銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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16.ヒーローの帰還

 キングダイナの必殺技、戦術核着弾(ヴァルキリーインパクト)はもちろん核爆発ではない。だが鍛錬を重ね、フォースも組み合わさったこの技は、核と表現してもおかしくはないレベルの衝撃をもたらす。

 そしてその威力は、那歩島(なぶとう)でナインに向けて放ったものを既に凌駕している。あの日から約三か月が経って、それだけキングダイナが成長したのだ。

 

 ただし、相応に周囲を巻き込む技でもある。キングダイナの意思と抜群の技術によって範囲を絞れるようにはなっているが、威力が威力だ。完璧にコントロールするのは難しい。

 爆破に伴う音、光。そして衝撃によって吹き荒れる砂塵や暴風により、一時的に蛇腔周辺は完全に停止した。

 

 だが爆心地となったトムラ周辺にいた私たちは、少しだけ事情が異なる。トムラに触れられていたデクと、彼に接触していた私とカサネは、下に吹き飛んだトムラから取り残される形で空中に留まり、爆破の衝撃によってキングダイナ共々真上に巻き上げられたのだ。

 

 常人であれば落下死に怯える場面だが、我々にとってはさほど問題ではない。重力にある程度逆らいつつ、怪我にならないよう気をつけて降りるだけである。

 

「か、かっちゃん……! 二回も救けに来てくれたのはすごく嬉しいんだけど、加減って言うかその……」

「あれくらいしねェと死柄木を止められそうになかったんだよ! やらんで済むなら俺だってしなかったわ!」

「そりゃそうだよねごめん!!」

 

 実際問題、戦術核着弾(ヴァルキリーインパクト)は明確に対人技ではない。それほどの規模と威力の技だ。それを使わざるを得ないトムラがこの場合は異常なのである。

 

 まあ、戦術核着弾(ヴァルキリーインパクト)が人に向けて使われる機会など、後にも先にも今回だけだと思うが。と言うよりそうであってほしいところだ。

 

「そんなことより、プッツン女はどこだ!?」

「え? あ、そうか、ワンフォーオールの中に入って来たならあの子も僕に触ってたのか……」

「彼女ならもう下にいる。瞬間移動したようだな」

 

 そんな中で、最初に動いたのはカサネだった。彼女は脳無やトムラ同様に、超再生を持つ。おまけに瞬間移動も持っている。だからこそ爆破の影響からいち早く脱し、いち早くトムラの下へ向かったのだ。

 

「何ボケっと見てんだテメェ!?」

「え!? じゃあ僕たちも戻らないと!」

「いや……彼女はもう敵ではない。大丈夫だ」

「あァ゛!?」

「まあ、念のため拘束はしておいたほうがいいだろうが、な」

「……どういうこと?」

「もう少しすればおのずとわかる」

 

 しかし、だからといって私は焦らない。どんなに状況が悪かったとしても、カサネがトムラを連れて逃げるという事態にだけはならないという確信があった。

 それはもちろん、フォースを通じてカサネの心中を察していたからだが……私以外はそうではない。対応の温度差は仕方ないだろう。

 

 キングダイナは……まあ、まだフォースの修行は必要と言うことだろうな。あるいは最初からあの空間にいたら、わかっていたかもしれないが。

 

 もちろん万が一ということはあるので、自由にはさせない。トムラは確保させてもらうし、カサネにしても暴れ出さないように押さえさせてもらう。

 

 ただし彼女が全力で暴れ出したら、私たちではどうにもならない。デク以外では、単純なパワーで敵わない。

 

 だから私たちは、この奇妙と言えるほど静かな時間をできるだけ有意義に使うことにした。つまりデクの治療と、プロヒーローへの報告である。

 

 直前の戦いで全力以上を出し続けたデクの身体は、ボロボロだ。ろくに力を入れられない彼は、もはや立つこともままならないだろう。

 それでも万が一に備えて、デクはまだ動けなければならない。だから私は、彼の治療をしつつカサネが動かないようにその腕をつかんでおく。

 

 中途半端に見えるかもしれないが、この状態ならフォースによって事の起こりはまず間違いなく察知できる。どのみち純粋な力では敵わないのだから、デクの治療が一段落するまではこれでいい。

 

 一方キングダイナはトムラを拘束しつつ、無線でプロヒーローへの報告を試みる。

 

 ヒーロー側の勝利はほとんど確定している。ここからトムラの処遇をどうするか、その判断を仰ぐのである。

 

 最前線にいる私がこう言うのもあれだが、そもそも私たちは依然として仮免許の身。蛇腔周辺の避難誘導にしても群訝山荘での前線にしても、基本的には事前に決められている方針もしくはプロヒーローの指示に従えと言われているのだ。

 何より、一人で国家を転覆できるであろうトムラの処遇など、所詮学生の身分でどうこうしていいものでもない。

 

「こちらキングダイナ! 誰でもいい、応答しろ!」

 

 だが先ほどの戦いで、ヒーローたちの無線はトムラによってすべて破壊されている。この辺りのヒーローの無線で無事なのは、私のものくらいだろう。

 

 だからキングダイナの通信が届くとしたら、こちらに全速力で向かっているだろうヒミコくらいのはず。感覚からしてそろそろこちらに到着する頃間だが……。

 

「…………」

 

 一方でカサネはと言うと、キングダイナによって拘束されたトムラを、心身ともに複雑な色合いを隠すことなく見下ろしていた。

 

 トムラの身体は、驚くことに十分原形をとどめている。エンデヴァーのプロミネンスバーンのあと、ワンフォーオールの中に侵入するまでに少し時間があったようだから、その間にトムラの回復を許してしまったのだ。

 ただとどめの一撃となった戦術核着弾(ヴァルキリーインパクト)により、再び身体の一部が炭化するほどのダメージを負った。その衝撃のまま地面にたたきつけられたので、トムラの傷は深い。

 

 しかしそれでも、トムラはまだ死んでいない。これほどのダメージを何度も受けているにもかかわらず、彼はまだ生きている。

 しかも現在進行形でゆっくりではあるが、自然治癒よりは間違いなく早く治っていっている。度重なるダメージによって機能がかなり衰弱している上にフォースイレイザーもかけているというのに、脳無同様の超再生は間違いなくまだ機能していた。

 

 だからこそ、まだ完全には終わっていない。休息する時間さえあれば、トムラは復活するだろう。より完璧に近づいて、だ。

 

 だがそれは許されないことだ。動けて、かつトムラにとどめを刺せるだけの攻撃力を持つプロヒーローが周囲にいない以上、もしトムラが気絶から覚めた場合に息の根を止めるのは私がやるべきだろう……。

 

「やっと繋がったと思ったらあんたかヘラ鳥……いやこの際あんたでもいい! 死柄木確保! このあとどうする!?」

『……とりあえず、後方にいるはずの君がなんで死柄木を確保してるのかはあとでじっくり聞くことにするよ』

 

 ……と、思っていたのだが、どうやらその必要はなさそうだった。

 

 そうか、ホークスも近くまで来ているのか。彼なら確かに、全速力で飛べば八十キロ程度の距離はさほどかからないだろうな。

 

「……弔……」

 

 そんな私たちをよそに、カサネはやはり逃げるそぶりを一切見せていなかった。動く気配を見せないまま、無数の感情が入り混じる複雑な表情で、つぶやくように口を開いた。

 

「……ボクさ。弔のこと、わりと好きだよ。ゲーム、一緒にやれて楽しかった。ゲームの趣味はあんまし合わなかったし、ケンカばっかりだったけど……別に……嫌じゃ、なかった。今だって……」

 

 まだ先ほどの大爆発の余韻が残る中、ぽつりとこぼされた言葉は風に乗って消えていく。

 

「……でもさ。うん……ごめんね。やっぱりボク、すべてを壊そうなんて思えない」

 

 そうして出てきた言葉は、明確な決別の言葉。

 

 ああ、やはり君は。

 

 君はライトサイドに、帰還できたのだな。

 

「さっき弔の言葉聞いて、そのことにやっと気づいたんだ。ボクは……エリを守りたい。エリやボク、お姉ちゃんみたいな子供がもう二度と出ないようにしたい。

 だから……弔とはもう一緒にいれそうにない。……ごめん。……さよなら、弔……()()()()()()()

 

 闇から帰ってきた赤い瞳が、静かに揺らめく。

 しかしその揺らぎは、一瞬で。

 

 第三者とも言うべき人物……ホークスの接近を察知したカサネは、その揺らぎを奥へ押し込んで顔を上げた。

 

「や。お手柄だね三人とも」

 

 赤い羽根をいくつもまき散らしながら、ホークスが降りてきていた。

 

 この羽根は別に、演出だとか”個性”の機能が停止しているとかではない。彼の”個性”は「剛翼」、この羽根を自由自在に操るというものだ。そして彼の羽根は、刃にもなる。

 つまりこの状態は、いつでも攻撃に転ずることができるというポーズ。ある種の威嚇である。

 

「ホークス……やっぱりずっとそっち側だったんだ?」

 

 すぐ目の前に降り立ったホークスに対して、威嚇などものともせずカサネは鼻を鳴らしながら問うた。

 

「まぁね。なかなかの名演技だったでしょ?」

「どーかな。見抜けなかったボクが言うのもなんだけど、普通に戦線の中でもヒーローしてた気がする」

「ウソやん」

「ボクの印象だからそうじゃないかもだけどね。ボクは少なくともそう感じてたよ」

「……襲ちゃん? 何があったとね?」

 

 ホークスはその眉をわずかに歪め、小首を傾げた。わずかな会話の中で、今までとは何かが違うと彼にも理解できたようだ。

 

 それもそうだろう。今のカサネの表情は、凪いでいる。今の彼女がまとう雰囲気は、明らかにヴィランのそれではない。

 

「……襲じゃない」

 

 訝る彼に、カサネが否定の言葉を口にする。それを証明するかのように。

 彼女は穏やかな表情のまま、ゆっくりとその顔に得意げな……しかし自嘲の色も多分に混ざる色を浮かべて。

 

「ボクは……ボクの名前は。重音(かさね)。鬼怒川重音。鬼怒川蓄羽(おきは)の妹で……エリのお姉ちゃんだよ」

 

 ホークスの目が大きく見開かれる。ヒーロー公安所属の身として恐らくカサネの過去も知るからこそ、その言葉の意味と重さを理解できたのだろう。

 カサネの詳しい事情を知らずとも、エリとの関係を知っているデクたちも似たような顔をした。

 

「……なんていうか、僕の救けなんて必要なさそうだね」

 

 光を取り戻した彼女の姿を見て、デクが心底安心したという表情を浮かべてホッと胸をなでおろす。

 

 だがカサネは、彼の言葉を否定した。

 

「そんなことない。……エリのために救けられてほしい、でしょ。覚えてるよ」

 

 赤い視線が、まっすぐデクに向けられる。

 

「あのときオマエと話してなかったら……きっとボク、あんなに一生懸命考えたりしなかった。あれがなかったら、今こんな風に思えてなかったと思う」

 

 これを受け止めたデクの緑色の瞳が、先ほど以上に見開かれる。その目元に、涙がにじんだ。

 

「お姉ちゃんが言ってた。オールマイトは最高のヒーローだって。……そんな最高のヒーローは、ボクたちを救けになんて来てくれなかったよ。

 でも……オマエは救けに来てくれた、から。だから……その……一応、感謝……してる。……ヒーローデク」

 

 そしてその言葉で、彼の涙腺は決壊した。おかげで私はここまでずっと並行して続けていた治療の手を、慌てて止めざるを得なくなる。

 

 無理もない。デクにとってオールマイトは神にも等しい。

 そんなオールマイトにすらできなかったことを、自分にはできたという事実を受け止めるにはまだデクの心身は完成していないのだろうな。

 

 キングダイナが舌打ちする。しかしデクの心境を理解できるからこそ、それ以上は何もしない。

 まあ、内心で「クソナードがよ」と吐き捨てるくらいはしているようだが。

 

「……はは。なんていうかツクヨミくんもそうだけど、君たちは本当すごいな」

 

 彼らのやりとりを黙って見ていたホークスが、肩の力を抜いて笑った。

 と同時に、カサネに向けていた赤い羽根が、ホークスの背中にある翼へと戻っていく。彼の中でも、カサネはもう敵対者ではなくなったのだろう。

 

 そしてそのタイミングで、私はずっと待ち望んでいた気配に応じてそちらへ顔を向けた。

 

「コトちゃーん!!」

 

 感知した通り、そこにはエアスピーダーバイクに乗ったヒミコがこちらにまっすぐ向かってくるところだった。

 すぐ近くまでエアスピーダーバイクで乗り付けた彼女は、その勢いのまま私に飛び込んでくる。

 

「やあ。お疲れ様、ヒミコ」

「コトちゃんもお疲れ様なのですー!」

 

 彼女の身体を正面から受け止めて、ぎゅっと抱きしめる。彼女も同様に、私の身体を抱きしめた。

 

 そしてそのまま、互いに互いの唇を奪い合……おうとしたところで、

 

「こンの色ボケどもがよ!! 落ち着いたとはいえここは戦場だぞ!? 死ね!!」

 

 キングダイナの爆破つきインターセプトを受け、私たちは二人揃って頬を膨らませた。

 

 これによってますます目を吊り上げるキングダイナだったが、今回ばかりは彼が圧倒的に正しい。さすがに分が悪すぎるので、渋々身体を離す私とヒミコであった。

 

「アハハハハ! いいねぇ。ヒーローが暇を持て余して恋愛を楽しめる時代も、そんなに遠くはなさそうだ」

 

 そんな私たちを見て、ホークスが声を上げて笑った。

 デクは顔を真っ赤にしてこちらを凝視している。カサネはきょとんとして首を傾げている。

 すっかり穏やかな空気が漂っていた。

 

 ……まあ、それはともかくとして。

 

「そんじゃま、帰るとしましょ。――ヒーローの帰還だ!」

 

 それは鶴ならぬ、鷹の一声だった。

 

 日本全国からかき集めたヒーローたちと、十一万の兵力を擁する超常解放戦線との全面戦争は、こうしてヒーローたちの勝利で幕を下ろしたのであった。

 




今章のタイトル回収回。
サブタイは「鬼怒川重音:カムバック」とどちらにしようか迷いましたが、それだと話の内容がモロバレになっちゃうので、今のサブタイが採用されました。ダブルミーニングにもなるしね。

まあわりと予想されてた結末ではあったかなとも思いますが・・・この辺りはボクの力不足でしょうねぇ。
でも奇をてらいすぎるよりは、素直に行くのがいいだろうなとも思いましたので、こういう締め方と相成りました。
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