銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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18.USJ事件 6

 ぴしり、とかすかな音が聞こえた気がした。トドロキが作る氷に似た、しかし何かが致命的に違う音。

 

 どこから? 手の男が触れた地面からだ。それがことの起こり。

 

 次の瞬間だ。そこを基点にして、地面が崩れ始めた。しかも崩壊は広がっていき、地割れとなってこちらにまで伝ってくるではないか!

 私は今までやつが“個性”を使うところを見る機会がなかったが、こんな凶悪な“個性”だったとは……!

 

「く……させるか!」

 

 すんでのところでマスター・イレイザーヘッドの抹消が間に合い、攻撃がこちらに届くことはなかったが……今なお地面に手を置き続けている男にこれ以上させないためには、こちらに抹消を使い続けるしかないだろう。

 となれば、フリーとなった靄の男がワープゲートを使えるようになるわけで。

 

「ホンットかっこいいなぁ、イレイザーヘッド……! けど、あんたの相手はもうしない」

 

 彼らは広げられた黒い靄の中へと悠々と消えていく。

 

「逃がすものか……!」

 

 私はとっさに、彼らに向けてフォースプルをかけた。ヒミコも察してくれて、同時に動いてくれたが……。

 

「……!? そんなバカな!?」

「うそ、なんでフォースが!?」

 

 私たちは同時に驚いた。

 

 黒い靄の向こうに、フォースの気配があったのだ。男たちを引き寄せようとする私たちに対抗する形で、逆方向からのフォースプルがかかっている。

 それも、相当に強力なものだ。私が限界まで消耗しているとはいえ、こちらは二人がかりだというのに!

 

「脳無……最後の命令だ……」

 

 そんな中、手の男の声が響く。

 

()()()()()()()()()!」

 

 下された命令は、最悪のものだった。

 

 パキリ、と氷が砕ける音が鳴る。脳無の身体が氷ごと砕ける音だ。

 

「……ッ、お前らこの場から離れろ! 今すぐにだ!」

 

 その瞬間、マスターが叫んだ。

 

 だが生徒たちが動くよりも早く、脳無の砕けた身体がみるみるうちに治り始める。

 ()()()()()()()()()()()。これには全員が顔を引きつらせて後ずさった。

 

 その再生自体は、直後にマスターが抹消をかけたことで中断された。身体が治り切らなかった脳無は地響きを立てながら倒れたが、その状態でやたらめったら腕を振るい、暴れ続けているのだからたちが悪い。

 

「ちょちょちょ、逃げようぜ! あれマジでやばいやつ!」

「お、おお、そうだな! 増栄、走れるか!?」

「私が運びます! 切島くんも早く!」

 

 そうして私はヒミコに横抱きにされ、彼女に連れられる形で距離を取る。

 

 やつの膂力が素でオールマイト並みであることは、既に周知の事実。どれほど離れても離れすぎと言うことはない。

 何せ、立てない状態で無造作に動かされた拳が地面を叩くだけで、そこに小さいながらもクレーターができるのだ。数十メートル程度など、詰めるまで一秒もかかるまい。

 

 しかし、マスターの抹消は長く続けることはできない。特に、全身におびただしい怪我を負っている今は。

 

 事実、すぐに脳無の再生が再開された。みるみるうちに元通りになっていく身体をいからせて、脳無が私たちに襲い掛かろうとする。対象は……私か!

 既に消耗著しいが……仕方ない! フォースプッシュで対処する!

 

 そう決めた私に同期するように、ヒミコも同じ動きを取る。そうして二人のフォースが脳無の動きを阻害するが……とめきれない! 拳が迫ってくる!

 

「いい加減止まりやがれ……ッ!」

 

 その拳を阻む形で、分厚い氷壁が現れた。トドロキの氷結だ。

 

 これを脳無は、まるでないものとばかりにあっさりと砕いてくれたが……勢いがさらに削がれたことは間違いない。

 

「さあああせるかあああぁぁぁ!!」

 

 そしてそこに、キリシマが全身を硬化させて私たちをかばうように立ちはだかる。彼はその硬い身体で、かなり弱まったとはいえ脳無の一撃を正面から受け止めてみせたのだ。

 

「増栄さん! トガさん! 二人から離れろ……! SMAAAAASH!!」

 

 さらに、殴りかかってきた脳無の横から、ミドリヤが強烈な拳を叩き込んだ。まるで戦艦の砲撃のような音が鳴り響き、脳無が吹っ飛……ばない!?

 

「!? 効いて……ない……!? そんな……!?」

「嘘だろ!? 緑谷のパンチで吹っ飛ばないとかどうなってんだ!?」

 

 ミドリヤの“個性”は、デメリットは大きいが極めて強大なものだ。その一撃を受けて何事もないだと!? まさか、超回復以外にも何か“個性”を持っているのか!?

 

「どけェクソデクゥ!!」

 

 そこに今度はバクゴーの爆破だ。先ほどの絨毯爆撃とは違う、範囲を絞って威力を上げたもの。恐らく、戦闘訓練でミドリヤに放ってみせた籠手からの一撃だろう。

 これにはさすがの脳無もバランスを崩して転んだ。私たちにも爆風が来たが、そこはキリシマが図らずも再び盾となってくれた。

 

 ……脳無、これで転んだ程度で済むのか。これ、下手したら脳無一体で銀河共和国の軍隊を相手取れるのではないか?

 

「ありがとうみんな、助かった……」

「……おう」

「気にすんな! 無事で何よりだぜ!」

「テメェを助けたわけじゃねぇ! テメェは俺が殺すんだからなァ!」

 

 まあバクゴーは相変わらずのようだが……殺害宣言とは裏腹に、暗黒面の気配がない。言葉が悪いだけで、いずれ私に勝つという宣言のようなものらしい。

 

 だが何はともあれ、このスキに私たちは戦線離脱を試みる。どうあがいてもすぐに追いつかれそうではあるし……事実、やつはすぐに態勢を整えて攻撃を再開しようとしたが……フォースが告げている。()()()()()

 

「むううぅぅん!!」

 

 特徴的な金髪のたてがみをなびかせて、筋骨隆々の巨漢が割り込んできた。

 

「オールマイト!」

「やったー勝ったー!!」

 

 そう、マスター・オールマイトだった。彼はその強大な力でもって、真正面から脳無と組み合ったのである。

 あれほど荒れ狂っていた脳無の動きが、たった一人に押さえ込まれてぴたりととまっていた。

 

「すまない、みんな……! だがもう大丈夫だ! なぜって!? 私が来た!!」

 

 そして彼は、敵を目の前にしながら言ってのけた。

 

 やはり、この星ではオールマイトの存在は大きいのだろう。今まで何十年にも渡って繰り返されてきた「私が来た」は、間違いなくこの場の絶望的な空気を完全に消し飛ばすだけの力があった。

 同時に空気も弛緩したが……すぐにイレイザーヘッドがこちらに向け声を張り上げる。

 

「お前ら何してる……! 今のうちにさっさと避難しろ……!」

「……お、おおお、そ、そうだぜ相澤先生の言う通りだ!」

「そうね。先生がたの邪魔になってはいけないわ。できるだけ早く下がりましょ?」

「う、うん……でも……」

「下がるならテメェらだけで下がってな……!」

「俺も残る。オールマイトは無理でも、相澤先生のサポートならできるはずだ」

「正気か爆豪轟ィ!?」

「峰田の言う通りだ……お前ら、さっさと避難しろ……!」

「……俺の力なら役に立てるはずです。現にさっきは……」

「それはそれ、これはこれだ!」

 

 下がろうとしないバクゴーやトドロキにミネタが驚愕しているが、この場合は二人のほうが普通ではない。イレイザーヘッドもこれには声を荒らげる。

 

 他方、ミドリヤは何やら普通以上にオールマイトを案じているようだが……何? 彼に時間がない? どういうことだ?

 

「ぐ……! ぬ、ぬぬぬぬ……! 力強いな君!」

「そいつは“個性”抜きでその力です、気ィ抜かないで! あと死ぬまで暴れ続けるみたいなんで、どっか遠くに吹っ飛ばすのだけはナシで!」

「マジか!? HAHAHAそいつは……なんとも越え甲斐のある壁だな……!」

 

 力の入らない腕で必死にヒミコの首にすがりつきながら、釣られるように戦いに目を向ける。そこでは、相変わらずオールマイトと脳無ががっぷり四つに組み合って、拮抗状態だ。

 

「……!?」

 

 だが、私は見た。見てしまった。

 ただ組み合っているだけの状態のオールマイトの口から、血がこぼれ出たところを。

 

 まさか。

 まさか?

 

 彼がいつも何かしら焦っているのは、そういうことなのか?

 

 まさか……まさか、彼は既に、戦える時間が残されていないのか!?

 

「せぇいッ!」

「うわっ!?」

 

 だが直後、野太い掛け声が響いた。内心の焦りなど少しも表に出すことなく、オールマイトが脳無の足を盛大に刈ったところだった。見事な大外刈りである。

 

「どうした? ちょいと踏ん張りが足りてないんじゃあないか!?」

 

 不敵に笑みを浮かべながら、オールマイトが言う。手をくいと動かし、「COME ON!!」と挑発すら。

 

 対して、地面を転がった脳無。だがすぐに体勢を整えると、猛烈な速度で走り出す。

 さながら暴走スピーダーのようだ。だが……私が戦ったときより明らかに遅い。

 

「なるほどこりゃ確かに私並かも……だが!」

 

 オールマイトのパンチが放たれる。繰り出された敵のパンチに合わせる形でだ。

 それらが真正面からぶつかり合い、凄まじい音と衝撃が周囲に放たれる。再び拮抗……するかと思われた。

 

 だが現実は違った。脳無だけが吹き飛ばされたのである。オールマイトのパンチが上回ったのだ。

 

 やはり、脳無の勢いは一時ほどではない。あれが今の全力なのだとしたら、どうやら私がやったことは無意味ではなかったようだ。巡り巡ってオールマイトの役に立っているのなら、散々に敵の四肢を切り落とし続けた甲斐があったというものである。

 

「速いだけだ!  技がない! それじゃあこの私は倒せないぜ!」

 

 そしてオールマイトはそのまま突進した。そのまま吹き飛んでいる最中の脳無に追いつくと、

 

「行くぞ! DETROIT……SMASH!!」

 

 その身体を、猛然と殴りつけた。

 空中にいた脳無は当然踏ん張りも何もなく、さらに吹き飛ばされていく。生徒たちの歓声が上がる。バクゴーとトドロキは、少しでも得るものはないかと目を皿のようにしているようだが。

 

 しかし、オールマイトがいまだ油断なく身構えている姿を見て、みな少しずつ静かになった。

 

「……今、おかしかったぞ。手ごたえがなかった。相澤くん! 彼の“個性”ってなんだい!?」

「『超回復』……の、はずですが……さっき緑谷の攻撃もほとんど堪えてませんでした。ダメージを抑える何かもあるかと……」

「やっぱりか! 殴った感触がおかしかった! 当たった瞬間から、衝撃が消えていくような……そんな……!」

 

 実際、そんな不穏なやりとりが交わされていた。

 やはり、先ほどの懸念は間違っていなかったようだ。“個性”が二つあることは、恐らくまず間違いないだろう。

 

「……あれの、“個性”は……一つでは、ない、ようだな……」

「は、マジか!? そんなことあり得るのか!?」

「んなわけねぇ……普通“個性”は一つだ……! 半分野郎の“個性”にしたって、あくまで二つの効果がある一つの“個性”ってだけのはずだ……!」

 

 その可能性をバクゴーが否定したそのとき、脳無が猛然と戻って来た。相変わらず無傷であり、本当にそろそろ勘弁してほしい。

 

 しかし、だからといって諦めようとはならない。

 オールマイトもまた同様。彼は申し訳なさそうに、イレイザーヘッドに目配せした。

 

「うーん、タフネス! まあでも、そういう防御系の“個性”があるなら……」

「ええ……任せてください。攻撃に合わせます……!」

「無茶しないでね相澤くん!」

 

 そこから始まった戦いは、息つく間もない怒涛の展開であった。ただし、内容は焼き直しばかりだ。

 決して倒れることなく、何度も何度も立ち向かって来る脳無。それを撃退し続けるオールマイト。という図だ。

 

 弱っているとはいえ、脳無の力はとても一人でどうにかなるものではなかったはずだが。それでも彼は、真正面からこれを撃退し続けた。

 イレイザーヘッドが要所要所で的確に補佐していたとはいえ、まさに圧倒的である。なるほど、平和の象徴などと言われるはずだ。

 

 ただ……これはこの星の人間の癖なのだろうか。いつの間にかバクゴー、トドロキ以外も避難するそぶりを見せなくなっていて、オールマイトに注目している。

 

 いや、みんな危機感がなくなるの、少し早くないか? 私はもう動くどころか意識を保つことさえ億劫で、つまりフォースであれこれできる状態ですらないんだ。可及的速やかにこのUSJという施設を離れたいのだけれども! それは諦めたほうが良さそうか?

 

 私が気にしているのは、それだけではない。ヒーローに興味がなく、オールマイトへの憧れも欠片とて持たないヒミコでさえ、彼が来た瞬間足をとめたのだ。

 さすがに彼女が見ているのは終始私で、ずっと励ましながら治療をしてくれているのだが……それはつまり、彼女であってもオールマイトが絶対的な安全圏を確保する存在だと認識していることに他ならないだろう。

 

 どうやら、この星の住人のオールマイト信仰は相当に根深いようだ。既にヒーローとしての時間が残り少ないらしいオールマイトに、今後何かあったときのことが心配でならない。

 

 確かに、オールマイトの姿は本当に時間が残されていないのかと疑問に思ってしまうほど圧倒的だったが……彼から少しずつ焦りの感情が大きくなっていくのが見て取れる辺り、恐らく本当なのだろうな……。

 

 どういう意味で彼に時間が少ないのかは、わからないが……私の“個性”ならば、あるいは。

 

 そう思ったときだった。どこからともなく飛来した銃弾が、脳無の身体を貫いた。

 

 どうやら、ヒーローたちが到着したらしい。なるほど、オールマイトは先遣か。

 

「みんな来てくれたか……! ヘイミッドナイト! 手を貸してくれるかい!」

「ナンバーワンヒーローのお呼びとあれば、喜んで」

 

 ヒーローたちの中から、妙齢の女性がこちらに駆けてくる。18禁ヒーロー、ミッドナイト。“個性”によって相手を眠らせることのできる人物だ。

 

 なるほど、彼女の力であれば脳無といえど瞬殺であろう。何せ、彼女の“個性”は匂いによって引き起こされる。知っていれば対策は難しくないが、自我のない脳無にそれは難しかろう。

 

 問題は脳無が死体であり、そんな相手に睡眠が効くのかということだが……それは杞憂であった。

 ミッドナイトが到着してすぐに脳無は無力化されたのである。イレイザーヘッドが脳無の“個性”を消したところでオールマイトが拘束し、ミッドナイトが……という流れだ。

 まさに流れるようなスムーズさで、彼らの実力の高さがうかがえる姿であった。私以外も、それぞれ思うところがあったように見える。

 

 最後に脳無は、セメントス……セメントを操る”個性”のヒーローによって、首だけを出した状態で厳重にコンクリート詰めにされ、搬出されていった。

 

「や……っと……終わった、か……」

「コトちゃん? コトちゃん!!」

 

 そしてその様子を見届けたところで、私はヒミコの腕の中で意識を失ったのだった。

 




オールマイトの「私が来た」にノーリアクションのトガちゃん。
でもさすがに、彼が来た=この場所はもう安全という認識くらいはあると思うんですよ。何せ根がヴィラン気質とはいえ、彼女もあの世界で生まれ育った生粋のヒロアカ人ですし。
というわけで、かなり終盤まで「その場で治療開始」か「取り乱して外に向かう」か悩みましたが、前者の形でUSJ事件を終わらせることとしました。

ただ書いてるボクが言うのもなんですけど、ヒロインより主人公が先にお姫様抱っこされることになるとは思ってなかったですね・・・。

というわけで次回、EP2最終回。
皆さん気になってるだろう点についてもそこで。
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