銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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12.体育祭 バトルトーナメント一回戦 4

 やがて氷は溶けたが、舞台は水浸しのままだ。結果として、乾ききるまでの小休止が宣言された。

 

 次のミドリヤとツユちゃんの試合が始まるまで……そして終わるまでどれくらいかかるかはわからないが、そろそろ私たちも控え室に移動したほうがいいかな……と考えていたときだ。

 

 不意にヒミコが明後日のほうへ顔を向けた。

 そちらにあるのは観客席……だが、その奥には控え室がある。そしてそこにいるのは、ウララカで。彼女の感情の乱れが、ここにいても感じられる。

 

「コトちゃん、私……あとでお茶子ちゃんに謝らなきゃ……」

 

 しばらくそちらを見ていたヒミコは、少しののち座席に力なく身体をもたれさせた。

 

「……ううん、みんなに、ですかね……」

 

 前にも述べたが、ヒミコはヒーローには興味がない。なろうなどとは欠片も思っておらず、彼女は単にいつどんなときも私の隣にいたいだけなのだ。

 だからこの体育祭にも、ほとんど興味がない。周りが将来のために全力で戦っている中、彼女だけはただのお祭り気分であったのだ。

 

 だが……どれほど怪我をしようが、どれほど辛かろうが、最後まで諦めることなく戦い続けるウララカの姿を目の当たりにして。

 あまつさえ、悔しさに涙を流すウララカの気配を感じて。あまりにも大きい己との心構えの差に、申し訳ないと思ったのだろう。だから謝らなければ、と。

 

 つくづく思う。ヒミコは少し嗜好が他と違うが、その感性は普通の少女だなと。

 

「そう、だな……確かに、筋は通したほうがいいだろう。だが、今の君はもう遊び半分ではないだろう? なら、そう不安に思わなくとも大丈夫だろうに」

「そう、ですかね……? そうだといいなぁ……」

「なになにー、二人してなんかシリアスな顔してどーしたの?」

 

 と、そこにハガクレが後ろから顔を出してきた。もちろんその顔は見えないのだが、それはそれ。

 

「いや、そのだな……。あー、うむ。あれだ。少し気は早いが、体育祭が全部終わったらみなで打ち上げなどできたらいいな……とね。私たちの家はここからすぐそこだし、それなりの広さもあるから会場としてどうかなと」

「えっ、マジ? いいねそれ、さんせー!」

 

 途端にハガクレがうきうきし出す。彼女に誘われるように、他のクラスメイトたちもなんだなんだと集まってきた。

 小休止中で見るべきものもないから、そうもなるだろうな。

 

「……ありがと」

「君のためならどうということはないさ」

 

 盛り上がるさなか、すまなさそうに小声で話しかけてきたヒミコに、私は片目を閉じて応じるのであった。予定にはなかったことだが、それでも私の心に嘘はないのだから。

 

***

 

《っしゃあ舞台も乾いた! ってことで第八試合行くぜ! 成績の割になんだその顔! ヒーロー科、緑谷出久! (ヴァーサス)! かゆいところに手が……もとい舌が届くキュートなケロケロガール! 同じくヒーロー科、蛙吹梅雨!》

 

 その後、舞台も無事乾いてミドリヤとツユちゃんの試合が始まった。

 

《スタート!!》

 

 二人の戦いは、最初から一貫して肉弾戦となった。二人とも爆破やら凍結やらの特殊な能力を持たないため、当たり前だが。

 

 しかし二人の“個性”にはかなり差がある。

 ミドリヤのそれは純粋な増強型であり、単純に身体能力を上昇させるというもの。彼はこれを全身にまとうことで、今までとは一線を画した身体能力を発揮できるようになった。だが安定して使える遠距離攻撃手段を持たない。

 

 対するツユちゃんは、カエルという異形型の“個性”だ。カエルらしいことなら大体なんでもできるが、中でも脚力に優れる。また騎馬戦でも見せたように、舌による中距離攻撃も可能とかなり万能だ。

 

 そうした“個性”の差を両者ともに理解しているのか、流れは自然と動き回りながら攻撃と離脱を繰り返すミドリヤと、動きは少なめに抑えつつカウンターを狙うツユちゃんという形に収束していった。結果として、両者にさほど大きなダメージないまま戦いは推移する。

 

 ……その二人の動きだが、ミドリヤはアタロ、ツユちゃんはソレスの要素が見て取れる。そういえば、USJ事件では二人の前で見せていたな。あのときの私の立ち回りを、二人なりに参考にしたのだろう。

 クラスメイトもそれには気づいたようで、感心の声を上げていた。

 

 ミドリヤに関しては、バクゴーらしい要素も見えたが……いずれにせよ、二人とも今日までの経験をしっかり活かして今日に臨んでいるのだろうな。

 

「ぐっ!?」

 

 と、いうところでミドリヤがツユちゃんの強烈な蹴りを喰らって地面を転がっていく。受けた場所は急所でもなんでもなく、ミドリヤが受けたダメージは見た目ほどではないだろうが……身体が安定していない状態だったため、結構な勢いで吹き飛んでいく。

 

《蛙吹のキックが炸裂~~! 緑谷、このままだと場外だがぁー!?》

「まだ……まだぁ!!」

 

 だがミドリヤはとっさに拳を舞台に叩き込んで、錨とした。コンクリートで固められているはずの舞台に彼の拳がめり込み、その身体を舞台内にとどめたのだ。

 

「すごい……緑谷くん、さすがの超パワーだな」

「それに、マジでコツつかんだみてーだな。この試合、まだ一回も自損してねーぞ」

「これは厄介な相手の出現だな……」

 

 クラスメイトたちが口々にミドリヤを評価する。

 

「わわ、もう二人の試合始まっとる~!」

 

 と、そこにウララカが戻ってきた。彼女の声が聞こえるより早くヒミコが即振り返り、それ以外の面々も声がしたところで振り返ったのだが……。

 ウララカの目は、明らかに腫れていた。どうやら相当に泣いたらしい。

 

「見ねば」

 

 本人はそう言って拳を握っていたが、それよりもイイダが大袈裟であった。

 

「目を潰されたのか!! 早くリカバリーガールの下へ!」

 

 ……まあ、その内容はだいぶ的外れなのだが。

 

「行ったよ。コレはアレ……違う」

「違うのか! それはそうと悔しかったな……」

「今は悔恨よりこの戦いを己の糧とすべきだ」

「お茶子ちゃん……えっと、ほら、こっち空いてますよ」

「ん……ありがと、みんな」

 

 周りに歓迎され、ウララカも席に着いた。

 

「えっと……見た感じ、ちょっとだけ梅雨ちゃん有利って感じ?」

「ああ。遠距離攻撃手段の有無ゆえだ」

「あれ、見た目以上に威力出るもんなぁ」

 

 トコヤミの言葉に、後ろからミネタが同意した。やたらと実感がこもった言葉だったが、何度か喰らったことがあるらしい。

 

「しかしミドリヤの攻撃力を警戒して、ツユちゃんも積極的に攻勢に出られていない状況だ。どちらが勝ってもおかしく……む」

《緑谷、ボディーブローが決まったァァーー!! 蛙吹、これは痛い!!》

 

 会話している間も、途切れることなく攻防を続けていたが……どうやら動いたようだ。ミドリヤのパンチがツユちゃんの腹部に入ったのだ。

 

「うわー、痛そー!」

「緑谷のやつ手加減なしかよ……! ああ見えてさすが爆豪の幼馴染ってか」

「やかましいわアホ面、テメェの目は節穴かよ」

 

 カミナリも懲りないな。

 

 だがバクゴーの言い方はともかく、考えていることは間違っていない。

 

「あのボディーブローは決まっていない」

「ン!?」

「え、マジ?」

「ほら」

 

 私が指を向けた先で、ツユちゃんは吹き飛んでいる最中に舌を伸ばして攻勢に出ていた。ボディーブローの直撃を受けたのであれば、あれほどスムーズに口から攻撃はできないだろう。

 

 つまり彼女は、ミドリヤの攻撃を予測していたのだ。そして攻撃を受けるタイミングに合わせて、自身の脚力を活かして吹き飛んだように見せかけたのである。

 直後、マスター・イレイザーヘッドもそう解説した。

 

《って、アレ!? 効いてないっぽい?》

《攻撃の直前に自分から跳んでるな。攻撃を読んでたんだよ》

「はー、やるなあ梅雨ちゃん」

「彼女は元々冷静沈着で、目立った欠点のない人間だ。これくらいはやってのけるだろうさ」

 

 そうしているうちに、ツユちゃんの舌が完全にミドリヤを絡め取った。

 彼女はそのまま自身の勢いも乗せて、ミドリヤを場外に向けて大きく投げ飛ばす。弧を描いての大きな投擲だ。

 

《投げたぁーー!! どーする緑谷、ここで終わってしまうのか!?》

「あー……ありゃ終わったな……」

「そうだな……空中を移動する手段なんて緑谷持ってねーもんな」

 

 カミナリとセロの言葉に、反応したのはウララカだ。

 

「……いや。あるよ! デクくんのパワーなら、ここからでもできることある!」

「麗日くん?」

 

 彼女にイイダが問いかけようとした、その瞬間だった。

 

「SMAAAAASH!!」

 

 ミドリヤの掛け声と共に、凄まじい衝撃と風が巻き起こった。風は舞台のみならず観客席にまで吹き抜る。軽い私の身体など、ヒミコに抱きかかえられていたにもかかわらず浮き上がりそうだ。

 

 だがそんなことより、その風が収まる頃には何が起きたのかが誰の目にも明らかになった。

 舞台の上には、誰もいなかったのだ。

 

「え!? あれ!?」

「ケロ……油断したわ……」

《こ……これはぁ!》

「蛙吹さん、場外!」

 

 マスター・プレゼントマイクが声を上げた直後に、マスター・ミッドナイトが手を掲げる。

 

 そう、ツユちゃんは先ほどの風に吹き飛ばされていた。そのまま場外に飛んで行ってしまっていたのだ。

 

 観客席から、大きな歓声が上がる。と同時に、ミドリヤが観客席の中に落ちた。どうやらプロヒーローの誰かが受け止めてくれたようで、それによる怪我はなさそうである。

 

 ……あくまで落下での怪我は、だが。

 

「……! ンの野郎……!」

 

 バクゴーが舌打ちと共にぼそりと言う。

 

《バカでかい空気砲だな。投げ飛ばしたあと……攻撃をしたあとってのは存外スキができやすいもんだ。そのタイミングを狙ったんだな。蛙吹は緑谷を上に投げたことで重心が上がっていたし、舞台に張り付く間もなかったから油断とかじゃねぇ。今回は緑谷が少しだけ上手だったっつぅことだ》

《毎度ながらナイス解説!》

 

 彼に遅れて、イレイザーヘッドが独り言のようにこぼした。

 

 私はそこに補足を入れる。

 

「あれほどの風を巻き起こすためには、自損するしかないのだろう。しかしミドリヤは……恐らくだが、どうせ自損するなら自身を舞台に戻す推進力にするより、吹き飛ばす攻撃に使ったほうがいいタイミングと判断したのだろうな」

 

 そう、ミドリヤの左手の中指は、明らかに正常ではなかった。USJ事件のときも似たような怪我をしていたな。あのときもきっと、今回のように指による空気砲を放ったのだろう。

 

「お、おお……なるほど!」

「それにあの位置で下に空気砲したんやったら、デクくんの身体はもっと上に浮くから落ちるまでの時間も稼げるよね!」

「なるほ……ム!? そういえば、ルールでは『場外に落としたら勝利』だったな!」

「あー! そっか、地面につかないうちは『落ちた』ことにならないから……」

「それまでミッナイ先生は結審出せないってわけか! 考えたな緑谷!」

 

 ルールの穴をついたような勝利ではあるが、勝ちは勝ちだ。それは間違いなく、最後の一瞬まで勝負を諦めなかったミドリヤの根気がなしたものだ。

 

 あの状況で、指一本を捨ててでも勝ちに行った判断は、人によっては賛否分かれるかもしれないが……どうやら会場の雰囲気を見るに、賛のほうが多いらしい。私としても、今回は褒めてもいいだろうと思う。

 ただ、自損の判断を咎める人間はどこかにいなければならない、とも思う。

 

 それに、仮にミドリヤがもっと早く鍛え始めていれば、この場であっても自損なしに空気砲を撃てた可能性はあったはずだ。その点も含めて、ミドリヤは今後も精進し続けなければならないだろう。お節介かもしれないが、あとで言っておくかな。

 

《最後の最後にド派手なカウンターを決めた緑谷が二回戦進出だ! これで一回戦がすべて終わった! 小休憩挟んだら早速次行くぞー!!》

 

 おっと。

 この学校は本当になんでもかんでも早速だな。

 

 すぐに二回戦が始まるのであれば、私たちももう動かねばなるまい。

 

「行こうか、ヒミコ」

「……うん」

 

 そして私たちは、連れ立って控室へ足を向けた。

 




おや?
トガちゃんの様子が・・・?

あ、次は閑話の掲示板です。
主人公VSトガちゃんはそのあとで。
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