銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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14.運命の闘い~OFAとAFO 下~

 ふと気づけば、デクは見知らぬ場所に立っていた。

 

 いや、見知らぬという表現は正確ではない。十一月の末頃、真夜中に突然ワンフォーオールが暴発したときこの景色に似た場所を見た。そこでワンフォーオール初代の記憶と、歴代継承者の姿を見たのだ。

 ここはあそこによく似ている。

 

 その点に気づけば、連動して気づくことができた。あのときはわからなかったが、今はきちんと感じられるのだ。この場所に息づく八つの気配が。

 

 いずれも慣れ親しんだワンフォーオールに溶け込んではいるが、それでも確かにある。ワンフォーオールを継承して一年と少し経った今、その気配はデクにとってようやく身近になってきたものだ。

 

 だからこそ、確信できた。ここはワンフォーオールの中であり、デクの心と密接に繋がる精神世界であることが。

 

 だが、どうして、とも思う。なぜここに来た?

 

(僕は確か、蛇腔の病院跡地でかっちゃんと一緒に死柄木弔と戦っていて、でもオールフォーワンの巧みな”個性”の合わせ技に劣勢を強いられて……遂にはその手が頭に……)

 

 と、そこまで思い返してハッとする。

 そのまま周りを見渡そうとするが、身体がうまく動かない。どうやら身体のところどころが黒い靄に包まれていて実体がないようだ。

 

 これ自体は以前にワンフォーオールに呼ばれたときにもあったことだから構わないが、戦況がどうなっているのか。頼れる幼馴染はどうなったのか。死柄木弔は……。気になることばかりだ。

 

「……!」

 

 そんなデクの視界に、何かがぼんやりと浮かび上がった。覚束ない足取り特有の、引きずるような音も聞こえてくる。

 やがて見えてきたのは、先ほどまで戦っていた死柄木弔その人だった。

 

 だがよくよく目を凝らしてみると、様子がおかしい。確かにそれは弔だが、その身体に何かが覆いかぶさっているように見える。

 

 ……いや、違う。そうではない。

 

「出て……来るな……!」

「そうは言っても弔……僕が力を貸さなきゃ炭と化して死んでたし、生きてたとしても落下死だったぜ?」

「黙ってろって……! 言ったろ先生……!! これは俺の意志だ! 俺の夢だ……!」

 

 声を絞り出し、身をよじり、必死に抗う弔の身体から、()の上半身が生えていた。そう表現するしかない有様だった。

 

 そう……それはオールフォーワンによって乗っ取られようとしている弔だった。その様子があまりにも痛々しくて。

 

 ――救けなきゃ。

 

 オールフォーワンを振りほどこうとする弔の顔が、デクにはまるで、救けを求めているように見えた。

 先ほどまであれほど激しく敵対し、殴り合っていた相手なのにも関わらず、デクにはそう見えたのだ。

 

 余人が聞けば、狂ったかと思われても仕方がないだろう。けれども、デクとは。緑谷出久とは、そういう男なのだった。

 救けるという行為に、いっそ病的なまでにこだわる。彼は、そういう人間だった。

 

 だからデクは、前に出ようとして……しかし、いまだ一部しか実体を持たない身体をうまく動かせず、その場にうつぶせに倒れ込むことしかできなかった。これまた実体のない口を、歯噛みする。

 

 そんな彼の頭に、そっと。優しく、誰かの手が差し伸べられた。

 手袋に覆われてはいたが、それは戦うものの手だった。しかし同時に、慈しむ母の手でもあった。

 

「君はまだこの世界で動けない。私()()がなんとかする」

 

 かすかに動く手で地面に爪を立てながら、視線だけを横に向ければそこには……あの日この場所で見たうちの一人。

 ワンフォーオール七代目にして、オールマイトの師匠である志村菜奈がそこにいた。

 

 マントをたなびかせて、彼女が立つ。巨悪に立ち向かい、最期まで戦い続けたヒーローの目が、青年()の身体と心をむしばむ巨悪本人を鋭く見据える。

 

「死して再び会うとはな、オールフォーワン」

「見ろよ弔! すごいぜ死人だ! 君の祖母にして、無能で哀れな志村菜奈がそこにいる!」

 

 対するオールフォーワンは、無遠慮に指先を向けて嘲笑う。

 

「これは転移だよ。臓器移植を受けた人間の性格や嗜好が変化した、という話さ。半ばオカルトのように語られることもあるが、いくつもの事例が報告されている事実だ」

 

 そしてその表情、態度を崩すことなく、嬉々として語り始めた。この状況を把握し切れていないデクをおちょくるように、得意げに始められたそれは、まさに魔王の演説のようであった。

 

「僕は稀に不思議な夢を見ることがあってねぇ……。奪った”個性”の持ち主が罵倒してくる夢。そのたびに落胆したものさ……自分にも人並みに罪の意識があったのかって。

 しかし不思議なことに、その”個性”を手放すと持ち主は二度と夢に出てこないんだ。おかしいよな!? 僕は根に持つタイプだってのに! しかしドクターと出会って原因がわかったんだ。

 臓器……細胞に記憶が宿っていると言われるように、”個性”因子には意識……まさしく”個性”(その人)そのものが宿ることがあるらしい。どうやら僕は”個性”に直接干渉する力のおかげでその意識に触れられる特別な人間だったみたいでね」

 

 ここまで説明されて、ようやくデクも弔も、この状況を理解できた。

 

 つまりオールフォーワンは、あえて”個性”のオリジナルを弔に継承(移植)させることで弔の中に潜んだのだ。世間に追い込まれ、力を求めた弔がドクターを頼ることも。ドクターが保管していたオリジナルを付与することも見越して。

 

 そして今。”個性”に宿ったオールフォーワンの記憶が、意識が、弔を乗っ取りつつある。このままでは、世にオールフォーワンが二人いる、という事態になってしまう。

 

 しかし一方で、ワンフォーオールのことを名前と大まかな力しか知らない弔だけは、まだわからないことがあった。なぜこの場所に、自らの祖母がいるのかということだ。

 

 弔はかつて、無意識に子供の頃の記憶を封じていた。だが泥花での戦いを経て”個性”を取り戻したとき、同時にその記憶の封は解かれている。だから目の前にいる人間が、幼い時分に写真だけで憧れていたヒーローであることも、祖母であることもわかっている。

 だからこそ、余計わからなかった。過去の人間が、なぜここにいるのか。

 

「志村菜奈……おばあちゃん……なんであんたが……」

 

 この質問に答えたのは、やはりオールフォーワンだった。得意げに口を開くと、演説を再開したのだ。

 

「僕の血縁……弟も『”個性”を与える』力で、他人の”個性”に直接干渉可能だった。『与える』”個性”に『力をストックする』”個性”が混ざった結果、人の意識ごと次代へ運ぶ寝台特急になったんだね」

 

 これで弔も、完全に理解した。

 つまりワンフォーオールとは、複数の人間を渡り歩く”個性”。そしてその渡り歩いた中に、己の祖母がいたのだということを。

 

 けれど、だからと言って今の弔が祖母に対して何か特別な感情をいだくことはない。他の人間に対するそれと変わらない、同じ色が向けられるのみだ。

 その色の名は、憎悪と言う。

 

「……ワケはともかくだ。安心しろよ、おばあちゃん。あんたもしっかり憎んでる」

 

 吐き捨てるような言葉。それに対して志村菜奈が何か言おうとするよりも早く、世界が突然きしみ始めた。弔の足元から、地面に、空間に、ヒビが入り始めたのだ。

 そしてそれは、デクに向けてまっすぐに進行している。弔の憎悪が暴風となって、吹き荒れ始める。

 

 デクには誰から言われなくともわかった。ワンフォーオールが、この精神世界が、オールフォーワンによって侵食されていると。

 だが応じる形で両手をかざした志村菜奈によって、侵食は一定の範囲から進もうとしない。理屈はともかく、オールフォーワンによる簒奪に歴代のワンフォーオール継承者が抵抗してくれているのだ。

 

 しかしそれでもまだ足りない。少しずつ、わずかずつではあるが、侵食は進んでいる。

 

「いいぞ弔! 君の憎しみが伝わってくる! 『所有者の意思でしか動かせない』ワンフォーオールの原則を、君の怒りが今侵し始めた!」

 

 これを見て、魔王が笑う。嗤う。

 

 直後、そんな魔王の身体にもヒビが走った。だがそれすらも想定内だと言わんばかりに、魔王は小揺るぎもしない。

 

「おっと……そうだったね……! 僕も嫌われてた。上等だよ……! それでこそ恐怖の象徴……。だがまだ足りないようだ――」

 

 そんなオールフォーワンに立ち向かう人影が、また一つ現れる。

 揺れる世界に白髪をなびかせる、ラフな姿の青年。

 

「――弟は僕に似ていじっぱりだから」

「次はその子か兄さん」

 

 初代ワンフォーオール。

 オールフォーワンの弟が、明確に口を開いた。非難する語調。それでもやはり、オールフォーワンは揺らがない。

 

「お前が僕のものにならないのが悪い!」

「僕たちは()()()には行かない。僕たちはこの子の中にいることを選んだ」

 

 毅然と言い放つ初代が両手をかざせば、侵食が押し返されていく。二人分の強い抵抗が、弔の怒りや憎しみの乗ったオールフォーワンの力を上回っているのだ。

 

「ワンフォーオール……一体何なんだ……!」

 

 そのことに対して弔が歯噛みし、怒り、憎しみを強めれば、応じるように彼に寄生するオールフォーワンの姿がより確かなものになる。強い負の感情が、そのまま繋がっているオールフォーワンの糧にもなっているのだ。

 

 それを理解しているからこそ、オールフォーワンは雄弁だ。言葉でデクを、弔を煽り、己の都合のいいように場をかき乱していく。ずっと昔からやっていた、彼の生き方だ。

 

 また力を強めたオールフォーワンが、自由になった手をかざす。彼の力が、”個性”が、邪悪に光る。

 

「力だよ弔! 君の力に僕の力を合わせれば奪い取れる! 所詮僕に負けた死者数人だ!」

 

 直後、世界が激しく揺らぎ始めた。音を立ててきしみ、ひび割れ、風が逆巻き、縮小していく――。

 

 ――かに思われた。

 

「ならば、生者の力も加えればどうだ?」

 

 突如、この世界にワンフォーオールともオールフォーワンとも関係のない、第三者の声が割り込んだ。

 

 幼い少女の声。しかしそれに反した、知性と理性の色を豊かに湛えた声。

 

(まさか)

 

 デクがそう思うと同時に、その横――志村菜奈とはデクを挟んで反対側――に見覚えのあるブーツがカツリと音を立てて現れた。

 

 視線を上に向ける。思っていたより近い場所に、彼女の顔はあった。不格好な二つのシニヨンからいくつも跳ねる緑の黒髪が、風になびいていた。

 

「バカな……!?」

 

 これにはさすがに、オールフォーワンも驚愕の声を上げる。上げざるを得なかった。

 彼だけでなく、この場の全員が驚きの視線を向ける先で。

 

 彼女は決然と言い放った。

 

「遅くなってすまない。救けに来たぞ、デク」

 

 世界の揺らぎが、静まっていく。

 




She is here,
Jedi is coming.
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