へ振り返れば、数歩の先に立つ彼女の姿があった。

 

 しかしカサネに傷を気にする様子はない。常人であれば今しがたできた傷に手を当てるなどしているだろうに、彼女はそうなるだろう手を剣の腹に当てていた。

 

「まだだ……! まだ……ボクは……! 負けてないッ!!」

 

 その手が勢いよく振り抜かれる。まるで刀身をなでるかのような動き。

 しかしそれに合わせて、カサネの身体を覆っていた赤い光が剣に移っていく。白銀だった剣が、赤い輝きに包まれていく。

 

 私は思わず瞠目した。カサネの身体から赤い光が消え、代わりにその赤い光を宿した剣の姿は……シスのライトセーバーを想起させるものだったから。

 

「てぇぇやああぁぁッ!!」

「ぐっ!?」

 

 驚く間もなく、瞬間移動に伴う攻撃が再び放たれた。

 

 だが、その威力は先ほどの比ではなかった。憤怒は100%でないはずなのに、その威力は100%だった頃の一撃よりも重く、強く、激しかった。万全の態勢で受け止めたにもかかわらず、私の身体はこれを抑えきれず吹き飛んでしまう。

 

 なるほど。あらゆる身体能力を強化するのが彼女の”個性”だ。

 その力が100%発揮されていない状態で生じる稲妻のような赤い光は、身体に回しきれなかった余剰分のエネルギーが体外に放出されているから。

 

 ではその無駄になってしまっている余剰エネルギーを、持っている武器に付与できたらどうなるのか。これがその結果ということなのだろう。

 

 つまりこれは、私が自身の攻撃力というひどく曖昧な概念すら増幅して、非力な矮躯の欠点を補っているのと同じことだ。カサネは手にした武器を自身の肉体の延長であると認識を改めることによって、それを実現したに違いない。

 

 だが問題はそこではない。今一番の問題は、一瞬とはいえフォースによる競り合いで上回られたことだ。この威力の高さを、私は読み切れなかった。

 油断はしていない。であれば、差が縮まっているのだろう。カサネがこの戦いの中で成長し続けているということだ。

 

 ……いけない。少し、楽しくなってきた。己の口角が上がる気配がわかる。

 

「おりゃあ!!」

「……!」

 

 それでも私の憂慮などおかまいなしに、追撃が来る。地面に穴を空ける勢いで踏みしめて、カサネが私に突っ込んでくる。態勢を崩している今、この攻撃を防ぐ余地は普通存在しない。

 

 しかし今の私には”個性”がある。ゆえに立体機動を用いて攻撃の機動から離れ、すれすれのところを通り過ぎていく赤い光刃を回避。

 同時に身体に回転を加え、振り下ろされた刃を横から振り抜ける。力に加えて運動エネルギーを与えられた攻撃が、剣を大きく弾いてカサネの身体もわずかに泳いだ。

 

 だがその状態にありながら、カサネの剣を持っていない側の手は私に向いていた。手のひらがまっすぐ、私に向けられている。

 まずいと思ったときにはもう、私の身体はフォースプッシュによって大きく吹き飛ばされていた。仕方なくこの勢いに無理に逆らわずに吹き飛ばされることにして、着地に備えることにする……が。

 

 ()()()。直感でそうわかった。次に来る攻撃を完璧に対処できる逃げ道が存在しない。

 

 私がそう判断した直後。フォースプッシュと同時に、カサネは動いていた。本来であれば攻撃の範囲外であるはずの場所で、思い切り剣を横に振り抜いた。

 

「飛んでけ!」

 

 すると、剣から赤い光の剣閃が放たれた。斬撃が、光を帯びて()()()()()

 

「く……!」

 

 分厚く長大な赤い斬撃が、地面と平行で飛んでくる。横に回避する余地がない。

 避けるならば下か上の二択だが、下となると這いつくばるくらいに姿勢を下げないと回避できない。であれば、実質答えは一択だ。上しかない。

 

 しかし上に逃げたところで……ほら。そこには既にカサネが瞬間移動で飛んできている。

 

「おりゃあ!!」

 

 赤い刀身が叩きつけられる。ここからでは防御も回避も間に合わない。

 

 だからここは、切り札を切るべき場面。超再生のない私が、これを喰らうわけにはいかない。

 

「全能力増幅!」

 

 瞬間あらゆる力が向上して、一瞬の全能感が身体を駆け巡る。

 その全能感に身を任せ、空気を膨らませた勢いで空を飛んだ。増幅による一時強化のおかげで、先ほどまでなら不可能だった速度で動ける。おかげですんでのところで攻撃を回避できた。

 

 だが、カサネはこれ以上距離を取らせるつもりはないらしい。空中から、再びあの飛ぶ斬撃が次々と放たれる。

 私の移動経路を塞ぐ軌道で続けられるそれを、先ほどまでとは次元の違う精度、速度で回避しながらしっかりと距離を取る。

 

 途中、ふと思い立ってセーバーの長さを増幅しつつ、飛んでくる斬撃を打ち払ってみた。セーバー同士がぶつかったような音が響き、軌道が変わる。

 

 どうやらライトセーバーであれば、防ぐことは一応可能らしい。

 ただし、現実的ではない。下手に受け止めた直後、瞬間移動で死角に入られればどうしようもないからだ。

 

 これは逸らすまでが精々と言ったところだな。最善はそもそも放たせないことだが……そう簡単にはいかないだろう。

 なにせ剣を覆うあの赤い光は、カサネにとっては余ったエネルギーでしかない。コストパフォーマンスは、かなりいいと見ていいだろう。

 

 実際、今の短い攻防で放たれた飛ぶ斬撃の数は、二桁に近い。気軽に放てる遠距離攻撃ということだ。やりづらいことこの上ないな。

 

「ふふ……やった。やっと本気にさせれた。やっとオマエと同じところに来れた!」

 

 地面に降り立ち、油断なくセーバーを構え直す私に、カサネから声が飛んできた。

 爛々と輝く、赤い縁取りに囲まれた金色の瞳。白い歯を剥き出しにして笑う彼女の様に、私は確かにシスの暗黒卿の姿を垣間見た。

 

「……そうだな。まったく、この短期間で随分と成長したものだ。想像以上だよ」

 

 それでも、見える。

 大きく、深く、濃い闇の中。闇に包まれた彼女の心の奥底……彼女の根幹ともいえる場所に、きらきらと瞬く小さな光が見える。

 

 であるならば。

 

 かつてルークがそうであったように。レイがそうであったように。

 私もまた、シガラキ・カサネという闇を恐れない。恐れる理由など、どこにもないのだ。

 

 だからここからは、戦いではない。

 剣と剣を交えるものであっても……ここからは、対話の時間だ。

 




やはりですね、本編中でライトセーバー同士の戦いはやっておかねばならんだろうと常々思っていたので、それが今回ようやくやれました(などと供述しており

いやセーバーではないんですが。飛ぶ斬撃とかもやってますし。
でも襲の個性である憤怒をOFAに似たものにした理由の何割かは、剣を赤く光らせてセーバーデュエルの図にするためなのは本当です。
ルークとヴェイダーもしくはレイとレンっぽい構図も意図的です。ここだけほぼスターウォーズの絵面。

まあオリキャラ同士の戦いという構図にはボク自身思うところありますし、読者の中にはこういうタイプのシーンが苦手という方がいらっしゃることもわかってはいるんですけど、こればっかりは何卒ご容赦いただきたく。
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