銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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話の区切りの関係上、二回戦の掲示板回は次に入れます。
そのすぐあとに三回戦の掲示板回を入れるので、今回だけ閑話が二回続く形になります。ご了承ください。


16.体育祭 バトルトーナメント三回戦

 その後について語るとしよう。

 

 ミドリヤもトドロキも、遠慮なく大技を放った結果の超暴風によって、舞台は吹き飛んだ。観客も一部が吹き飛んだ。ミネタと私も飛びかけた(私はヒミコに、ミネタはショージにつかまれて事なきを得た)。

 

 そして当の本人たちも、派手に吹き飛んだ。

 つまり、同時に場外。まさかの引き分けである。

 

 このため、勝敗の行方はマスター・ミッドナイトの判断によって……ええと、たたいてかぶってじゃんけんぽん? なる種目にて決着がはかられる運びとなった。なかなか興味深い種目であった。

 

 最初は腕相撲で雌雄を決するつもりだったらしいが、マスター・リカバリーガールによる治癒をもってしてもミドリヤの負傷は治し切れず(以前に本人が言った通り、リカバリーガールの治癒は対象の体力と引き換えのため、大怪我を治しすぎると命にかかわるためだ)、ミドリヤには腕相撲をする余力がなかったためこうなった。

 

 引き分け後であり、明快な決着が求められたので”個性”は禁止されたが、どちらにせよミドリヤには非常に不利だっただろう。それでも棄権することなく再度舞台に上がったのだから、随分とまあ根性がある。

 

 ただ、やはり怪我の痛みが響いたのだろう。じゃんけんはともかく、その後のヘルメットをかぶったりおもちゃのハンマーを振り回す動作が振るわず、トドロキが三回戦に勝ち上がることとなった。

 

 当然ミドリヤは悔しそうにしていた。しかし、それでも決着をつけた二人の間に悪い空気はなく、トドロキがまとっていた暗黒面の帳ははっきりと薄らいでいた。

 

「……トドロキを暗黒面から引き離した。なんという男だ」

「うん……すごかった、ね」

 

 退場する二人を見送りながら、私は感嘆の息をつく。

 

 厳密に言うと、トドロキはまだ完全には暗黒面から脱せていない。しかしそれは時間の問題だろう。彼の心の中には、それまでは感じられなかった輝きが確かに存在しているのだから。

 そしてそれを成し遂げたミドリヤ・イズクという少年を、私は心の底から尊敬する。

 

 クラスメイトたちも、戻ってきた彼に対して惜しみない称賛を送っていた。観客も同様であり、こればかりは私も素直に賛同した。

 

 まあ、そうした声に委縮するような気の小さいところは相変わらずであったが。

 どうもオールマイトからは後継者と目されているらしい彼ではあるが、そうした点はマスターと似つかわしくなく……しかしそれでいいのだろう。そうした等身大の姿も、彼ならば愛嬌だろうから。それこそ、憧れとまったく同じである必要はないのだ。

 

 ……さて、感動冷めやらぬ中であるが、続く三回戦は舞台の損傷が直されるのを待ってのスタートとなった。

 第一試合は私とイイダ、第二試合はバクゴーとトドロキというカードである。

 

 ヒミコとの戦いでだいぶ栄養を消耗した私だが、舞台の修復にかなり時間がかかったので多少補充する時間は取れている。なので万全とは言えないが、かなり近い状態での試合となった。

 

《準決! サクサク行くぜ! お互いヒーロー家出身のエリート対決だ! 増栄理波対飯田天哉!》

「全力で行くぞ、増栄くん!」

「ああ。どこからでもかかってくるといい」

 

 対峙したイイダと言葉を交わし、そこで試合開始が告げられた。

 と同時に、イイダはクラウチングスタートの姿勢を取る。ふくらはぎのエンジンに、エネルギーが集まっていく。

 

「レシプロバースト!」

 

 直後、彼は風となった。生身の人間が出せない速度で私に迫り、攻撃を仕掛けてくる。

 

 だが。

 

「それはもう三度目だぞ」

「な……!?」

 

 スピードを活かして背後に回ったイイダのほうへ振り返り、さらに攻撃を正面から避ける。

 

 と同時に体操服の袖をつかんで腕を絡め取ると、アイキドーの技をかけて盛大に転倒させた。

 

「うぐうっ!?」

《ああーーっと飯田、攻撃が不発! 増栄、飯田のスピードに完全対応!》

 

 地面を転がるイイダだが、この辺りの対応は慣れているのかすぐに復帰してきた。少なくとも、アシドよりは早かった。さすがにヒーロー家生まれというだけのことはある。無論、方向転換直後で最高速度でなかったことも大きいだろうが。

 

 イイダはその後も猛然と攻撃を続けたが、いずれも私には当たらない。確かに人間を超越したスピードだが、ブラスターよりは格段に遅いのだ。フォースによる先読みが可能な私には脅威ではない。何度も見た技であればなおさらである。

 

「く……! 時間切れか……!」

 

 そうこうしているうちに、イイダのふくらはぎから煙が上がった。本人が言った通り、時間切れのようだ。

 

 なるほど、レシプロバーストとやらは大体十秒ほど続く技なのだな。

 

《どうした飯田! エンストかぁ!?》

《そのものずばりだな……》

「では次は私から行くぞ」

「……っ! 来るなら来い!」

 

 それでもイイダが折れることはなかった。彼はややぎこちない動きながらも、私を迎え撃つ。

 

 だが、今の彼は文字通り”個性”が停止した状態だ。おまけに脚部の挙動は日ごろから”個性”が影響しているのか、それがとまったことで”個性”を持たない人間よりも動きが遅くなっている。

 特に、下半身の動きが非常にぎこちない。肉弾戦をしかけてみたが、防御に徹するだけで手いっぱいといった様子であった。

 

 とはいえ、私が小さく軽いこともあって、単純に攻撃するだけでは体格のいいイイダには有効打とならない。多少体勢を崩せるくらいか。

 

 ただし、それは私が何もせず攻撃した場合の話。私はただ無心に攻撃し続けていたわけではない。

 

「おかしい……! もうエンジンは復帰しているはずなのに……!」

 

 しばらく攻防を続けるうちに、イイダが顔色を変えた。

 彼のエンジンは沈黙し続けている。依然として煙を吐き続けていて、落ち着く気配はなかった。

 

 それも当たり前。なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()

 

「”個性”が停止状態から回復するまでの時間を増幅した。君はまだしばらくその状態で戦い続けなければならないぞ」

「……! そんなことにまで使えるのか!? ぐ……っ!」

 

 驚き意識が逸れたイイダの足元をさらう。今度は先ほどまでと異なり、諸々強化した本気の足払いだ。

 

 イイダはこれを、驚きながらもなんとか回避したが……代償としてすっかり体勢が崩れてしまっている。

 転倒ほどではないにせよ、これは十分に致命的だ。ただでさえ”個性”が停止していて動きがままならないのだから。

 

 もちろん、これを見逃すことはしない。死角に入り込み、身体の側面からフォースプッシュを叩き込む。

 

「はあっ!」

「ぐわああぁぁ!?」

 

 イイダはそのまま射出され、場外を転がっていった。

 

「飯田くん、場外! よって決勝戦進出は、増栄さん!」

《決まったァ! 増栄、決勝進出ーー!》

「く……! 兄さん……!」

 

 場外でイイダは天を仰ぎ、悔しそうに歯をかみしめていた。

 

「……怪我はないか?」

「ああ……大丈夫だ、どうということはないよ。しかしさすがだな……レシプロに対応されてしまうとは……。今後は対応された場合のことをしっかり考えなければ」

「その技は確かに強力だが、何度も使えば対応されることは世の常だよ。しかし、その意気だ。練習したいならいつでも付き合うぞ」

「ありがとう! そのときはぜひ頼む!」

 

 そうして私は彼に手を差し出し、彼もまたそれを取って立ち上がったのだった。

 

***

 

 さて試合を終えた私たちだが、なんでも早速進めようとするこの学校のことだ。次の試合が終わったら、さほど間を置かずに決勝戦を始めるだろう。

 そう踏んだ私は、観客席には戻らず控室へ戻ることにした。静かに瞑想して出番を待つことにしたのである。

 

 とはいえ、控室も完全な防音が施されているわけではない。実況と解説の音声は控室にも放送されているので、軽く瞑想する程度にとどまった。

 

 そんな中でのバクゴー・トドロキ戦であるが、実況を聞いている限りでは終始バクゴーがトドロキを圧倒したらしい。

 

 また、トドロキは一度炎を出すも、使うことなくすぐに収めてしまったようだ。ミドリヤとの戦いで暗黒面から解放されはしたが、迷いが完全に晴れたわけではないらしい。

 これについては、すぐにどうにかなるものではないだろう。どれほど実力があろうと、トドロキもまだ十五歳の少年なのだ。メンタルの不調を即座に立て直すことはなかなか難しいはずだ。

 

 ただ……バクゴーにとってはそんなことは関係ないだろうなぁ。炎を収めてしまったトドロキ相手に、噴火する勢いで激怒する姿が目に浮かぶようだ……。

 

 と、いうようなことを座禅を組みながら考えていると、馴染み深いフォースが近づいてくることに気づいた。

 私はゆるりと目を開く。同時に、控室のドアが開かれた。

 

「コトちゃーん」

「いらっしゃい。どうかしたのか?」

 

 言うまでもなく、現れたのはヒミコだ。彼女はにんまりと笑いながらこちらへ近づいてくる。

 

「聞いてました? 爆豪くんが勝ちましたよ」

「ああ、聞こえていた。さぞ鬱憤がたまっているだろうな」

「場外になって倒れた轟くんの胸倉につかみかかってましたよ」

「そんなことだろうと思っていた」

 

 思わず苦笑する。さすがというかなんというか、ブレない男だ。

 

「ふふ、猛犬注意って感じでしたよ。ミッドナイト先生が眠らせて黙らせました」

「その光景が目に浮かぶようだな……」

 

 苦笑が再度漏れた。

 

 しかし、そういう幕引きになったということは……彼は私に全力を求めてくるだろう。これは迂闊なことはできないな。

 

 と、そんな会話をしている間にも、ヒミコはこちらへ来て私の前で腰を下ろした。

 普段の調子なら、流れるように抱きかかえて対面するように椅子に座るのだろうが。今日は……というよりは今は大人しいな。

 

 とはいえ、彼女が私に視線の高さを合わせていることは普段通りだ。そのまま少しの間、私たちは見つめ合う。

 どれくらいそうしていたかは、わからないが……少なくとも、舞台に上がるように指示が来なかったから、さほど長くはなかっただろう。

 

 静かな時間は、ヒミコの口づけによって終わった。

 

 ……もちろん、口と口にではない。頬に対してである。だから拒まなかった。

 彼女はそのまま、頬に両手を当てて顔を紅潮させ、「しちゃった♡」と満足気である。

 

 しかしすぐに微笑むと、

 

「……必勝祈願のおまじないです。決勝戦、がんばってねコトちゃん! 応援してます! フォースと共に!」

 

 そう言うと、慌ただしく控室から出て行った。

 

 彼女の背中を見送りながら、私はもう一度苦笑する。

 

「……やれやれ。負けるつもりは元よりないが、なおさら負けられなくなったな」

 

 ヒミコに口づけされた頬を軽くなでながら、私はひとりごちた。

 そこにスタッフが呼びに来たので、一声応じて私も控室を出る。

 

 私の口元は、自分でも気づかないうちにうっすらと笑っていた。

 




決勝戦の直前、キスで主人公を激励するヒロインの図は王道だと勝手に思ってます(二人の年齢から目を背けながら
・・・普通王道なシーンは先にやるもんだっていうツッコミはナシでお願いします(吸血シーンから目を背けながら

さて前書きにも書きましたが、掲示板回を二回挟んでから決勝戦となります。
カードは皆さん予想通り、VS爆豪。お楽しみに。

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