銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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16.USJ事件 4

 肌の真っ黒な巨漢の拳が、私の眼前に迫る。私はかがみ、それをすんでのところで回避。

 と同時に、フォースをみなぎらせて相手から距離を取る。アタロの要領で跳びはねながら、複雑な軌道を描いて。

 

「フォースが……朧気で読みづらい……!」

 

 あれが死体で、意思がないからだろう。巨漢から伝わる未来は曖昧で、全力で集中していないと攻撃を読むことが難しい。

 大したことのない相手であれば、戦いながらでもテレパシーを飛ばすことができるが……この分ではそれも難しいだろう。本当なら、ヒミコにテレパシーを飛ばして安否を確認したいのだが。

 

 と、そこまで並列で思考して、私はわずかに動揺する。

 

 襲い来る敵のことよりも先に、ヒミコのことを思い浮かべた? ジェダイのこの私が?

 

 ……いや、友人を心配することは普通だ。普通のことだ。

 ふるりと首を振り、横に跳ぶ。直後、そこがえぐれて建材が派手に飛び散った。

 

 速い。あの腕に込められた力もさることながら、その強さと速さを両立しているとは! あれはもはや、一つの完成された兵器だ。なるほど、オールマイト……平和の象徴を殺そうと息巻くだけのことはある。

 私が凌げているのは相手の攻撃が単調でわかりやすく、技がまったくないからである。にもかかわらず、回避に徹するだけで精一杯とは恐れ入る。

 

「脳無、何してる! さっさとそのチビを殺せ!」

 

 十数秒ほど、しかし濃密な攻防を繰り返したところで手の男のイラついた声が割り込んできた。どうやら一撃で終わらなかったことがよほど腹に据えかねたらしい。

 

 だがその瞬間、男の意思が命令という形で巨漢……脳無とやらに乗ったのだろう。途端に相手の攻撃の未来が鮮明になった。この感覚は……バトルドロイドに命令が下った直後と同じだな。

 どうやらこの脳無とやら、完全に兵器のようだ。意思はまったくなく、ただ下された命令を遂行することだけが存在意義の。

 

 なるほど、それで先ほど私とヒミコをどちらも追いかけることなく沈黙したのか。

 あのとき、直前に下されていた命令は「二人を殺せ」。そしてあのとき、私とヒミコは脳無から完全な等間隔を置く形で動いていた。ミリ単位で同じ、しかし違う方向へ距離を取ったのだ。

 

 意識してのことではない。私たちがフォースダイアドだからこその挙動と言える。

 しかしその等間隔という状況が、たまたま有用に働いたようだ。二人を殺せと言われているのに、判断基準になるものがすべて同一であったために。そして二人を同時に殺す手段を持っていなかったために、判断を下せず正常な行動が一時的に不可能になったのだろう。コンピューターがループし続けるように。

 

 であれば、やりようはある。そしてバトルドロイドと同様ならば、命令が下ってしばらくは先読みが明確だが、時間が経てば経つほどそれは薄れていくはず。やるなら短期決戦だ。

 

「……っ、ふっ、はっ!」

 

 私は脚に込める力を調整し、跳ぶ方向を変えた。この場で戦いを制することを放棄し、逃げに走ったのである。

 ただし、戦闘そのものを放棄したわけではない。あくまでこの場を凌ぎ、仕切り直すための逃走なのだ。アナキンにお勧めされたマンガで言うところの、「某家伝統の戦い方」というやつである。

 

 向かう先は、脳無に指示を出す手の男のほうだ。そちらに跳び、巻き添えにしようという作戦である。指示する人間が不在になれば、自我を持たない兵器は沈黙する定め。

 

「下手打ったな。やれ脳無!」

 

 それを見た手の男が、嬉しそうに指示を出す。瞬間、脳無が砲弾のように地を蹴った。凄まじい勢いで私に肉薄し、叩き落とそうと拳を振り下ろしてくる。

 

 だが。

 

「下手を打ったのは君たちのほうだ」

「は?」

 

 私の身体が、()()()()()()横にずれた。脳無の攻撃は空を叩く形となり、不発。そのまま私の横を通りすぎていく。

 当然、そのスキを見逃すはずもない。私はフォースをみなぎらせ、念のため脳無の身体で手の男の視線を遮らせた状態で相手の背中に向け技を放つ。

 

「――むんっ!」

 

 その瞬間、脳無の身体は猛烈な勢いで射出された。彼自身がすごい速度で飛び出していたところを、さらに押し出したのだから音速に達していてもおかしくないのではないかな。

 

 さらに言えば、私は少しだけずらした軌道で技を放った。結果、タカをくくっていたのかほとんど動く気配のなかった手の男に脳無が着弾し、フィールド全体が揺れた。

 同時に建材と土が派手に巻き上がり、砲弾どころかミサイルが落ちたような様子である。手の男の悲鳴が聞こえてきた。

 

「ぐああああーーッッ!?」

「生憎と、私は空中を移動できるのでね」

 

 これが、今の私がとっさに出せる最大出力。ヒーロー的に言えば、必殺技とでも言うのかな。

 ジェダイとしては「必ず殺す技」という字義が気に食わないので、そうは呼ばないが……ともかく、私の切り札の一つだ。

 

 とはいえ、その実態はとてもシンプルなのだが。フォースで強化した“個性”……で、増幅したフォース……で、重ねて強化した“個性”……で、さらに何倍にも増幅されたただのフォースプッシュだからな。まあ、「スーパーフォースプッシュ」とでも名付けておこうか。

 ただ恐らく、これでもアナキンの全力には届いていない。天井は遠い。

 

 ……と、それはともかく。

 

 このうちに、マスター・イレイザーヘッドと合流をはかる。せっかく入り口付近から離れ、広場付近まで出てきたのだ。少しでも彼の助けになりたい。

 

 幸い、ここにいるものたちは大したことのないものばかりだ。先程の脳無着弾に気を取られてばかりで、棒立ちも同然。簡単に制圧できる。

 マスターはすぐに気を取り直して制圧に動いていたのだから、襲ってきた側に言い訳はできないだろう。日頃から鍛え備えている人間と、そうでない人間の差だ。

 

 そうして私も五人ほどの意識を刈り取りつつ移動して、マスターの隣に着地する。

 

「マスター、事後承諾で申し訳ありませんが、戦闘許可をいただきたく」

「お前……わざとこっちに突っ込んできたな?」

「脳無と呼ばれるあの巨漢を凌ぐ方法が、他に思いつきませんでした」

 

 横目でにらんできたイレイザーヘッドのほうを見ずに答える。彼を軽んじているわけではなく、まだ脳無が健在だからだ。あれから一秒たりとて目を離すわけにはいかない。

 

 ……と言いつつ、今の言い分はマスター・クワイ=ガン門下みたいだったなと自分でも思う。私も、アナキンの影響から無関係ではいられないということか……。

 

 いや、まあ、それはともかく……だ。やはりまだ終わりではないらしい。

 

「……マスター、左へ跳んでください!」

 

 砂埃の中から脳無が勢いよく飛び出してきた。見たところまったく堪えていないどころか、無傷。兵器というか、化け物だな……!

 

 そんな相手に、私は右に跳びながらローブを広げた。こちらに移動しながら脱いでいたものだ。そんな余裕ができるくらい、この辺りにいるものたちは弱かった。

 

「増栄……お前あとで職員室」

「……わかりました」

 

 私とは真反対に跳んだマスター・イレイザーヘッドの声に一瞬ひるみつつも、私は広げたローブで脳無の視界を覆った。

 いかに化け物じみた兵器とはいえ、外観は極めて人に近しい。私とヒミコの位置関係から動けなくなった当たり、外部情報の獲得は視覚に頼っていると見ていい。 ならば、視界を奪ってしまおうということだ。たとえそれで稼げる時間がごくわずかであったとしても、今はそれでいい。

 

 私はこのわずかな間に、腰に向けてフォースプルを使う。そこに佩いていたライトセーバーを引き寄せ起動すると、顔の近くまで持ち上げ構えた。

 

 同時に、私の全能力を一時増幅する。これによって訪れる無駄な全能感が好ましくなく、また極めて消耗の激しい行為な上に、効果が切れた直後の虚脱感や喪失感がすさまじいためやりたくなかったが……ここを凌ぐためにはやるしかない。

 

 そして次の瞬間、眼前に破壊力そのものとも言うべき拳が迫ってきた。

 

 それを横に跳び回避し、すぐさま“個性”を併用して空中を泳ぐ。空気を瞬間的に増幅することで推進力を得ているのだ。つまり仕組みとしては、先日の戦闘訓練でバクゴーがやっていた空中機動と似たようなものである。

 

 ただ、私の“個性”は身体のどこかに触れてさえいれば発動可能なので、彼よりも自由度は高いだろう。本来ならどこでもいいとはいえ身体に直接触れていないと増幅はできないが、このジェダイ装束は私の髪由来の繊維でできている。ゆえに、私はこれをまとっているときに限り服越しに触れているものも増幅できるのだ。

 これを用いれば、周りに足場がなくともグランドマスター・ヨーダさながらの挙動を実現できる。

 

 そうして脳無の攻撃を次々かいくぐりながらも、少しずつ肉薄。挙動のすべてに必殺の威力が込められている上、風圧を伴っているため、近づくことは容易ではないが……それでも小さい身体もたまには役に立つ。何せ相手側も攻撃を当てにくい。

 

 近づいてはライトセーバーを振るい、脳無の身体を打ち据えては離れを繰り返す。……が、やはりと言うべきか。これでは動きを鈍らせるどころか、攻撃を受けたことすら感じさせられないらしい。案外、痛覚なども既にないのかもしれないが……。

 

 しかし、アタロは激しく動くことが特徴的なフォームなため、これ以上時間をかけると私が不利だ。ならば、躊躇している場合ではなさそうだ。

 

 “個性”によって、セーバーの出力を増幅する。セーバーがかすかに放つ音が大きくなり、本来の切れ味を取り戻した。

 

「……バカな。こいつ、素の身体能力でオールマイト並みか……!?」

 

 途中、マスターのそんなつぶやきが聞こえた。

 私と脳無の攻防の中、彼はずっと“個性”を発動して脳無に干渉し続けていた。にもかかわらず、脳無の動きは一切衰えることがなかった。これはつまり、脳無は“個性”なしにこの身体能力を発揮しているということになる。

 

 イレイザーヘッドというヒーローの“個性”は、今のこの星の社会では極めて強力だ。しかし“個性”に頼ることなく最初から強い相手には、ほとんど意味をなさないものでもある。“個性”を消しても強い相手と対峙するとき、彼は無個性に等しいのだ。

 

 だから彼は、高速な私と脳無の戦いにほとんど介入できない。教師として、生徒に任せるしかない状況を口惜しく思っていることが伝わってくる。

 それでも諦めることなく、脳無のスキを探り、効果的なタイミングで妨害してくれている。おかげで私もだいぶやりやすい。さすがと言うべきだろう。彼は間違いなく、一級のヒーローだ。

 

「マスター!」

 

 そんな彼に呼びかけながら、一瞬だけテレパシーを送る。フォースによって明確化されたイメージが、彼に届いたはずだ。

 彼ならこれで通じるはず。そう信じて、私は一気に前へ出る。

 

 脳無が真正面から迎え撃った。裏拳の要領で、私を払いのけるようにして吹き飛ばそうと。

 

 だがその脳無の足に、イレイザーヘッドの捕縛布が絡みついた。

 もちろん、それで脳無がとまるはずもない。だがイレイザーヘッドの目的は、これで攻撃をとめることではない。足に巻き付けた捕縛布を全力で引っ張り、体勢そのものを崩すことが狙いだ。

 

 脳無の巨体からして、相当な重量があるはず。対するイレイザーヘッドの体格はいいが、一般的な人間の域を超えることはない。崩すだけでも一苦労だろう。

 しかし、苦労であるなら不可能ではない。彼はプロであり、また強く光明面に生きる男だ。多少の困難など、容易に乗り越えて見せるはず。

 

 そう信じた私の目は正しかった。イレイザーヘッドは確かに脳無の体勢を崩し、その攻撃の勢いを削ぐことに成功したのだ。

 もちろん、脳無の動きが阻害された時間は長くない。攻撃が弱まったと言っても依然強力で、直撃を受ければ小さな私の身体はひとたまりもないだろう。

 

 だがこの一瞬でよかった。それだけでよかったのだ。

 

「はああぁぁっ!」

 

 その一瞬だけあれば、私がライトセーバーを振るうには十分すぎた。

 オレンジ色の輝きが一閃し、脳無の身体が地面に倒れ込む。その直前に後ろへ跳んで巻き込まれることを回避した私は、着地と同時に深く息を吐いた。

 

 このタイミングで全能力の増幅が切れ、身体が一気に重くなる。

 

「何をした?」

「はあ、はあ……脚の、腱を、斬りました。いかに……あの脳無なるものが、強力であっても、人体同様の構造をしている以上は、もう、動けないでしょう……」

「合理的だな。よくやった」

 

 そう言いつつも、警戒を緩めないマスターである。私も同様だが、短時間で激しく動きすぎて息が切れている。額を伝う汗を袖で拭いながら、呼吸を整えるので精いっぱいだ。

 

「なんだそれ……生徒のくせに脳無と張り合うとか……とんだチートだ……!」

 

 そこに、ふらり、と手の男が現れた。脳無が着弾したのは効いたのか、先ほどまでと違い衣服はボロボロ。足も引きずりながらで、身体のあちこちにも怪我が見て取れる。その様子からいって直撃はしなかったようだが……それでもなお目に宿る狂気は健在だ。

 

 イレイザーヘッドが、それから私を守るように位置を変える。

 

「おい脳無何してる! とっとと起きろ! あいつらを殺せ!」

 

 男が苛立ちを隠そうともせず、命令を下す。

 だが、脳無が立ち上がることはなかった。立ち上がろうともがいているが、あの巨体を支えるための部位が欠損しているのだ。もがくことしかできないでいる。

 

「クソッ、なんでだ!? なんで動かない!」

「脚の腱を斬られたんだ、そりゃ立てねえだろ」

 

 いきり立つ男に、イレイザーヘッドが冷たく言い放つ。

 それから彼は、渋々という態度を隠さず声をかけてきた。

 

「……まだ周りに雑魚は残ってやがるな。おい、やれるか」

「三下、程度で、あれば……」

「……なら、癪だが戦闘許可を出してやる。だから親玉は任せて下がってろ」

「はい、マスター」

 

 そして彼は、捕縛布を操りながら前へ飛び出した。ざわりと彼の髪が逆立つ。“個性”が発動した証拠だ。

 手の男は“個性”を封じられ、真っ向勝負を強いられる。だが激昂していて精神が乱れている……しかも怪我だらけの今の男では、イレイザーヘッドの相手はあまりにも荷が重いというもの。

 それでもしぶとく捕まることはかろうじて防いでいるようだが、まったく相手をとらえられていない。倒されるのも時間の問題だろう。

 

「く……っ! くそっ、くそっ!」

 

 男の怨嗟を聞き流しながら、私は周囲に気を配る。

 今まで私たちにまったくついてこれていなかったため、言及しなかったが……周りにはまだ十人ほどの敵が健在である。だが、先ほどの戦いを目の前で見てしまったからか、全員すっかり委縮してしまっているようだ。

 

「念のため聞くが。投降するつもりは?」

「う……うるせええぇぇーー!!」

「ガキ一人がなんだってんだ!!」

「バカ野郎お前俺はやるぞお前!!」

 

 だが、私がセーバーの切っ先を掲げながら問うたところ、彼らはいきり立って襲い掛かってきた。

 

 やれやれ。追い詰められた三下の行動は、銀河が違えど変わらないということか。

 

「カッ!?」

「げふっ」

「おご……っ」

 

 アタロで跳び回りながら、全員のうなじ、もしくは鳩尾にセーバーを叩き込んで制圧完了だ。この程度の相手であれば、これだけ消耗していてもなんとかなる。

 

 ちなみに、先ほど脳無を斬ったときのセーバー出力の増幅はごく短時間のものだ。ゆえに、三下を制圧したときは既に光る棒レベルになっていた。誰も殺してはいないので、安心してほしい。

 

「さて……あとは……」

 

 セーバーをしまいながらも、私はこの施設の入り口のほうへ目を向ける。敵にはもはや逆転の目はないとは思うが、あの靄の男が戻ってきたら逃げられる可能性は十分ある。あちらのほうは気にかけておかないと……。

 

 そう、思っていたときだ。

 フォースがざわめき、悪寒が奔った。直後に訪れる悪い未来の映像が脳裏に明確に映し出され、私の全身が粟立つ。

 

 慌ててフォースを駆使して、マスターの身体を引き寄せようとした……その直前だった。

 

 起き上がった脳無が、マスターの身体を殴り飛ばしたのは。彼の身体が、まるで紙切れのように地面を転がっていく――。

 




ようやくクワイ=ガン門下の自覚ができてきた主人公。これにはアナキンもニッコリ。

ちなみに、空気を瞬間的に一時増幅して推進力を得る方法。
自分のフォースを伸ばしたところでも増幅は発動可能なので、やろうと思えば特別製の服に頼らなくてもできるんですが、毎回フォースと個性を組み合わせて場所を整えて……とかやってると戦闘中とか大変頭の中がせわしないことになります。
なのでそこは道具で補おうという判断ですね。一応、全裸になればそこらへん気にせず使えますが、まあ、そんなことしたらトガちゃんどころか女性陣が黙ってないですね。
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