銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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7.体育祭 騎馬戦 下

 残り時間が半分を切り、さらに少しして。バクゴーの一瞬の隙をついたモノマが鉢巻を奪ったタイミング。

 

 準備を終えた私もまた、乱戦の中へ飛び込む。

 

「『行くぞ。騎馬の誘導はヒミコに任せる』」

「『はーい!』」

「いやあんたもコレできるんかい!」

「便利ね」

「『では行ってくる!』」

 

 それだけ言葉を交わし、私は空中に飛び出した。

 全身を使って飛び上がりながら、素肌の触れている部分で空気の一時増幅を繰り返して立体的かつ高速の空中機動を開始する。

 

 先日のUSJ事件で、脳無相手に行ったものとはまた少し違うものだ。あのときはセーバーを振るっての近接戦闘が目的であったため、動きの主体はあくまでアタロであった。空中にいることも多かったが、基本的に地に足をつけて戦うための動きであったのである。

 だが今回は違う。今回は、あくまで空中で戦うための動きだ。基本的に地に足は着けず、滞空し続けることに主眼が置かれている。

 

 その主体となっているものは、ヒーローとしての父上の戦闘スタイル。彼が”個性”「重力操作」を用いて行っていた空中での動きと、それによる戦いのノウハウを私の”個性”に合わせて諸々調整するとともに、アタロの要素も組み込んだ形に仕上がっている。

 これにより、私は極めて高速、かつ変則的な空中戦が可能となった。フォースによる高度な空間把握能力がなければ不可能な挙動をするものであり、初見、しかも乱戦の中で見切ることは難しいだろう。

 

 ものになるまで何年もかかったが、根気強く訓練に付き合ってくれた上に、自らが築いた方法を惜しげもなく教えてくれた父上には感謝しかない。

 

《おおー!? 今までほとんど動かなかった増栄、ここで動いた! なんだその動き! 巨人でも殺すのかー!?》

《服を脱いだのは、この動きを効率よくやるためだな》

 

 そんな実況と解説を聞き流しながら、私はバクゴーを煽って絶好調なモノマを真上から襲う。

 

「やあモノマ。先ほど預けていたものは返してもらうよ」

「うわっ!? ど、どこから!?」

「真上さ。ではね」

 

 他チームから奪った鉢巻は、頭ではなく首からかける形でと指示されている。その中から私たちの初期点を取り返し、反撃を受ける前にさっと離れた。

 

「ガキテメェ!!」

「安心したまえ。君たちの分は残してあるとも。私は私のものを取り返しただけだからね」

「舐めプかこの野郎……!」

「爆豪、今は増栄より目の前のことに集中しようぜ!」

「チッ、わぁっとるわ! ()るぞ!」

「殺しはしねぇぞ!?」

 

 絶賛噴火中のバクゴーをよそに、私は騎馬に戻る。私の思考を読んだヒミコが、絶妙な位置につけてくれているからとても容易い。

 

 そして再び、私は騎馬から離れる。次の狙いは、

 

「来たぞ鉄哲!」

「ハッ、来るなら来やがれぇぇ!!」

 

 何やらキリシマとよく似た”個性”と性格の少年……テツテツのチームだ。

 彼らは正面から迎え撃とうとしているが……それでは私をとめることはできないぞ。

 

 真横に移動し、さらに空中を蹴って方向転換。まずは騎馬の動きをとめる。

 

「させません!」

 

 おっと? チーム唯一の女性の”個性”は、髪を蔦のように伸ばし操るものか。これはなかなか厄介だな。

 

 私が相手でなければだが。

 

「えっ」

「うわあ!?」

 

 絡め取られるよりも早く伸びてきた蔦をまとめてつかむと、高速で鋭角を描いて上へ舞い上がる。そのまま全身を使って、騎馬を釣り上げた。

 高空から落とすような所業はするつもりがないので、ほどほどで留めたが……これで騎馬は反撃どころではなくなる。

 

 それでも私を捕まえようとする根性は見事だと思うが、それだけではな。

 

「なっ!?」

「私は囮のようなものだよ。ではな」

「くそっ、待ちやがれ!」

「待たないわ」

 

 完全に私に気を取られていたテツテツチームは、背後に迫っていた我が騎馬の存在にまったく気づいていなかった。ツユちゃん、見事な奇襲である。

 

 二回空気を増幅して方向転換。のちに騎馬に戻り、テツテツチームの鉢巻を受け取る。665ポイントか。かなり大きい。

 

 次いで、ヒミコからも鉢巻をもらう。ここまで来る途中で取ってきたらしい。

 うん。テレキネシスができるフォースを前に、マジックテープではなぁ。目立つからあまりしなかったが、混戦状態ならアリだろう。

 

 ともあれ、225ポイント追加だ。

 

《増栄チーム快進撃! 小回り利かせて飛び回る増栄もスゲーが、それにバッチリ合わせるチームメイトもスゲーー!!》

《お互いの意図を完全に理解した動きだな……》

《おっと!? こっちにも動きだ――》

「『……! トドロキから離れろ!』」

「おわ!? ちょ、急にどうした!?」

「轟ちゃんに何かあるの?」

 

 だが次へ向かおうとした瞬間、私はトドロキのほうから嫌な予感を受けて急遽方向転換を指示する。

 ヒミコは私が指示するより早く動いており、傍から見れば私たちは突然あらぬ方向へ逃げ始めたように見えたことだろう。

 

 だが、その理由はすぐに明らかになる。フィールドの大半を覆う電撃がほとばしったのだ。

 

 トドロキから感じたことを考えれば、これはカミナリの”個性”だろう。そしてあのチームにはヤオヨロズがいるので、彼らはその影響をほぼ受けていないはずだ。

 

《なんだ何をした!? 群がる騎馬を、轟一蹴!》

《上鳴の放電で確実に動きをとめてから凍らせたんだ。さすがというか、障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな》

《ナイス解説……ああ! 直前で増栄チームが急に逃げ始めたのはそれを避けるためか!》

《だろうな。相変わらずいい勘してやがる》

 

 実況と解説の内容はともかく、イレイザーヘッドからはそれもフォースかと問う気配がした。はっきりとした意思が乗っていたので、やはり彼はおおよそを察しているな?

 

「あ……っぶな……! そういうことね……」

「『説明する時間がなかったのです。急に動いてごめんねぇ』」

「『みんな無事か?』」

「大丈夫よ。距離があったのと、間に身体の大きな障子ちゃんがいたからかしら」

「『急いだ分、位置取りがんばりました!』」

「『ありがとう、さすがだな』」

 

 私も含め、チームはみなすぐに動ける状態のようで何より。

 

 では、今のうちに動けるだけ動くとしよう。動けない人間から奪うなど私の主義ではないが、ここはそういうルールが敷かれた戦いの場だ。かろうじて卑怯ではないだろう。

 

 と、その凍結を行ったトドロキはと言えば……氷の壁を展開してフィールドを二分し、ミドリヤチームと一対一の攻防を始めたようだ。壁が邪魔でよく見えないが、決して高い壁ではない。上から飛んで行けば簡単に越えられるだろう。

 

《爆豪! 容赦なしーー!! やるなら徹底! 彼はアレだな、完璧主義だな!!》

 

 そして私たちがいくつかのポイントを得ているうちに、視界の端でバクゴーがモノマからポイントを奪い尽くしたところが見えた。予想通りの結末であるが、思ったより早かったな。

 

 バクゴーはそのまま憤怒の形相で氷の壁に目を向け、すぐさまそちらへ進むよう指示を出す。

 こちらには見向きもしなかったが、どうやら彼の中では今のところ私よりミドリヤのほうが優先度が高いらしい。

 決勝で、という話を守るつもりかな。あるいは、この競技で最初に標的にしていたミドリヤをまず、といったところか。妙なところで律儀な男だ。

 

 ともあれ、そうして氷の壁の向こうへ飛び込んでいくバクゴーを見送りつつ、私はこちらに殺到する周りのチームに目を向ける。

 

 彼らはいずれも持ち点がゼロのチームだ。そして今、ポイントを持つチームの大半が氷の向こうにいる。例外は唯一、私たちだけ。

 ならば、私たちを狙うのは当然の帰結である。

 

《さあ残り二分! ますます戦いは激しくなってきたァ!》

「もう一度その鉢巻もらうよ! 袋叩きになるけど卑怯とは言わないよねぇ!」

 

 モノマもやってきたようだ。

 

 うむ、見事に全方位囲まれているな。少し逃げてみたが、袋小路だ。

 

 ならば、ここで切り札を切ろう。

 

『ジロー。三、二、一で行こう』

(オッケー!)

 

 私のテレパシーに、ジローもまた内心でのみ応じた。三。

 

 そして彼女の”個性”を……正確には、そのイヤホンジャックのジャック部分から放たれる音量と、みなの音への耐性を私の”個性”が増幅する。二。

 

 さらに、迫り来るモノマチームをフォースプッシュでほどほどに吹き飛ばす。一。

 

「うわっ!?」

「なんだこれ、なんの”個性”だ……!?」

 

 彼らだけでなく、近すぎて音を至近距離で受けてしまいそうなものたちもやはりほどほどに吹き飛ばし、ゼロ。

 

「即興必殺ビートバースト!!」

 

 瞬間、ジローが上に掲げたイヤホンジャックから、凄まじい音量の心音が放たれた。耳栓をした上で耳を塞いでいた私たちですら、しかと聞こえるほどの大音量。それは物理的な威力さえ伴って、私たちを囲んでいたすべての騎馬を吹き飛ばした。

 

《な、なんだあ!? 爆音!?》

《耳郎だな。タネも仕掛けもあるが、ここまでできるか》

《ハッ、俺にはまだまだ及ばないぜオーケー!? っと、それより周りの連中大丈夫か!? 死屍累々って感じだが!》

 

 プレゼントマイクの言う通り、私たちの周囲はまさに死屍累々である。ほとんど全員が耳を押さえて転げ回っており、もはや彼らは騎馬を維持することすらできないでいる。

 

 その中を、私たちは悠々と通り抜けて駆け回る。やりすぎていないか確認したくてのことだが、全員鼓膜は無事らしい。

 一番心配だったショージも、なんとかなったようだ。耳から少し血が出ているので、保健室行きは確実だろうが。彼にはあとで私からも治療の下準備を施しておこう。

 

「よかった、やりすぎたかと思った……」

『私も他人の”個性”を増幅したことはあまりないからな……大丈夫だとは思ったが、なんとかなってよかった』

 

 これだけ追い込んだのだ、残り時間のうちに復帰することはできないだろう。よしんばできたとしても、万全には戻るまい。

 そんな状態で攻めてきても、私たちにとっては敵足りえない。

 

 さて、体感だが残り時間は一分くらいと言ったところか。そろそろ耳栓は外したほうがよさそうだな。終了の宣言を聞き逃してはことだ。

 

 そう判断して、耳栓を外しながら氷の壁に顔を向ける。

 

《あーーっと! 外でゲリラライブしてるうちに中で逆転劇! 轟が1000万! そして緑谷急転直下の0ポイントー!!》

 

 と、そこで壁の向こうでも動きがあったようだ。

 

 しかし私たちがやることは変わらない。恐らくはバクゴーチームのアシドが溶かしたであろう入り口に陣取り、中をうかがってみれば……そこではまさに、激闘が繰り広げられていた。

 

《だがその隙をついたのは爆豪! 轟チームのポイントを一部奪取だ! まだ足りなさそうな辺り、やっぱ完璧主義かコイツゥ!!》

 

 点を失い、もはや怖いものはないミドリヤチーム。

 1000万を手に入れ、完全に追われるものとなったトドロキチーム。

 そしてトドロキチームをゼロポイントに落とそうとするバクゴーチーム。

 

 三つ巴である。

 

《残り三十秒! っとお!? ここで爆豪、轟チームから1000万を取ったー! 遂にトップに上り詰め――》

「トルクオーバー――レシプロバースト!!」

「んなッ!?」

《な……何が起きた!? 速ッ! 速ーッ!! 飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよー!!》

 

 目まぐるしく状況が変わるな。

 

 イイダも見事だ。何やらデメリットがあるようだが、それでもあの速度を初見で対応できるものはそうはいまい。

 

 そう考えていたところに、死に物狂いの様相で突撃してきたシンソーチームを、ヒミコがフォースプッシュで吹き飛ばしていた。

 

《爆豪三日天下ー! 残り二十一秒!》

「クソがぁぁーーッ!!」

「そこだああぁぁーーっ!!」

「……!?」

 

 点を取り返したことで、雄叫ぶバクゴーから距離を取るトドロキチーム。そこに、ミドリヤチームが割り込む。

 ミドリヤの全身は、あの緑色のスパークで覆われていた。そこに宿る強大な力は、やはりと言うべきか、オールマイトに似ていて……思わずトドロキが怯む。

 

 一瞬、彼の左半身から炎が出たのが見えた。だがその炎はすぐに引っ込んでしまい、その隙をついたミドリヤにより、トドロキは1000万の鉢巻を奪い返されてしまう。

 

 これで再び順位は入れ替わり、ミドリヤチームが一位に。バクゴーチームが二位、トドロキチームが三位。

 

 それでも三チームは動きをとめず、攻防を再開する。残り時間はわずかであるにもかかわらず、誰も諦めていない。

 

《そろそろ時間だカウント行くぜ10!》

 

 だからこそ、狙うならここだ。

 

「『行ってくる』」

「いってらっしゃーい!」

「頼んだよ!」

「任せたわ」

 

 そこを見計らって、私は空中に飛び出した。

 

 視界の向こうで、バクゴーがミドリヤに襲いかかっている。

 

《9!》

 

 だがミドリヤチームは既に全力で離れ始めている。トコヤミの守りも健在であり、バクゴーの攻撃は不発となった。盛大に舌打ちをしながら、騎馬に引き戻されるバクゴー。

 

 そこに割り込む。

 

《8!》

「んな……!?」

「すまないな、ミドリヤ」

《7!》

 

 まず、距離を取り始めていたミドリヤから、すれ違いざまに。

 

「こんのクソガキ……!」

「言っただろう、感情に身を任せるなと」

《6!》

 

 さらに、熱くなって視野が狭まっているバクゴーの、背後から。

 

「ミドリヤを気にするのも分からなくはないが――」

《5!》

 

 そして最後に正面、しかしフェイントを二つ入れてトドロキから。

 

 それぞれポイントを回収していく。

 

「――もう少し周りも見たほうがいいぞ」

「テメェ……!」

《4!》

 

 そして私は上空へ舞い上がる。

 

「ウェェーーイ!!」

 

 そこに、これが最後だからと言わんばかりのカミナリが、今の全力と思われる電撃を放ってきたが……既に何回か使っていて、充電が足りていないのだろう。大したことがない。

 

 手のひらを前に出してフォースバリアをかざし、そこで電撃を受け止める。指向性がない「放電」であるからか、想像以上に威力が低い。私を捕らえるには不足が過ぎる。

 一度ものは試しでアナキンから受けたフォースライトニングに比べれば(彼は相当に手を抜いていたが、それでもなお)あまりにも緩いと言わざるを得ない。

 

《3!》

「待ちやがれガキィ!!」

「てやああぁぁーっ!」

 

 と、ここで諦めずバクゴーとミドリヤが追いすがってくるが、

 

「無駄だ」

「ぐ……っ!?」

「あぎ……っ!?」

《2!》

 

 手のひらで押さえ込んでいた電撃をフォースプッシュで解放し、彼らにぶつける。

 

 そして空中を蹴って方向転換し、

 

「コトちゃん!」

「ケロっ!」

《1!》

 

 ヒミコのフォースプルと、ツユちゃんの舌によって回収され、騎馬に戻った。

 

《タイムアーーップ!!》

 

 そしてそのタイミングで終了が宣言される。

 

 直後、身体を痺れさせたバクゴーとミドリヤが、べしゃりと地面に落ちた。

 




主人公の空中移動は、プレゼントマイクが実況した通り進撃の立体機動的な感じです。
より具体的に言うなら、アッカーマンレベルの。
まあ体格や腕力で劣るので、さすがにリヴァイやミカサと張り合えるのはスピードや反応速度とかだけですが・・・問題はこの幼女の得物はライトセーバーということですね。
ジャーカイ(ライトセーバー二刀流)させたら、さぞやエッグいことになるんじゃないかな(他人事

ちなみに原作といくつか相違点があります(爆豪が物間を下す時間とか飯田のレシプロを切るタイミングとか)が、本作だとA組が自主訓練をする機会が原作より多い+各自に主人公が何かしら助言しているので、大体そこら辺が原因です。

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