銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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今回、主にスターウォーズのエピソード3~6までのネタバレが含まれています。
ご注意ください。


5.増栄理波:オリジン

 まさかここでアナキンと再会できるとは思わなかった。彼には色々と思うところはあるが、今の彼にはあのときのような剣呑な雰囲気は感じられない。むしろ、最も英雄に相応しいと称されていた当時のような雰囲気が、理想のジェダイのような貫禄があって、あれは夢だったのかと思うほどだ。

 彼が言うには、変えようのない現実らしいが……それでも、あの瞬間まで私は彼を友人だと思っていたのだ。そしてあれ以外に、私は彼の蛮行を知らない。真摯に謝罪もしてくれたし、これ以上は言うまい。今は素直に彼との再会を喜びたい。

 

 ……まあ、家族ではすこし揉めかけたが。主に私がイマジナリーフレンドと会話しているように見えることについて。

 これに関しては、「増幅」によって一時的に両親のミディ=クロリアン値を増やすことで、少しだけだがアナキンを視認できるようにしたことでとりあえずは事なきを得た。両親は霊感すら私の“個性”の範疇なのかと驚き、別の混乱も起きかけたがそれはひとまず置いておこう。

 

 アナキンとの再会である。両親同席かつ、彼らとアナキンは互いの言語がわからない状況ではあるが、ともかく話をすることができた。

 そこで私は、今日までの約四年半で何があったのかを語った。銀河標準ベーシックで、可能な限り余すことなくだ。

 

『……まさか他の星に、しかも新しい生命として生まれ変わるなんてことが起きるなんて……』

「フォースの申し子と言われた君でも原因はわからないのか?」

『そりゃあ僕だって全知全能じゃないからな。……しかし本当にそうなら、君のフォースの質がアヴタスだった頃と変わっていないのはどういうわけだろう。僕はこんな共和国から遠い星、しかもフォースが薄い星で懐かしいフォースを感じたから、顔を出してみたんだが……こんなことになるとはなぁ』

「……君、気楽に言っているが正気か? 『顔を出してみた』程度の気楽さで顔を出せる距離だとは思っていなかったのだが……」

『ああ。今の僕はフォース・スピリット……要は幽霊なのさ。フォースがあるところなら距離は無視できるんだ。ちなみにコルサントからこの星まで、ざっと8700万光年ってところだな』

「遠い! そんな離れた距離を無視して移動できるなんて、君はどうなってしまったんだ!?」

『だから、幽霊さ。他に言いようがないよ。……ちなみにオビ=ワンもできるし、マスター・ヨーダも可能だ。もっとも今の時代、わざわざ顔を出してまで生きている者たちに関わろうとは誰も思っていないけれども』

「……ああうん、マスタークラスでもなければ習得できないものだということは理解したよ」

 

 しれっと言うが、マスター・ケノービはまだしも(それでも十分すぎるが)、マスター・ヨーダに肩を並べられるなど尋常ではない。やはりこの男はフォースの申し子なのだなぁ。

 

 まあそれはともかく、細かいことはわからないが、私は己の近況を語り終えた。

 

「で? 君は一体全体、何がどうして幽霊なんかに?」

 

 だから次は君の番だ、アナキン。

 そう告げたものの、アナキンは口を開くまでに少々時間を要した。

 

 それを見て一筋縄ではいかない話が語られるのだろうとは思ったが……私の予想は大きく裏切られた。いい意味でか、悪い意味でかは即答はしかねる内容ではあったが……ともかく私が死んだ後の彼の人生は、まさに壮大な物語だった。

 

 まず、やはりアナキンはダークサイドに堕ち、シスの暗黒卿となっていたことから始まり。

 

 マスター・ケノービと殺し合い、敗れたこと。

 自身の早合点で妻を亡くしたこと。

 ダース・シディアスが帝国を興し、共和国を滅ぼしたこと。

 そんな帝国で、恐怖政治の一端を担っていたこと。

 

 堂々たる暗黒卿の人生だ。恐らく、彼の手にかかった人間は万では足りないだろう。

 だが……そんな彼が、息子によって心を取り戻し、ジェダイに帰還したこと。そしてシディアスを自身もろとも打ち滅ぼし、罪を清算したこと。フォースにバランスをもたらしたことまで語られると……。

 

 思うところはたくさんある。君ってやつは隠れて結婚していたのか、とか。

 

 だが何を差し置いても私が感じたのは、一つの叙事詩のようだ、というものだ。スカイウォーカーという血族を主人公にした。

 私はその中では、早々と退場した端役だったかもしれないが……それでも、そんな英雄の物語(人生)に参加できたことは、誇らしいとも思えた。

 

『そうして僕は死んだわけだが……フォースと一つになってなお自我を残すことになった、ってわけさ』

 

 語り終えた彼の表情は、凪いでいた。激動の人生であったろうが、死んだ今となっては心の整理がついているということだろうか。

 

 そう問うたところ、

 

『そりゃあ、あの頃から1200年くらい経っているからな。ジェダイや共和国どころか、その後継すらとっくにないんだ。本当に終わっているんだよ、何もかも』

 

 と返されて絶句した。

 まさかそんなに長い時間が経っていたとは……。話の途中、戦争はすっかり終わっていて、今から私がコルサントまで馳せ参じてもできることはなさそうだとは思っていたが、そこまでとは……。

 

「なんてことだ……」

 

 そして私は、再び頭を抱えた。

 

 私が、アヴタス・イーダという人物が知っているものも、私を知っているものも、そのすべてが残っていないとは。この広い宇宙の中にただ一人、推進力もないポッドで放り出されたような気分だ。これもフォースの試練だというのか。

 私はこれから、どうしていけばいいのだ……。

 

『……君がどうして今、こうして生きているのかは僕もわからない。だけど、人生に無理やり意味をつける必要はないと思うぞ? せっかく未知の星に生まれ直して、新しい人生が始まったんだ。今までのことは思い出として仕舞っておいて、たまに見返すくらいでいいんじゃないか? それで今を楽しんでしまえばいいさ』

「さすが私より長生きしただけはあるな、含蓄がある……」

 

 アナキンは諭してくれたが、そうは言ってもかつての記憶を忘れられない以上、私に他の生き方などできそうにない。

 どうあがいたところで、私はジェダイだったのだ。その生き方は、簡単に捨てられるものではない。

 アヴタスという名は捨てられても、その心を捨てることはできないのだ。

 

『……そういうところ、君は頑固というか、融通が利かないよな。実にジェダイらしいと言えばそうなのかもしれないが』

 

 ……そうかもしれない。

 

『ダメそうだな……よし、それなら逆に考えるんだ、アヴタス。確かに君の帰る場所は、もはや残っていない。かつてそうだった星があるだけだ。だけどコトハが帰る場所はあるだろう? この星はまだ滅んでいない。ジェダイの生き方を捨てられないなら、今いる場所を守ってみたらどうだ。ジェダイとしてな』

「ジェダイとして……そうか。確かに。確かに!」

 

 そうだ。私は少し前に、そう決意したではないか。フォースがなくとも、それで共和国に帰れずとも、ジェダイになれずとも。できる範囲でジェダイたらんと決めたではないか。

 ならば、選べる道が減っただけだ。選択肢が一つになっただけだ。フォースも使えるようになっている。私がやるべきことは、かつてとなんら変わらないではないか!

 

 それに、そうだ。私の“個性”があれば、フォースセンシティブを増やすことができる。代償として私は餓死しそうになるが、見極めは少しずつできるようになってきている。

 であれば……フォースが薄いとアナキンが評したこの星でも、ジェダイを再び興すことができるのではないか!?

 

「……アナキン、ありがとう。私はやるよ。やるべきことがはっきりとわかった」

『よかった、今回は引きずらなかったみたいだな。……それで? 君の答えは? 君がやるべきと思ったことはなんだい?』

「ああ。ジェダイを……復興させる!」

『……正気か?』

 

 なぜかアナキンが目を丸くしている。なぜ……いや、なぜもないか。彼は一度、ジェダイに失望して暗黒面に堕ちたのだった。ジェダイという存在には、含むところがあるのかもしれない。

 

『それも否定はしないが、やはりジェダイの必要性を特に感じていないからかな。ジェダイはあのとき、滅ぶべくして滅んだんだ。間違いなくね』

「そんな、」

『硬直した組織運営、正義への盲信、今を生きることより未来を手繰り寄せることを良しとする傲慢、理念を掲げた手で理念を棄損する矛盾……原因を上げればきりがない。

 だからこそ、もう一度ジェダイを興すというのであれば、君は常に己を律するのみならず、自分が社会に、時代にかみ合っているかどうかも問い続けなければならないぞ。まばゆい光の中では目を開けられないように、強大な光の中にいる人間は(めし)いているのと変わらないんだからな』

「…………」

 

 アナキンの言葉に、私は何も言えなかった。

 

 ジェダイではなくなって、四年と半年ほど。たったそれだけの時間ではあるが、確かにその中での経験が、かすかに抱いた疑念が、反論を言わせてくれなかった。

 そしてその経験を基に当時のジェダイを見返してみれば……むしろ反論は許されていないとまで言えるかもしれない。

 

『それでも君はジェダイを再興するのか? 既に共和国も帝国もないのに、ジェダイにこだわる必要が本当にあるのか?』

「…………、……ある」

『へえ?』

 

 だがそれでも、多少の逡巡ののちに私は是と答えた。

 同時に、興味深そうに眉を片方上げたアナキンに、私は居住まいを正して向き直る。

 

 とはいえ、あるとは答えたものの、正直自身の考えはまとまりきっていなかったから、ゆっくりとだ。少しでも考える時間が欲しかった。

 感情や思考というものの言語化は、いつだって難しい。理性と忍耐が求められるジェダイでは必要な技能であったけれど、ときに人間はそうした理屈を自分でも理解できないものだ。

 

 今の私もそうだろう。だがそれでも、私はただ反射で応じたわけではない。売り言葉に買い言葉で応じたわけでもない。

 ただ、アナキンの問いを頭の中で反芻したとき、浮かんだ光景があったのだ。

 

 それは――

 

「――アナキン、この星の治安がどれほどのものか知っているか? ……ものすごく悪いんだ。“個性”なんていう、フォースにも匹敵する特異な力があふれていることもあって、毎年あちこちで大勢が亡くなり、あるいは行方不明になったりしている。この国はだいぶマシだが……それでもそうした事件は枚挙に暇がない」

『……つまり?』

「つまりこの星は……今まさにジェダイを必要としているんだ。平穏に暮らしている無辜の人々の、自由と正義を守る者が」

『それがジェダイにこだわる理由だと?』

 

 こくりと頷く。

 

 ……厳密に言えば、それに類する職業は存在している。ヒーローだ。だが、彼らの今のありようは不十分だ。不十分というか、不十分なものが多いというか。まあ、それは制度や社会そのものも関わるので、一概に彼らが悪いわけでもないのだが。

 

『なるほど、確かに。当時の共和国ほど平和が続いていないのであれば、ジェダイのような抑止力や解決手段は必要かもな。思えばジェダイも、旧共和国の初期の頃はそういう役目を負っていたわけだし』

「うん、その頃の……ジェダイとしては古き良き時代の在り方とでも言うのかな。それを実践する形になると思う。私たちが生きていた頃のジェダイのような、硬直して身動きが取れなくなるほどの大組織になるのは、もっとずっと先のことだと思うよ。生きている間に土台くらいは作りたいとも思うが」

『それもそうだな。うん、いいんじゃないか? その想いが君の……アヴタスではなく、コトハとしての原点というわけだ』

「うん。……ありがとうアナキン、やはり君との会話は楽しいよ。特に今の君の視点は、とてもためになった」

『そこはまあ、僕も色々あったからな。ダークサイドの教えというのも、覚えて損はなかったというわけさ。あとはあれだな、人に教えた経験はやはり大きい。オビ=ワンは教える側も日々学ぶことばかりだと言っていたけど、その通りだ』

 

 肩をすくめるアナキンに、そういえばと返す。

 うん、彼にもパダワンがいた頃があったな。彼女は諸々あってジェダイを去ってしまったが、傍目から見ていてなかなかいい師弟だったように思うし……うん?

 

 待てよ、そういえばジェダイを再興するのはいいとして、セーバーテクニックは私には教えられないな。私はそこまで荒事は得意ではなかった。アナキンはそういう意味でも外見詐欺と揶揄したものだが、実際私は七つもあるフォームをまるで網羅できていない。

 それに反して、目の前の友人はそちらの面でも優秀で……。

 

『……待て。君、何かろくでもないことを考えているな?』

「そんなことはない。ただ、君に私のマスターになってもらえないかと思っただけだ」

『だと思ったよ……』

 

 はあ、とため息をつきながら、アナキンは肩を落とした。

 だが、やれやれと言いながら顔を上げると、その少し癖のある髪をくしゃくしゃやりながらも、どこか楽し気な苦笑で視線を返してくる。

 

『……まあ、昔のよしみだ。ここ千年ほどは僕が関わろうと思えることは本当に何もなかったし、君がどこまでできるか見届けるのも悪くない。付き合ってやるよ』

「そうこなくては!」

 

 持つべきものは友人だな!

 

 ……おっと、そうと決まれば筋は通さねばなるまい。私は再度居住まいを正すと、腰を折って頭を下げた。

 

「これからよろしくお願いします、マスター・スカイウォーカー」

『き、君にそう言われると、なんだか鳥肌が……』

「なんてことを言うんだ君は!」

 

 まったく心外である。

 しかし、こういうやり取りも友人だからこそなのだろうな。久しぶりの感覚に、どうしても笑えてしまうではないか。

 

 ……ただ、視界の端で両親が私を見て「こんなに楽しそうなコトちゃんは初めて」とか言い合っているのは、その、参るのでやめてはもらえまいか。

 それとだ。幽霊に修行をつけてもらうという話を聞いて、なんとも言えない顔をするのもやめてはもらえないだろうか。

 

 ……またしても爆笑するアナキンには、いつか報いが訪れるものと信じているぞ。

 




気まぐれかつ今後使えるかどうかもわからないスターウォーズ用語解説第三回
「アナキン・スカイウォーカー」
スターウォーズのナンバリングタイトルであるエピソード1~9のうち、プリクエルトリロジーと呼ばれる1~3の3部作で主人公を務めるキャラクター。
色んな意味でスターウォーズの顔であり、本編中でも言及された通り、スターウォーズという物語は彼から始まるスカイウォーカー一族の一大叙事詩である。

本作では、主人公の前世アヴタス・イーダの友人だったと言う設定。
しかしクローン戦争が始まると、将軍として最前線に立って多大な戦果を挙げていたアナキンと、後方勤務ばかりを担当していたアヴタスとでは、立場が違う上に顔を合わせる機会がほとんどなかったため、少しずつ二人の間にズレが出始める。
暗黒面にどんどん近づいていったアナキンの変化を、アヴタスは知らないままだった。
もしももう少し二人が会う機会が多かったら・・・あるいは、ダース・シディアスの戴冠はなかったかもしれない。
・・・まあこれ、二次創作なので、アヴタスなんてジェダイは原作にはいないんですけどね!

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