銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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8.保須の戦い 1

 理波がミリオと組み手を続けていた同時刻、東京都保須市にて。

 

 太陽がほとんど沈んだ街の中で、脳無が暴れていた。ただし、以前ウソの災害と事故ルーム(USJ)に現れた個体ではない。身体の大きさも、形も、色も、何もかも違う別の個体だ。

 しかし脳がむき出しになり、自我というものがいささかも存在していない動く死体であることは同様である。

 

 それが、三体。我が物顔で、保須の街の中を暴れ始めたのだ。

 突然のバケモノの出現に、周囲は騒然となる。逃げ惑う人々は波となり、その声が、姿が、パニックを伝染させていく。

 

「マジかよ! このご時世に馬鹿だな!」

 

 事態を把握したノーマルヒーロー・マニュアルは、すぐさま現場へ急行する。

 

「天哉くん、トランシィ、現場行く! 走るよ!」

「はい!」

「はーい」

 

 彼に続くのは、彼の下で職場体験を行っていた飯田、およびトガである。

 三人はマニュアルを先頭に、人々が逃げてくるほうへ向けて走り始めた。

 

 だが、直後である。飯田は方向転換した際に視界に入った路地のほうを見て、硬直してしまった。そして、そちらに足を向けてしまう。無意識のうちに。

 

「飯田くん!」

 

 そんな彼の手首を、トガがつかんで引き留めた。飯田が、ハッと我に戻る。

 

「……渡我くん、俺は」

「わかってるのです。……ヤな感じ。暗黒面なのです。それにフォースも……」

 

 トガの言葉の意味を、飯田は半分ほどしか理解できなかったが……しかし、だからこそ逆に冷静になれた。

 

 彼は目を閉じて深く深呼吸をすると、カッと目を見開く。そして既にだいぶ離れてしまったマニュアルに身体ごと向き直り、走り出しながら声を張り上げた。

 

「マニュアルさん!! お待ちください!!」

「! ど、どうしたんだい!?」

 

 その固い声に、マニュアルは足をとめて振り返った。

 飯田は彼の下へ駆け寄ると、こそりと耳打ちする。ヒーロー殺しらしき姿を見た、と。

 

 当然、マニュアルは驚愕に目を丸くする。

 

「……まさか、この騒動はヒーロー殺しの陽動か? 今までのやつの傾向と合わないぞ……単に偶然重なったのか……?」

「マニュアルさん、いかがしましょうか!」

「あ、ああ……そうだね。まずは目の前のことを片付けよう。暴れてる三人とやらも問題だけど、もし天哉くんが見たのが本当にヒーロー殺しだった場合、こっちも大問題だ。幸い、今この街は厳戒態勢でヒーローも大勢いる。俺たちはヒーロー殺しを追おう!」

「了解です!」

「俺が先行する。二人は距離を取ってついてきてくれ。それと……これを」

 

 そう言いながらマニュアルが二人に渡したのは、彼の携帯端末であった。飯田が首を傾げる。

 

「ヒーロー殺しは間違いなく強敵だ。俺が勝てるかどうかわからないし、勝てたとしても無傷じゃすまないだろう。だから万が一やつと接敵したときは、君たちが他のヒーローに連絡を取ってくれ。たぶん、俺にそんな余裕はないだろうからね。そしてそのまま離脱してもらう」

「……!」

「申し訳ないけど、君たちは仮免許すら持っていないヒーローのタマゴだ。万が一にも怪我をさせるわけにはいかない。天哉くんは特に、やつに対して思うところはあるだろうけど……」

「わかりました、マニュアルさん!」

「……いいのかい?」

「はい。……ただ、正直、俺もやつ本人を見て冷静でいられるかどうか、自信がありません。なので……渡我くん。ここは君が持っていてくれるかい?」

「あは、任されました!」

 

 にまりと笑いながら頷いたトガに、飯田はどこかほっとした顔をした。コスチュームのヘルメットで、表情は見えないが。

 

 そしてトガが受け取った端末を懐にしまうのを確認したマニュアルは、決然とした表情を浮かべて一つ頷くと、飯田が示したほうへ向けて走り始めた。

 かくして路地裏に突入した三人は、狭く、暗い道を駆け抜ける。

 

 と、そこに何か大きく重いもの……しかしそれなりに柔らかいものが壁か、あるいは地面にか。叩きつけられたような音が響いた。同時に、男のうめき声。いずれも穏当な音ではまったくない。

 この保須市を拠点とするマニュアルは、その音がした場所をほぼ正確に察知した。すぐさま向かう先を微修正し、走る速度を上げる。

 

 そうして走り続けた三人が、見たものは。

 

「身体が……動かね……クソやろうが……! 死ね……!」

「ヒーローを名乗るなら、死に際のセリフは選べ」

 

 顔面を手でふさがれ壁に押し付けられたヒーローと、それをなす刀を持った長身の男の姿だった。

 

 それを見るや否や、マニュアルはトガたちに通報しつつ離れるように指示を出しながら、両者の間に割って入る。

 

「そこまでだ、ヒーロー殺しステイン!」

「……!」

 

 鋭い蹴りを横合いから受けることになったステインは、舌打ちをしながら殺そうとしていたヒーロー……ネイティブから離れた。

 

 身体が動かず、ただ倒れるしかないネイティブをマニュアルは受け止めつつ、視線と警戒はステインから離さない。

 

「ま、マニュアル……!」

「大丈夫かネイティブ!」

「ノーマルヒーロー……マニュアル、か……ハァ……」

 

 現れたマニュアルの姿とネイティブの呼びかけから相手を悟ったステインは、視線を鋭くしながら身構える。

 

 そんな彼の頭上で、小さな人影が躍り上がった。

 その人影が、向かう先は――

 

「……! 飯田くん離れてください!」

「え!?」

 

 ――ステインたちから離れ、他のヒーローたちへ連絡を入れようとしていたトガたちであった。

 

 明確な敵意と殺意をフォースで感じ取ったトガは、とっさに飯田を蹴飛ばして距離を取らせる。同時に腕につけられたワイヤーフックを壁に放つことで、強制的にその場から離れた。

 しかしその手元から、すっかり慣れ親しんだ力によって端末が引き剥がされる。

 

 直後のことだ。

 

 凄まじい金属音が路地裏に甲高く響き渡った。

 

「……!」

「な……!? こ、子供……!?」

 

 トガに蹴飛ばされながらも、恵まれた身体を活かして体勢を崩すことなく距離を取った飯田が、驚愕で目を見開く。

 

 少し遅れて、ワイヤーフックによって壁に着地するように張り付いたトガが、渋い表情を浮かべる。

 

 二人の視線の先には、剣。銀色に輝く長い刃が、分厚い刃が、直前まで二人がいた場所を。そして端末を両断していた。固いはずのアスファルトに、強引な切り傷が刻まれている。

 

「うるさいなぁ……どうせボクは発育不良だよ。これでもボク、オマエらよりたぶん年上なんだけどなぁ。まーでもぉ……」

 

 その傷跡を刻み込んだ人影が。

 身長わずかに百三十センチ程度の少女が、ゆらりと立ち上がる。

 

「どーせオマエたち、そんなボクにやられちゃうんだし? 気にしないであげるぅ」

 

 にやにやと、小馬鹿にするような笑みを浮かべて。

 

 少女は。

 

 死柄木襲は、手にしていた剣をぶんぶんと振り回してポーズを決める。

 

 彼女の身体には、放電を思わせる赤い光がまとわりついている。

 そして軽やかに扱われた剣は――()()()()があしらわれた剣は、彼女の身長とほぼ同じだった。

 

 その様子をちらりと横目に見ながら、ステインがぽつりとこぼす。

 

「……コスチュームを着た子供? マニュアルと同時に現れたということは……職場体験か」

「さっすが先パイ! こいつら、雄英の一年だよ。ほらあっちの金髪ちゃん、こないだ見せた写真にいたじゃん? こっちのフルアーマーもたぶんそーだよ!」

「なるほど、な……ッ!」

 

 不穏な会話。そのスキをついて、マニュアルが攻撃をしかける。

 

 だがステインは会話を続行しながらも、これに対応した。攻撃をさらりと回避しつつ、反撃を繰り出す。振るわれる刃の勢いはあまりにも鋭く、マニュアルは即座に守りに回らざるを得ない。

 

()()殺すなよ、襲。子供でも場合によっては標的になるが……それは見極めが済んでからだ」

「えぇー、ヒーロー目指すようなゴミなんて全部死ねば……ちえ、はいはい、わかったよぉ」

 

 攻撃を続行しながらのにらみを受けて、襲は肩をすくめながら両手を挙げて見せた。

 しかしすぐに剣を構え直すと、身体から赤い光を迸らせて。

 

「とりあえず、死なない程度に遊んであーげるっ!」

「……! 飯田くん、こっち跳んで!」

「……ッ!」

 

 猛然と飯田に襲い掛かった。無造作に振るわれた銀閃は右から左への横薙ぎ。

 これを飯田は、トガを信じて示されたほうへ跳んだ。結果として、彼は間一髪で攻撃を回避する。

 

「……! へえ、やっぱりだ」

 

 その動きを見て……いや、正確には、直前に言葉を聞いて。

 襲はゆっくりと焦らすように、トガへ振り返った。

 

「オマエ、ボクとおんなじだよねぇ。()()()やつだ!」

「……! やっぱり……USJで最後に弔くんを引っ張ったのは」

「ボクだよ! あのときボクの邪魔したの、オマエだな! その気配、覚えてる!」

 

 トガの渋い顔に対して、襲はきゃらきゃらと笑う。無邪気な、しかしどこか壊れた笑い方。

 

「と……渡我くん、USJとは……まさか、この少女は」

「……ヴィラン、連合なのです」

「なん……だって……!?」

 

 この会話を漏れ聞いたマニュアルの顔も、引きつった。

 

 次の瞬間、襲の笑みが一転する。

 直後、会話を引き裂くように剣が振り下ろされた。

 

 誰かを狙ったものではない。ただ、アスファルトが砕けた。それだけの行為。いわば威圧だ。

 しかしその威力はすさまじく、地面を露出させてアスファルトの破片が飛び散った。

 

「でも、おかしいなぁ……? ボク、オマエなんて知らない。オマエ、同級生にいなかったよねぇ。じゃあなんなの? なんでオマエ、使えるワケぇ?」

「……さあ、なんででしょーね。トガも正直、詳しいことはわかんないので」

「そっかぁ。わかんないかぁ。じゃあしょーがないかぁ」

 

 あはは、と襲が笑う。

 笑って、即座にすんっと表情を消す。

 

「わけあるかぁ!」

「うひゃあっ!?」

「渡我くん!」

「トランシィ! ……くそっ、強い!」

 

 直後、襲の身体が猛烈な勢いで襲ってきた。先ほどとは明らかに速く、鋭い。ギアの上がった動きだ。

 

「二人とも! マニュアルの名において“個性”の使用と戦闘を許可する! とにかく自分の身の安全を最優先にしてくれ!」

 

 それを視界の端で見たマニュアルが、ステインの攻撃をスレスレで回避しながら叫んだ。

 

 言われるまでもなく、トガはそのつもりだ。だからマニュアルが声にするより早く、攻撃に正面から応じていた。フォースを信じて回避に成功する。

 同時にジェダイローブを脱ぎ捨て、目隠しとして襲にかぶせた。

 

 その動きは、幾重にも重なる近しい未来のうちの一つ。フォースユーザー同士が対峙したときに生じる、未来の読みあい。その中からトガは、己の技術と直感に従い選び取った。

 

「邪魔ぁ!」

 

 ローブは果たして、即座に切り裂かれてしまったが……その時間があればよかった。その時間が必要だった。

 トガはこの隙に自らの端末を飯田に投げ渡すとともに、襲の動線を自らのみに固定する位置取りへ移動していたのだ。

 

「飯田くん! 逃げながらできるだけたくさんの人に連絡してください!」

「いや、俺も戦う! 君一人に任せるわけにはいかない!」

「この子は私と同じ超能力が使えるのです! これに対抗できるのは、同じ能力者だけ――」

「うらああぁぁっ!!」

「――なのですっ!!」

 

 ごう、と暴風のような勢いを伴う剣撃を迷うことなく潜り抜け、トガが吼える。

 そして繰り出された掌底は、フォースの斥力を伴って襲の身体を打ち据えた。

 

「ぐぇっ!?」

 

 フォースプッシュで押し出された襲の身体が吹き飛び、アスファルトの上を乱雑に転がる。

 

()うぅ~~……! やるじゃん!」

 

 背中をさすりながら立ち上がり、襲が不敵に笑う。

 

 その正面に立って、トガも冷や汗をよそに笑う。

 

 暗黒面に身を預ける二人のフォースユーザーが、激突する。

 




トガちゃんVS襲。
・・・なのですが、保須の戦いは小さな戦いを複数描写する形の予定です。
というわけで、マニュアルVSステインやります。
地味に結構好きなんですよね、マニュアル。活躍させたかったのです。
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