銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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8.体育祭 昼休憩

 会場全体を、騒めきとどよめきが支配している。客席には、困惑の気配ばかりがあった。

 直前まで競技が行われていたフィールドでも同様だ。ほとんどの生徒が、呆然とスクリーンを見上げている。

 特に、最後の最後でゼロポイントに陥落したミドリヤチームの落胆っぷりはすさまじい。ミドリヤなどは真っ白になっているほどだ。

 

 無理もない。なぜなら、誰もが見えるように表示されているチーム一覧の中で、ポイントを持っているチームは三つしかないのだから。

 

《Yeahhhhh! 事前の打ち合わせで想定はしてたが、まさか本当に起こるとはな! ともかく上位チームを発表するぜ! まずは一位、増栄チーム! そして二位、爆豪チーム! さらに三位、轟チーム! そして――四位! 緑谷チーム! こいつらが最終種目に進出だぜ!》

 

 だが直後、マスター・プレゼントマイクの言葉がスタジアム全体に流れると、生徒たちは驚愕の声を上げた。

 

 特にミドリヤチームはそうで、彼らは何が起こったのかまったくわからないという顔をしている。

 

《オイオイオイオイ、何をそんなに不思議がってるんだ? 最初にミッドナイトが言っただろ? 「最終種目に進めるのは、上位四チーム『のみ』」ってな! 以上でも以下でもない! つまり、最終種目に上がるのは、絶対に四チームってわけだ! ドゥーユーアンダースタン!?》

 

 彼の説明に、なるほどと思う。

 

 スクリーンに表示されている順位表には、常に同位が存在しなかった。複数あるゼロポイントのチームに対しても、必ずはっきりと順位付けがされていたのだ。

 

《でもって、気づいていたやつもいたんじゃあないか!? 順位表の中に同点でも同じ順位がなかったことにYO! つまりこの順位表は、ゼロポイントに陥落したのが遅ければ遅いほどゼロポイントの中でも上につく仕組みになってたわけだ! 言い換えれば、絶対に格付けが決められる順位表だったってことだぜ!》

《同じ順位が複数生じて揉める可能性なんて、誰だって思いつく。そんな非合理的なこと起こさせねぇよ》

《ってことだ! アーユーOK!?》

 

 プレゼントマイクとイレイザーヘッドの言葉に、改めて観客席から歓声が上がった。

 

 そこでようやく実感が湧いてきたのか、ミドリヤは泣きながら膝から崩れ落ち、ウララカは頰を紅潮させて跳び上がり、ハツメは大きな歓声を張り上げながら拳を掲げ、トコヤミは見た目は冷静に腕を組んで目を閉じていた。

 

 一方で、私は小さくため息をついていた。

 

「……そういう仕組みだったのか。ポイントを私たちで独占して、最終種目の参加人数をできるだけ減らそうと画策していたのだが」

「あんたそんなこと考えてたの……」

「見た目に似合わずアグレッシブね」

「……なるべく公共の電波に映る時間を減らしたかったんだ。まあでも、バクゴーとトドロキもさすがだよ。彼ら本来のポイントまでは取れなかったからな」

 

 ジローのなんとも言えない視線と、ツユちゃんの評価に私は肩をすくめる。

 

 自分でもそろそろ、クワイ=ガン門下ではないと言い張るのが難しくなってきたような気がしているところだよ……。

 

《以上で第二種目、騎馬戦は終了だ! 一時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!》

 

 ともあれ、午前の部は終わったらしい。

 ならば食事にしようかと、思っていたのだが……ミドリヤがトドロキに連れ出されるところを目撃してしまった。

 

 トドロキから立ち上る暗黒面の気配は先ほどまでよりさらに増しており、どう考えても尋常なことではない。恐らくは秘密にしたい話があるのだろうが、これは確認しておいたほうがいいかもしれない。

 

 そう思った私は、暗黒面に親しいヒミコを呼……ぼうとして、やめた。

 振り返った視線の先には、ウララカやハガクレと共に楽しそうに談笑しているヒミコがいた。そんな彼女を、私の都合で引っ張り出すわけにはいかないだろう。

 

 彼女のことだから、私が呼べば二つ返事で来てくれるだろうが……せっかく友人と楽しくしているのだ。彼女のことを思えば、すべきではない。

 

 なので私は、テレパシーで先に行ってくれと伝えて屋内に戻りゆく列から外れた。

 

 そうして気配を殺して二人のところへ向かうと……そこには先客がいた。

 

「……ッ」

 

 意外なことに、バクゴーである。彼は物陰に隠れる形で、ミドリヤとトドロキの話を聞いているようだった。

 

 そのためお互いに物音を立てるわけにもいかず、視線のみでやり取りしてバクゴーの隣に並ぶ。彼は仕方なさそうに、苛立った視線を私から外した。

 

「個性婚、知ってるよな。”超常”が起きてから、第二~第三世代間で問題になったやつ……。自身の”個性”をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び……結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ……親父は母の家族を丸め込み、母の”個性”を手に入れた」

 

 そこで聞こえてきたトドロキの言葉に、私は思わず顔をしかめた。話は途中からのようだったが、トドロキの憎悪の気配が聞けていない部分を補完する。

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自分の欲求を満たそうってこった。うっとおしい……! そんな屑の道具にはならねぇ」

 

 続けられた言葉は、やはり憎悪の色で染まっていた。

 

「記憶の中の母は、いつも泣いている……」

 

 その中に、悲哀が混じり込む。

 

「『お前の左側が醜い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 二つの感情は絡み合い、溶け合い、闇の力を放つ。

 

「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の”個性”なんざなくたって……いや……」

 

 それが、ここでさらに膨れ上がる。それを成しているのは決意だ。漆黒の決意。

 

「使わず『一番になる』ことで、やつを完全否定する」

 

 最後に決意が言葉として放たれることで、闇は確たるものとなる。隙間のない暗黒面の帳がトドロキを支配し、縛り付ける。

 

 その様子に、私は素直にかわいそうだと思った。同時に、たった十五歳の少年にそこまでの決意を抱かせるような、過酷な環境ではない……ひたすらに無償の愛を注いでくれる両親から生まれ直すことができた己の境遇に感謝する。

 

 子供は親を選べない。当たり前のことだが重要なことで、そうした親に向かない親の下に生まれた子供は間違いなく一定数存在する。

 父上は、そうした家庭環境に起因する犯罪者も減らしたいと言っていた。私も同感だ。

 

 だが、トドロキのこの闇を払うにはどうすればいいのか。私にはわからない。

 

 何より、私は恵まれすぎている。前世も、今世も。

 そんな私が何を言ったとしても、果たしてトドロキの心に届くかどうか。

 

 父上……父上なら、彼にどのような言葉をかけるだろうか?

 

「僕は……ずうっと助けられてきた……さっきだってそうだ……僕は、誰かに救けられてここにいる」

 

 そのときである。まるでつぶやくようなミドリヤの声が聞こえてきた。

 

 トドロキに言うのではなく、自分を言い聞かせるような言葉選び。

 デリケートな話題だ、躊躇はある。それでも彼は、間違いなくトドロキに向き合って、暗黒面の帳の向こうにある心に直接声をかけようとしていた。

 

「オールマイト……彼のようになりたい……そのためには、一番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたら、些細な動機かもしれない……でも」

 

 ああ、そうだな。君はそういう人なのだろう。君のそういう、誰かのために迷わず動けるところを、私は心の底から尊敬する。

 

「僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応えるためにも……! さっき受けた宣戦布告……改めて僕からも」

 

 ――僕も君に勝つ!

 

 二人はそのまま、それぞれ異なった決意の表情を浮かべてどちらからともなくその場を離れていく。

 

 彼らにつられるように、私たちもその場を離れることになった。

 だが人の繊細な内面にまで踏み込む重い話に、二人とも言葉はなく。普段何かと激しやすく騒々しいバクゴーからは想像もつかないほど、彼は静かだった。

 

 なんというか、普段の爆発的な向上心もそうだが、なんだかんだで彼はやはりヒーロー志望なのだろう。トドロキのあの話を聞いて多少なりとも動揺しているのだから、根底にあるものは曲がってはいないのだろうと……そう思えるのだ。

 

 だから……まあ、そうだな。私はバクゴーのことが、嫌いではない。もう少し弱者に寄り添うことができれば……とは思うが。

 

***

 

 で。

 

 遅れて食堂に行ったところ、やはり非常に混みあっていて……しかしヒミコたちが座席を確保していてくれたので、無事に食卓に着くことはできたのだが。

 

「……これはどういう状況だ?」

 

 ミネタとカミナリが、隅のほうで床に直接正座させられていた。

 

「おかえりコトちゃん。あの人たち、私たちにウソついてチア衣装着せようとしたんですよ」

「……なるほど? まあ、相手が悪かったな」

 

 なぜそんなことをしたかはわからないが、フォースユーザーの前で嘘をつくとはバカなことをする。

 

「危うく騙されるところでしたわ……渡我さんが見抜いてくれなかったらどうなっていたか」

「ホントだよ。まったくあいつらアホだよね」

 

 ヤオヨロズとジローなどは呆れている。気持ちはわかる。

 

「最初から丁寧に頼んできたんだったら、こっちだってちょっとは考えるのにね!」

「うんうん。チア衣装カァイイですし、着てみたくはあるよねぇ」

「同感やー。まあ、もう遅いけどね?」

「「ウィッス……」」

 

 そしてヒミコたち三人の言葉に、一瞬希望を見出したのか顔を明るくしたミネタとカミナリだったが、すぐに悔しそうな顔でうなだれたのであった。

 

 うん、反省の色はなさそうだ。この調子では、また何かやらかしそうだな。そんな二人に助け船を出す必要はないだろう。

 私は二人をちらと一瞥だけすると、すぐさま栄養補給に努めることにした。今日はいつも以上に食べなくては。

 

「……ヤッベェ、今の視線なんかゾクってきた」

「幼女にさげすまれて見下される感じ、しゅごい……」

「百ちゃん、事案です! 重りを差し入れてあげましょう!」

「お任せください!」

「よっしゃやったれヤオモモー!」

「「アッーー!?」」

 

 ……懲りないなぁ。

 




心操くんファン、およびB組ファンの皆さんには大変申し訳ないのですが、彼らはここでリタイアです。
いや彼らが嫌いなんてことは一切ないんですけど、諸々考えるとここで彼らを活躍させることは不可能だと結論付けるに至りました。
何卒ご了承いただきたく。本当に申し訳ない!

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