銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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4.鬼怒川重音:リバース

 ヴィジランテ。ヒーロー免許を持つことなく、自らの持つ”個性”を用いてヒーロー活動をするものを指す言葉だ。本来は自警団を意味する言葉であり、ヒーローやヴィランと共に超常以降に意味が変わった言葉の一つである。

 とはいえ、自警とは司法手続きによらずに実力で行使される防犯行為を指す言葉。そういう意味で言えば、ヒーローやヴィランほどは意味が変わっていないとも言える。

 

 この世界におけるジェントル・クリミナルは、まさにこのヴィジランテに属する存在だ。

 ヒーロー免許を持つことなく、犯罪者を捕まえる。誰かを守る。あるいは救ける。彼の場合はここに、法的には手出しができない……法の網をかいくぐって悪事をなす存在を摘発するという活動も加わる。

 

 もちろん、捜査権のない人間ができることなどほとんどない。しかし彼には、コンピューターに極めて強い相棒がいる。

 そう。ラブラバの手にかかれば、この情報化社会で手に入らない情報などあんまりない。

 

 とはいえ、これも違法捜査だ。証拠能力はないに等しい……が、大衆にとってはそうはならない。

 筋道を立てて、罪の根拠を整然と羅列していく動画。それがインターネットを通じて全世界に発信されるのだ。たとえ法的な根拠がなかろうと、多くの人間はそこに正当性を見出す。

 

 彼が他のヴィジランテと違うのは、まさにそこだ。普通のヴィジランテが、突発的に発生するヴィランをただ倒す……言ってしまえば場当たり的な活動が中心なものが多いのに対して、彼は計画的に行動する。普段は隠れている悪人の、秘匿された悪事を暴く。

 それはただのヴィジランテはもちろん、ヒーローの活動ともまた一線を画したものだ。ゆえに人気を博している。

 

 彼のそんな姿は、重音も知っている。ヴィラン連合に勧誘するために、彼の動画は一通り確認していたからだ。

 

 だがその活動を手伝ってみて、重音は驚いた。華やかな演出がなされている動画の裏側では、ひどく地味な作業が延々と続けられていたからだ。

 ネットの世界の、玉石混交な情報を総当たり。あまりにもかすかな事実の裏取りのために、ひたすら歩きまわって証拠を調べる。話を聞くだけで、重音の我慢は限界を超えそうだった。

 

 それでも我慢できたのは、全面戦争の影響でヒーローが減ったからだ。一日の犯罪件数は以前にも増して増え続けており、調査のさなかにも彼らはちょくちょくヴィランに出くわした。

 

「殴って回るのは私の流儀ではないのだけどねぇ……」

 

 何度目かもわからない唐突なヴィラン退治を終えて、ジェントルはため息をついた。

 

 何事も優雅に、紳士的に。それが彼なりのポリシーなのだが……これは情勢が悪いと言うしかないだろう。

 不幸中の幸いは、事件が爆発的に増えた影響でヴィラン退治を呑気に眺める聴衆がぐっと減ったことだ。

 

「さすがジェントルー!」

「その子誰ー!? 浮気かー!?」

「私が浮気などするはずないだろう!? 弟子だよ弟子!! 詳細は次の動画までのお楽しみさ!」

「うそー、マジー!?」

「ついにジェントルにも弟子が……! 感慨深いな……!」

 

 それでもヴィランが取り押さえられたあとになれば、それなり以上の人数が寄って来る。

 中でも、ジェントルを称賛する声を上げる人間は一定数いる。ジェントルも基本目立ちたがり屋なので、これには気前よく応じる。

 

 あまりにも危機意識が低い話だが、結局のところ人間は対岸の火事でなくなって初めて省みる生き物なのである。

 

「ボクはこっちのが性に合ってるけどね」

 

 一方弟子と呼ばれた重音は、遠慮なくぶん殴れる相手を遠慮なくぶん殴れてすっきりした顔だ。ストレスを景気よく発散できたのだろう。

 

 どこか晴れ晴れとした顔に、「違う……そういうことを教えたいんじゃなくてだね……」とジェントルは親指と中指で両のこめかみをもみ込んだ。

 

「なんとなくはわかるよ。よーするに、手順の話でしょ? あとの楽のために今苦労する、的な」

「……まあ、間違ってはいないけれども。理解はしてくれていたんだね……」

「シツレーだな。ボクが別にバカじゃないってことくらいわかってるでしょ」

 

 曖昧に頷いたジェントルだが、これは事実だ。

 

 彼は空いた時間に、ラブラバと共に重音に様々な教育を施している。その内容は主に情操教育だが、一般常識や知識的なものもある。

 重音は前者に対しては覚えが悪いが、単純に覚えるだけならかなり早く習得する。何なら、最終学歴が留年を重ねた挙句の高校中退なジェントルよりも間違いなく早い。

 

「大体、ヴィラン連合にステイン先パイ引き込む段取り組んだのボクだし。腹立たしいけど、そこはオールフォーワンから教えられてるよ」

「なるほど? この手の下積み作業の重要さは、ところ変わっても通じるということかな。しかしわかってはいても、性に合う合わないは別なのだねぇ」

「だってぶん殴って解決できるなら絶対そっちのが早いじゃん?」

「だからそれはヴィランの論法だと……おっと、どうやら潮時のようだ」

 

 あれこれ話しているうちに、ヒーローたちがやってきた。

 

 繰り返しになるがヴィジランテ活動は違法なので、法的にジェントルはヴィランである。ヒーローは当然捕まえに来る。

 しかし向かってくるヒーローをすべて殴り倒していては、キリがない。心象も悪くなる。

 

 だからこそ、ここで打つのは逃げの一手だ。普段であれば、自身の”個性”である弾性によって跳び回ることになるが……。

 

「ではリスナー諸君、さらばだ! 頼めるかい?」

「はいはい、任されましたよっと」

 

 今は重音がいる。だからジェントルは彼女に触れると、彼女とともにこの場から掻き消えた。

 消える直前、スモークグレネードを発動させて周囲の視界を遮ることも忘れない。現状、あまり重音に注目を集めたくないからだ。

 

 そうして瞬間移動を重ねて現場を後にした二人は、改めて当初の目的であった情報の裏取りに奔走することになる。ジェントル主導による、重音のヴィジランテ体験はおおむねこのようにして過ぎていくのだ。

 

「ステイン先パイ……ステイン先パイかぁ……」

 

 その日の夜。食後のちょっとした空き時間の中で、ふと思い出したように重音がこぼした。

 

 食後の紅茶を楽しんでいたジェントルが、それを聞きとめて問いかける。

 

「ヒーロー殺しがどうかしたのかね」

「いや……ボクがこれからどうすればいいのか聞いたら、先パイならなんて言うかなって思って」

「……やめた方がいいと思うがねぇ」

 

 ステイン。ヒーローを狙った連続殺人犯。英雄回帰を求めて、彼が贋作と断じたヒーローを殺し続けた特級のヴィラン。

 その思想は、今も社会の一部でくすぶり続けている。それはつまり、ステインの求めた理想がある種普遍的なものでもあることの証明とも言えた。

 

 英雄とは、見返りを求めてはならない。偉業を成したものだけがヒーローと呼ばれるに値する。

 そんな思想は、現代のヒーローに思うところのある人間にとっては、ある種の天啓だったから。

 

 しかしステインがしていたことは、まごうことなき犯罪である。たとえどれほど高尚な意見を叫ぼうと、そのために選んだ手段が法に拠らない殺人であった以上、彼の意見が公に認められることはない。

 

「まあ、わかってるよ。ヒーローにだって家族はいるわけでしょ。先パイみたく問答無用で殺してたら、その家族が泣いちゃう。子供とかいたら……って思えば、ね」

「わかっているのならこれ以上は言わないが」

 

 だからこそ、今の重音がそれに迎合することはない。家族を理不尽に奪われることの重さを、彼女はもうわかっている。

 

「ところで重音くん。そろそろ今度の案件を実行に移すときが近づいてきているが……これに合わせて君の新しい名前を考えようと思うんだ」

「名前?」

「そう。ヒーローでもヴィランでもそうだが、名前は大事だよ。名前はこうなりたいという祈りであり、願いだからね。こういう存在だ、と示すものでもある。君の場合、死柄木襲こそがその名前に当たるものだったわけだが……」

「ソレはもう絶対使わない。あいつの期待なんて、二度と背負うもんか」

「だろう? だから、新しい名前さ。鬼怒川重音という名前もいい名前だが……それはあくまで本名だからね」

「……意図はわかったけど、ボクそういうのよくわかんないよ」

「そう言うと思って、考えてあるよ。他ならないこのジェントルが、とっておきの名前をね!」

「とっておき、ねぇ……」

 

 胸を張り、口ひげをさすりながら自信たっぷりに告げたジェントルに、重音は思わず不審げな目を向ける。

 

 ジェントルには世話になっているし、色々と感謝はしている。

 が、それはそれである。盲目的にオールフォーワンを信じて痛い目を見ているだけに、なんでもかんでも受け入れるつもりはない重音だった。

 

 何より、おかしな名前はごめんだと思う自意識は、さすがに持ち合わせているので。

 

「何よ、ジェントルのセンスを疑ってるわけ? 見る目がないわねぇ、私の『ラブラバ』だってジェントルの命名なのよ! 外れなんてあり得ないわ!」

「ホントかなぁ。まあとりあえず、聞くだけ聞いてみるよ。ヘンなのだったら使わないからね」

「ふっ、そう言っていられるのも今の内だとも。いいかい重音くん……君の新しい名前はずばり……ディグナス。これでどうだろうね!?」

「ディ、グナス? なんか耳慣れないな……どういう意味?」

 

 この問いかけに、ジェントルはよくぞ聞いてくれたとさらに胸を張った。無駄によく通る無駄にいい声が、室内に響き渡る。

 

「君本来の”個性”は『憤怒』、怒りを力に変えるものだ。そして……あまり口に出すものでもないが、聞いた限り君の原点は社会や世界の理不尽に対する怒りにあると私は見ている」

 

 ジェントルたちは、ラブラバというバグ技めいた実力者の手腕によって重音の過去を知っている。

 だからというわけではないが、重音は今日までの共同生活の中で己の過去をある程度語っている。それだけジェントルたちを信用してのことだった。

 

 そして、その信用は正しいと今は思っている。重音の口から直接聞かされた過去の生々しさにジェントルたちが泣き崩れたり怒ったりしてくれたからだ。だから重音は、まだここに留まっている。

 

 それでも、やはり触れてほしいものではない。だからこそ、そこを指摘する言葉に重音の機嫌が少し下がった。もしかしてこいつも……という、大人に対する不信感が顔を覗かせる。

 

「だからやはり、怒りに関する語句が君には似合うと私は考えたわけだよ。それをもじろうと思ったわけだ。

 怒りを意味する英単語はアングリーやフューリーなどいくつかあるが……私が選んだのはずばり、インディグネイションだ。主に不正や不公平に対する怒りを意味する言葉でね?」

「不正や、不公平に対する……」

「そうさ。君の怒りは、ただ当たり散らすものではない。ただの癇癪ではない……社会に対する正当な怒り。そんな意味を込めた。

 ……もちろん、その怒りに飲み込まれてしまったらただのヴィランでしかないから、相応の自制を求めることになるけれどね」

「…………」

 

 だが最も弱く柔らかいところには一切触れず、それどころか己の意を汲んだ命名であることを正面から告げられて、重音は黙りこくった。

 

 悪い意味でではない。いい意味で、だ。それだけ彼女にとって、ジェントルの態度はある種の救いだった。

 

「ディグナス……ディグナス、か……」

「いかがかな? お気に召したのなら幸いなのだが!」

「ん……うん、悪くない……と、思う……」

「それはよかった」

 

 だからうんと頷いた重音に、ジェントルもまたにまりと笑みを浮かべて応じた。

 

「ほらね! やっぱりジェントルは最高なのよ!」

「ハッハッハ、それほどでも……あるかなぁ今回はなぁ! いやぁ、我ながらいい仕事をしてしまったね!! ……おっといけない、忘れるところだった。ラブラバ、あれを!」

「任せてジェントル!」

「……?」

 

 いつも通りのやかましいイチャつきを始め……かけたところで、自主的にそれをキャンセルしたジェントルに、重音は首を傾げる。

 そのまま訝る目を隠すことなく、台所へ駆けていったラブラバを見送った。

 

 と思えば、ラブラバが持ってきた三号ほどのホールケーキを見て、目を丸くする。

 

「なんでケーキ?」

「決まっているじゃないか。今日は君が、ディグナスが新しく生まれた記念すべき日だからね。そのお祝いさ」

「ロウソクの火を消す権利だってあげちゃうんだから感謝しなさいよね!」

「新しく……生まれた……」

「そうさ、君は生まれ直すんだ。なんでもかんでも壊して殺して回る死柄木襲からね。そして新しい存在の誕生は、常にめでたいことだろう? これは祝わねばなるまい!」

 

 さあ、と促されて、重音はケーキの前におずおずと座る。

 白いホイップクリームに彩られたケーキの上に、小さなチョコプレートが乗ったケーキだ。そこには、シンプルにハッピーバースデイと書かれていた。

 

「……っ、う、ん……ありがとう……ジェントル、ラブラバ」

 

 そして、慎ましくも高らかにクラッカーの音が鳴り響いた。

 




最後のジェントルのセリフにパロネタを仕込むつもりは一切なかったんだけど、今章のテーマに沿おうとしたらセリフがライダーネタと丸ごと被りました。
この展開においてバースデーケーキはあまりにも必須アイテムが過ぎたのだ・・・。
そしてバースデーと言えば祝い事なわけで・・・条件反射で祝わねばなるまいって打ち込んでたよね・・・。
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