銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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12.不穏な影 下

「うわっ!?」

「警報!?」

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください》

 

 そして続いたアナウンスに、騒然となっていた場がさらに騒然となり、食堂内の人間が一気に外へ向けて出入り口に殺到し始めた。

 

「セキュリティ3ってなにー!?」

「確か、校舎内に何者かが侵入してきたときのアナウンスだったかと……!」

「マジ!? でもこれ……!」

「ええ……これじゃあ避難も何もあったものじゃないわ」

 

 一方、クラスメイトたちは立ち上がりはしたものの、状況を把握しようとしている。さすがにヒーロー科だ。周りの生徒たちは深く考えもせず動き、結果罵声や悲鳴を飛ばしながら押し合いへし合いをしているのだが。

 

 いかんな……このままだとパニックがどんどん伝播して、怪我人が出るぞ。下手したら死者まで出かねない。

 

 そう、思ったときである。人の波の中から、突如としてイイダが空中に舞い上がった。落ちる気配がないことから、ウララカの”個性”を受けたのだろう。

 彼はそのまま”個性”である脚部のエンジンをふかすと、猛烈な勢いで空中を横切り出入口上の壁にべしゃりとへばりつく。

 

「大丈ーー夫!!」

 

 そしてあらん限りの大声で、食堂全体に向けて語り掛けた。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません! 大丈ー夫!」

「マスコミ……!?」

「あ、ホントだ! 見てあれ!」

「うわっ、すごい数のカメラだ!」

 

 イイダの言葉が呼び水となり、少しずつこの場から混乱が引いていく。

 

 そしてハガクレの示したほうを見て見れば確かに、学校の敷地内にまで大量の報道陣が押しかけてきている。マスター・イレイザーヘッドとマスター・プレゼントマイクが対応に当たっているようだが……だいぶ持て余しているようだな。

 無理もない。というか、これは不法侵入そのものだろう。現行犯で逮捕してしまっていいのではないか?

 

 ……いや、問題はそこではないな。

 あれらマスメディアからは、一般人程度にしか暗黒面の気配はしない。先ほど感じた嫌な予感と合致しない。

 

 何より、だ。

 

「……マスコミ? ほんとに?」

「……君に賛成だ。あれとは別に、強い暗黒面の気配を感じる。彼らとは違う何かが校内にいるぞ」

「だよね。……ねえ、コトちゃん……」

「ああ。気づいているのは恐らく私たちだけ……ならば、多少の危険は冒してでも行くべきだろう。ここは任せていいか?」

「……ですよね。コトちゃんはそういう人なのです。だから大好きなんですけどね。……うん、任せてください。それと、気をつけてね。フォースと共に」

「ああ、ありがとう。フォースと共に」

 

 そしていまだ完全には落ち着いていない食堂の中を、私は矮躯を活かしてすり抜けていく。

 

「あら? 理波ちゃん?」

「危ないから、梅雨ちゃんたちはこのままここにいたほうがいいのです」

「え……?」

 

 そんな会話を背中に聞きながら食堂を離れた私は、フォースが伝えてくる情報に従って職員室へ向かっていた。

 だが闇の気配は、近づけば近づくほどだんだんと強くなっていく。終いには、職員室周辺は完全に暗黒面の帳に包まれていた。

 

 しかもそれは、ヒミコが放つものより数段濃い。純然たる悪意の塊が、そこにあるように見えた。ジェダイであっても近づくことを躊躇するレベルである。

 一度これ以上の暗黒面を……前世ではあるが実際に対峙していなかったら、私もここで動けなくなっていただろうな……。

 

 ともあれ私は覚悟を決めると、フォース・クローク(フォースで全身を覆い、姿を隠す技。極めたものは透明も同然となれる)を纏って気配を消し、こっそり職員室を覗き込む。すると、そこには……。

 

「……これか」

 

 白髪の男が、うっそりと佇んでいた。一見すると、まだかなり若い。背丈は少なくとも百七十はあるだろうか。

 しかしその表情はほとんどわからない。なぜなら、顔に手を模したと思われる飾り? を取りつけているからだ。よくわからないセンスだ。

 ただ、その隙間から漏れる眼光は、危険な色に満ちている。態度以上にその目が、射竦めたものすべてを破壊すると口よりもなお雄弁に語っている。

 

 あれは、危険だ。即座にそう認識し、意識が非常時へと完全に切り替わる。

 

 とはいえ、今の私は学生の身だ。ヒーロー科であっても、授業以外での”個性”使用は原則禁止されている。その規則を破るわけにはいかない。

 またジェダイとしても、いきなり武力に訴えるやり方は望ましくない。それは基本的に最後の手段だ。

 

 ならば今の私に何ができるかと言えば……情報を集め、証拠を残すことであろう。もちろん、戦闘に発展する可能性は十分あるから、備えは怠らずに。

 

 そう決めた私は、懐から携帯端末を取り出して謎の男をカメラで動画に収める。

 彼が何をしているのか、何が目的かは現状わからないが、この星には「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言った偉人がいる。私も同感だ。相手を知ることは、正確な情報を集めることは、とても大きな意味がある。

 

「よし。黒霧」

 

 その男が懐に何か書類を収めながら、虚空に向けて声を発した。

 すると次の瞬間、男の背後に黒いもやがどこからともなく現れた。()()()()()()見えるその黒いもやから、人型の何かが顔を出す。あれも男のようだ。

 

 だが……あれはなんだ? あれは、()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()

 ()()()()()()()! あまつさえ、会話まで! 一体なんだと言うのだ!?

 

 い、いや……お……落ち着け。心を乱すな。フォース・クロークが消えてしまう。強引にでもいい、落ち着くんだ……!

 

「帰ろう」

「わかりました」

 

 私が動揺し、自らを必死に律している間に彼らはそれだけの短いやり取りを済ませ、同時に黒い靄が収束し始める。二人の男の身体が飲み込まれ、どんどん縮んでいく。

 やがて黒いもやが消えたとき、そこにはもう誰も残っていなかった。

 

 私はその状態で、しばし警戒と撮影を続けていた……が、彼方からイレイザーヘッドとプレゼントマイクの会話が聞こえてきたのに合わせて、フォース・クロークを解除する。

 警戒も緩やかに解除したが……あり得ないものを見た衝撃はしっかりと残っていて、呼吸が少し乱れていた。

 

「……増栄? こんなところで何してる」

「……マスター・イレイザーヘッド。侵入者です」

 

 そして怪訝な顔で私を聞きとがめたイレイザーヘッドに、私はつい今しがたまで撮影していた携帯端末を差し出した。

 

 瞬間、彼の表情がさっと変わる。いつもの気だるげなものとは正反対の、精悍かつ凛々しいものにだ。

 

「戦ったのか」

「いいえ。無許可での”個性”行使も戦闘行為も、問題と判断し隠形と撮影に専念しました」

 

 まあ、そのためにフォースは使ったが……。フォースは”個性”ではないから、大目に見てもらいたい。

 

「……よくやった。悪いがこいつは一旦預からせてもらうぞ」

「もちろんです」

「教室に戻ってろ。それと、このことは誰にも言うな」

「もちろんです……が、一つ。映像からは恐らくわからない、私の所感を。映っている男のうち……靄の男のほう。生命を感じませんでした。ですが動いていました。それが何によるものか、私にはわかりませんが……何か恐ろしいものということは間違いないかと思います」

「……わかった。そこも含めて一度話し合う。他に報告は?」

「はい、ありません。では、失礼いたします」

 

 ぺこりと頭を下げて、職員室を後にする。

 

 だが、フォースが私に告げている。()()()()()()()()()()()()

 ざわざわと、嫌な感覚が全身をなめている。これは悪いフォース・ヴィジョンを見たときに似ている。

 何かが起こる。危機が迫ってきている。それが何かはわからないが、間違いなく。

 

 どうすべきだ。どう対処すべきだ。どう備えるべきだ。

 私は何を……。

 

『今を疎かにするな、コトハ』

「……!」

 

 廊下の曲がり角から急に現れた霊体に、思わず一瞬身体が硬直した。家ではともかく、学校では自重していて今まで姿を見せなかったのだが。

 

『未来のことに拘泥するな。考えすぎると逆効果だぞ』

 

 その彼が、いつにも増して真面目な顔と声でそう言った。

 

「アナキン……」

『ジェダイはとかく未来のことを重視したがる。先のことがわかれば対処はたやすいと言わんばかりに、それだけを見ようとする。ろくに見えもしないくせに。そんなだからジェダイは滅んだんだ。そんな不確かなものにすがるより、今この瞬間目の前で起こっている問題に向き合うべきだったのに』

 

 のろのろと歩みを再開した私の隣に並んで、アナキンが語り始める。

 

『それに、物事ってのは起こるべくして起こる。なるようにしかならないよ。だがそれは、決められた運命には逆らえないってことじゃない。だから人間は、そんなものクソくらえだと抗うのさ。本来未来っていうのは、そういう勇気が作っていくものなんだ』

「勇気……」

『もちろん、蛮勇と勇気をはき違えてはいけないぞ。まず必要なことは、今自分にできること、できないことを見極めること。そしてそのために必要なものが何か、君ならわかるな?』

 

 アナキンの問いに、私はこくりと頷く。

 

 冷静たれ。心をざわめかせてはいけない。それはジェダイの根幹となる教えの一つだ。そこから正しい解決を導くことこそ、ジェダイのあるべき姿である。

 

「……だが。今の私にできることなど、多くはない」

『そりゃあ、今の君は学生でしかないからな。しかしだからこそ、そんな状態でまだ起きてもいない未来のことをあれこれ考えたところで、心身を疲弊させるだけだ』

「それは……その通りだ……」

『落ち着いたかな? さて、では問おう。そんな中でも君にできることは?』

「……もし事件が起こったとき。そこに居合わせたとき。人々を助けるために戦うこと。そのための力を蓄えること……だ」

『よろしい。……僕はもう死人だ。そういうときに手を貸すことはできない。できるが、控えるべきだ。だが、鍛錬になら付き合ってやる。いくらでもな』

「……ありがとう、アナキン。頼りにしている」

 

 私の言葉にフッと笑って応えると、アナキンの姿は虚空に溶けて消えた。

 

 ……そうだな。考えすぎはよくない。今自分にできることに精を出すべきだろう。

 

 ここは日本最高峰の教育機関だ。それもヒーローが教職を務める。

 ならば、警戒や対策は彼らに任せるべきだ。先ほど私がそうしたように。

 

 だが万が一のときは……。

 

 ぱむ、と両の頬を叩く。いざというときのために、もっと強くならねばな。今よりもなお、かつてのアナキンを超えるくらい、強く。

 

 そう決意を新たに、私は教室へ戻ったのだった。

 

 ……なおその後、ミドリヤが委員長をイイダに譲るという顛末があったが、これについては割愛させていただきたく思う。

 




ジェダイに足りなかったのは瞬瞬必生の精神だと思うんですよね。
SW世界にディケイドを放り込んだら、通りすがりにめっちゃいい感じに説教してくれると思ってる。
誰かやってくれないかなぁ(チラッ

なお本作の本筋はあくまでヒロアカなので、物語がそのストーリーライン上にある限りアナキンの出番も多くはならないと思われます。
アナキン自身も、本人が言う通り基本的に今生きている人たちに関わりすぎないようにしているので、余計に。
一応、セリフの引用であったり行動の一端とかは主人公が言及する予定はありますが、アナキン本人が出てくる機会は今後EP1ほど多くはならないでしょう。

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