銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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14.体育祭 バトルトーナメント二回戦 中

「ふふ」

「なんだ? 負けたのに嬉しそうだな」

 

 観客席に戻る途中。ヒミコと手を絡めて歩いていると、不意に彼女が笑った。

 

「うん、悔しいは悔しいですけど……でも、楽しかったので。コトちゃんはどうでした?」

「……君には言わなくても伝わるだろうに」

「でも、コトちゃんの口から聞きたいですよぅ。ね、どうだった?」

「……ああ。楽しかったよ。君と一緒に……こう……ダンスでもしているような感覚だった」

 

 ああ、そうだとも。

 

 私は、ヒミコと正面から戦えて、楽しかったのだ。

 心拍数が上がっている。だが、これは運動によるものだけではない。疲労とは異なる感覚が、身体を包んでいる。

 

 なんだこれは。これは、一体なんだと言うのだ。

 ジェダイとして、あるまじきことだ。戦いを楽しむなど、あってはならない。

 

 ならないというのに……後悔など、微塵もないのだからおかしなものだ。ヒミコとの交感で、暗黒面に引きずられているのだろうか。

 

『それが伯仲した相手と競い合う楽しさというものさ』

「アナキン」

 

 そこに、アナキンが姿を現した。壁を貫通して現れる当たり、お茶目だな。もう驚かないぞ。

 

『競争もまた人間という動物の本能の一つだ。そうやって力を競うことで、少しずつ種としての力を上げていくための本能。だからこそ、全力を出してなお容易に超えられない相手との競り合いは、楽しさを伴う』

「成長のため進化のために無理なく行えるように、か……」

『その通り。だが、ジェダイも競うこと自体は禁止しなかったが、没頭することは禁じた。まあ一つのことに執着することを禁じる戒律上、当たり前ではあるんだが……理由はわかるよな?』

「競争は闘争となり、闘争は戦争となる。そして争いは勝敗を区分け、勝敗は容易に憎しみを喚起する……」

『その通り。けどなコトハ、結局それは行き過ぎた結果起こることだ。ほどよく競い合うことができれば、それは意義がある。君ならわかるよな?』

「…………」

 

 確かに。我がA組の面々は、みな負けたことを悔しく思うことはあっても、憎むようなことはしなかった。誰もが糧とし、次に活かすべく全力であり、観るのみとなっても成長しようとしている。

 

 そして……何より、かつての私も。

 

『だろう? だから、君が抱いた気持ちも悪いばかりじゃない。何度も言うが、要はバランスなのさ。ジェダイはそのバランスを保つために抑制を選んだが、それ一辺倒だったからなぁ』

「ん……そう、なのかもしれない。まだ少し心の整理がつかないが……」

『ま、すぐに折り合いをつけろとは言わないさ。そういう風にしか教られてこなかったんだからな。君に競争の意義を思い出してもらえたなら今回の目的は達している、あとは時間をかけてゆっくり考えればいいさ』

 

 ――二人で仲良く、ね。

 

 アナキンはそう締めくくると、空気に溶け込むようにして消えていく。ヒミコがその背中に手を振った。

 

「大丈夫ですよ、コトちゃん」

 

 次いで彼女は反対の手……私と絡め続けていた手を少し強めに握ってくる。

 

 彼女が言葉を続けることはなかったが……手を通して、その気持ちが伝わってきた。

 

「……うん。ありがとう、ヒミコ」

 

 だから、私はそう答えたのだった。

 

***

 

「二人ともおかえりー! トガちゃん惜しかったねぇ」

「すげー白熱した試合だったな!」

「てゆーかトガっち、あんだけ動けるなんて私聞いてないんですけどー!?」

 

 クラスの座席に戻った私たちを、クラスメイトたちが出迎える。

 私たちは彼らの声に応じながら席に着いた。

 

「やー、私全然でしたよ。できるだけのことはしましたけど、ダメでした」

「いやいや、増栄とあんだけやり合って全然ってこたねーだろ」

「同感ー。増栄ちゃんもなんか私との試合より楽しそうだったしぃー?」

 

 先ほどの私は、傍から見ても楽しそうだったのか。修行が足りないなぁ。

 アナキンが言うように、競い合うことの楽しさを覚えることはおかしなことではないのだろうが……。

 

「いや、私だけだとホント全然なんですよぅ。あれはコトちゃんに変身してたからできただけで」

「あ。そのことだがヒミコ、やはり”個性”の精度が上がったんだな?」

「はい! 他の人で試したことないからどこまでかはわかんないですけど、変身相手の技術まで込みで変身できるようになりました!」

『マジかよ!?』

 

 話の流れで試合中に気になっていたことが上がったのでそれについて尋ねたら、返ってきた答えに周りが騒然となった。

 

 確かに、変身相手の技術まで変身可能なるとなればかなりの脅威だ。格下相手に変身したら技量も下がるのではないか、という懸念もなくはないが……私が彼女の格上であり続ける限りは、少なくとも私への変身でデメリットが生じることはないはずだものな。

 

 しかし、ヒミコの”個性”の成長速度が目覚ましい。彼女が”個性”を鍛え始めた(?)のは比較的最近のはずだがなぁ。

 

《さぁー二回戦第二試合だ!》

 

 おっと。

 

 次の試合が始まるらしい。マスター・プレゼントマイクの声に、みなが話を打ち切り舞台のほうへ身体を向ける。

 そちらには、既にヤオヨロズとイイダが立って向き合っていた。

 

「コトちゃんはどっちが勝つと思います?」

「十中八九イイダだろう」

 

 プレゼントマイクの実況を聞き流しながら、ヒミコとそう言葉を交わす。

 

 と、その後ろからツユちゃんが尋ねてきた。

 

「その心は?」

「ヤオヨロズは考えてから動くタイプだ。速さこそが最大の持ち味であるイイダとは致命的に相性が悪い」

 

 なのでそう返したら、周りから納得の頷きを頂戴した。

 

 全員が納得してしまったので私はここで口を閉じたが、実際のところヤオヨロズが勝てる可能性も十分にある。イイダは遠距離攻撃手段を持たないので、速くともやりようはあるのだ。

 

 まあ、一番有効なやり方はイイダの性格を突く方法だろう。これは相手についてある程度見知っているからこそできることだから、実戦でできるかどうかはまた別の話だが。

 

《レディィィィ……スタート!!》

「レシプロバースト!!」

 

 そして試合が始まり、予想通りの展開となった。

 イイダはデメリットがあるらしい技を初手で切り、目にもとまらぬ速さで即座にヤオヨロズの背後を取って舞台外へ押し出したのである。あまりの速さにヤオヨロズはまったくついて行けず、動揺している間に試合は終わってしまった。

 

 ふむ。ジロー戦でもそのような気はしていたが、これで確定した。ヤオヨロズの”個性”はフォース同様、発動に一定以上の集中が求められるようだな。

 ただ速さについていけないだけなら、”個性”を使うことは可能だったはずだ。実際、彼女からはその気配が見て取れた。

 にもかかわらず、何も創造されなかった。恐らく、ただ思い描くだけでぽんと創れるような都合のいいものではないのだろう。

 

「八百万さん場外! 三回戦進出は飯田くん!」

 

 宣言するマスター・ミッドナイトをよそに、イイダのふくらはぎにあるエンジンは黒い煙を吐いていた。なるほど、時間が経つとエンジンが一時的に停止するのか。わかりやすいデメリットだ。

 

 そんなイイダにヤオヨロズが呆然と顔を向ける。

 

「そんな……。何も……できなかった……何も……」

「ヤオモモ悔しそうだなぁ……一瞬で終わっちゃったもんね……」

「わかりみが深い」

「瀬呂はマジでドンマイすぎる」

「それな」

 

 一方観客席では、一回戦で敗退した面々の中でも負け方の差でリアクションに差があった。

 アシドやセロ、カミナリはヤオヨロズに同情的な言動が目立つ。このトーナメントに進出できなかったメンバーも似たようなものだ(ミネタは服を脱がせとかなんとか言っているので除外)。しかしジローやキリシマ、ツユちゃんは分析に意識を割く余裕が垣間見える。

 

「増栄の言った通りになったね……」

「さすがのスピードだよなぁ飯田」

「ケロ。切島ちゃんもそうだけど、シンプルだからこそ対応が難しいケースよね」

 

 なので、そちらに混ざろうと思ったのだが。

 

「だが蹴ったり投げたりしなかった辺り、イイダは人がいい。その気になればそういう攻撃もできたはずだ」

「そこなんだよなぁ……耐えるだけなら俺もできるだろうが、反撃……当たっかなぁ、アレに……」

「ウチの”個性”も音で攻撃できなくはないけど、サポートアイテムなしだとアレだしなー……」

「予測をうまく組み立てられるようになる、かしらね。ひとまずは。……ところで被身子ちゃん。理波ちゃんって、やっぱりたまにかなりアグレッシブね?」

「やるときはやるんですよぉ」

「…………」

 

 どこからともなく「君はもう由緒正しいクワイ=ガン門下なのだよ」というアナキンの澄ました声が聞こえた気がして、私は口をつぐんだ。

 

 ま、まあそれはともかく。

 

 片や胸を張って、片や肩を落としてという対照的な退場を見送りながらの会話だったわけだが……ここにバクゴーがいたら、「速いだけ」とか「なんとでもなる」とか言いそうだな。

 

 やがて、そのバクゴーが舞台に現れる。イイダたちが観客席に戻ってきた、ちょうどそのときであった。

 

 そのバクゴーの前に立つのは、トコヤミ。これまた先の試合に負けず劣らず、致命的に相性の悪い組み合わせである。

 

 こちらは性格や思考がどうこうではなく、純粋に”個性”が、であるが。

 

「どっちもクラス有数の実力者だよなぁ。騎馬戦で常闇すごかったぞ」

「俺も実際に戦ってわかったけど、あの防御力は実際厄介だぜ。あれで攻撃もできるんだから強ぇーよな」

「マイク先生も無敵かもって言ってたもんねぇ」

「でも相手はあの爆豪だぜ?」

「そうよね。常闇ちゃん、どう戦うのかしら」

「増栄はどう見てんだ?」

 

 今度はミネタが聞いてきた。出場者がどちらも男と聞いた途端にこれである。彼も異性への性欲が絡まなければ、わりと真っ当に向上心があるヒーロー志望なのだがな……。

 

 というか、いつの間にか解説役になっているな、私。別に嫌ではないが、トコヤミの場合は……。

 

「……私は戦闘訓練のとき、ダークシャドウの弱点を聞いている。それをここで暴露することは避けるが……バクゴーが勝つ。十中八九ではない、確実にだ」

「マジ?」

「そんな勝ち目のないカードなのか……!?」

 

 全員が驚いていたが……私の予想はすぐに現実のものとなった。

 トコヤミは試合開始早々から、防戦を強いられまったく攻撃できないのである。

 

「常闇なんでェ!? 切島相手には超攻撃してたのに!」

「何かタネが……?」

「そうか、爆破の光で攻撃に転じられん……相性最悪だ……」

「うん……弱ってる。増栄さんが言ってたのはこういうことだったんだ。かっちゃんにバレてなければ転機はあると思うけど……」

 

 なぜなら、トコヤミのダークシャドウは光に弱い。そしてバクゴーは、その爆破によって光を放つことができる。結果は自明であった。

 

 だが、トコヤミも粘る。ダークシャドウは弱体化してもなお、防御力という点では爆破を上回るらしい。

 

 ただしそれはジリ貧というものだ。恐らく、バクゴーには既にトコヤミが攻めてこない理由はわかっているはず。

 あとはどのタイミングで仕掛けるかだが……。

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

 

 そう思っていたら、バクゴーは空中で態勢を整えつつもトコヤミの背後に回り、そこで思い切り両手を爆破した。

 巻き起こったのはいつものような攻撃的な爆発ではなく、光を起こすことに重点を置いた爆発。爆煙も起こったが、それよりも呼び名の通りなまばゆい閃光がいかにも目立つ。ダークシャドウが悲鳴を上げた。

 

 そしてその隙を、バクゴーが突かないはずがない。爆煙を突っ切ってトコヤミの口に手をあてがい、地面に押し倒したのである。

 

「……知っていたのか……」

「数撃って暴いたんだバァカ。まァ……相性が悪かったな、同情するぜ。詰みだ」

「……まいった……」

 

 トコヤミはそこで降参を宣言。バクゴーの勝利が確定した。

 

「俺、常闇行くと思ってたわ」

「彼も無敵ではないということか」

 

 カミナリがやけにキリリとしたら顔で言っていたが、あれはカッコつけているのだろう。私もかつては少年だったので、この辺りの心の機微については少しわかる。

 

 そんなことを考えながら、私は次なのにもかかわらずここで観戦を続けていたミドリヤが慌てて席を外すのを見送ったのだった。

 




トガちゃんとなかなかに拮抗した戦いをして、抱いた楽しさに対する感想の表現が「一緒にダンス」な辺り、既に相当キてると作者ながらに思います(その目は澄み切っていた

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