殻木球大の取った行動は、まさにこの場における転換点であった。
彼がけしかけた三体のニアハイエンド脳無により、イレイザーヘッドは死柄木弔に対する抹消を続けられなくなった。彼の護衛についていたヒーローたちが対処に当たったが、完全には守り切れなかったのだ。
結果、弔はその枷から外れ。彼をあと一歩まで追い詰めていたエンデヴァーたちを一蹴するに至った。
それだけにとどまらず、弔はイレイザーヘッドをこの世から退場させんとまっすぐに動き出した。弔にとってはエンデヴァーたちよりも何よりも、”個性”を封じるイレイザーヘッドが今一番優先順位が高い敵なのだ。
それはこの場に駆け付けたショートが作り出した氷の壁によってかろうじて阻まれたが、攻撃は完全には逸らせなかった。
イレイザーヘッドはこれによって顔を負傷し、昏倒。戦線から離脱せざるを得なくなってしまう。いよいよもって弔を縛るものはなくなってしまった。
不幸中の幸いは、味方を省みない弔の攻撃により、イレイザーヘッドを襲っていたニアハイエンドたちがみんな吹き飛んで戦闘不能になったくらいか。それでもイレイザーヘッド以外にも負傷者は出ており、残されたヒーローたちは彼らの対処に当たらざるを得なかった。
「さてと……死ね」
ゆらりと立ち上がり、彼はその手を地面に向けた。彼本来の”個性”である「崩壊」によって、ここにいる全員を文字通り崩壊させようという魂胆だ。
だが……。
「あ?」
次の瞬間、彼の身体が裂けた。血が激しく吹き上がる。
「……さっきまで……のは……まだわかる……肉体の限界を超えて動いた負荷……」
”個性”を封じられていたため、エンデヴァーたちの攻撃を何度も何度も受けた身体はつい先ほどまで重傷患者のそれだった。
今は脳無同様の超再生が動いているため、怪我はすっかり癒えているが……にもかかわらず弔の身体はダメージを負った。それも誰から危害を加えられたわけでもないのに。
そう、彼の”個性”は今動いている。なのに突然起こった負傷。その原因は、
「……今、何月何日だ?」
オールフォーワンという”個性”が、まだ弔の身体に馴染んでいないからだ。予定よりも早い覚醒は、それだけ弔の身体に負担を強いていたのだ。
大きすぎる力に、身体が間に合っていない。経験していたからこそ、そのことに真っ先に気づいたのはデクだった。
だからこそ、彼は一人だけ事態を冷静に受け止めることができた。次に備えることができた。
「まあいい……触れりゃ終わりだ」
そう言って、壊れかけの身体を無視して地面に手を向けようとした弔の身体を、空へと持ち上げることができた。
歴代のワンフォーオール継承者の”個性”が目覚め、複数の力を操るようになったデクは、最初に目覚めた黒鞭を使って弔を拘束。
と同時に、最近になって完全に操れるようになった浮遊を用いて浮き上がることで、弔を空へと持ち上げたのだ。地面に触れての崩壊を発動させないために。
「ここでお前をとめる! 僕のできるすべてをかけて!」
「空が好きならOFA奪ったあと天国にでも送ってやるぜ! 下のジジイどもも同伴でな!」
伝説の継承者同士、そう啖呵を切り合ったデクと弔は、そのまま空中で真正面から戦い始めた。
それを見て焦燥に駆られたのは、ここまで同行し戦力としても活躍してきたキングダイナだ。彼は弔の言葉を聞いて、弔の目的を悟ったのだ。
弔が何を思ってデクを狙ったのか、その意味を。
今、弔の身体にある”個性”が何なのかを。
「待てデク!
だから声を張り上げたが、返事は否であった。
「じゃあ他に誰が死柄木を空に留めておける!?」
それを言われてしまえば、反論は難しい。実際今ここにいる戦力で、オールマイト並みの速度とパワーで空中機動戦をできる人間は、デクしかいないのだ。
何せエンデヴァーは力を使いすぎた影響で、身体に熱がこもりすぎてしばらく動けない。ショートが必死に冷やしてくれているが、焼け石に水。
グラントリノは脚をやられ、”個性”を半ば封じられてしまっている。リューキュウはその巨体がゆえに機動力で劣り、アヴタスこと理波は襲の相手で手が離せない。他のメンツは、そもそも空を飛べない。
だがデクのこの決断は、キングダイナにとっては苦々しいものであった。なぜならそれは、昔からキングダイナが毛嫌いしていた、デクの後先考えない自己犠牲精神の発露に他ならないのだから。
(相変わらずあンのクソナード……! マジで自分を一切勘定に入れてやがらねェなクソッタレ!!)
ならばとフォースを用いて援護しようとするが……。
「クソが!!」
あまりの速度で動き回る二人に、フォースの行使が間に合わなかった。
普段、あまりにも自然かつあっさりとフォースを用いる二人の先駆者が、その実非常に神がかった精度と早さを両立させた超技術を用いていることを実感するしかない。
キングダイナの名誉のために言うならば、彼は既に実戦で十分通用するだけのフォースを身に着けている。学び始めて半年程度の人間だと言っても、かつてのジェダイオーダーの多くは信じないだろうというくらいには腕を上げている。
だが今は、ひたすらに相手が悪かったとしか言いようがない。
しかしだからと言って、ここで黙って引き下がれるほどキングダイナは大人しくはなかったし、殊勝でもなかった。
勝つ。それこそが彼が抱いたオリジンなのだから。
「轟! エンデヴァー! 俺につかまれ!」
「何をする気だ?」
「上昇する熱は俺が肩代わりする! 轟はギリギリまでエンデヴァーを冷やし続けろ!」
「俺の最高火力をもって、一撃で仕留めろということか……任せろ」
作戦と言うには急ごしらえな代物。しかしこの状況において、これ以上の策はないだろう。
それが理解できるからこそ、ショートもエンデヴァーも即座に是と応じた。
そうこうしているうちにも、デクと弔の戦いは続く。空中という身動きがとりづらい場所、かつ黒鞭によって身体のどこかが常に拘束されている弔に、デクの攻撃が次々に撃ち込まれていく。
最初は蹴りが。続けてすれ違いざまに拳を三発。その後も、その後も。
強すぎる衝撃で、腕周りや足周りのコスチュームも少しずつ削げていく。露出している場所で内出血がないところは顔くらいしかないのではないかというくらい、どす黒く染まった身体が衆目にさらされる。
それでもデクは止まらない。ワンフォーオール100%の力に真っ向から耐える弔だが、しかしダメージは確実にあり。おまけに再生の速度も、少しずつ悪くなっていることが至近距離ゆえに見えるから。
今ここで弔を倒さなければ、被害はこの周辺だけに留まらないことを理解しているから。
だから彼は、それに釣り合うものとして、己のすべてをためらうことなく天秤の片皿に乗せる。
(僕がどうなろうとも!!)
その覚悟で、彼は拳を、脚を、振るい続けるのだ。
しかしこのまま行くと、敗北するのは確実にデクのほうだ。
彼は今、今日までに習得したすべての技術を同時に並行してこなしている。初撃で倒しきれなかった以上、これは消耗戦だ。互いのすべてを吐き出すまで続く、地獄の総力戦。
それがわかっているからこそ、キングダイナは動く。フォースを込めた爆破を用いて、以前までの彼ならこの人数を抱えては到底不可能だった速度で空へと上がる。
「黒鞭が伸び切ったところを狙う! 俺が出たら二人はすぐに離れろ! 巻き込まれるぞ!」
彼の肩に掴まったエンデヴァーが吼える。隣にいるショートから供給される冷気が即座に消えていく。それほどの高熱が、エネルギーが、今エンデヴァーの体内に蓄積されているのだ。
「緑谷……頑張れ……!」
友を案ずるショートの声が、キングダイナの耳朶を打つ。
彼の脳裏には、この日までに積み重ねてきたデクとの、そしてオールマイトとのやり取りがよぎっていた。
少し前、彼はオールマイトに問うたことがある。見せられた歴代のワンフォーオール継承者の記録のうち、一人だけ死因を伝えられなかった人物がいることについて。
それに絡んで、ワンフォーオールに負の要素が介在しているのではないか。具体的に言えば、寿命を削るのではないかとほのめかせた問いをしたことがあった。
オールマイトはこれに対する明言を避けたが、生来素直で嘘が苦手なオールマイトの内心は、初心者を脱却した程度とはいえ既にフォースユーザーとなったキングダイナには、それなりに読めていて。
それでも、彼は思うのだ。
彼自身も、デクも。今この社会に生きている多くの人々が、
だから。
(たとえワンフォーオールが呪われた力だったとしても……! それは今、間違いなく――!)
――救うために振るわれている。
だから。
途絶えさせるわけにはいかない。
何より、一人で行かせるわけにもいかない。
たとえ今のデクが、頑張れって感じのデクだとしても。
一人の肩に乗せるには、それはあまりにも大きすぎる……。
「今だ!」
デクの攻撃を受けて、弔が吹き飛んだ。しかし絡み取った黒鞭が伸び、一定以上には逃さない。
これを見て、エンデヴァーが飛んだ。同時に、キングダイナとショートが離れて落ちていく。
(ここだ!)
自由落下のさなか、キングダイナがフォースを放つ。過ぎれば人の息の根を止め得る技。フォースグリップというにはまだ拙い技でもって、弔の身体を固定する。
反撃しようとしていた身体がかすかに鈍るのに弔は訝り、直後エンデヴァーがその身体を羽交い絞めにした。
「エンデヴァー!?」
「離れろ!」
「てめェ……!」
「プルスウルトラ……! プロミネンスバーンッッ!!」
そして真昼の空に、星が生まれた。耳をつんざくほどの音と、すべてを焼き払わんばかりの高熱が放たれる。
急いで離れたものたちは巻き込まれることを免れたが、至近距離で身動きを封じられていた弔に、これを退けることも防ぐこともかなわなかった。
弔の身体が、みるみるうちに炭化していく。もはや再生がまったく追いつかなかった。
やがて、そのときは訪れる。
《身体を貸してごらん、弔……》
闇の底から這いずるような声が、弔の中から響いた。
フォースがそれを、伝えていく。宇宙に広がるフォースを通じて、あまねく人々に。
だがそれを聞くことができるものは限られていて。
けれど今は、その限られた人間がすべてここに集結している。
だからこそ、キングダイナの身体は動いた。他の誰よりも早く、また彼自身の思考よりも早く。
赤黒く鋭い爪が、エンデヴァーとデクを襲う。フォースがみなぎる。
「かっちゃん!?」
「このクソデクがよォ……! 一人で勝とうとしてんじゃねェ! 俺がいンだろうが! この!! 俺が!!」
「……! うん……!」
今度はフォースが間に合った。至近距離にいたエンデヴァーは直撃を受けたが、デクはかすめるだけで済んだ。
(救けて、くれた……あのかっちゃんが、この僕を)
この事実に、デクの硬直していた思考が緩む。
彼となら。
ずっとその背中を追いかけてきたかっちゃんとなら。
(――一緒に、戦える! 僕は……僕は、一人じゃ……ないっ!!)
その想いを示すかのように、空中で二人の幼馴染が並ぶ。共に同じヒーローに憧れ、共に同じ道を志したもの同士が。
そんな二人が対峙するのは――
「俺……の……っ、っ。……それは……襲のものと同じ力かな、爆豪くん? 僕の思う通りにならない力だ……やれやれ困ったな」
「……!? まさか……オールフォーワン……!?」
「出やがったなボスヤロー……!」
――弔の内より現れ出でた、ここにはいないはずの魔王。
本作におけるかっちゃんのライジング回はここなのか、それともデクくんにごめんと言えた回だったのか。
まあ原作と同じく、デクくんを直接的に助けようとすることが一番ライジングっぽい行動かなとは思いますけども。
ただ、かっちゃんは序盤こそだいぶアレですけど、やっぱりなんだかんだでヒーロー、救うものだと思うんですよね。
そうじゃなかったら人気投票で毎回一位取ってないよなー、とね。
まあかといって現実で彼とお近づきになりたいかと言うと、それはまた別の話ですけども・・・(遠い目