銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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10.保須の戦い 3

 遡ること十数分前。

 新幹線で山梨から東京に向かっていた緑谷とグラントリノは、突如として列車に突っ込んできた脳無の一体と遭遇する。

 

 相手を見るや否や、グラントリノは即座に行動を開始する。己の“個性”である「ジェット」を用いて脳無を列車から引き離すとともに、緑谷に声をかけた。

 

「小僧()()()()()! グラントリノの名において“個性”の使用と戦闘を許可する!」

「! は、はいっ!」

 

 そうして二人は列車から飛び出し、脳無を相手に戦闘を開始した。

 人を見れば誰彼構わず襲い掛かり、そうでなくとも見境なく暴れる脳無を前に、二人はできるだけ人気の少ないほうへ誘導。避難の済んだ人気のない場所で改めて対峙し、なんとかこれを無力化することに成功する。

 

 ただ、緑谷の感想は「弱い」であった。もちろん自身がUSJ事件当時より成長しているという自覚はあるが、それに関係なく今回の脳無は明らかに当時出てきた黒い脳無よりも弱かったのだ。

 その辺りの所感をグラントリノに語り、脳無という存在への推測を互いに交わしかけたが……そのタイミングで火柱が空に上がった。

 

 そう、街に現れた脳無は全部で三体。一体を確保しても、残りの二体が街のどこかで暴れているのだ。悲鳴と衝撃音が響き渡っている。

 

 ならばと二人は倒した脳無を警察に任せ、そちらに向かおうとした時だった。緑谷の携帯端末に、着信が届いた。

 

 まるでどこかせかすような、連続した着信通知に緑谷は思わず画面を確認してしまう。そして、顔から血の気が引く音を錯覚した。

 

「グラントリノ、大変です! ヒーロー殺しと遭遇したって、ここで職場体験してる友達から連絡が……!」

「なんだとォ!?」

 

 連絡をよこしたのは、トガであった。彼女から、クラスメイト全員に向けて救援要請が届けられていた。

 文章の書き方がまったくトガらしくなく、むしろ飯田らしかったのは気になるところではあるが、今はそれどころではない。

 

「し、しかも……! ヒーロー殺しと一緒に、ヴィラン連合のヴィランがいるって……!」

「……チッ、なるほど。あのバケモノどもはそういうことか……!」

「ど、どうしましょう!?」

「場所はわかるか!?」

「江向通り4-2-10の細道だそうです!」

「……ヒーロー殺しのほうに向かう。恐らく脳無とやらからは、連合に繋がる情報はなんも出てこんはずだ! 行くぞ!」

「は、はいっ!」

 

 そうして二人は、保須の空を駆けてこの場にやってきた。マニュアルは文字通り死ぬ寸前であり、間一髪であったと言えよう。

 

 だが、戦いはまだ終わらない。ステインを確保してもなお、終わることはない。

 

 立ちはだかるのは、小さな少女である。だがただの少女ではない。

 少女……襲はずっと暴れ続けていた。その動きはとまることはなく、むしろどんどんキレを、速さを、重さを増していく。

 

「ああああぁぁぁぁーーっっもうっっ!! イライラするうぅぅぅーー!!」

 

 比較的整った顔を台無しにするような憤怒の表情を顔に張り付けて、襲が吼える。

 

 するとそれに応じるように、彼女の身体を覆っていた赤い光が収束して体内に吸い込まれていく。一見すると、どんどん地味になっているようだが……さにあらず。相手取っていれば、光が襲の身体に収まれば収まるほど強くなっていることが嫌でもわかるはずだ。

 

「ううううう……っ! ど、んどん……! 強くなる……! フォースも……!」

 

 当初は優位に立っていたはずのトガだが、今ではもうかわすだけで手いっぱいだった。それも、全力を先読みに注がなければならないほどに。

 余裕のあるうちに理波に変身しておけばよかったと悔やむ(もっとも、今理波に変身すると半裸になるという問題が生じる)が、もはやそんな余裕はどこにもなかった。

 

 相変わらず、襲の動きに技はない。だが、そんなことは気にならないほどに彼女の力が増していたのだ。それは身体能力のみならず、フォースすらも例外ではない。

 

 そして彼女の力は、ステインが捕縛されたことで極まることになる。

 

「せーーんーーぱーーい!? 何捕まっちゃってるワケぇ!? ざーこ!! よわよわ染み染みマン!!」

 

 彼女が叫ぶと同時に、彼女の身体を覆う赤い光が消えた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 瞬間、その全身からフォースセンシティブでなくとも認識できるほどの膨大なフォースの嵐が吹き荒れた。闇一色に染まったフォースが、狭い路地裏のすべてを打ち据えながら平らかにしていく。

 

「なん……!?」

「うきゃあぁぁっ!?」

「わああぁぁっ!?」

「なんだこいつは……ッ!?」

 

 もちろん、その暴風に巻き込まれなかったものなどいない。トガをはじめ、全員が吹き飛ばされて地面を転がっていく。

 暗黒面のフォースによって吹き飛ばされているため、その威力は尋常ではない。見た目以上の風圧が、全員の身体を襲う。

 

 その中にはステインも含まれているのだが、襲にはそこまで繊細な制御はできない。本人も、ステインのことなどさほど気にもしていなかった。

 

「と、トガさん……! 大丈夫……!?」

「わっ!? ありがと出久くん! だいじょぶなのです! ……でも、このままじゃ……!」

 

 ほとんど身動きが取れない中で、自身の身体をトガのクッションにした緑谷。

 その上にぺたんと座っていることに気づいたトガはすぐにどいたが……その視線の先で、獣のような荒い呼吸をついている襲に顔をしかめる。

 

 呼吸と同じく、まるで獣のような極端な前傾姿勢。それでも危なげなく構えられた白銀の大剣(あくまで襲の身長と比してだが)は、分厚い。その柄の先端は、これまた()()()()の意匠が刻まれている。

 そしてその反対側に伸びるまっすぐな刀身には……フォースの気配。刃そのものに、フォースが染みついている。トガには、それがはっきりと感じられた。

 

 おののくヒーローたちの前で、襲は文字通り目にも留まらぬ速さで地を駆けた。その先にいるのは、ステイン。

 

「ちぇーい!!」

「……! ダメっ!」

 

 次の瞬間、ステインを拘束していた鎖が襲によって引きちぎられた。紙くずでも破るように、いとも簡単に。

 直前、トガが気づいてフォースプッシュを放ったが……遅かった。ステインが解き放たれるには十分だった。

 

「ハァ……! 礼は言わんぞ……!」

「いらないよそんなの! それよりぃ、ちょっとはいいとこ見せてよ、せ・ん・ぱい!♡」

 

 彼は解除が済んでいなかった武装の中からサバイバルナイフを抜くと、近場に転がっていたマニュアルに襲い掛かる。

 

「こんの……っ!」

 

 いまだ動けないマニュアルは顔をこわばらせるが、グラントリノが割り込んだ。先ほどのダメージが抜けきっていないステインは本調子ではないようだが、それでも執念のなせる業か、グラントリノの素早い動きに追随している。

 ただ、さすがにそこに緑谷が加勢すれば、ひとまずステインがマニュアルを害せる状況ではなくなる。いくら達人とはいえ、万全ではないとはそういうことだ。

 

 しかし、それを許さない存在が一人。

 

「オマエらまとめてぶった切ってあげるからさぁ! 死んでよ!」

 

 突っ込んでくる襲だ。

 

「行かせないのですよっ!」

「邪ァ魔ァ!」

 

 だがその前に、トガが立ちはだかる。

 

 刹那、両者の間で無数の今ではない戦いが繰り広げられた。互いに未来が見えるがゆえに分岐し、爆発的に増えていく「もしも」の一瞬。交錯するまでのごくごくわずかな間に、二人はその一瞬の中で互いの力をぶつけ合う。

 

 そうして両者は、己の直感を信じて一手を選んだ。

 

 結果は――トガに軍配。

 

 フォースに満ちた刃はトガをとらえることなく壁を豆腐のように切断するだけに終わり、トガのフォースプッシュが襲を吹き飛ばした。

 

 吹き飛ばされた襲は空中で体勢を整えると、軽やかに着地する。同時に、今しがた切り裂かれたビルの壁が崩れ落ち、かすかに粉塵が巻き上がった。

 

「ああもう……っ! ホン……ット……! オマエ邪魔だなぁ!!」

 

 だが襲はそんなことを気にすることもなく、青筋を浮かべてもう一度前に出た。

 

 対するトガは、退かない。だから、もう一度フォースの戦いが行われる。一瞬を勝ち取るための、一瞬の戦い。

 

 フォースの技量は、トガが圧倒的に。フォースの物量は、襲が圧倒的に。

 ゆえに拮抗するフォースの戦いは、何度も繰り返される。

 

 しかし、フォースの全力行使はそれだけ集中力を要する。にもかかわらず、深い集中を阻害する要因しかない状況。そんな中で無理に精神を酷使すれば、当然肉体とは別に疲弊する。

 

 どんどんと押されていくトガ。顔が苦しく歪み、次第に見える「もしも」の数が減っていく。

 

 だが、そんな両者の戦いはしかし、フォース以外の力によって決することになる。

 なぜなら、襲の“個性”が増しているものは、フォースだけではないのだから。

 

「オラァ!!」

「ぐぇ……っ!」

 

 再びの戦いが始まってからというもの、衰え知らずだった襲の身体能力が遂にトガのフォース感知を上回った。疲れるそぶりを見せなかった襲が、トガを削り切った形だった。

 

 結果、襲の強烈な蹴りがトガの鳩尾に入る。骨がきしむ。トガはうめきながら、胃の中のものを吐き出しながら、壁に激突して倒れ込んだ。

 

 それを見た襲の顔が喜色満面に染まり、“()()()()()()()。パシリ、と再び赤い光がいかずちのようにその身体から漏れ出て、()()()()()()()()

 

「フゥー……ったくさぁ、苦労させないでよねぇ。雑魚の分際でさーあー!」

「ぐ……、は、くふ……っ」

 

 ぶつかった衝撃で壁が崩れ、トガの身体は瓦礫で半ば埋もれた。その中で、せき込みながらも起き上がろうともがく彼女の身体のあちこちから、血が溢れる。

 

 だがそんな彼女の意に介することなく、ずんずんと襲は近づいていく。剣を背負うように掲げながら、楽しそうに。

 

「……ッ! やめろォ!!」

 

 その様子に気づいた緑谷が、いまだ粘るステインをグラントリノに任せて動き出す。考えるよりも先に、身体が動いていた。

 

 しかし。

 

「そんな……! トガさん……っ、くそ……っ!」

 

 届かない。彼の手は常人のそれと変わらず、伸びることはないから。その代わりとなる、飛びぬけた力を放つこともできないから。

 いまだに受け継いだ力を十全に扱えない今の彼では、こんなわずかな距離でさえ詰め切ることができず。

 

 緑谷が伸ばした手のひらの向こうで、襲が嬉しそうに笑う。

 

 ……いや、事実彼女は嬉しいのだ。ヒーロー志望などという塵芥が悲痛な声を上げながら近づいてくる様に、そして間に合わないという事実を既に半ば理解してしまっている様に、喜悦を覚えているから。

 

 ()()()“個性”がさらに弱まり、強い赤い光が周辺を照らし出す。

 それでも負傷した少女を殺すには、十分で。

 

 襲は、まるで周りに見せつけるように剣を振りかぶった。

 トガが、その様を見上げる。夜闇の中で、白銀の刃が煌めいたように見えた。

 

 けれども。

 

 トガの顔は、絶望に染まってなどおらず――

 

「――――」

「死ねぇ!!」

 

 剣が振り下ろされる直前、つぶやかれた呼びかけは誰の耳にも届くことなく虚空に溶け――周囲のフォースが、波紋のように静かに揺れる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 同時に小さな人影がトガの横を通り過ぎ、彼女をかばう形で襲の前に立ちはだかる。

 

「な、ん……!?」

 

 かくして白銀の刃と、橙の光刃が真正面からぶつかり合った。

 




原作を読んでいるときから疑問だったのですが、トガちゃんの個性である「変身」は一体どういう機序で変身後の姿を規定しているのでしょう。
現時点の変身相手の姿になるのか。
血を摂取したときの姿になるのか。
トゥワイスのように、使い手が最後に見た(彼の場合は計測だけど)ときの姿になるのか。
それとも変身後の姿はある程度自由にできるのか。

色々考えましたが、本作では「現時点では最後に見たときの姿に変身する」と設定します。
根拠としては、「私服姿のお茶子ちゃんから吸った血で仮免試験時に変身したときは、コスチューム姿に変身している」けど、「VS解放戦線時は服装ごとの変身をしていない」けど、「全面戦争時、蛇腔病院でヒーローに変身したときは服装ごとコスチューム姿に変身している」点から。
つまり、状況によって変身の機序が一定ではないように見えるので、個性が周りから受ける影響如何で色々と変わるのだろう、と考えた結果そうなりました。

では話は本作の劇中に戻りまして。

Q.このタイミングで、トガちゃんが最後に見た理波の姿はどんな姿?
A.夜、抱き合いながら吸血してたら勢い余って上を脱がしちゃったときの姿。

はい。この戦闘中、トガちゃんが理波に変身すると、上半身裸で下半身もパジャマという姿に変わります。
なのでトガちゃんは理波に変身したくてもできなかったわけですね。
正確には上を完全に脱がしたわけではなく、はだけさせたくらいですけれども。戦闘中なので、ええ。激しい動きしてるのに前がはだけてると、色々と見えますよね。

ここで改めて申し上げますが、本作のメインテーマは「ヤンデレお姉さん×TSロリの百合」なので・・・。
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