銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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独自設定さん、お仕事です。


2.行きたいところは?

 さてなんとかヒーロー名を決めたところで、マスター・イレイザーヘッドから分厚い紙束を渡された。

 

 これは指名を入れてきたヒーロー事務所(一部事務所を構えていないものもいるようだ)のリストだ。この中から、自分が行く職場を選ぶ形である。指名がなかったものには、学校側がオファーした事務所の一覧が配られるから、そこから選ぶようだな。

 いずれにしても、ヒーローによって活動地域や得意なジャンル、活動の具体的な手段は異なる。そこはしっかり考慮しなければならないだろう。

 

 ただ……今週末に。すなわちあと二日のうちに提出しろと言われても、である。

 リストはヒミコで22枚、私に至っては45枚もの紙束なのだ。この中からあれやこれやの要素を踏まえ、二日で選び抜くのは並大抵のことではないぞ。

 

「大半が知らないヒーローなのだよなぁ……」

「私もー」

 

 私もヒミコも、ヒーローにはあまり興味がないから余計である。

 

 まあ、私についてはいいのだ。これだというヒーローはなくとも、目的とする方向性くらいは固まっているからな。最悪、指名が来ている事務所の中にその目的に合致する場所が一つもないとしても、保険になり得るヒーローも見つけている。

 

 問題はヒミコのほうだ。彼女は「なんとなくこれ」という方向性すらまだないらしい。

 

 ならばどうするかであるが……やはり困ったときは専門家に尋ねるべきだろう。

 

「出久くん、助けてくださーい!」

「へぁっ!? ぼ、僕でよければ!」

 

 ヒミコにずいと迫られて、ミドリヤが上半身を引きながら赤面した。

 かくかくしかじか、と説明するヒミコに、ミドリヤはなおも身体を引きながら視線を逸らす始末である。彼は相変わらず女性耐性がないな……。

 

「そそそ、そういうことなら、喜んで!」

 

 ということで、ヒミコはミドリヤに自らのリストを差し出した。

 彼はおっかなびっくり、しかし好奇心を隠せない様子で受け取ると、次第に目を輝かせながら一覧を手早く眺めていく。この辺りは、さすがというべきかな。

 

「……すごいねトガさん……! ナンバーフォーヒーローのベストジーニストとかナンバーファイブヒーローのエッジショットから指名が来てるなんて……!」

「? すごい人なんです?」

「すごいに決まってるよ!? ビルボードチャートJPのトップテンに名を連ねてる大人気ヒーローたちだもの! やっぱり『変身』って“個性”に注目したヒーローは多いんじゃないかなぁ!」

「そういえば聞いたことはあるようなないような……。コトちゃんは知ってます?」

「さすがにチャート上位の面々は知っているぞ……君はつくづくヒーローに興味がなかったんだな」

「えへへ」

「この現代社会でここまでヒーローに興味を持たずに生きてきたってある意味すごいなトガさん……!」

 

 なぜか嬉しそうに笑うヒミコであるが、私もミドリヤも別に褒めてはいないのだが。

 

「えーと、じゃあこの中で一番ランキングの高い人のとこに行けばいいんです?」

「うーん、それはどうかなぁ。相澤先生も言ってた通り、どういうヒーローになりたいかでその辺りは変わってくるはずなんだよね」

「それは私も同感だ。だが御覧の通り、彼女は今までが今までだからな。無理に高ランクの尖ったヒーローのところへ行くよりは、現代ヒーローの一般的な姿や、様々な業務を無難に満遍なく見せられるところのほうがいいのではないかと私は考えている」

「あ、それはそうかもしれないね。ちょっと贅沢な話ではあるけど……上のほうのヒーローほど、その……なんていうか癖が強い人も多くなる傾向あるし……ウォッシュとか……」

「あと、ベストジーニスト辺りは単純にヒミコとの相性が不安でな……」

「そうなんです?」

 

 きょとんとするヒミコ。ミドリヤも、「そうかな?」と首を傾げている。

 

 そんな二人に頷いて、私は思うところを述べた。

 

「まずそもそも、ファッションセンスがヒミコと致命的に合わない」

「ファッション」

「全身デニムばかりというのは、その手の知識に疎い私でもどうかと思うのだがいかがだろう?」

「あー……まあ……人は……選ぶかも、ね……」

「ナイですね」

 

 断言したヒミコの顔は、とても白けている。彼女はかわいいもの好きだし、おしゃれに関しては既に自分の好みを確立させている。そりゃあたまにはデニム生地の服も用いるが、だからといって全身に使うことはまずない。

 

 ……まあこれは前座のようなものだ。本命は、考え方の違いである。

 

「それに、ベストジーニストは不良や犯罪者の矯正にもかなり力を入れているヒーローだろう? それはもちろん重要なことだが……しかし、見方を変えればそれは彼の考え、思想を強制する行為でもある。ヒミコは人から何かを強制されることが嫌いだから……」

「ああ……そういえば増栄さん戦のトガさん、笑いながら爆破しまくってたから……確かにジーニストからそっち方面で目をつけられた可能性は高そうだね……」

 

 私の説明に、ミドリヤも納得した様子でうんと頷いた。

 

 と、そのときである。後ろのほうで、バクゴーのやや動揺した気配が伝わってきた。

 ちら、とそちらに目を向けてみれば、彼は百八十度向きを変えて、速足で教室から出ていくところ。

 

 ふむ……? もしや彼、指名の中で一番順位が上だからという理由でジーニストを選んだのだろうか? 確かに、彼のあの言動ならジーニストが目を着けている可能性は高い。ヒミコより高い。

 きびすを返したということは、既に提出した職場体験先の書類を訂正しに行ったのだろうな。彼にとって、やりたくないことを中心にやらされる可能性に思い至ったのかもしれない。

 

「そういうことなら……ベストジーニストとあまり方向性が近くないヒーローをピックアップしてみようか?」

「いいのではないだろうか。どうだ、ヒミコ?」

「よくわかんないので、出久くんにお任せしまーす!」

「わかった、任せてよ!」

 

 頼られたことが嬉しいのか、ミドリヤは笑顔で頷きペンでリストにあれこれと書き込み始めたのであった。

 

***

 

 そこからの日々は、あっという間に流れていった。中間テストも終わり、数日後に職場体験を控えた日曜日のこと。

 

 私はヒミコと共に、新幹線で東京へ向かっていた。私は一仕事する予定なのだが、彼女はすっかり逢引気分である。念のため軽く変装してきたから今のところ目立っていないが、もし見つかれば絡まれることは必至であろう。目的があって上京しているさなかなので、それだけは勘弁願いたいところだ。

 

「やあ理波。被身子くんもよく来たね」

「父上、お久しぶりです」

「こんにちはぁ、()()()()()

 

 そして駅で父上(普段は僧服だが、今回は私服である)と合流し、今度は在来線で保須市へ移動する。

 目的地は、保須総合病院。イイダの兄、インゲニウムが入院している病院である。

 

「増栄くん! こっちだ!」

 

 その病院の入り口で、イイダが待っていた。律儀なのは彼の美点なのだが、せっかく変装して、父上にも目立たない格好で来てもらったというのにこれでは台無しではないか。思わず苦笑する。

 まあ、病院の中で騒ぐことは他の場所よりも禁則事項としての度合いが強い。ここに関しては許容すべきか。

 

「やあ。休日にわざわざすまないな」

「そんな! ほとんどこちらの都合だ、むしろ俺が謝らなければならないというのに!」

「いやいや……まあその話は置いておこう。こちら、私の父上だ」

「父の重雄です。娘がいつも世話になっているね」

「は、飯田天哉です! お噂はかねがね! むしろ、お世話になっているのは僕のほうで……!」

 

 そんな一般的なやり取りを重ねつつ、我々は病室に到着した。

 

 今回父上を伴ってここまで来たのは、インゲニウムの義肢を作るに当たってのデータ収集のためである。関係各所からの許可が下りたのだ。思っていたより早かった。

 

 ただ銀河共和国水準のものを造る予定であるから、私が中心になるわけだが……生憎と今の私は、この国における諸々の資格を持たない小娘に過ぎない。そのため、無理を言って父上に出てきてもらったのだ。

 

 幸い……と言っていいのかどうかはわからないが、父上は快諾してくれた。忙しい方なのでスケジュールの調整は難航したが、たまたまこちらで関東地区の宗教指導者たちの会合が開かれる予定があったということで、どうにかなった。

 

 それでもかなり無理やり日程をねじ込んでいるので、あまり時間は取れないし、何より久しぶりの作業だが……そこはS-14Oもいるのでなんとかなる。はずだ。

 まあ私に同行しているのは14O本体ではなくその補助ユニットで、彼女は遠隔で状態を見る形になるが。

 

 ともかく、そうしてイイダに案内された個室に足を踏み入れると、そこには痛々しく包帯で身体を覆った青年がベッドに横たわっていた。だが、点滴などの管は最低限になっている。なるほど、許可が下りるわけだな。

 

「や。久しぶりだな、インゲニウム」

「……バンコさん! お久しぶりです!」

「ああ、無理はしなくていい。安静にしていなさい」

「すいません……ありがとうございます」

 

 その青年……インゲニウムに、父上がかけた言葉を聞いて私たち年少組は目を丸くした。

 

「……父上? インゲニウムとはお知り合いで?」

「いやー……実は彼の職場体験先、俺のところだったんだよ」

「なんと」

「ええ!? そうだったのですか!? 兄さん、聞いてなかったぞ!?」

「はは……何せ俺の職場体験が終わってすぐにバンコさん引退しちゃったからな……」

「ええ!?」

 

 父上の父親……私から見れば祖父である先代住職は、父上に夢を諦めないよう背中を押してくれたのだという。ヒーローとしての寿命を迎え、引退する頃までは寺を守って見せると言って。だから父上はヒーローとなれた。

 

 しかし、その約束は果たされなかった。祖父は突然の脳梗塞であっさりと逝ってしまったのだ。

 だから父上は、迷うことなくヒーローを引退したのだという。夢を追うことを許し、後押ししてくれた親への恩を少しでも返すために。そしてその後は大きな寺で僧侶としての修行を数年経て、実家の住職を継いだ。

 

 その辺りのことを少しぼかしながらも語った父上に、イイダは感激していた。彼らしい反応だ。

 

「ではインゲニウムが今回の話を受けてくれたのは」

「バンコさんが造ってくれるなら、信頼できると思ったからだよ。バンコさんの特製アイテム、すごかったからなぁ」

 

 私の問いに、インゲニウムは管のついた顔をうっすらと 微笑ませて見せた。

 なるほど、父上への信頼があったればこそか。だとしたら、申し訳ないな。

 

「それなんだけどな、インゲニウム。今回は名目上俺がやることになってるが、メインはこの子だ」

「え」

「は!? 増栄くんが!?」

 

 ぽん、と頭に置かれた父上の手をそのままに、私は頭を下げる。

 

「この子は俺のヒーローとしての志だけじゃなくて、技師としての腕も引き継いでくれてな。この子も自分のサポートアイテムを自作してるんだ」

「えええええ!? 本当かい増栄くん!?」

「ああ。ライトセーバーもワイヤーフックも、全部私が造った。ヒミコの注射器は、さすがにそちらを得意とする会社のものだが」

 

 この答えに、イイダは絶句してしまった。まあ、気持ちはわからなくはない。

 

「あとここだけの話なんだが。ドロイドも翻訳機も、全部この子が造ったものなんだよ。俺はただの隠れ蓑さ」

 

 声を潜め、「内緒だぞ」と笑う父上に、インゲニウムまでも絶句した。そうして口をあんぐり開けて硬直している二人の様は、なるほど兄弟である。

 

 ……後ろでヒミコが誇らしげに胸を張っている気配がする。彼女は本当に、どれだけ私のことが好きなのだろう。

 

「まあ、メインがこの子ってだけで俺も関わらないわけじゃない。だから俺たちに任せてくれ、最高のアイテムにして見せる」

 

 そんな二人に、父上は胸を叩いて見せた。その姿は今の本職である僧侶でも、かつての本職であるヒーローとも異なるが……しかし、確かに人を救けるもののそれであった。

 

 だから私も、父上にならう形で胸を張る。人を救けるためには、人を安心させうるだけの姿も求められるものだ。銀河共和国でも、ジェダイローブを羽織っていれば相応の効果があったものである。

 何より、私はこの人の娘なのだ。誇ることにためらう要素などあろうはずもない。

 

 それは二人も理解できたのだろう。驚いていた顔から一転、覚悟を決めた穏やかな笑みを浮かべると、

 

「「よろしくお願いします」」

 

 声を揃えて同時に頭を下げたのであった。

 

 それに私たちも、頷いて応じる。

 

「よし。じゃあ始めるぞ、理波」

「はい。ヒミコ、準備を」

「はーい!」

 

 ちなみに今まで空気に徹していたヒミコは、機材や道具の準備、手渡しなどのサポート役である。外科手術などで、医者が求めたものを差し出すような、そういう。

 彼女に機械技術はほぼないが、伊達に私に一年以上付き合っているわけではない。それに彼女は、ライトセーバーの製作も進めているのだ。知識だけなら十分あるし、何より共和国の規格を知る数少ない人間だからな。

 

 さて、そうやってデータ取りに勤しむことおよそ一時間。義肢造りは前世ぶりだが、やはり何度もやったことは覚えているものだ。作業はつつがなく終了した。まだ14Oの補助ユニットが少し動いているが、やるべきことは終わった。

 

 そして諸々集めた情報を精査した結果としては、

 

「……思っていたより軽傷なので、下半身を義肢に換装するのではなく、外から装着する類の……そう、パワードスーツでなんとかなりそうですね」

 

 という形で落ち着きそうである。

 

「本当「本当か増栄くん!」……天哉」

「あ! す、すまない兄さん!」

 

 インゲニウムは弟に苦笑しきりだ。イイダは本当、まっすぐな性格をしているよ。

 

 一方、父上も別のことに苦笑している。

 

「下半身不随が軽傷って言えるのはお前だけだよ、理波」

 

 父上はそう言うが、戦争における負傷兵はこんなものでは済まない。銀河規模で何年も戦争し、多くの人員を失った当時の共和国であれば、後回しにされる可能性も十分あるほどだ。

 

「完全麻痺ではありませんでしたので。それに、神経の状態も思ったより悪くありませんでした。担当した医師の腕がよかったのと、恐らくステインの剣術がよすぎたのでしょう」

 

 周辺の状態から見て、使われた得物は切れ味を重視したものではないはずだ。むしろより痛みを強く長く感じさせるために、刃こぼれしている……あるいはのこぎりに近い形状の得物が使われたと思われる。

 

 しかし神経は完全に断たれていたが、かなりきれいに切断されていたのである。あえて切れ味を求めていない刃物を使っているにもかかわらずそうだということは、逆説的に相当な技術があると言っているにも等しい。

 

 下手をすると下半身をすべて機械に置き換えなければならなかった可能性を思えば、インゲニウムの状態は間違いなく軽傷だ。不幸中の幸いである。

 

 そして、朗報はまだある。

 

「サイバネティクスを駆使した義肢を製作するとなると、半年近くかかっていたと思いますが……スーツなら、もっと短時間で製作できます。そうですね……何事もなければ二か月くらいで仕上げて見せましょう」

「二か月……!?」

「思ってた以上に短い……すごいな君」

「恐縮です」

 

 驚くインゲニウムに、頭を下げる。後ろではヒミコが胸を張っているが、いつものことだ。

 

「試作品が仕上がったら、試着のためにまたお邪魔いたします。そのときはよろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」

 

 こうして私の出張は終わったのであった。

 用が済んだなら長々と病室に居座るわけにもいかないので、辞去する。

 

「送っていくよ、増栄くん」

「ありがとう」

「礼を言うのは僕のほうだ……兄さんは、インゲニウムは死ななくて済んだのだから!」

 

 涙ぐんだイイダに、私は微笑みながら背中をさする。ほとんど届かなかったが、それはご愛嬌というやつだ。

 

「……インゲニウムは、私が一番職場体験で行きたかったヒーローなんだよ」

「……そう、なのか?」

「ああ。六十人以上の人間を差配する、組織としてのヒーローを体現している人物だ。尊敬に値する。そうした運営能力や、統率力をこそ私は学びたくてな。……だから、今回のことは私の欲も多分に入っているんだ。もちろん、君を見ていられなかったからというお節介もあるけれどね」

「増栄くん……!」

 

 私は、ジェダイの組織運営にはかかわったことがない。一介の騎士階級で終わったから、当たり前ではあるのだが。

 

 しかしそれでは、組織としてのジェダイを復興することは難しい。だから、運営に関する知識やノウハウは是が非でも学ばなければならないのだ。そのためにもインゲニウムのような、組織であることを重視するヒーローのやり方は知っておきたかった。

 結果としてインゲニウムは体育祭当日に重傷を負ったため、インゲニウム事務所からの指名は来ていない。実に残念であった。

 

「ありがとう……! 本当にありがとう……!」

 

 ……イイダ、相変わらず生真面目で素直な男だ。

 だが、往来でいきなり感極まって幼女に抱き着くのは、さすがにどうかと思うぞ。色々な意味で。

 

 いやまあ、公衆の視線よりも、完全に暗黒面に振り切った顔をしているヒミコと、完全に親バカの顔をしている父上のほうが気になるのも事実ではあるのだが!

 




インゲニウムが30歳、バンコパッパの引退が約15年前なのでギリ行けるなと判断しました。
原作のインゲニウムがどのヒーローのところで職場体験をしたのかは、堀越先生のみぞ知ることです(たぶん
ということで本作ではインゲニウムは引退しないのですが、作中触れてる通り指名を出せる状態にはないです。
主人公とトガちゃんがどのヒーローのところに行くか、こうご期待。

あ、ジーニストはないです。ごめんなさい。
あの人、絶対にトガちゃんとの相性クッソ悪いですよね・・・。
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