銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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12.ターニングポイント

 いくつかの地点で戦いが繰り広げられている、蛇腔総合病院の跡地一帯。

 その中の一か所、すべての戦闘からほどよく離れた空白地帯にて、死柄木兄妹に置いてけぼりを喰らった殻木球大は、声を枯らして弔に声援を送り続けていた。

 

 彼の専門分野は”個性”であり、恐らくこの分野に関する見識と技術はノーベル個性学賞を受賞したシールド博士をも上回る。

 だが、それ以外に関してはからっきし。彼が持つ「摂生」の”個性”――運動能力と引き換えに高い生命力を得る――の影響もあって動くことは特に苦手だ。

 

 だからこそだろう。彼の周囲には、ニアハイエンド脳無が三体控えている。

 

 この三体の脳無は、ミルコ率いるヒーローたちとの戦いが始まるより早く一目散にここまで来た。

 ハイエンド以外の脳無は、自主的に考えて行動できない。だからこれらは、殻木のために弔が派遣してくれたものだ。そんな弔の不器用な優しさがまるで敬愛する魔王のようで、殻木にはたまらなく嬉しかった。

 

 だがそれも長くは続かなかった。戦いは、すべての地点でヒーロー側優位に進んでいるからだ。

 ニアハイエンド脳無の群れは大規模崩壊を無事に逃げきったヒーローたちに駆逐されつつあるし、襲もまた理波相手に押し切れないでいる。

 

 そして魔王の後継である弔ですら、エンデヴァーをはじめとしたトップヒーローたちによって少しずつ追い込まれ始めていた。いくら弔の肉体強化改造が半ばだったとはいえ、これは殻木にとっては誤算だった。

 

「くそう……くそう……! やっぱりあのとき手に入れるべきは、クラウドじゃなく抹消じゃった! 惜しかったなァあのときは……!」

 

 抹消ヒーロー、イレイザーヘッド。”個性”「抹消」。その目で見たものの”個性”を、次に瞬きするまでの間限定とはいえ一切発動させないという”個性”の持ち主。

 それは、師匠から”個性”としてのオールフォーワンを受け継いだ弔にとっても、天敵と言うほかなかった。

 

 今の弔に使えるものは、ハイエンド脳無同様の超パワーだけ。それだけでエンデヴァーをはじめとしたトップヒーローたちを相手取るのは、さすがに不足と言うしかなかった。

 

 だが逆に言えば、今のヒーロー優位はイレイザーヘッド一人によって支えられていると言っても過言ではない。そこさえなんとかできれば……一瞬でもいい、抹消が途切れてしまえば。

 

 殻木自身にそんな力はない。だが、傍に控えるニアハイエンドなら、なんとかできる。彼は己の発明なら、技術の結晶ならできると自負していた。

 しかしそれをしてしまえば、殻木の守りはゼロになる。守りに一体くらい……などと一瞬浮かんだが、すぐに却下した。

 イレイザーヘッドの周辺は、それなりの人数のヒーローが固めている。三体全部を投入したとしても、絶対に抹殺できると断言できかねる状況だ。それにできたとしても、時間がかかるようでは意味がない。

 

 弔のために万全を期すなら、ニアハイエンドたちはすべて出すべきだ。しかしその状態で一人でもヒーローが来てしまえば、戦闘力のない殻木はすぐに捕まってしまうだろう。それは嫌だ。

 

 嫌だ……が、しかし。それでも、と殻木は覚悟する。

 彼の脳裏にはオールフォーワンと過ごした日々が、さながら走馬灯のように次々と浮かんでは消えていた。

 

 だからこそ、彼は決意した。視界の端、彼に向かって駆けてくるヒーローたち――よりにもよって先頭はミルコだ――を見て、覚悟を決めたのだ。

 

 自身の提唱した個性特異点を、この世でただ一人認めてくれた魔王。己を友と呼び、なにくれと気にかけ手助けしてくれた魔王に、本懐を遂げてもらう。そのためならば。

 

「ワシらの夢が、魔王の夢が終わってしまう……! それだけは許してなるものか!」

 

 ――そのためならば、ワシの命なんぞ捨てても惜しくはない!

 

 プルスウルトラ。さらに向こうへ。理波が言った通り、それはヒーローだけの特権ではない。

 殻木もまた、極限の状況下で壁を一つ乗り越えてしまった。

 

「行けニアハイエンドたち! イレイザーヘッドを抹殺するんじゃあ!」

 

 かくして指示が下される。

 直後、三体のニアハイエンドたちは近づいてくるヒーローたちを無視し、一斉にこの場から飛び出していった。まっすぐ、イレイザーヘッドのいる場所に向かって。

 

 戦局が、また揺れる。

 

***

 

 橙色と赤色が交錯する。何度も何度もぶつかり合い、ときに離れ、くるくると踊るように閃きながらも、二色の光はすぐにまたぶつかる。甲高い音が荒野に響き渡る。

 

 私が負った傷はなく、カサネが負った傷は無数。しかし彼女に既に傷はなく、完全な泥仕合になっていた。

 

 殺すのであれば、こうはならなかっただろう。首を刎ねておしまいだ。

 それができる機会は何度かあったし、それくらいの力量差がまだ彼我の間にはある。

 

 しかしそれは、様々な理由で選択したくなかった。

 

「カサネ、君はなぜ私と戦う」

「うるさい! オマエもアイツも、どいつもこいつもみんな! オマエらヒーローはみんなボクの敵だ!!」

「それが君の信条なのであれば、私に否定はできないな。だが、君の、なんだな?」

「チッ、何が言いたいッ!」

「ヴィラン連合の敵、とは言わなかったな? つまり君の中では、君の目的とヴィラン連合の目的が一致していない。違うか?」

「……ッ! だ……ま、れぇっっ!!」

 

 剣を覆っていた赤い光が減退していく。と同時に、カサネの膂力が上がっていく。私の言葉に集中を乱されて、憤怒が100%に近づいている。

 

 だが彼女の場合、それは必ずしも強化には繋がらない。怒りによって冷静な思考ができなくなり、戦いに支障をきたすから。

 

「また動きが単調になってきているぞ……そこだ!」

「ぐ……っ! くうううぅぅ……っそォ!!」

 

 重く速い()()の一撃を横にいなし、返す刀でカサネの腹を薙ぐ。

 瞬間移動で回避はされたが、完全にとはいかずカサネの腹に傷が走った。もっとも、既に再生が始まっているが。

 

 しかしそんなことはおかまいなしに、カサネが攻撃を再開する。多少の傷などすぐに治るからこそ、それを無視して前に出てくる。なんという破滅的な戦い方だろう。

 

 私はそんな彼女から片時も目を離さず、セーバーで次の攻撃を受け止めた。

 

「私にはわかるぞ、カサネ。迷っているのだろう?」

 

 眼前に迫った銀色。うっすらと赤く光るその向こう、赤い縁取りの金色の瞳を正面から見据える。

 

「……っ、オマエにっ! オマエなんかに!! ボクの何がわかるって言うんだ!!」

「わからないさ。わかるはずもない。私は君という人間のことを、ほとんど知らない。それでも、フォースが教えてくれる。君という人間の心の奥底にあるものを。フォースはすべてのものにあり、すべてを結びつけるものだからな!」

 

 会話の合間に叩き込まれる攻撃をかいくぐり、アタロの勢いと回転を加えた立体機動を重ねた一撃を振るう。

 高まった威力を御し切れず、カサネの身体が弾かれた。剣に宿っていた赤い光が消えた一瞬の合間を縫って放った一撃が、彼女の態勢を崩した。

 

 そのままたたらを踏んで後退する……よりも早く、彼女の身体が掻き消える。瞬間移動で私の背後に回り、それと同時に態勢も修正されている。

 

 けれども、次に何がどう来るかはわかる。フォースがそれを教えてくれる。

 

「君は、トムラのようにすべてを破壊しようとは思っていない」

「……黙れ……!」

 

 後ろに回したセーバーが、剣を受け止める。速やかに重心位置を変え、正面から相対する位置へ移行する。

 

「何より君は、エリを悲しませたくないと考えている!」

「黙れええぇぇぇぇっっ!!」

 

 正面切って放った言葉への返答は、まるで驟雨のような激しい連続攻撃だった。

 

 だが、もうこれ以上のミスはすまい。私は全能力増幅中であることを幸いに、その一つ一つを同じ速さと力で、しかしより冷静かつ慎重に受け流し、回避し、あるいは受け止めながら、言葉を続ける。

 

「君たちが勝てば、今の社会は崩壊する。しかしそうなったとき、エリが喜ぶと君は思っていない! そうなったあとの社会で、エリが笑顔を絶やさず生きていけるとも思っていない! ああ、私もその意見に賛成だ、全面的にな!」

 

 一際大きな音を響かせて、カサネの手から剣が離れていく。私の言葉に心を揺らされたことで、防御がおろそかになったのだ。

 

 そしてこの勢いを殺すことなく、私は続けてセーバーを振るう。橙色の切っ先が、カサネの喉元に突き付けられた。カサネの後方に剣が落ち、地面に突き刺さる。

 

「……ッ!!」

「……ここまでにしないか、シガラキ・カサネ。君にはもうわかっているはずだ。トムラたちがやろうとしていることは、かつて君が……君たちが受けた仕打ちと同じことだと。エリや君のような、手前勝手な理不尽に泣く子供を作るつもりか? それを原点とする、他ならない君が」

「……!? な、んで、それを……オマエが知ってるんだ……!?」

「言っただろう? フォースが教えてくれる。我らは常に、フォースと共にある」

「フォース……ボクの……超能力……?」

 

 思わず、と言った様子でつぶやいたカサネ。その身体から、少しだけ力が抜けたのが見て取れた。

 

 どうやら、なんとかなったようだ。依然として予断は許さないが、少なくともこれで多少の会話はできるはず。

 

 その思った、瞬間のことだった。

 

《こんなところで終わってたまるか……! ――そうさ、これは始まりなのさ。さあ、身体を貸してごらん》

「「……!?」」

 

 私とカサネは、同時に同じ方角へ顔を向けた。

 それも、弾かれるようにだ。一瞬のことではあったが、私たちが受け取った感覚は思わずそうしてしまうくらい、おぞましいものだった。

 

「……弔?」

「いや違う、()()()()()()()()()()

 

 ああそうだ、この気配は断じて彼ではない。

 

 いや……正確には彼()()()()、になるのだろう。今はまだ。

 では彼を彼ならざるものへ変えようとしているものは何だ? 今、彼の気配の上に覆いかぶさり始めたこの気配は誰だ?

 

 決まっている。この特徴的な闇色の気配の持ち主は、この国には一人しかいない。

 

「君もわかるはずだ。むしろ君のほうがはっきりとわかったのではないか? 私は()とは一度しか会ったことがないからな」

「……っ、ウソだ……」

 

 だがカサネは、信じられないと言いたげに喉を震わせている。

 

「ウソだ、そんなことあり得ない! ()()がそんなことするなんて、絶対あり得ない!!」

「フォースは嘘をつかない。受け取った我々が読み違えることはあるが……しかしこれは、まぎれもない現実だ」

「ウソだ……ウソだ……! こんなの、こんなの……!」

「カサネ、目を背けるな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「……うああああぁぁぁぁッッ!!」

 

 私が遮るようにかぶせた言葉を受けて、カサネが猛然と動き出した。

 後ろに手を向けフォースプルを使い、剣を引き寄せる。そのまま白銀の斬撃が、私を襲ってくる。

 

 私はこれを本当にギリギリまで引きつけつつ、回避しながらカサネの身体に手を伸ばした。

 

 そして私が彼女の肩につかみかかった、その瞬間。

 

 私の身体は、カサネと共にこの場から掻き消えた。

 




さあ、終盤でございます。
色々な意味で。
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