銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

60 / 288
17.体育祭 バトルトーナメント決勝戦

 舞台に上がる。対面では、既にバクゴーが待っていた。

 思っていたよりその顔は凪いでいる。だがフォース越しに伝わってくる内面は、ケッセル宙域のメイルストロムがごとく荒れ狂っている。

 

「……わかってんだろうな、()()

「無論だ。約束通り、本気でお相手しよう」

 

 問いにそう返せば、バクゴーは極めて攻撃的な笑みを浮かべた。

 

 暗黒面の気配。しかし、光明面の気配も変わらず同居している。この絶妙なバランスは、彼以外にできるものはそうそういないだろうな。

 

《さァいよいよラスト! 雄英一年の頂点がここで決まる! 決勝戦!》

 

 マスター・プレゼントマイクが声を張り上げる。観客の声が大きく響く。

 

 バクゴーが、そして私が、身構える。

 

《増栄対爆豪! 今――――スタート!!》

「死ねぇぇッ!!」

 

 開幕と同時に、バクゴーが爆破を放ってきた。正面から爆炎が襲い来る。

 

 私はそこへ、スーパーフォースプッシュを叩きつけた。

 

「断る!」

「ぐっ!」

 

 強烈な斥力によって、爆炎はもちろん爆風、煙も逆流してバクゴーに返っていく。のみならず、斥力は彼の身体をもさらって吹き飛ばそうとする。

 

「甘ぇ!!」

 

 だが、バクゴーはとっさに両手から爆破を起こして空中に逃れ、斥力のくびきから抜け出した。さすがの判断力だ。

 

 次に、上空からかかと落としが降ってくる。これに対して上方向の軽いフォースプッシュを放って勢いを削ぎつつ、迎撃しようとしたところ、小刻みな爆破を繰り返しての急激な方向転換で対応され、側面から裏拳を叩き込まれた。

 

「せいや!」

「チィッ!」

 

 だがそれは見えていた。肘で拳を打ち払いながら、逆の手で私からも拳をプレゼントだ。

 

 そう思っていたが、途中でバクゴーの身体が加速した。爆破を使って強引に加速したのである。これにより、彼の攻撃は完全に不発となった。

 

 しかし私の肘打ちは彼の素肌ではなく体操服に入り、私も狙っていた増幅を不発にされた。続く攻撃も、猛烈な速度で傍を通過した彼には当たらない。

 

 一瞬……一瞬だが。今、バクゴーの未来が複数同時に存在した。この感覚……まさか?

 

「オラァ! どーした俺のパクリ技はしねぇのかァ!?」

「あれはヒミコが開発したものだ。私には不可能だよ!」

 

 厳密には、仕組みは理解しているからやろうと思えば恐らくできる。

 だが、私は博打が嫌いだ。そもそもバクゴーほどの相手に、練習すら一度もしたことのない技を使うなどもってのほかだろう。フォースブラスト以外に、頼れる技はいくらでもあるのだから。

 

「ハッ、どうだか……なァ!!」

「おっと!」

 

 何はともあれ、私たちは至近距離で殴り合う。もちろんノーガードということはなく、互いに互いの攻撃をさばきながらだ。

 

 ただし、その攻撃には爆破であったりフォースであったりが乗っているので、速さと威力は桁違いなのだが……バクゴー、合わせてくるか。今はまだ全力を出していない私だが、それでもフォースによる先読みを加えて攻撃しているから、簡単に避けられるはずはないのだが。

 その上で、私の肌に触れないように警戒しているのだから恐れ入る。

 

「随分と警戒するのだな!」

「クソメガネとの試合見てりゃ、テメェに触れられるだけでアウトっつーことくらい誰でもわかるわバァカ!」

 

 振り返りながらの爆破。かなり近い位置からのそれはかなり強烈で、後退を余儀なくされる。

 そこにさらに爆破の追撃。いや……連撃か。さながら絨毯爆撃のような攻撃が、私に次々と叩き込まれる。

 

《爆豪エゲつない絨毯爆撃!! これにはさすがの増栄も逃げるしかないか!?》

「テメェの判断力は並みじゃねぇ……癪だがそれは事実だ! っつーか未来予知もしてんだろアアン!?」

「おお。それを見破ったのは、マスターたち以外では君が初めてだ」

「ほざいてな! だがよぉ……そんなら未来が読めようがなんだろうが、どうにもならねぇ攻撃をすりゃいいだけの話だ!!」

「お見事、正解だ」

 

 爆風の向こうから届く声に、是と返す。

 

 彼の推測は正しい。私は確かに至近の未来予知が可能だが、いくら未来がわかったところで回避できない規模の攻撃を叩き込まれたら対応はできない。数体やられようが関係のないバトルドロイドの大軍による物量作戦や、ドロイディカ(バトルドロイドの強化版みたいなもの。シールドを展開した上でブラスターを連射してくる)のような絶え間のない攻撃を延々としてくる相手こそ、ジェダイの数少ない天敵だった。

 

 そして横だろうが後ろだろうが、あるいは上だろうが、どこに逃げても逃げ切れない高威力広範囲の爆破は、それに十分匹敵する。この威力では私の拙いフォースバリアで防ぎきれないし、面での攻撃だから跳ね返すにはスーパーフォースプッシュ並みの出力を出さなければ対応できない。

 何より、そうしたフォースの高度な応用技を使うための集中を、派手な音と光、そして高い威力の爆破の連続が鈍らせて来る。単純な力押しだが、実に効果的な攻撃だ。

 

 ついでに言えば、バクゴーは逐次位置を変えながら攻撃を続けており、単純な反撃を受けないように立ち回っている。煙で彼の姿が見えないので、フォースによる直接攻撃も難しい状況である(ジェダイなのでしないが)。そこまで考えてのことではないだろうが、こうした戦闘のセンスはさすがと言っていい。

 

 それを実現している根幹は、恐らく私のアドバイスによって伸ばされた彼の“個性”の出力だろう。出力の上昇に伴い身体もそれに対応できるよう成長したのか、攻撃はほとんど途切れることがない。見事だ。

 

 だが、今の私はフォース以外にも“個性”という超能力を持っている身。やりようはいくらでもある。

 

 ゆえに私はまず、上着を脱いで諸々増幅し、バクゴーに向けて投げつけた。鋭く飛んでいったそれは簡単に回避されたが、それでいい。

 この隙に、爆破から逃げる形で後ろに大きく跳ぶ。そうして空気の瞬間一時増幅を用いた高速の空中機動でもって、舞台を大きくぐるりと迂回してバクゴーへ襲い掛かる。爆炎/爆煙によって相手の姿が見えないのは、お互い様なのだ。

 

「やっぱそう来るよなぁ!」

「ああ、君ならそう来ると思っていたとも!」

「がッ!?」

 

 背後からの高速の攻撃を、バクゴーは恐らく音で感知したのか、最小限の動きで回避した。

 

 しかし読んでいたのは私も同様。私はそこから反撃しようとしていたバクゴーのほうへ直角に軌道を変え、肘打ちを鳩尾に叩き込んだ。

 

 一瞬えずき、姿勢を崩しかけるバクゴー。しかしそのままひるむことなく攻撃を続行することは、フォースに頼らずともわかる。彼はそういう男だ。

 

 ゆえに私は即座に離脱した。肘打ちを叩き込んだその先で、空気を一時増幅してバクゴーの身体を大きく吹き飛ばしながらだ。

 そんな私を爆破が追いかけてくるが、変則的な空中機動によって即座に回避。返す刀で回転蹴りを首筋に入れ……ずに直前で身体を上下逆さまに反転。しかし勢いはそのまま残してバクゴーの頭上スレスレを潜り抜けながら、襟首をつかんで思い切り場外へ投げ飛ばす。

 

《増栄、息をつかせぬ怒涛の攻撃! もうなんていうか口で説明できねー変態的な立体機動ーー!!》

 

 遂にプレゼントマイクは、私の挙動を実況することを諦めたらしい。短時間で目まぐるしく、そしてせわしなく動いているから気持ちはわかる。そういうものは、そういうドロイドに任せておけばよい。

 

 ともあれ、私は投げたバクゴーを猛追する。彼は爆破を小刻みに用いて瞬時に体勢を立て直したが、空中戦は全身で挙動を制御できる私に分がある。

 そのまま猛スピードでバクゴーを追い越した私は、すぐさま反転して体勢を整えた直後の背中に蹴りを入れる。

 

「ぐ……ッ! んの……!」

「まだまだ!」

「クソ……ガキ……がぁ……ッ!」

 

 だが、彼を地上には戻さない。このまま空中で、満足に身動きが取れない状態のまま消耗してもらおう。

 

 私は何度もバクゴーの周辺を複雑に往復し、空中に彼をとどめたまま、さながら一人でキャッチボールをするかのように攻撃を打ち込み続けた。

 直接接触できるときには彼の身体の重さを一部だけ増幅して回ったので、身体のバランスは滅茶苦茶だろう。もはや彼は自前の“個性”だけでは、ろくに飛び回れないはずだ。

 

《あの爆豪が手も足も出ないーー!? 嘘だろ増栄、ここはドラゴンボールの地球じゃねぇんだぞ!?》

《いや、手は出てるな》

《あっ確かにィ! さすがだなアイツ!!》

 

 イレイザーヘッドの言う通りだ。バクゴーは空中という本来なら人類には上がることすら許されない土俵にありながら、視界の外から来る高速の連続攻撃を、過重かつバランスを崩した状態にもかかわらず、かろうじてでも対応している。攻撃は確かに喰らっているが、その内のいくつかはしっかり防御しているのだ。

 ときには爆破で反撃もしてくるので、見た目より私に余裕があるわけではない。実際いくつも火傷を負ったし、血も出ているしな。

 

 だが、これではっきりした。今までもしやとは思っていたが、確定だ。こんな状態で空中機動を半ば持続し、あまつさえ戦闘行動が可能なほどの集中力、空間把握能力、身体能力を維持できる人間など、そうそういてたまるか。

 

 間違いない、バクゴーはフォースの素養がある。現時点でアナキンの姿を認識できるほどの素養があるかどうか……何よりユーザーになれるほどの素養があるかどうかは、しっかり調べてみないとわからないが。

 しかし、それでも確実に常人より感覚が上だ。これは、“個性”以外ではフォースの恩恵がなければあり得ない。

 

 であれば、本当の意味で手加減は無用だ。そう判断し、私はスーパーフォースプッシュを死角から叩き込む。手順は同じでも、それぞれの強化を最大で行う全力のスーパーフォースプッシュだ。

 

「敗……けるかああァァァァーーーーッッ!!」

「むう!?」

 

 だが、彼は吹き飛ばなかった。ウララカとの試合で見せたような、凄まじい規模の爆破を背後に起こすことで、強化された斥力に抗いきったのである。

 

 それどころか、斥力を食い破って私に肉薄までして見せた。彼の手が向けられる。

 当然そこには強大な爆破のエネルギーが解放されつつあり、私の眼前に破滅的な赤が迫っていた。

 

 予測、予知してなお、それを上回られた。一瞬だが、今、間違いなく、明確に。

 

 だが迫りくるバクゴーの姿を見て、私は――――口元に笑みが浮かぶのを自覚する。

 

 ヒミコと戦ったときとはまた違う高揚感。己の半身と優雅に踊るような感覚とは異なる、ひりつくような……恐ろしくもどこか楽しい、そんな高揚感だ。

 それが今、一瞬だが私の全身を駆け巡った。その感覚がわかった。認識できた。

 

 そうか。

 

 これが。

 

 この感情が、戦いの喜悦か。これがマスター・ウィンドゥが行き着いた究極のセーバーフォーム、ヴァーパッドの入り口か!

 

 なるほど、この感覚はフォースを研ぎ澄ませる。極限まで鋭くなったフォースが、一段以上も位階を引き上げてくれるだろう。ここに“個性”を組み合わせればあるいは、アナキンにも――

 

「コトちゃん!! 負けないで!!」

「……ッ!」

 

 ――そして、ヒミコの声で我に返った。

 

 彼女の「負けないで」はバクゴーにではない。私に向けた、己自身に負けるなという意味だ。

 

 ああ、そうだ。そうだとも。()()()()()()()()

 “個性”による全能力増幅と似ている。あれで抱く全能感、万能感にとても近い。

 しかも、より闇に近い。この感覚に身を任せたら、間違いなく破滅する。

 

 それに気づくことができた。ありがとう、ヒミコ。

 

 そうだ、私はジェダイだ。この昂る気持ちのまま動いてはいけない。

 だから私は、全身を暴れるように駆け巡る感覚を緩やかに抑えつつ、しかし完全には抑圧しないでフォースの力を研ぎ澄ませた。しかし思考はどこまでも冷静に、()()()()()()()()()()鍛えた技を全心に注ぎ込む。

 

「――来い! バクゴーッ!!」

 

 とはいえ、もはや回避は不可能だ。手を伸ばせば届くほどの至近距離に、バクゴーがいる。 

 だから、迎撃するしかない。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォッッ!!」

 

 さながら人間ミサイルと化したバクゴーの、凶悪な爆破が私を襲う。これに対して、私は両手を突き出し渾身のフォースバリアを前面に展開した。

 

 フォースバリアはフォースによる障壁で身を守る技であるが、それは厳密に言うと「エネルギーを吸収して周辺に拡散することで攻撃を和らげる」効果も持つ。つまり単に攻撃を遮る技ではなく、フォースを介してエネルギーを散らして攻撃そのものを減退させる技……ツタミニスの上位技なのである。

 

 これをスーパーフォースプッシュ同様、フォースで強化した“個性”で増幅したフォースでもって行使した。

 

 増幅した対象は、フォース操作に関わること全般。それからバリアの行使と共に、私の身体と周辺の空気がエネルギーを吸収・拡散する効率も増幅する。

 これにより、私の前面に展開されたフォースバリアは、スーパーフォースバリアとでも言うべき堅牢な守りを発揮した。併せて少しだけ後退を開始し、衝撃に備える。

 

 そうして刹那も間を置かず、バクゴーが着弾した。バリアに人を何人も殺して余りあるほどの衝撃が叩きつけられ、それが眼前で相対する私にも伝わってくる。

 轟音と暴風が吹き荒れる。全身が痛み、きしむ。

 

 だが、致命的な負傷はない。ならば耐えられぬ道理などない。受け流す。

 

 ――拮抗。

 

「がああぁぁぁァァァーーッ!!」

「おおおぉぉぉ……ッ!!」

 

 フォースが爆破のエネルギーを拡散する瞬間の、かすかな光の煌めきを挟んでバクゴーが吼える。私も。

 寄せ合って、と言えるほどの至近距離で、獰猛なバクゴーの顔が楽し気に、生き生きと笑っていた。

 

 ああ、と思う。

 彼ほどではないにしろ(そうだと信じたい)、きっと私も笑っているのだろう。この瞬間、今だけは、きっと私と彼の思考は同じはずだ。

 

 だが――終わりは突然に訪れた。バクゴーの身体が、突然勢いを失い始めたのである。その手からは、出血していた。

 無理もない。最大級の爆破を、この短時間で何回も連発したのだ。既に彼の身体は限界だったのだろう。

 

 瞬間、天秤の均衡は崩れる。秤は私に傾き、受け止める側であるはずの私の身体が前に出た。

 

「私の――勝ちだ」

 

 そして私はバクゴーの身体をつかむと、教師陣がいる座席めがけて()()()放り投げる。これを、長身ながらも骨と皮だけに見える男性……マスター・オールマイトが、慌てた様子で受け止めた。

 

「爆豪くん、場外!」

 

 一瞬、静寂。

 

「よって――……増栄さんの勝ち!!」

 

 しかし、即座に反転。今日一番の盛大な歓声が沸き上がり、スタジアム全体を包み込んだ。

 

 私はそれに応えず、ふらふらと舞台の上に戻る。私もだいぶ限界が近い。特に、栄養の残りが心もとない。空腹で仕方ないぞ。

 

 それでも私はくずおれることも、座ることもせず。

 舞台を両の脚でしかと踏みしめると、バクゴーへまっすぐ笑みを向けて胸を張った。どうだ、と言うように。

 

 返事はなかった。あったとしても、聞こえないだろう。フォースで感じ取ることはできるが、それは必要なかった。

 

 なぜなら、オールマイトの手で立ったバクゴーの顔は、険しい表情ながらも納得したものであったから。

 

 何より、彼は応じるように親指を地面に突きつけて見せたのだから。

 

《以上ですべての競技が終了! 今年度雄英体育祭一年、優勝は――――……A組! 増栄理波!!》

 




かっちゃんフォースセンシティブ疑惑は、プロローグを書き始める前から考えてました。作中で才能マンとか言われる彼ですけど、手元の爆破だけであんだけ飛ぶにはフォースの恩恵がないとできないと思うんですよね。VSお茶子ちゃん戦で見せた異次元の反応速度も、そういうことではないかと。
ということで、本作の彼はフォースセンシティブです。そういうことにしました。
彼の才覚のほどはいずれまた。ただ、しばらくその辺りについての描写は挟まらないかなとも思います。
ヒロアカをご存知の方なら体育祭の次がどういうシナリオかご存知でしょうが、爆豪自体の出番がしばらくあまりないので仕方ないのです……。

なお、本作におけるフォースバリアの原理はレジェンズ準拠になっています。
どうぞあしからず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。