銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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お待たせしました、投稿再開します。


EPISODE Ⅳ ファントム・メナス
1.名前をつけてみようの会


 休校二日目。昨日は完全な休養に充てたので、今日は普段通り鍛錬を行いながら過ごす。

 昨日の一件以来ヒミコは顔を合わせるたびに軽く赤面していたようだが、私は普段通りだ。彼女としても合わせないわけではないし、別段私が嫌いになったわけではない。そのうち慣れるだろう。

 

 そう考えつつ、午前中の鍛錬を終え。ヒミコとシャワーを浴び、一息ついているときのことであった。

 

「ますたー。ゴ学友ノ飯田サマカラ、オ電話デス」

 

 S-14Oがやってきてそう言った。

 

「イイダから? わかった、出よう」

「ハイドーゾ」

 

 彼女から端末を受け取り、私は身体ごとヒミコの膝から頭を起こす。

 

「もしもしイイダか?」

『もしもし? 休日に突然の電話、すまない』

「いや、ちょうど休憩していたところだ。大丈夫だよ。どうかしたのか?」

 

 と言いつつ、電話口からも感じる暗黒面の気配に、なんとなく事態は察せられた。

 

『ああ……その、つかぬことを聞くのだが。増栄くんの……”個性”で。脊髄の損傷を……治療することは、可能だろうか……?』

 

 そしてその予想は、続いた彼の言葉で確信へと変わった。

 

 イイダの兄、プロヒーロー・インゲニウムがステインなるヴィランに敗北し、重傷を負ったというニュースは体育祭の時点でわかっていた。どうやらインゲニウムは、脊髄を損傷したのだろう。ということは……この星の今の医療技術では、日常に戻ることはできてもヒーローに戻ることはできないだろう。

 

 これは生真面目で、情に厚いイイダには相当に堪えただろうな。彼でなくとも、憧れであり自らの原点とも言える存在の復帰が絶望的となれば、大多数の人間は暗い感情を抱くだろう。

 そしてなんとかして尊敬する兄を助けたくて、望みは薄くとも私に……と言ったところか。

 

 しかし……残念ながらそれは不可能だ。イイダの気持ちを思えば言いたくはない。言いたくはないが、言うべきことは言わなければならないだろう。

 

「……普通は症状の程度がわからない場合、断言はしないのだが。今回ばかりは……すまない、断言する。不可能だ」

『……ッ! 不可、能……なのか……』

「私の”個性”による治療は、リカバリーガールのそれとほぼ同じ仕組みだ。すなわち対象の治癒力を底上げするもの。人間の自然治癒で治らないものは、治せないのだ」

『そ……う、か……』

 

 愕然と、と言うに相応しい暗い声がスピーカーから聞こえてきた。

 

 ああ、彼が一歩暗黒面に近づいてしまった。愛がふとした瞬間、憎悪へ反転する好例だ。だからこそ、ジェダイはそれを抱くことを禁じたわけだが……しかし今の私は、イイダの気持ちが少しわかる。

 私も、家族やヒミコに万が一のことがあったら、彼のように暗黒面に踏み込まないとは言い切れない。かつてのようにないと断言することは、もはや今の私には不可能だ。

 

 それでも、無理だと断言すればこうなることはわかっていた。いたが……しかし、下手なことを言って逆効果になったほうがもっとまずいだろう。だから言うしかなかった。

 ……それに、当てがないわけでもないから。だから。

 

『……すまない、突然の電話にも関わらず答えてくれてありがとう。では学校で……』

「待てイイダ、電話を切るな。話は終わっていない」

『……?』

「確かに、私の”個性”で脊髄の治療は不可能だ。身体にマヒがあったとして、それを治すことはできないだろう。だが――」

 

 そう言う私の脳裏をよぎるものは、前世。クローン戦争のことだ。

 あの当時、大量のクローン兵士が()()された。ジェダイですらときにあっけなく死ぬ戦場で、しかし彼らは死んだ端から補充された。将軍であり、替えの利かないジェダイとは違う彼らはまさに道具であり、いつ死んでもさほど問題ではない消耗品。それが大衆的なクローン兵士観だった。

 

 しかし彼らには希薄とはいえ自我があり、さらには経験を積むことでそれを確立したものもいた。付け加えれば、戦場での経験はクローンであっても替えが利くものではない。

 何より、彼らはクローンであっても人間。その()()など許されるものではなく。

 ゆえに私は戦争勃発後、自らの機械技術を彼らのために活かして後方任務の傍ら様々な開発・研究事業にも協力していた。実際にそのための機械を造ったことだって、何度もある。

 

 だから。

 

「――義肢なら、造れるぞ」

『……なん、だって?』

 

 私は電話の向こうに、断言した。

 

***

 

 体育祭が明け、通常の授業が始まる日。やはり全国放送の影響は強いらしく、たった十分程度の通学時間であっても相当声をかけられてしまった。

 私やヒミコが目立っていたことはお互い自覚するところであるので、仕方ないとも思うが……十分でこれなら、それなりの時間をかけて通ってきている面々は相当に辟易とさせられているだろうな。

 

「超声かけられたよ来る途中!」

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

 

 クラス全体の空気もそんな感じで、なんとなく浮ついたものを感じる。この辺りはみな歳相応だな。

 

「一位の増栄なんてすごかったんじゃねえか!?」

「どうだろう……確かに声はかけられたが、私たちはすぐ近くに住んでいるからな。回数、人数の合計はみなより少ないのではないかな」

「私はせっかくなので見せつけてきたのです」

「マジか! 漢らしいなトガ!」

「……そういうのかコレ?」

 

 ……ただ、その状況で見せつけるように密着するヒミコは、なんというかいつも通りである。立ち直ったようで何より。

 

 14Oによると、ネットワーク上では私たちが()()()()関係にあると邪推する書き込みが相当数あったようだが、この国では「人の噂も七十五日」という言葉がある。移り気な人間を表現した言い得て妙な言葉だ。匿名で無責任にはやし立てるものたちの他愛もない言説など、そのうち風化するだろう。

 まあ別にしなくとも噂そのものに困りはしないが、それで周囲が騒がしくなるのは面倒だ。こういう情報に嬉々として飛びつく民衆が面倒なのは、恐らく人が人である以上どこに行っても変わらないのだろうな。

 

 さて、そうして始まった最初の授業はヒーロー情報学である。ヒーロー基礎学の一つであるが、中でもヒーローに関わる歴史や法律など、主に知識に関する授業だ。

 担当はマスター・イレイザーヘッド。彼は体育祭時には吊っていたギプスが完全に取れ、すっかり完治した姿で現れた。

 

「今日のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ」

 

 彼がそこで一拍間を挟むと、周囲から緊張の気配が一気に強くなる。

 

「『コードネーム』……ヒーロー名の考案だ」

『胸膨らむやつきたああああ!!』

 

 だが、マスターが言葉を続けた途端、クラス全体がどっと湧いた。

 まあ、直後にマスターのひとにらみであっという間に鎮まるのだが。相変わらず、マスターはこの辺りの緩急のつけ方がうまい。

 

 その後淡々と説明を行うマスターによれば、今回のプロからの指名は将来性に対する興味に近いものだという。まだ一年生なのだから当然とも言えるだろう。

 確か、この指名を使って職場体験に行くのだったな……と思いながら聞いていると、マスターは指名の数を表示させた。

 

「例年はもっとバラけるんだが、あまり見ない形の偏り方をした」

 

 そう言うマスターの横の表には、十五人の名前が並んでいる。どうやら最終種目に出場した生徒には、全員何かしらの指名が入ったようだ。

 

 一番上に配されている名前は、僭越ながら私だ。数は2198。

 次いでバクゴー、トドロキと体育祭の順位通りに並ぶ。数は順に1904、1800。

 

 この下には順位を飛び越えてヒミコが970と続き、そこからイイダ、トコヤミ、ミドリヤ、カミナリ、ヤオヨロズの五人が順とはいえ300前後の数値で集中している。

 そしてツユちゃん、キリシマ、ウララカ、ジロー、アシド、セロの六人が90前後で集中。数字が近いものの塊が複数、という……確かにあまり見ない形の偏り方だ。

 

 もっとも、周りは偏りがどうこうというより、指名が来たかどうかで反応しているようだ。アオヤマは「見る目ないよねプロ」と渋い顔をしているし、ウララカは来ると思っていなかったのか歓声を上げながら前の席のイイダを揺さぶっている。

 

 ミドリヤもその辺りは似たようなもので、後ろからものすごく驚いている気配が伝わってくる。やはり彼はまだ自分に自信がないのだろうなぁ。彼にとって、これがいい成功体験になるといいのだが。

 

「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に体験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

「なるほど、それでヒーロー名ってことですね」

「俄然楽しみになってきたぁ!」

 

 嬉しそうに声を上げるジローとウララカに、マスターがかすかに頷く。

 

「まぁ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

 そしてそう言いかけたときである。

 

「つけたら地獄を見ちゃうよ!」

「ミッドナイト!」

 

 言葉を引き継ぐ形で、マスター・ミッドナイトが意気揚々と教室内に入ってきた。まるで豊満な肢体を見せつけるようにである。

 ずっと教室の外に待機していたからいつ入ってくるのかと思っていたが、このタイミングか。

 

「このときの名が! 世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」

「まぁそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

 ミッドナイトの入場にもさしてリアクションすることなく、さらりとイレイザーヘッドが言う。

 

 ……そうだろうか? 彼の「イレイザーヘッド」という名前はなかなかいい名前だと思うのだが。もしかして、人につけてもらった名前なのだろうか。

 

「将来自分がどうなるのか……名をつけることでイメージが固まりそこに近づいていく。それが『名は体を表す』ってことだ。……『オールマイト』とかな」

 

 彼はそう締めくくると、寝袋を取り出して入ってしまった。

 

 ふむ、名は体を表す、か。表意文字を用いる言語体系の国らしい格言だな。

 しかしヒーロー名なぁ……。これほど早く決めろと言われることになるとは思っていなかったから、まったく考えていないぞ。どうしたものだろう。

 

 とりあえず前からフリップとペンを受け取り、残りを後ろに回しつつ考える。

 

『コトちゃんどうしましょう。全然なんにも考えてないのですよ……』

『私もだ。いやはや困ったものだ』

 

 ヒミコも同様らしく、テレパシーで感じる彼女の声は今まで聞いた中でも相当に困っている様子だった。

 

 彼女は私より深刻だろう。つい最近までヒーローに一切興味がなかったのだから、こういう話はそれこそ慮外のものだったはずだ。

 ここで決めたものが最後まで使われる可能性を考えれば、下手なものはつけられないしなぁ。

 

 そんなことを考えながら、しかし時間はあっという間に過ぎていった。

 

「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」

『え』

 

 そして十五分ほど経って。ミッドナイトの言葉に、一瞬クラス全体が固まった。発表形式ということで、緊張感が生まれたらしい。

 だがそんな中を、出席番号一番のアオヤマが堂々と先陣を切った。元々何かと目立ちたがる彼だ。こういう状況は、彼にしてみればむしろ好都合なのかもしれない。

 

「行くよ。……輝きヒーロー『I can not stop twincling(キラキラがとめられないよ)☆』」

 

 しかしその彼の提示した名前は、随分と特殊なものであった。彼自身は自信満々だが、まさかの短文である。バクゴーやトドロキすらこれには唖然とし、クラス全体の心が一つになった。

 

 が、ミッドナイトは動じない。

 

「そこはIを取ってCan'tに省略したほうが呼びやすい」

「それねマドモアゼル☆」

 

 ほぼノータイムでそう言ってのけ、飄々と会話を続けたのだ。もしかすると、今までの教師生活で似たようなものを見たことがあるのかもしれない。あるいは、もっととんでもない名前を出してきた生徒がいたのか。

 

 いずれにせよ、妙な出だしとなってしまった。その空気は、アシドが「エイリアンクイーン」という名称を出したことで決定的となった。

 銀河共和国出身としては、エイリアンという言葉には特に悪いイメージはないのだが、この星の人間はそうではないだろうなぁ……。

 

 と、思っていたが、ツユちゃんが流れを元に戻してくれた。さすが、冷静沈着でしっかり者のツユちゃんである。

 

「小学生のときから決めてたの」

 

 そう言いながら彼女が提示したフリップに書かれていたのは、「梅雨入りヒーロー・フロッピー」。ミッドナイトの言う通り親しみやすく、大勢から愛される名前であろう。私の頭ではとても思いつきそうにない。

 

 彼女に続くように、キリシマが昔のヒーローにあやかった「烈怒頼雄斗(レッドライオット)」を挙げた。己の目指すヒーロー像はそれであると。

 さらにジローが「イヤホン=ジャック」、ショージが「テンタコル」、セロが「セロファン」……と、次々に発表していく。ミッドナイトはそのほとんどをよしとし、ヒーロー名が決まっていった。

 

 さすがにトドロキが「ショート」と自身の名前をそのまま出してきたときは、それでいいのかと尋ねたが……彼が問題ないと答えたあとは特に何も言わなかった。プライバシーにかかわる問題は起こりかねないと思うが、本人が気にしないなら本名でもいいということなのだろう。

 

 ……まあ、バクゴーだけは「爆殺王」と提示した結果、即却下されていたが。彼はその査定に納得していないようだったが、納得していないのは彼だけだろうな……。

 

 と、一通りクラスメイトのほとんどがヒーロー名を決めたところで、私も決めることにした。みなの名乗りが、しっかりヒントになってくれた。

 

 私は、ヒーローを目指していない。私が目指すものはジェダイの復興だ。ゆえに、みなのように「ヒーロー」という単語は使わない。

 だからこそ、私が名乗るものは。

 

「……『ジェダイナイト・アヴタス』? どういう意味かしら」

 

 私が提示した文字を見て、ミッドナイトはもちろんクラスのほとんどが首を傾げた。

 まあ、そうなるだろう。当たり前だ。むしろ知っているような反応をされたら、私から即座に声をかける。

 

 しかしこれこそ、私がかつて歩んだ道を示す名前なのだ。今の私にとってそれは完全な理想ではなくなってしまったし、実際その教えのいくつかは破ってしまっている。何より、もはやこの宇宙のどこにも存在しない組織に身命を捧げた過去の男の名前でしかない。

 けれども、そうであった己を捨てることは私にはできないのである。滅びはしても、死んだとしても、その生き方の大部分が理想であり、私の根底であることには変わりないから。

 

 イレイザーヘッドならば、それこそ不合理と言うかもしれない。だが、生まれ変わって思うようになったのだ。これが人間なのだと。

 

 だから、ジェダイの名前は。そしてそうであった己の名前こそ、私が名乗るべき名前であろう。そう思った。

 

「ジェダイとは遠い昔、遥か彼方の銀河系に存在した治安維持組織の名前であり、そこに所属していたものたちをも指す言葉です。そしてアヴタスは、そこに所属していたとある人物の名前になります」

 

 なので、ほぼ問われたままに答えたが……途端に全員の目が微笑ましいものを見るそれになった。

 うむ、目論見通り子供の戯言と思ってくれたらしい。さすがに前世の自分の名前だと答えていたら、もう少し違った反応になっただろうが。言わなくて正解だったな。

 

「そう……うん、そうね。なかなか想像力が豊かで結構」

 

 そう思っていたら、ミッドナイトに頭をなでられた。戯言と思われたほうが都合がいいのだが、ここまで子ども扱いされるのも少々遺憾だぞ。

 

 なので視線だけでも抗議のつもりでじとりと向けたら、ますますにっこりと微笑まれた。解せぬ。

 

「さて、思ってたよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと……飯田くん、トガさん、そして緑谷くんね!」

 

 席に戻る私の後ろで、ミッドナイトがそう言ってクラスを見渡した。

 

 これに応じるように、イイダが席を立つ。

 彼が掲げたものは、トドロキと同じく己の名前であった。

 

 しかし、出した彼自身が納得していないように見える。いつもと異なり暗黒面の気配が漂っている辺り、やはりインゲニウムの一件が尾を引いているのだろう。昨日義肢の話を持ち掛けたが、関係各所の許可も必要になるし、すぐにどうこうできるものではないからな……。

 

 と、そんなイイダを見送りながら隣のヒミコに目を向けたところ、彼女と目が合った。悩んでいる……というよりは、確認を取ろうとする目だ。

 彼女の内心が聞こえてくる。

 

『……私もジェダイの名前、使っていーい? 私、どっちかっていうとシスな気しますけど』

 

 うん。確かに彼女は、ジェダイというよりシスだろう。シスは、良心に屈することなく己の欲望を貫徹する奔放な精神を持つことが肝要……らしいからな。

 

 しかし、私と一緒にいたいという一念で社会規範に従うことをよしとした今の彼女ならば、ジェダイを名乗る資格はあると思う。つまるところ、彼女はどちらかに分けることができない中間の存在なのだ。どちらでもなく、どちらにでもなれる。”個性”も含めて、そういう存在なのだろう。

 

 まあ、かつてのジェダイならば間違いなく不適格とされるだろうが。今の時代、ジェダイを名乗ろうなどという人間は私くらいのものだ。その私がいいと思うのだから、ヒミコがジェダイを名乗っても問題はないだろう。

 

『なあアナキン、君もそう思わないか?』

『好きにすればいいと思うよ』

 

 念のため虚空にテレパシーを送れば、どうでもよさそうな返事が来た。そんな投げやりな……とは思ったものの、実際ほとんどどうでもいいのだろう。彼にとってはどちらも終わった話だしな。

 

 と、そうこうしているうちに、ミドリヤが壇上に立った。彼の発表に、再びクラスが困惑する。

 なぜなら、彼が掲げたものは「デク」であったからだ。それは一般的に蔑称であり、ミドリヤ自身もわかっているはずだが。

 

「今まで好きじゃなかった。けどある人に意味を変えられて……僕には結構な衝撃で……嬉しかったんだ。だから……これが僕のヒーロー名です」

 

 だが彼はそう言うと、少しはにかんで見せた。そこに無理をしているような様子はまったくない。

 

 なるほど、入学初日にウララカが言っていた話か。つまり、彼は悪い意味でデクを名乗るのではなく、「がんばれ」という意味で名乗るのだな。

 いいのではないだろうか。蔑称を名前にするという風習自体は、わりと各地に存在することだし。

 彼がこれからデクを名乗ることでこの言葉が蔑称ではなくなるのであれば、それは意義のあることであろうと思う。

 

「じゃあ次、私行きまーす!」

 

 そんなミドリヤと入れ替わりで、ヒミコが壇上に立つ。そして、みたびクラスが困惑した。

 

「はい! 『ジェダイナイト・トランシィ』! です!」

 

 トランシィ……英語で変身を意味する「トランスフォーム」の頭から取ったのだろう。

 そしてなんとなくだが、不思議とシス寄りの雰囲気を感じる。ダースとついていても違和感がない。

 だからこそだろうか。ジェダイという単語と併せると、まさにどちらでもなく、どちらにでもなれる形に感じられる。私が考えていた以上に「らしい」ネーミングになったと思う。

 

 ……と、思っているのは私だけだろうなぁ。

 

「トガさんも、その……ジェダイを?」

「はい、同じ流派ってことで」

「……なるほど?」

 

 ミッドナイトをはじめ、みな微妙な顔をしている。がんばって納得しようとしているような感じだ。

 

 ……あ、いや、ミッドナイトが父上を疑っている。違うんだ、父上は何も悪くない。どちらかと言うと父上は巻き込まれた側で!

 

「まあいいでしょう。トランシィのほうはかわいいしね! 『ー』じゃなくて『ィ』な辺り、こだわりを感じるわね!」

「あは、わかります? 先生、いい人ですねぇ」

 

 まあ、一応ヒーロー名としてはいいという雰囲気だし、ここで声を上げるとややこしくなるだけだからしないけれども。

 

 ……ああ、ちなみに。

 

「爆殺卿!」

「違うそうじゃない」

 

 バクゴーは最後まで却下され続けていた。

 

「なぜ君は爆殺という単語にこだわるのだ? ヒーローに『殺』はご法度だろう。使うならせめて爆の字だけに留めたまえよ」

「黙ってろクソガキィ……!」

 




というわけでEP4は「ファントム・メナス」です。ここまで映画スターウォーズのサブタイをもじってきましたが、そのままになりました。
いや、ちゃんと考えた上でこのサブタイが相応しいと考えたんですよ。本当ですよ。
ファントム・メナスって「見えざる脅威」って感じの意味なのでね。
ともあれそういうわけでEP4、十八話+幕間一話を糖度高めでお送りする予定ですので、お楽しみいただければ幸いです。

・・・ただフォース持ちのオリキャラが今回動くので、その点はご了承くださいとあらかじめ申し上げておきます。

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