銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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お待たせしました。
新章、開始いたします。


EPISODE Ⅲ ジェダイの産声
1.舞台に上がる


 学校で目が覚めた日は、臨時休校になっていたらしい。事件の後始末で教師陣は総出で動いていて授業どころではなかっただろうし、無理もない。

 この日私はヒミコと食事を摂ったあと、やって来た警察の方から事情聴取を受けて帰宅した。

 

 そして帰宅後も、ヒーロー公安委員会同席の事情聴取を受ける羽目になった。

 

 まあ、私たちと同様フォースを使うヴィランの可能性が浮上した以上、仕方ないだろう。謎の超能力ことフォースは、表向き私も状況に応じて都度使えるようにしていることになっているので、その手の話は公安も一枚噛んでくるのだろう。

 

「超能力者を勝手に増やしたりしていないでしょうね?」

「誓って一切ありません」

 

 と、そんな腹の探り合いもあったがね。

 

 ヒミコ? 彼女は自発的にフォースに目覚めたのであって、私が使えるようにしたわけではない。

 

 それはともかく、だとするとどうやってフォースユーザーが生まれたのか、謎だ。この星はフォースが薄く、ユーザーどころかセンシティブすらろくにいないのだが。

 いや、私にとっては謎でも、委員会や警察は何か情報をつかんでいる可能性はあるだろうけれども。その場合、一応は一般人である私がその何かを知る由はないので、これ以上はなんともできない。

 

 とりあえず、アナキンには私たち以外のフォースユーザーがいるのかどうか聞いたのだが……「いる」という答えがあっさりと返ってきた。

 そういえば、彼はフォースが薄いとは言ったがフォースユーザーが皆無とは言わなかった。これについては私の早合点だったわけだ。

 

『いつ気づくかなと思っていたが、思っていたより遅かったな』

 

 彼はそう言って笑ってくれたよ……。

 

 ただ、実戦レベルで使用できる域にあるものはほとんどいないらしい。その数少ない例外が、先日の襲撃犯の中にいる可能性が高いことは問題だが……この星にも多少なりともフォースユーザーがいるのであれば、ジェダイを復興する上でそうした人物を探したいところだ。

 

 何度も言っているが、私の”個性”は代償として私の栄養素を消費する。フォースユーザー足るほどにまでミディ=クロリアンを永続増幅するとなると消耗は激しく、即座に栄養失調に陥るだろう。最悪餓死する。

 毎回そんなことをしていては、そう遠くない日に身体にガタが来るだろう。生まれつきのフォースユーザーになり得る人物がいるのであれば、できる限りそういう人物をスカウトするほうが安全なはずだ。

 

 とはいえ、アナキンは死者として過度な肩入れをしないと以前に明言しており、今回もこれ以上のことは教えてくれなかった。もどかしくはあるが、彼に頼り切ることも確かに問題だろう。

 

 なので、この星におけるフォース関係の情報は自力で集めるしかない。とりあえず、情報収集用のドロイドを造ろう。

 そう決めて、設計図を引……こうとしたところで、今日は安静にしろとヒミコに怒られ、ベッドに引きずり込まれた。

 

 ともあれそういうわけで、その日は過ぎて臨時休校明け。

 登校したところみなに大層心配されてしまったが、私が意識を失った原因は単なる疲労と栄養失調なので、さほど大したことはなかった。むしろ昨日は食堂の食材をほとんど一人で食べ尽くせるくらいにはピンピンしていたので、私よりミドリヤのほうがよほど重傷だっただろう。

 

 マスター・イレイザーヘッドも心配だ。何せ彼が一番の重傷者だったはず。いくら驚異的な回復が可能なこの星とはいえ、昨日の今日で教師に復帰できるかどうか。

 

「おはよう」

「相澤先生復帰早ッ!!」

 

 と思っていたら、マスターは何事もなかったかのように現れた。右手はギプスで固められ布で吊っていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「先生ご無事だったのですね!」

「さすがプロだぜ……!」

 

 担任の無事? な姿にクラス全体がざわめくが、心配された当の本人がやかましいと一蹴。ぎろりと相変わらずの”個性”込みのにらみを受けて、即座に教室内が静まった。

 

「まあ、何はともあれ全員無事で何よりだ。だが、戦いはまだ終わっちゃいねぇ」

 

 その彼が、随分と含みを持たせて言う。

 その内容に、またしてもクラスがざわめき始めた。もしやまだヴィランがいるのかと、ミネタ辺りは怯えていたが……安心していいぞ。マスターにそんなつもりはないから。むしろこれは彼のお茶目だから。

 

「雄英体育祭が迫っている!」

 

 途端、クラスがどっと湧いた。毎度ながら、私とヒミコ以外はだが。

 

***

 

 体育祭という学校イベントは、さすがに私でも理解している。一応短くも義務教育には通ったのだ。経験だってある。

 

 だが、雄英高校の体育祭はそれとは一線を画したものだ。なぜならマスメディアが多数入り、逐一配信がなされるのだ。しかもそれが惑星規模で視聴されるという人気のコンテンツと化している。

 またそれだけにとどまらず、現役のヒーローたちにとってはスカウトのための場でもあるという。つまりやがて卒業してヒーローとなる優秀な生徒を、今のうちに確保しておこうという魂胆だ。この国で言うと、青田買いと言うのだったかな?

 

 つまりそれは、ヒーローを目指す生徒にとっては己の存在をアピールする場でもある、ということでもある。実際、ここでの活躍に応じて今後校外学習などに差がついていくという。

 

 だからイレイザーヘッドから体育祭の話が出たあとは、全員が何かしらの形で発奮していた。彼らは将来のためにここで精一杯アピールをし、より高みを目指すのだ。

 

 まあ、中にはただ勝つという気概を昂らせ、暗黒面と光明面の間を高速で反復横跳びしているバクゴーや、どういうわけか急に憎悪をたぎらせ始めたトドロキなどもいるが。この辺りのメンツは例外だろう。

 大体の生徒は純粋にやる気を昂らせているのであるが……。

 

「出場辞退はできないのだろうか」

『増栄(理波)ちゃん(さん)正気(ですか)!?』

 

 昼。食堂で女性陣(ウララカはミドリヤたちといるのでこちらにはいない)と食事をしているときにそうこぼしたところ、ヒミコ以外の全員から正気を疑われることとなった。

 あと、少し離れたところからバクゴーの怒気が膨れ上がったのは、絶対聞こえていたからだろうな……。

 

 だが生憎と正気である。

 

「私は目立つために鍛えているのではない。この力はこの星の自由と正義のためのものだ。大衆向けの娯楽として消費されることや、いたずらに力をひけらかすことは極めて不本意なのだ」

 

 私としてはこれに尽きる。この星の歴史的に言うならば、ローマ帝国のサーカスにはなりたくないとでも言えばいいだろうか。

 

 私はジェダイだ。ジェダイの力は調和のために、社会の安定のために使われるべきもの。

 それを、マスメディアを入れて全世界に中継する? 強さを示すために使う? 冗談ではない。

 

「……気持ちはわからなくはないわ。でもここでプロの目に留まらないと、今後に響いてくるわ?」

「承知の上だ。そもそもの話、私はヒーロー免許がほしいだけでヒーローになりたいわけではないからな」

『え……っ』

 

 茶をすすりながらツユちゃんに答えたら、今度は場が凍りついた。凍っていないのは、事情を知っているヒミコだけである。

 

 やや間を置いて、代表するようにヤオヨロズが問うてきた。

 

「な、なぜに……そのような……?」

「私はこの星の自由と正義の守護者たらんとするもの。そこで報酬を求めるつもりはないし、大衆に迎合した過度な知名度も欲していない。それだけのことだよ」

「……まるで超常黎明期のヴィジランテのようなことを仰るのですね」

「ああ……それが近いかもしれないな。とはいえ、免許なしにやったら本当にただのヴィジランテ、犯罪者だ。だから免許自体は取りたいわけだ」

 

 私が最終的に目指しているものは、この星でのジェダイ復興だ。つまりヒーローという概念のみならず、政府……というよりも国家という枠組みからも独立した惑星規模の治安維持組織なので、ヒーロー免許すらいずれは不要になるかもしれないがね。

 

 まあ何はともあれ、私の目指すものが富と名声ではなくただ人助けのみである以上、それ以外のものはさして必要ない。それは理解してもらえたようだ。

 

「……でも、学校的に許されるかどうかは別じゃない?」

「まあ、確かに」

 

 この国はそういう点で、全体主義的なところがあると思う。

 

「それにウチとしてはさ、増栄と競ってみたいなって思うわけだけど……」

「ケロケロ」

「……あー……」

 

 確かに、鍛えた力を託す相手を見つけるという点では、参加する意義があるかもしれない。ジェダイも、力をひけらかすことは禁じれど競い合うことは否定しなかった。

 雄英の体育祭は学年ごとの総当たりなので、ヒーロー科以外の生徒と顔を合わせる機会でもあるし……。

 

「ほらコトちゃん。みんなもこう言ってるんだし、少しくらいがんばろ?」

「ん……うん」

 

 結局、最後はヒミコに言いくるめられるようにして頷くことになったわけだが……。

 そのヒミコが、誰よりもヒーローを目指していないことも、体育祭をただの祭りとしか思っていないことも、言わないほうがいいのだろうな。

 

 というか、彼女は親御さんの目につくところで活躍するのはまずいのではないだろうか。いつものように笑うことすら、親御さんは禁止していたからな。

 それでも間近で私を見たいがために、欠席の選択肢が浮かびもしない点はさすがと言わざるを得ない。

 

***

 

 その日の放課後、私はイレイザーヘッドに職員室へ呼び出された。

 先日の事件の際、予告されていたので思うところはない。廊下が何やら騒がしかったが、それは置いておく。

 

 で、職員室に来たわけだが……その……用務員用の席で身を隠すように事務作業をしている、骸骨のような男性を見て私は絶句した。

 

 あれ、マスター・オールマイトだ。間違いない。フォースがそう言っている。同じ気配だ。

 どういうことだろうか。もしや、彼に時間があまり残されていないという話はこういうことだったのか?

 

「来たか」

 

 と、そこにイレイザーヘッドが来て、私は思考を遮られた。

 

「……あの、マスター? 本題の前に一つお聞きしたいのですが……」

「なんだ。手短に話せ」

 

 相変わらず合理性の鬼である。だが話は早いので、こういうときは助かる。

 なので私は彼の耳に顔を寄せ、極力声を抑えて訊ねることにした。

 

「あの、あそこの男性は、マスター・オールマイトですよね?」

「……ッ!」

 

 瞬間、彼は一瞬すごく険しい顔をした。なんなら”個性”も発動していた。

 

 だがすぐにいつもの様子に戻ると、淡々と話を打ち切った。

 

「……他言は無用だ。いいな」

「……はい、わかりました」

 

 気づいてはいけないことだったらしい。知りすぎることもときには問題だな。

 

「……ちなみに、なぜわかった」

「気配が同じですので……」

 

 そう答えたところ、深いため息で応じられた。目頭を押さえるというおまけつきである。

 カマをかけられたのではなく心を読まれたと思っている辺り、彼は私の力に対する理解が相当深い。”個性”ゆえか、目がいいのだろうなぁ。

 

「……だからあの人の席は職員室に置くべきじゃないって言ったんだ……ったく……」

 

 だが、仕事を増やしてしまったことは間違いないらしい。申し訳ない。

 

「……まあいい。それはそれだ。で、今日呼び出したのは他でもない。体育祭についてだ」

 

 おや?

 

「……先日の事件のことで、お叱りを受けるものだとばかり思っていましたが」

「それはあとでじっくりやる」

「あ、はい」

 

 やるのか……じっくりか……そうか……。

 

「で、体育祭だ。お前、その開会式で選手宣誓やれ」

「え、私がですか?」

「ああ。一年の部は、毎年ヒーロー科一般入試の首席がやることになってる。つまり今年はお前だ」

「ああ……なるほど、そういう」

「だから当日までに、なんか適当な挨拶考えとけ。なんでも構わん。ここは自由が売り文句だからな」

「はあ……。私としては、人前で必要以上に目立ちたくないのですが」

「……まあ、そうかもな。お前の”個性”じゃないほうの能力……フォースだったか? あれを人前で派手に使うと、色々あるだろうしな」

「はい、その通りです」

 

 おっと、探りを入れてきたな。

 とはいえ、あまり深い意味はないようだ。何か厄介なことに巻き込まれやしないだろうかと少し身構えてしまったが、イレイザーヘッドから感じられるものは私たちを案じる気配だけだ。

 

 となると、今回の探りはある種の交渉目的の接触だろう。あるいはその前準備か。

 つまり、私にフォースについて話させる心理的ハードルを下げさせようという考えだと思われる。

 

 イレイザーヘッドがそういう姿勢なのであれば、彼には話してもいいかもしれない。少なくとも、彼はヒーロー公安委員会よりは信用できると思うし。

 

 とはいえ、それは今ではない。話すにはまとまった時間が必要だし、マスターの側もまだ色々と早いと思っている。

 だから今は、体育祭についてだ。

 

「……まあ、お前が選手宣誓を辞退するのは勝手だ。だがそうなった場合、誰が代わりにやると思う? 爆豪だ」

「……ものすごく面倒なことになりそうですね」

 

 間違いなくなるだろう。バクゴーは最初に比べて少し丸くなったが、あくまで少しだけだ。

 

 フォース越しに見た推測だが、彼の根幹をなすものは何者にも勝つという想いだと思われる。しかもそれは、相手の全力を真っ向から打ち破っての完膚なきまでの勝利を常に求めてのこと。

 そして彼の場合、普段の態度から言って「勝つ」ということには単純な力での戦いだけでなく、人から任されるかどうか、頼られるかどうかも含まれる。

 

 そんな彼が、人から譲られた役目だと知ったら……まあ、大層怒るだろう。その後何かと絡まれる可能性も否定できない。もしそうなったら面倒以外の何物でもない。

 

 ……やれやれ、仕方ない。生活圏が重なる人間から目の敵にされ続けるくらいなら、ヒミコに一日中吸血されているほうが何倍もマシだ。

 

 ただ、これで体育祭からは逃げられないな。

 

「……本当に何でも構わないのですね? どんな内容でも問題ないと」

「ああ。なんなら一言で終わらせてもいい」

「わかりました、それならなんとかしてみましょう」

 

 そこまで言われては仕方あるまい。

 だが、そういうことは今まであまり経験がないのだよな。これはヒミコやアナキンの力を借りるべきか。

 

「んじゃ、こないだのお説教な」

「あ、はい」

 

 このあと実に手短に叱られた。まったくじっくりではなかった。彼はこんなところまで効率第一主義らしい。いや、彼としてはこれでもじっくりなのかもしれないが。

 

 まあ、あのときは色々と非常時だったからな。あまり長々と叱るわけにもいかなかったのだろう。たぶん。

 




しっかりとしたヒーロー志望として(少なくとも人助けのために)雄英のヒーロー科に来ているのに、体育祭をスルーしようとするオリ主がいるらしい。
まあ逃げられないんですけどね。
次の話で考えを改めて腹をくくります。で、その次から体育祭が始まる予定。
EP3もどうぞお付き合いいただければ幸いです。

ちなみに、今まで描写する機会がなかったのでアレですが、主人公とトガちゃんは一つのダブルベッドで一緒に寝てます。

体育祭、閑話の掲示板回の位置は

  • 時系列に合わせて本編と並行
  • 体育祭が全部終わってから一気

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