凄まじい爆音と光に思わず振り返ってしまったが、なるほど。
考えたなミドリヤ。地雷を掘り出して集めたあと、面でそれを受けられるものを利用して爆風を推進力に変えるとは。
持っていたのは、私たちが乗り捨てた仮想ヴィランの装甲の一部のようだな。バクゴーたちの攻撃ではがれ、たまたま彼の近くまで吹き飛んでいたのだろう。
だがそれをこんな咄嗟の状況で、すぐさま利用できると考える発想力は見事に尽きる。私には思いついただろうか。
そうこうしているうちに、もう一度大きな爆音が聞こえてきた。
《緑谷間髪を容れず後続妨害! なんと地雷原即クリア!》
空中という身動きを取れない状態で、手持ちの道具をうまく使って再度地雷を一斉起爆したのか。フォースユーザーでもないのによくやるものだ。
《イレイザーヘッドお前のクラスすげぇな! どういう教育してんだ!》
《俺は何もしてねぇよ。やつらが勝手に火ィつけ合ってんだろう》
うーん、イレイザーヘッド本当に慧眼である。彼は態度に反して実に生徒をよく見ているな。
と、そんなことを考えていたら、ミドリヤに並ばれた。その身体からは、見覚えのある緑色のスパークが迸っている。どうやら順調に”個性”は使いこなせるようになってきているらしい。
「追いついたよ増栄さん……!」
「驚いたな、もう使いこなせるようになったのか」
「まだ完ぺきとは言えないけど、おかげさまで! でも、それとこれとは別だから……!」
そして彼はさらにスピードを上げ、私たちを追い抜いて行った。
速度としてはさほど差がないし、全力で走っているミドリヤに対して私はまだ余裕があるので、追い抜けないことはないが……まだ第一種目だ。ここは無理せずともいいだろう。
バクゴーが聞いたらまた怒りそうだが……複数人が残るであろう予選で、上位通過が確実にもかかわらずあたら全力を出す必要性はまったく感じない。ただでさえ歩幅の関係で体力を余分に消耗する身だからな、温存できるところはしておきたい。
「コトちゃん、どうします?」
「ここまで来たらこの種目の通過は確実だ。無理はしなくていいだろう」
「だよねー」
ということで、私たちはミドリヤの猛追をスルー。特に彼に対して何かすることなく、彼がスタジアムの中へと駆け込んでいく背中を見送ったのだった。
《さァさァ序盤の展開から誰が予想できた!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男……緑谷出久の存在を!!》
プレゼントマイクの実況と大歓声に迎えられた彼は、少しだけ戸惑いながらも周囲を見渡し……そして、カメラに向けて笑って見せた。
その姿は……まだだいぶ隔たりはあるけれど、マスター・オールマイトのそれにどこか似ていて。
「……ああ、なるほど。
推測でしかないが、色々と察した。
「おめでとう、ミドリヤ。まさかあんな方法をあの場で思いつくとはな」
「あ、ありがとう……! でも、ここまで安定して来れたのは増栄さんのおかげだよ。本当、なんてお礼を言ったらいいか……」
「私は助言を少ししただけさ。そこから理論を自分なりに組み立て、己にうまく適用したのは君の実力だ。もっと誇りたまえ」
「う……うん!」
しかしなんというか、彼は涙もろいのだな。先ほどはオールマイトにどこか似ていると言ったが、この点はまったく似ていない。
《さあ続々とゴールインだ! 順位なんかは後でまとめるから、とりあえずお疲れ!》
さて、あとはこのあと誰がどの順番で来るかだが……と思いながらゲートのほうに目を向けたら、暗黒面の帳に包まれたトドロキと目が合って、思わず一瞬硬直した。
彼はすぐに私から視線をずらしてミドリヤの背中を見つめていたが……本当に君は一体何がそうも憎いというのだ。
同じ暗黒面でも、自分のふがいなさにひたすら怒りを高めているバクゴーのほうが何倍もマシだぞ。
「事案です!」
「グワーッ!! あ、でもこれはこれでアリ……!」
と思っていたら、視界の端でミネタがヒミコに蹴り飛ばされていた。
何をしたのかと聞いてみれば、ミネタは終盤ヤオヨロズの腰にずっと張り付いていたらしい。なんというか、なるほどであった。
そして唐突に理解する。つまり、たびたび彼の思考が読めなかったのは、それが性欲由来の暗黒面だからなのだろう。私にわからないはずだ。今後もあまりわかりたくないがな。
まあそれはともかく、ミネタは私より小柄だが、筋肉量などは性別相応歳相応であり、私よりも重い。そんな人間が腰にずっとついていたのだから、ヤオヨロズの結果が振るわなかったのも無理はない。
「……災難だったな」
「まったくですわ……!」
その後、彼女の衣服に張り付いたミネタの”個性”を全力ではがした。
……ミネタには、私からも一撃入れておこう。私はともかく、ヤオヨロズたちをそういう目で見ていたのであればそれは許しがたいことである。ましてやヒミコをとなれば、黙っているわけにはいくまい。
***
さて、全員がスタジアムに戻ってきて、順位が発表された。
ミドリヤが1位、私が2位、ヒミコが3位。さらにトドロキが4位、バクゴーが5位と続く。
どうやら予選通過は42位までらしい。そしてそれは、ヒーロー科によってほぼ独占されていた。
……というか、予選通過が42人という数字はひどく作為的なものを感じるな。ヒーロー科は40人しかいないのだ。ヒーロー科だけでは絶対に独占できない。
つまりこの人数設定は、ヒーロー科以外にも門戸を開いているというアピールも含まれているのだろうな。次に行う競技の人数調整もあるのだろうが……なんというか、本当にヒーロー科以外お呼びではないなこの催し。
普通科のほうからは、相応に暗黒面の気配が漂って来るのだが。その辺りの生徒のメンタルケアはどうなっているのだろう?
「さーて第二種目よ!」
しかし話はどんどん進んでいく。ミッドナイトの宣言に合わせて空中に映像が現れる。
第一種目のとき同様、ルーレットのような演出と共にそこに現れたのは……。
「……騎馬戦?」
「騎馬戦……」
「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら」
空中に浮かぶ漢字三文字に、みなが少しざわつく。
だがツユちゃんが首を傾げた直後、別の映像が投影された。そこには大きく「例」という文字と共に、騎馬を組んだ雄英教師陣が映っている。
「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが先ほどの結果に従い各自にポイントが振りあてられること!」
ああなるほど、入試のときのような方式というわけか。
ただし騎馬を誰と組むかで、各自のポイントが違ってくる。そこが色々と肝になっているのだな。
問題は、どのようにポイントが振りあてられていくかだが……。
「与えられるポイントは下から5ずつ! 42位が5ポイント、41位が10ポイントといった具合よ。そして……1位に与えられるポイントは、1000万!!」
……冗談だろう、それは。
だが間違いないようで、ミッドナイトは堂々とし続けている。
周りは一瞬だけ空気ごと凍ったが……しかし、誰もがすぐにミドリヤに視線を注いだ。
当のミドリヤは、半ば放心状態である。
「最終種目に進めるのは、上位四チーム
そしてミッドナイトは、そんな彼にまったく斟酌することなく宣言したのであった。
「……む……?」
「……すごいなぁ、出久くん」
だが、ほどなくミドリヤは立ち直った。暫定とはいえトップに立っている重圧を強く感じながらも、拳を握って決意を新たにしている。
ああ、そうだなヒミコ。彼はすごい。一年前もそうだったが、本当に。
その後はミッドナイトから、細かいルール説明が入った。制限時間やポイントを示す方法など。
中でも重要な点は、ポイントを取られようが騎馬が崩れようが、失格にならず試合に残留することだろう。さすがに騎馬が崩れているときの行動は無効らしいが、それでも騎馬すべてが最後までフィールドに居続けることになる。これでは仮にポイントを稼いだとしても、位置取りなどで失敗すると足元をすくわれかねないだろう。
初期ポイントが多くない組などは、いっそ最初にポイントを捨てて身軽になっておくというやり方もできそうだな。実際にやるかどうかはともかく、様々な作戦が考えられる。
ああそうそう、”個性”の使用はもちろん自由だ。ただしあくまで騎馬戦であるため、悪質な崩し目的の行動は一発退場となるらしい。フィールドから出る手段があるとしたらこれくらいだろうが、やるものはさすがにいないだろうな。
「それじゃ、これより十五分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
そしてミッドナイトはそう締めくくり、鞭を鳴らして合図とした。
チーム決め、か。とりあえず、考えるまでもなくヒミコとは一緒だ。
「コトちゃん」
「もちろんだ」
そしてフォースを用いての以心伝心が可能な私たちは、二人でもこの種目は十分戦える。
チーム人数は2~4人、と幅を持たせられているので、これでチーム完成、と言ってもいいのだが……。
「トガちゃーん! 増栄ちゃーん! 組もー!」
「私もー!」
「私もいいかしら?」
「増栄大人気だな……」
トドロキに合流したヤオヨロズと、ミドリヤに合流したウララカ以外のA組女子が私たちの下へ集まってきた。
男子はほとんどがバクゴーに集まっているようだが、男女できれいに分かれたな。
「そりゃーうちのクラスで強いって言ったら、増栄ちゃんか爆豪くんか轟くんだもん!」
「そうそう。その中で誰と一番組みたいかって言ったら、やっぱ増栄ちゃんだよね」
「うん。爆豪と轟も選択肢として悪いわけじゃないけど、やっぱ同性のが気楽だし……」
「何より、普段の態度見てるとどうしても躊躇しちゃうわ。特に爆豪ちゃん」
「日頃の行いというわけか……」
みなの言いように、苦笑しか出ない。これはバクゴーとトドロキ両名の今後の課題だろうなぁ。
バクゴーは言うまでもないが、トドロキも人と距離を置いていることが多いからなぁ。その辺りを不安視されたか。それでもすぐに組むメンバーを選んでいるので、コミュニケーションに難があるわけではないのだろうが。
……まあ、彼らのことはともかくだ。
人気なのはいいのだが、あいにくとチームの人数は四人までとされている。この中から二人には外れてもらわねばなるまい。
「そこは仕方ない!」
「選ばれなかったらそのときはそのとき!」
返事こそしなかったが、頷いてジローとツユちゃんも同意する。みな人間ができているなぁ。恨まれることも覚悟していたのだが。
だがそういうことなら、選ばせていただこう。
「どうする?」
「うーん……」
と、悩んでいるそぶりを見せつつ、テレパシーでヒミコと意見をやり取りする。
とはいえ、二人ともほとんど意見は固まっており、ほとんどためらうことなく答えは出た。
「じゃあ梅雨ちゃんと」
「ジローに来てもらおうかな」
「ケロ。よろしくね」
「っし。よろしく!」
そして二人がこちらに動き、
「あちゃー、ダメだったかー。まあちょっとそんな気はしてたけど」
「二人ともごめんなさいです……」
「いーのいーの。こればっかりはしょうがないもん! よっしゃ、他当たってみよう!」
もう二人が離れていくこととなった。
……心の動きからして、ヒミコはハガクレに来てほしそうではあったが。当のハガクレ本人が、お情けや友達だからというだけで選ばれることを望んでいなかったので、こういう結果になった。アシドも同様だ。
イレイザーヘッドは彼女たちの考えを合理的ではないと言うかもしれないが、こればかりは当人たちの矜持の問題だからな。それを笑うことなどできるはずもない。
ゆえに私たちは、二人とも本気で戦うことを約束し合って見送った。
そしてチームの完成をミッドナイトへ報告。その場で点数が書かれた鉢巻を受け取り、競技の開始に備えるのであった。
最初は主人公とトガちゃんだけで二人のチームにしようと思ってましたが、別にクラスメイトとの交流をしていないわけではないので、普通に声かけられるしかけられたら無視する二人ではないよなと思ってこの組み合わせになりました。
おかげで騎馬戦のチームも原作と一部が異なった上に、障害物走の順位が原作と違っている分、点数計算にめっちゃ時間取られてなかなか書き進められなかったのはもういい思い出です(遠い目
ちなみに閑話についてのアンケートですが、今回で障害物競走が終わったのでここで締め切らせていただきます。たくさんご回答いただきありがとうございました。
思ったより差がつきましたが、それでも白黒はつきましたので、次は騎馬戦ではなく閑話を投稿します。
何卒よろしくお願いいたします。
体育祭、閑話の掲示板回の位置は
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時系列に合わせて本編と並行
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体育祭が全部終わってから一気