銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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6.相澤先生のお仕事

 職場体験二日目も、大半はパトロールで終わった。

 とはいえ初日とは異なり、他のヒーローとブッキングした場合のあれこれであったり、即席でチームアップをする、といった応用編とも言うべきところに早くも踏み込んだ。時間帯によって気をつけるべきことや優先すべきことが変わったりするので、今のところ素直に勉強になっている。

 

 なおイレイザーヘッドは”個性”の性質上、他のヒーローとブッキングした場合サポートに回ることが多いようだが……職場体験ということで、あえて自分が中心になって任務を遂行することもあった。

 しかも事前に根回しは行っていたようで、関わったヒーローはみな協力的であった。そうでないものも、頼まれてそういう態度をしていただけで内心はしっかり協力する腹積もりであったので、イレイザーヘッドはまったく良き教師である。

 

 まあ、顔を合わせたヒーローたちの多くは体育祭で優勝した私が目当てであったようだが……イレイザーヘッドはそれも織り込み済みで動いていた。執拗な勧誘などへの基本的な応対法などもしれっと言及する辺り、使えるものは親でも平気でこき使いそうな合理性の鬼である。

 

 とはいえ、常にパトロールをしていたわけではない。ただ一日を外を出歩いて終わりではなんとも味気ないし、それだけがヒーローの仕事でもないからだ。

 ただ、まとまった時間を確保できたわけではないことも事実であったため、そういう空き時間はイレイザーヘッドとの組手で費やした。

 

 さすがに直接的な威力を持たない”個性”で何年もプロヒーローをしているだけあって、彼の近接戦闘技術は磨き抜かれていた。増幅を封じられた状態とはいえ、フォースによる先読みが可能な私に一方的な展開を許さなかったことを考えれば、この星の上位に入るのではないだろうか。

 おまけに、明らかにフォースユーザーと戦った経験があるような動きを心身ともにしていたので、そういう意味でもイレイザーヘッドにはぜひともジェダイに来てほしいという思いを深めるに至った。彼の性格から言って、それが可能とはあまり思えないので口にはしていないが。

 

 なお、

 

「……増栄。お前、相手の思考、あるいは未来。もしくはその両方が読めるな?」

 

 とは、組手を数回行ったあとのイレイザーヘッドの言葉である。今まで考えはしても直接問うてくることはなかった彼だが、遂にといったところだ。もちろん彼相手に今更隠すことではないので、是と答えたらやはりかと唸られた。

 この際、何やら授業参観がどうのこうの、という思考が垣間見えたのだが、はてさて。この先何があるのやら。

 

 ともあれ、そうして迎えた職場体験三日目(ちなみに二日目の夜もヒミコと繋がった。色々と会話ができて楽しかったが、吸血も激しく朝は後処理が大変だった)。本日は定例の職員会議や授業など、教員として外せない仕事があるということで、職場体験はヒーローのそれというより教員のものであった。

 

 ただ、彼について参加した授業はいずれも上級生のものだ。先の授業内容を覗けるということで、私に不満はない。知識を身につけることは得意である。

 

 毛色が違ったのは、この日最後の授業。ヒーロー仮免許試験の対策として、演習が行われたのである。

 対象は、六月頭に仮免許試験を控えたヒーロー科の二年A組の面々。担当の教師が急きょ警察の要請でヒーローとして出動を余儀なくされたため、代理としてイレイザーヘッドにお鉢が回ってきたらしい。

 

 この二年A組、どうやらイレイザーヘッドが去年受け持っていたらしいのだが。イレイザーヘッドが教室に踏み込んだ途端に教室内が静まり返り、壇上で彼が「代理で俺が仮免試験対策演習を行う」と言った途端に、悲鳴のような声が一斉に上がったのには思わず笑ってしまった。

 

 イレイザーヘッド、去年は相当に暴れたらしい。聞けば注意感覚で除籍処分を連発していたようで、去年の一年A組、つまり今年の二年A組は、全員が最低一回は除籍されたことがあるらしい。

 それでも決して恨まれてはいない辺り、彼の人柄が垣間見えるが……それはそれとして、注意感覚で除籍処分にするのは私もどうかと思う。彼はそう思われることすらも気にしないのだろうが。

 

 さて当の演習内容であるが。私たち一年生が最初に行ったものより、さらに実践的である。人質を取ったヴィラン役と、それらを救出および捕縛するヒーロー側に分かれての演習だ。

 私たちがした演習と似た部分もあるが、大きく異なる点が二つ。設定が現実に即した詳細かつ厳格なものになっていることと、ヴィラン役がイレイザーヘッド本人、および助っ人として呼ばれた三年生の二人であることだ。

 

 なお現実に即した、という点については、人質役、および巻き込まれた一般人役がいるという意味も含む。彼らは避難訓練の名目で集まった他科の生徒(なお志願制とのこと)という配置であり、彼らに対してヴィラン役は現実同様、容赦なく攻撃(もちろん本当に殴ったりはしないが)を行う。

 

 この一般人役、彼ら独自の判断でヒーロー役の面々に”個性”を使って助力していいことになっている辺り、明らかに設定レベルがおかしい。やる気を出した素人ほど、現場で邪魔な存在はそうそうないのだ。

 これのどこが「仮免許試験対策」なんだ。完全に本免許試験対策ではないか。

 

 おまけにヴィラン役に招聘された三年生は、本免許試験に合格済みの生徒。つまり、免許取り立てとはいえプロヒーローをそのまま相手取ることとなんら変わりがない。

 

 しかもである。

 

「よろしくね!」

「通形先輩じゃねーか! ビッグスリーに勝てるかちくしょう!!」

 

 今の雄英で、特に将来を期待される三人の若者……それがビッグスリーだ。その一人が、トーガタ・ミリオである。

 彼は、今年の体育祭三年生のステージで優勝した人物でもある。聞いたところによると、既にビルボードチャートJPの上位陣に匹敵するほどの実力者らしい。

 

 そんな人物が相手と来れば、二年生が一斉にブーイングを上げるのも無理はない。

 

「お前ら、プロになってからも同じこと言うつもりか? たった三ヶ月くらい顔合わせなかっただけで、随分とまあヘタれたもんだな」

 

 だが、イレイザーヘッドは容赦しない。”個性”を発動した赤い瞳を見せ、髪を逆立てる。

 その姿を見た瞬間二年A組の面々がピタリと静かになった辺り、我々の先輩も我がクラスの面々同様、彼に躾けられたらしい。

 

 ちなみに私はというと、イレイザーヘッドの補佐としての参加だ。リカバリーガールからの許可を得て、臨時の治癒要員として動く予定である。前世に学んだ医学知識がこの星でもおおむね適用できたことから、こちら方面では既にリカバリーガールから十分な認定をいただいているのだ。それでも治していいのは簡単なものだけだが。

 

 ただし、イレイザーヘッドはそれを言うつもりがない。より緊張感を持たせるため、私のことはただの見学者に留めて説明するつもりなのだ。

 

「特に今回は、一年生から見学者がいる。不甲斐ない真似はすんなよ。今回の授業は俺が全権持ってる。除籍もあり得ると思え」

 

 私の見立て通りに、彼は説明を締めくくった。途端に二年生たちが本気になった辺り、本当によく調教されたのだなと内心で苦笑する私である。

 

 と、そこで先に名を挙げられたトーガタが、声を挙げながら手も上げた。金髪を逆立てた、ベビーフェイスがまぶしい好青年である。

 

「なんだ通形」

「彼女、見学でいいんですか? せっかくの機会だし、実力もあるみたいだし、参加してもらってもいいと思いますが!」

「……ま、確かにそうだが。それでも一年だ、まだ仮免試験を受ける段階に達してない。ここで段階を飛ばすのは合理的ではないと結論づけた」

「ああー……そりゃしょうがないですね!」

 

 イレイザーヘッドの合理的虚偽に、トーガタは素直に頷いて引き下がった。

 

「では各自、位置につくように」

 

 そうして始まった演習だが、イレイザーヘッドもトーガタも圧倒的であった、ということが何よりもまず最初に挙げられるだろう。イレイザーヘッドはもちろんだが、三年生の体育祭優勝者、この学校で誇られるビッグスリーの名は伊達ではなかった。

 

 どれほどかと言えば、二年生たちではトーガタに手も足も出ず、せいぜいが時間稼ぎが精いっぱいというのだから相当なものだ。少し離れたところから見ていると、それが実によくわかった。

 

 しかし目立つのはそこだが、重要な点はそこではない。

 

「増栄、お前の所見を言ってみろ」

 

 十分ほどでヒーロー側全滅、ヴィラン側の圧勝という結果に終わったあとのこと。

 幸い大きな怪我はほとんどなく、そのわずかな例外も私で治せる範疇。そしていざ講評となったところで、イレイザーヘッドはまず私に水を向けた。

 同時に、周りの目が私に集中する。

 

「……自分ができるかどうかは棚に上げさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「構わん。早よ」

「わかりました。では……今回の演習目的は、『ヒーローの基本三項すべてを、同時に一定の水準以上でこなせるようになること』と推察します。現実と同様の条件ですね。

 ゆえに、目的を達成できなかった時点で不合格は当然として、脱落認定を受けた人質役が全体の半分以上に上ったこと、避難が済んでいない市民役も一定数いたことを考えると、合格にはまだ遠いであろうな、と思いますがいかがですかマスター?」

 

 そう言い切ると、一部から怒りとそれが込められた視線が向けられた。

 

 が、イレイザーヘッドがぎろりと睨むと即座に沈静化した。

 

「具体的に何が問題だった? 述べてみろ」

「個々の問題はともかくとして、最大の問題はトーガタ先輩を気にしすぎるあまり、一人に大勢が殺到した点でしょうね。計画も連携もない状態でそれは、戦力の逐次投入という失策です。

 そしてそれは、そのまま避難誘導のための人手を減らしてしまっていました。基本三項の中でどれを優先すべきかは状況次第で変わりますが、少なくとも今回のような状況で『撃退』は最優先ではないでしょう。オールマイトのような力があれば別ですが」

「よし。……わかったかお前ら、コレが今年の一年一位だ。うかうかしてるとあっさり抜かれるぞ」

 

 イレイザーヘッドの言葉に、二年生たちが目に見えて落ち込んでしまった。そこまで追い込まずともいいだろうに。

 

「まあ、今回の演習に失敗するのもある意味当然だ。なんせ本免許試験の対策演習だからな、これ」

『え?』

 

 だが、しれっと続けたイレイザーヘッドに対して、二年生たちは何を言われたのかわからないとでも言った様子で一斉にぽかんとした。

 

「仮免試験の対策演習は、基本三項のうち、『撃退』か『救助』どちらかに特化した内容だ。今までやってきたの、そうだったろ?」

「まあ……」

「言われてみれば、確かに……」

「実際、仮免試験はそういう内容なのが普通だ。だがな、あくまで仮免許は通過点でしかないんだよ。忘れてるやつもいたみたいだから、思い出させるためにあえて難易度を上げた」

 

 そしてその言葉に、二年生たちがざわめき始める。

 

「ま、まさか相澤先生……!」

「合理的虚偽ってやつッスか……!?」

「そうだよ」

『うわああぁぁ久々にやられたァ!!』

 

 恐る恐る、と言った感じの問いにイレイザーヘッドがさらりと答えれば、生徒たちの大半が頭を抱えてしまった。

 

 どうやら彼は昨年、除籍だけでなく合理的虚偽もそれなりに放ったらしい。「ちくしょうイレ先め」「おのれまたしても」などと恨み節を叩く二年生を見て、トーガタは陽気に笑っている。一般人役で参加していた他科の生徒に至っては、爆笑だ。

 

 とはいえ、それらもイレイザーヘッドがひと睨みすればすぐに収まる。

 

「確かに、今回の演習はお前らには難しかったろう。これが本免試験本番なら文句なく不合格だ。だが思っていたよりはできていた、というのも正直な感想だ」

 

 しかし次いで出てきた言葉に、二年生たちはきょとんとする。そんなにイレイザーヘッドに褒められることが珍しいのだろうか。

 

「想定ではもっと早く全滅すると見てたんでな。現時点……仮免を取ろうって段階じゃ上出来だよ。だからまあ、仮免くらいさらっと取ってこい」

 

 言外に「今のお前らなら仮免なんて余裕だ」と言うようなイレイザーヘッドに、先輩方は苦笑を禁じ得ない。

 

 何せ彼は「くらい」と言ったが、ヒーロー免許は仮免許試験であっても合格率は確か半分くらいしかなく、それなりに狭き門だ。

 二年生の何人かも、口には出さずとも内心でぼやいているのが見て取れる。

 

 まあとはいえ、イレイザーヘッドの考えも理解できる。仮とはあくまで仮でしかないのだから。

 そして、飴よりも鞭のほうが多いのがイレイザーヘッドという人物だ。

 

「だが現実問題、プロになればこれくらいの事件なんざよくあることだ。通形、インターンでも結果を出してるお前ならわかるな?」

「さすがに相澤先生レベルのヴィランがほいほい出てくることはそんなにないですけどね。でもゼロじゃない! それは間違いないですよね!」

 

 トーガタの答えに、イレイザーヘッドは少しだけ満足げに頷く。

 

 その言葉に、二年生たちの顔つきはますます引き締まる。

 

「これが仮免と本免の差だ。いいか、さっきの俺の言葉に『仮免だってそれなりに難しい』とか思ったやつもいるだろうが、先に言った通り仮免はただの通過点だ。その先にあるものが取れるようにならなきゃならないし、それだって通過点だ。スタートラインに立つだけで満足するような、クソみてぇなやつにはなるなよ。去年何度も言ったが……原点を常に意識しとけ。以上」

 

 彼にしては長い言葉を言い切ったイレイザーヘッドは、いつものように淡々としていた。

 

 言っていることもかなり手厳しい。だが事実だ。彼がなんだかんだで慕われているのは、こういうことでは決して偽らないからでもあるのだろうな。

 

「さて……時間はまだだいぶあるな。シチュエーション変えてもう何回かやっとくか」

『え』

「なんのためにそいつを連れてきたと思ってる。増栄、ある程度でいい。怪我人を治癒しろ。十五分後に演習を再開する」

「マジすか先生!?」

「ていうかただの見学者じゃなかったの!?」

「いつから合理的虚偽が一つだけだと錯覚していた?」

『なん……だと……!?』

 

 とはいえ、軽い悲鳴が上がる中やはり淡々と言うところは、本当に弟子に厳しい方だなと改めて思う次第である。

 

 それでも、ここから二年生たちは必死に食らいついた。最後の演習ではイレイザーヘッドとトーガタを両方、一度は捕獲するまで行ったのだから大したものだ。

 

 まあ、ヴィランを捕獲して終わりとならないのが現実で、この演習はそれに準じている。捕まえただけで終わるなどあるはずもなく……大いに油断した結果、早々と逆襲を許してしまっていたので、本免許はもう少し遠いだろう。

 




物語的には、手の空いてるビッグスリーがミリオだけだったってことで彼ですが、作者的にはナイトアイの話題を入れるためってことで彼です。
まあ、うちの幼女がインターンにナイトアイのところに行く予定は今のところなかったりするんですが、プロットくん急に死ぬことあるしね。念のためってことで。

あと、原作においてビッグスリーがどのタイミングで本免許を取ったかはわかりません。本免許試験がいつあるかもわかりません。っていうか、まだ持ってない可能性すら否定できない。
なのでこの段階でミリオが本免許持ってるってのは本作独自設定になります。あしからず。
・・・でもなんか、彼は持ってても違和感なさそうですよね。作中のあの活躍見てるとそう思います。

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