「どうしてここに、と言いたげな顔だな。簡単なことだよ。デクが触られるその瞬間、私もまたそこに割って入っていたということだ。合図もなしに飛び込んだから、みんな私には気づかなかったのだろう」
地面以外、一面黒ばかりの世界。
だがその黒は、決して闇の色ではない。ただそこに色がないというだけだ。
光や闇を語るのであれば、むしろ逆。この場所は光の気配で満ちている。八人もの人間が半世紀以上の時間をかけ、今の今まで紡いできた「誰かを救け、誰かを守る」という意思に満ちた空間。
これがデクの、そして彼に宿るワンフォーオールという力の意識と記憶が蓄積された精神世界か。
かつてライトサイドであることが何よりのアイデンティティであった私にとって、ある意味では居心地がよくある意味では居心地が悪い。
そんな場所に今、私は到達していた。傍らには、身体のあちこちが靄と化していて身動きが取れないデクと、ワンフォーオールの……何代目かはわからないが、歴代継承者と思しき二人いる。
対峙するは、シガラキ・トムラ。だがその身体は、大半がオールフォーワンによって覆われている。
やはり乗っ取られかけているようだな。いや、溶け合い始めている、と言ったほうが正確だろうか?
いずれにせよ、私がやることは変わらない。
「デクは私の大切な友人だ。シガラキ・トムラ……そしてオールフォーワン。君たちの正義に、全力で抗わせてもらうぞ」
私がそう告げたように、私は既にこの世界でオールフォーワンに向けて抵抗している。この世界に踏み込んだその瞬間からここを、デクを蝕もうとする邪悪な意思を押しのけ続けている。
難しいことではない。なぜならここはワンフォーオールという精神の世界。心の中に存在する空間。
ここで重要なことは意思の力であり、
そう。これは遠い昔、遥か彼方の銀河系で、ヒミコがスノークとの戦いで行ったのと同じ現象だ。私自身にこれは初めての経験だが、ヒミコを通じてその経験は知識という形で私に蓄積されている。問題はない。
「……あり得ない……! 何をした小娘!?」
「そう問われて、私がわざわざ説明するとでも?」
完全な想定外に声を荒らげるオールフォーワンをあしらいつつ、私はさらにその場に片膝をつく。
そして倒れたままのデクに手で触れると、彼に向けて増幅を行使する。
すると、黒い靄に包まれ実体がなかった彼の身体が、一か所また一か所と実体を取り戻していく。
「増栄さん……これ……!」
「ご存知、私の『増幅』だ。君が引き出せるワンフォーオールの許容量を増幅した。つまり、今の君は一時的にワンフォーオールとの結びつきが強くなっている状態にある」
「そういうことか! 本当、いつもありがとう……!」
「どういたしまして。……さて」
「……うん!」
完全に身体を取り戻したデクが、両の拳を握って身構える。その身体に、ワンフォーオール特有の緑色の閃光がスパークした。私もその隣で構え直した。
「ふざけるなよ……相変わらずのクソチートが……!」
「厄介だな……”個性”だけでなく、その謎の超能力……だが襲はこんなことはできなかった……どういうことだ……?」
これを見て、トムラとオールフォーワン、両方が顔を歪めた。どちらからも、強烈な怒りと憎しみを隠すことなく吐き出している。
するとどうだろう。再び世界が揺れ始めたではないか。なるほど、感情……心の発露という意味ではあちらのほうが圧倒的に出力が上らしい。
つまりはダークサイドの力だ。己の感情を、一切抑制しないやり方である。しかし、決してシスのそれではない。
確かにシスも、負の感情を隠さない。だが、抑制を一切しないわけではない。そうした感情を支配下に収め、むしろ自由に操ることこそシスの教え。
ゆえにこそ、先ほどのカサネはまさにシスだった。あれを完全にものにしたとき、彼女は歴代の暗黒卿に勝るとも劣らない力を得るだろう。
「また……!」
「落ち着くんだ出久くん。今の君なら大丈夫だ。私たちを、ワンフォーオールを信じろ」
「彼女の言う通りだよ。君が動けるようになった今、有利なのは僕たちのほうだ」
揺れる世界に目を見張るデク。彼を諭す二人の継承者に、私も頷いて同意する。
なぜならここは、デクの世界。ワンフォーオールの世界。彼らにとってはホームであり、つまるところ地の利を得ているのだから。
それにだ。確かに強烈な感情は、一時的に力を強める。
だがそれはブレーキの壊れたスピーダーと同じ。留まることを知らず、際限なく膨らみ続けるそれは、やがて宿主すら食い尽くしてしまう。
実際よく目を凝らして見てみれば、トムラとオールフォーワンの力は大きくなっているが、二人の身体がその力に耐えかねて態勢がどんどん低くなっている。圧し潰されようとしているのだ。
デクもそこに気づいたらしい。気を引き締めてヒーローの顔に戻った彼は、改めて拳を握って気合いを入れ直した。
「わかるだろう弔! ワンフォーオールを奪うには僕たちの力をはっきりと合わせる必要がある! 師弟で初めての共同作業と行こうじゃないか!」
「うるせぇぞ先生……! 俺は……あんた以上になりたいんだ……! あんたと同じにはならないし……! 駒なんて絶対にごめんだ……!」
一方あちらはと言えば、足並みは揃わないらしい。反抗期……というには少々血生臭いかな。
しかしこの状況も、トムラにとってはある種の糧らしい。私たちだけではなく、オールフォーワンへの憎しみすら募らせることで、加速度的に力を増している。
ああ、もう……本当に……。
「だから……! 黙ってろよ!!」
本当に、悲しい男だ。それ以外を奪われ続けた人生だったのだろう。
もちろんだからと言って彼がしたこと、これからしようとしていることは私にとって決して相容れるものではないが……だとしても、彼という人間が歩かざるを得なかった過酷な道を、ないものとしては扱いたくない。
なあ、君もそう思うだろうデク?
何より、オールフォーワンのやり方はまったく認められない。彼のやり方を続けていれば、いずれ第二第三のトムラが現れてしまうだろう。
そこは
「聞き分けのないことを言うんじゃないよ、弔……! これはそう、窮地を乗り切るための……」
「
「ガ……は……ッ!?」
「な……!?」
「あっちにも生きてる人間が……?」
トムラの傍らに、いつの間にか小さな人影があった。
その手には、剣が握られている。鍵を象った柄が特徴的なそれが……真っ赤な光に包まれた刃が、オールフォーワンの身体をまっすぐに貫いていた。
そうだ。君だってわかっているだろう、カサネ?
「……ナイスだ襲!」
「死柄木襲……!? そうか、彼女も増栄さんと同じくフォースの使い手だから……!」
より正確に言うならば、私が彼女に便乗した形ではある。
それでも私が先にここに接続できたのは、単にフォースに対する知識や経験、技量の差だろう。
「ば、な、何を……!?」
オールフォーワンの身体を貫いた刃が、拷問さながらにぐりぐりと動く。肉を蹂躙する不快な音が響く。
その執拗な攻撃は止まらず、オールフォーワンの身体をトムラから明確に分離しようと赤が突き進んでいる。
「何を……? 何をって言ったか!? 先に裏切ったのはそっちだろ!?」
カサネが激しくまくしたてる。だがその剣の光を見る限り、完全に怒りに支配されているわけではないのだろう。
ただ、怒り自体は仕方がないことであり、むしろ彼女にしてみればある意味正当な怒りとも言える。
ルクセリアから聞いているカサネの生い立ちを考えれば、トムラの身体を改造し乗っ取るという理不尽な行いを許せるはずがないのだから。それは彼女にとって、最大にして絶対の地雷だ。
「ボクは信じてたんだ! オマエは、オマエだけは他の大人と違うって! でも結局オマエも一緒だった! ボクやお姉ちゃんやエリを苦しめた大人と! 一緒だったんだ!! 絶対……絶対に許さない……!! オマエは、オマエだけは絶対にボクが殺してやるッ!!」
「ハハ……だってよ先生? どうする?」
「やめろ襲……! 弔……!」
「見苦しいぜ先生! いい加減その手をどけてよ」
トムラがにたりと嘲笑った。
と同時に、オールフォーワンの身体が完全にトムラから切除され、地面に落ちた。血飛沫が上がり、しかしそれもすぐさま闇になって消えていく。オールフォーワンの身体も。
「あんたが俺を育てたのもそうだ。志村――オールマイトとの繋がりを使った嫌がらせだ。あんたはそのまま俺の心と身体を乗っ取る計画を進めた。俺の憎しみを取り込んでワンフォーオールを手に入れようとした……」
まだ消え切っていないオールフォーワンの顔が、目も鼻もない顔が、トムラを見上げる。
そこを、カサネの足が思い切り踏みつけた。同時に、身体の部分はトムラが同じように踏みつけていた。
「けど残念だったな! 俺は! 誰にも従わない! 支配されない! 駒になんてならない! ワンフォーオールなんていらない!!」
哄笑と共に、二つの足がオールフォーワンを踏みつける。何度も何度も。
いかな敵同士の仲間割れだとしても、それはさすがにやりすぎだ。このままだと死ぬ。
ただ、ここは精神世界。何よりあそこにいるオールフォーワンは、彼の言葉を信じるのであればオールフォーワン本人ではなく、ただ”個性”に宿る意思と記憶でしかない。
つまり、このまま見殺しにしても究極問題はないが……ここでオールフォーワンがやられた場合、彼らの足の引っ張り合いがなくなる。どうせならそれは、トムラが戦闘不能になるまでは続けてほしいところなので……ここはあえてオールフォーワンを助けるとするか。
同じ答えに達したらしく、デクと私は同時に前へ。彼らに向けて飛び込んだ。
まあ、デクの場合は私のような損得勘定ではないだろうが。
「死柄木! それ以上はやりすぎだ!」
「相変わらずお優しいなヒーロー……けど引っ込んでな。これは……そう、言うなれば家庭の事情ってやつだ!」
「うッ!?」
「ち……!」
私がここで”個性”が使えるのだから、相手も同様。私たちは、トムラの放った圧縮空気によって、元の場所まで吹き飛ばされてしまった。
複数”個性”の同時使用がいかに理不尽かはヒミコで見知っているが、トムラ――いや、この場合はオールフォーワンか?――はそのラインナップが攻撃に偏りすぎていて、輪をかけて理不尽だ。なるほど、これは魔王という自称もわからなくはない。
しかしライトセーバーならば……と思ったところで、カサネがこちらを睨んだ。彼女も彼女で、手は出すなと言いたいらしい。
そんな彼女たちの姿を、突然現れた壁が覆い隠した。地面からせり上がったそれは、まるで私たちを拒絶するかのようだった。
「なんだ!?」
「邪魔はするなということだろう。デク」
「……! うん!」
壁というなら、乗り越える……あるいは破壊して向こうへ行けばいい。私たちは、すぐにまた前へ出た。
ワンフォーオールの継承者二人は、そこに参加はしてこない。一見落ち着いて見えるこの世界だが、今もなお”個性”としてのオールフォーワンによる侵食は続いているからな。それを防ぐ手数はどうしても必要だ。
「ぐ……く、……なるほど……どうやら……認めざるを得ないようだね……! 僕の負け……だ、ッ、ぐうっ!? ハァ……! ……それで?」
「あ?」
「僕は……コミックの魔王に憧れてね……! 世界中の未来を阻みたい……そう思って……ここまで来た……!」
「ふーん。で?」
「その問い、そっくりそのまま返すぜ……で? 死柄木弔……僕の後継者。僕の力で、何をする? 何のために力を使う!?」
声が聞こえてくる。あちらも何やら佳境らしい。ここからの逆転を諦め、目的に別のもの……恐らくは今ここで思いついた、サブプランとも言えない別目標に狙いを変えたオールフォーワンが、声高に問いかけている。
……向こうに行くべく私とデクが全力で攻撃するが、壁がなくならない。
絶対に破壊できないような強固な壁ではない。むしろすぐに破壊できる……が、壊しても壊しても、次の壁が立ちはだかるのだ。
そして私は、三枚目の壁を壊したところでようやく理解した。これはカサネの心の表出だが、同時に時間稼ぎのもの。
彼女が今望んでいるものは、オールフォーワンの殺害でも私たちへの妨害でもない。ましてや、トムラの手助けでもない。
これは、この壁はただ……。
「ハッ。俺の原点は……あの家だ。けどあの家を壊しても、俺は満たされない。なぜなら、この世の目に映るすべてがあの家の原因だからだ!
だから俺は、すべてを破壊する!
「……ッ!! 弔……オマエ……やっぱり……」
「わっ、消えた……!?」
トムラが答えを猛々しく告げた瞬間、壁が一瞬で消えた。まるで最初からなかったかのように。
やはり……この壁はただ、トムラの心の声を聞く時間を得るためだけのもの。
ということは、カサネ。君は。
ああそれに……それに、
であれば、これ以上ここで何かをする必要はもうなさそうだ。
「ハハハハハハハハ!! この世のすべての崩壊が望みか!! 大きく出たな!! だがそれもいいだろう……ヴィランとは侵すものだ!! 戯言を実践する、夢追い人のことだ!!」
「……! 増栄さん、行こう!」
「いや……もう大丈夫だ」
「? どういう……」
「間もなくこの場所での攻防が終わるということだ。オールフォーワンが消えたその瞬間が、合図の
「……! そういうこと……了解!」
手と足をとめ、ワンフォーオールの継承者たちにアイコンタクトを送る。今までありがとう、と。
そして願わくば、これからもよろしく、と。そんな願いを込めて。
「いいぞ、好きにするがいい弔! 君の思うまま、君のやりたいように、すべてをぶち壊して見せるといい!! ……できるものな――――」
その直後、オールフォーワンの声が唐突に途切れた。視線を戻せば、トムラによって握りつぶされたらしい。
トムラはそのまま余韻に浸ることなく、私たちにうっそりと目を向けた。殺意と敵意、何より憎悪と破壊衝動に満ちた目だった。
「次はお前たちだ」
そして彼がそう宣言をして、こちらに手を伸ばした……直後。
「テメェがな!!」
トムラの真上に、キングダイナが現れた。
「……は?」
キングダイナの手が、トムラに向いている。凄まじいエネルギーがそこに渦巻いていることが、一目でわかった。
何より、私にはわかる。
「
***
――
そして現実に戻って来た私とデク、そしてカサネが見たものは。
デクの顔に手のひらを当てていたトムラの身体が、キングダイナ渾身の必殺技による大爆発に飲み込まれるところだった。
やっとできたジェダイ伝統の技チノ=リ。セリフとして発言はしてないし、ちょっと苦しいかもだけど。
ブラ=サガリもしたかったけど、結局最後までやる機会がなかったのだけが残念でならない。
そして最後の最後でおいしいところを持っていく爆豪のかっちゃん。
だいぶ形は違うけど、本作でも「勝って救けるが信条のかっちゃんが救けて勝った」ということで一つ。