銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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14.はじめての 下

 私たちはイイダたちに急いで追いつくと、声をかける。

 

「みんなー、何があったんですー?」

「? うおっ、もしかしてトガ? ひゅー、今日は随分キマってるじゃん! かわいいぜ!」

「えへへー、でしょー?」

「……ああ、渡我くんか! すまない、着飾っているからか一瞬わからなかった! ……おお、それに増栄くんも。二人も来ていたのか!」

「はいー、ネイティブからチケットもらったので、たまにはと思ってコトちゃんと。飯田くんもです?」

「そんなところだ。緑谷くんや轟くんも誘ったのだが、今日は用事があるとのことでね」

 

 なるほど、それで代わりにトコヤミたちということか。

 

 ……ミネタとカミナリは、どうも女性をひっかけようとしていたようだが。まあ、すべて失敗に終わったようなので、何も言うまい。

 

「で、何があったのかだが。どうやらお化け屋敷の中で少女が一人が行方不明になってしまったらしく……しかも間の悪いことに問題が発生してしまったとのことだ」

「それは大変だな。しかし、ならばなぜ裏手に?」

 

 私の問いにイイダはその場に膝をつくと、真っ黒に塗られた地面近くの小さな窓を示した。どうやら開くようだ。

 

「昔家族でここに遊びに来たとき、兄が抜け道を見つけたのを思い出したんだ。それで」

「我々で少女を救け出そう、というわけだ」

「なるほど」

 

 やはり、彼らは根っからのヒーローらしい。だがそういうことならば。

 

「私たちも同行しよう。なあヒミコ?」

「ん、人探しは多いほうがいいですよね」

「二人とも……そうだな、そうしよう。六人もいれば、きっとあっという間だ!」

 

 そういうことになった。

 

 ……のだが、後方でなぜかカミナリとミネタが揉めていた。ミネタが一方的に突っかかっているように見えるが、あれはなんなのだろうか。

 

「二人とも何をはしゃいでいるんだ! 早くユカくんを助けねば!」

「わ、わぁってるよ!」

 

 どうやら行方不明の少女はユカというらしい。名前がわかっているなら、より可能性は上がるな。

 

 ということで、正規ではない入り口からお化け屋敷に入った私たちであったが、出迎えたのは闇であった。当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。

 ただし、完全なる闇ではない。なので、周囲の光度を増幅して進むこととする。緊急事態ということで、これくらいは見逃していただきたい。

 

「うわ、これは……」

「こいつはひでぇや。あの幼女大丈夫か?」

 

 お化け屋敷の中は、散々に荒れていた。本来なら通路であろう場所には破壊されたセットや装置が散らばっており、さながら嵐でも通ったかのようである。

 おまけに、現在進行形で何かが動き回っている音もする。これは恐らく、あの動いている人形のお化けの仕業だろうが……ふむ、フォースで探った感じ、生き物の気配はほぼないな。

 

 そう、こういうときもフォースは活躍する。周囲に向けてフォースを放ち、その反響によって状況を探ることができる。この星で言えば、ソナーのような使い方だ。

 あの人形は、結局のところ人形でしかないのだろう。そこに生き物としての気配はなく、しかしまったくの無機物ではない独特の気配がかすかに感じられる。どうやら、“個性”によって操られているだけのようだ。

 

「“個性”? ……増栄、他に人間の気配は?」

「あるにはある。が、“個性”を使っている気配は一つしかない。そしてそれは、怯えている小さな子供の気配と合致する」

「……ということは、下手人はあの幼女の可能性が高いな。いや、下手人という言い方は失礼か」

「はあ? いやいや常闇、あの子はまだ“個性”は出てないって……」

「今、突如発現したのだとしたら?」

「ああ! その可能性はありそうだ。目測だが、ちょうど四歳くらいだった」

「じゃあしょうがねーな。突然発現するもんな、あれ」

「こんな暗いとこでいきなり“個性”が発現したら、びっくりしちゃうよねぇ」

 

 ミネタの言葉に、ヒミコをはじめ全員が頷いたところで……上から人形が降ってくるのが感じられた。

 私やミネタくらいのサイズ。それがちょうどミネタに、後ろからのしかかる形で降ってきたのだ。

 

「ミネタ、少し右にずれたまえ」

「? おう」

 

 なのでそう伝え、ミネタが困惑しながらも言う通りにしたところで、直前まで彼が立っていた場所に河童を象った人形が落ちてきた。

 

「うわあ!?」

 

 人形は回避されたこともなんのその、とでも言いたげに、周りに攻撃を仕掛けようと動き出す。

 

 だが、

 

黒影(ダークシャドウ)!」

『任セナ!』

 

 トコヤミの指示に従って現れた黒い鳥型の魔物が、人形を破壊した。バラバラになった人形は“個性”の制御から離れたのか、床に転がって完全に動かなくなる。

 

「お、おお……二人ともサンキューな。黒影も」

「気にするな」

『ソウダゼ~』

「ふむ……やはりだな。この人形に宿っていた気配は、怯えている小さな気配の持ち主と同じだ。ユカ? とやらの“個性”と見てまず間違いないだろう」

 

 しゃがんで人形の破片を検分した私に、ならばとイイダが頷く。

 

「彼女の場所はわかるかい?」

「ああ」

「ならば、案内を頼めるだろうか? 道中、周囲の警戒と迎撃は俺たちが請け負おう」

「了解した」

 

 ということで、中心に私とヒミコを置き、前方にミネタ、左右をイイダとカミナリが固め、しんがりにトコヤミがダークシャドウと共につく。

 この布陣を相手に、“個性”発現したての少女の力で対抗できるはずもない。

 

 何より、フォースによる感知で場所がはっきりわかっているので、私たちはほぼ最短距離で目的地に辿り着いた。戦闘もあるにはあったが、“個性”を使うまでもなく対応できた。

 

「そんなことまでできんのかよ……って、なーる。それでこないだの救助レース、一直線に動けたのか」

「そういうことだ」

 

 そして、ちょうど場所がわかる理由について説明を済んだところで、私たちは足をとめる。

 

「これは井戸か。この中に?」

「ああ。……だが井戸は見た目だけで、そう深くはない。すぐそこにいる……はず、なのだが」

 

 その中は、まるでそういう塗料で塗り固められたように闇一色であった。明らかに普通ではない。

 

『本当ダ、中ニイルヨ』

 

 首を傾げる私に、ダークシャドウが補足するように言った。どうやら、影そのものである彼には何かわかるものがあるようだ。

 

 ならばとイイダが井戸の中に呼びかけるが、返事はない。出てくる気配もだ。

 しかし、動く気配は感じられた。やはり、ここにいることは間違いないのだ。

 

「なんで出てこないんだ?」

「パニクってんじゃね? ほら、初めて“個性”が出たときって、最初パニクるだろ? 俺なんてビックリして目いっぱい放電しちまって、一日中アホんなってたぜ」

「あー、オイラももぎりすぎて血ぃ出てパニクったわ」

「もしくは姿を現す術がわからないとか?」

「どっちもありそうだよねぇ。んー……」

 

 イイダの言葉に考え込むそぶりをしたヒミコが、ちらと私に目を向けた。

 

 彼女が意図することを理解した私は、「最終手段だ」とだけ答える。そう、フォースで操るのは最終手段だ。

 

「……俺が話しかけてみる」

 

 と、そこでトコヤミが一歩前へ出た。聞けば、ユカとやらとは園内で迷子になっていたところを助けた縁があるらしい。

 そしてそれを解決するきっかけを作ったのはトコヤミであるらしく、彼ならあるいは、とイイダたちも納得して一度口を閉じた。

 

「……落ち着け。凪のように穏やかな精神で己の存在を意識すれば、お前は闇より帰ってくる」

 

 だが、彼の口をついて出た言葉に、一同で脱力する。カミナリが代表するように、呆れた口調で言った。

 

「常闇……相手、幼稚園児だってわかってる?」

「うんうん。そこはもうちょっとかみ砕かないとですよぅ」

「うむ、それでは少々固いぞ常闇くん」

「……委員長に固いって言われるようじゃおしまいだな」

「どういう意味だ、峰田くん?」

「……わかりやすく……」

 

 周りの言葉にトコヤミは少し考え込んだが、やがて井戸の中に向けて手を差し出した。

 

「ユカ、この手を取れ」

 

 すると、真っ黒な闇の中から少女の小さな手がゆっくりと現れた。私よりも小さい。

 それが戸惑うように、そしておずおずとトコヤミの手に触れた。トコヤミがその手をしっかりと握り返せば、少女のほうもその力強さに触発されたのか、闇から少女の全身が現れる。

 

「とりのおにいちゃん……」

「もう大丈夫だ」

 

 その姿に、誰もがよかったと胸をなでおろした。

 

「お母さんがとても心配しているぞ! 早く姿を見せてやらねば!」

 

 だが、イイダの言葉にユカは力なく首を振った。

 

「なぜだ?」

「……ママ、すっごくこわがってた……。ユカもこわい……ひとりでくらいの、やだよ……」

 

 彼女はそのまま、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 

 無理もない。この星の人間は本来、昼行性の生き物だ。闇の中は人間の世界ではなく、本能的に人間は闇を恐れるようにできている。

 ましてや、“個性”が出始めたばかりの年頃では恐れないはずがない。あまつさえ、自らが関わった闇を親が恐れたとなれば、なおさらだ。

 

「……闇は己の本性を暴く。そこに恥じるものがなければ、恐れる必要はない」

 

 そんなユカに対して、なおもトコヤミは言葉を重ねるが……相変わらず固い。まあ、私も恐らく似たような言い方しかできないだろうから、口をはさむ資格はないのだが。

 

 カミナリが「言い回し、言い回し!」と助言を送っている。トコヤミも考え込んだものの、

 

「だから……つまり……」

 

 いい表現が思い浮かばないのだろう。言いよどんでしまった。

 

 しかし、そこになんと、ダークシャドウが割って入った。

 

『闇ハ友達ダヨ!』

黒影(ダークシャドウ)!」

「ともだち……?」

「ああ。俺の“個性”だ」

 

 いきなり上から現れたダークシャドウに、ユカはびくりと驚いたが……トコヤミの身体から伸びていると理解してからは、恐る恐るではあるが歩み寄った。

 

「怖くないのか?」

「ともだちなら……だいじょうぶ。とりのおにいちゃんも、こわくないもん」

「……そうか」

『友達、友達!』

「……ともだち!」

 

 ペットか何かに見えたのだろうか。ともあれ、ユカは友達だとまくしたてるダークシャドウに、にっこりと笑いかけた。

 

 その姿を見て、私たちは誰からともなく安堵の息をつく。そして幕を引くように、イイダが声を上げる。

 

「よし! 戻るとしよう!」

 

 すっかり静かになったお化け屋敷の中をまっすぐ抜けて、外に出た私たち。そこにいたのは、現着しこれから突入しようとしていたヒーローであった。

 代表してイイダが事の次第を説明すれば、あっという間に騒ぎは収まった。

 

 何度も謝礼を述べ、頭を下げる母親に対して礼はいらないと辞退する我々の間で、小さな押し問答はあったが。

 ただ、最後の最後。別れ際に、ユカがトコヤミに「だいすき!」と告げて一悶着があった。

 

 相手は四歳前後の幼女であるのに、嫉妬の炎に燃えるカミナリとミネタはどうでもいいとして。

 生真面目に「交際は大人になって、互いの両親の許可を得てから」と言うイイダはやはり信頼できる男だ。

 

 ……なお、トコヤミは最初は動じていなかったが、がんばると言い切ったユカにまばゆい笑顔を向けられたときには、さすがに照れたようであった。

 

 そんな小さな騒動を終えた私たちであるが、

 

「そうだ二人とも。せっかくだから、一緒に回らないか?」

 

 午後。イイダにそう提案された。

 

 それもそうだと頷くカミナリとトコヤミ。一人「バカ野郎!」と憤慨するミネタ。

 

 彼らを前に、ヒミコは少し迷ったようで、心がかすかに波立った。

 しかし、その中心にあるものは揺らいでなどおらず。私もその揺らがない想いには心底同意する。

 

 ゆえに私は、ヒミコの手を取って身体を引き寄せながら、答えた。

 

「いや、済まないが今日は二人で回るという約束なんだ」

「そうか、そういう約束なら仕方ないな!」

 

 いつものようにイイダがあっさりと納得し、ミネタがやたら力強く何度も頷いて別行動を推奨するので、カミナリとトコヤミも折れた。

 かくして私たちは、偶然出会ったにもかかわらず元のように別れたのであった。

 

「コトちゃん?」

「今日はデートなんだろう?」

「……うん!」

 

 ぱあ、とヒミコの顔が輝く。私もにっと笑う。

 

 そうして私たちは、改めて遊園地に繰り出した。

 相変わらずアトラクションはどれも私の琴線に触れるものではなかったが……午前中と違い目いっぱいはしゃぎ、全力で楽しむヒミコの姿が見れたので何も悔いはない。

 

 そして、そんな彼女に最後に連れてこられたのは観覧車であった。

 

「……高所に上がるのであれば、展望台でいいと思うが」

 

 乗って開口一番に、私はそう言った。わざわざ密室状態のゴンドラをいくつも連ねて、ゆっくりと回転させる意味がよくわからなかったから。

 

 だが、そんな私をするりと抱き上げて、ヒミコはにんまりと笑う。

 

「観覧車は景色を楽しむだけのものじゃないのです」

「というと?」

 

 再度の問いかけに、彼女は笑みを深めた。

 

「決まった時間、誰も邪魔しない部屋で、二人っきりになるためにあるんですよぉ」

 

 そして、膝の上に私を乗せる。至近距離で面と向かい合う形となった。

 目の前に彼女の顔が迫り、思わず少しだけのけぞる。心臓が早鐘のように動き始めたのがわかった。

 

「ここでなら、思いっきりイチャイチャできるのです」

「……なるほど、そういうことか」

 

 思わず苦笑してしまった。

 

 まあ、そういうことなら思う存分付き合おうではないか。

 

「ね、コトちゃん。さっきの女の子、すごかったねぇ」

「……ああ。女は小さくても女だと誰かが言っていたが、その通りなのかもしれないな。……あの歳の子供でも理解できているものを、理解できていない私はなんだとも思うが」

「ふふ、それは言いっこなしですよコトちゃん」

 

 すり、と頬を寄せられる。もちろん、抵抗などしない。

 

「……ねえコトちゃん。今日はありがとね」

「気にするな。最初は対価のつもりだったが……私も楽しかったよ。だから、あれは私がしたくてしたことだ」

 

 そう、イイダの申し出を断ったのは、誰あろう私がしたくてしたことなのだ。

 だから、感謝されるいわれなどなく。

 

「……んふふ。だからコトちゃん、大好き」

「そうかい? ありがとう」

 

 ぎゅ、と抱きしめられる。私も応じて、彼女を抱き返した。

 

「……ねえ、コトちゃん?」

「なんだ?」

「……キス、しても。いいですか?」

「ああ、いいよ」

 

 言った本人であるヒミコが軽く驚いたが、私自身も驚いた。この場合の「キス」が()()()()()()()()()をフォース越しに見えているにもかかわらず、何も考えず即答した自分に。

 

 だが、それでもなお嫌だとは微塵も思っていない自分がいることに気づいたとき、私は単純に思考が心に追い付いたのだと気づいた。胸の鼓動が落ち着いていく。

 

「……ホントにいいの?」

「私が今まで、君に嘘をついたことがあったかい?」

「んーん、ない」

「だろう?」

「…………」

「…………」

 

 ゴンドラの外から、夕日が差し込んでくる。橙色の光が、私たちの横顔を照らす。

 その中に浮かび上がるヒミコの瞳は、切なく揺らいでいる。しかし、その視線が揺らぐことはなく。

 

 しばし見つめ合った私たちは、そのまましばし影を一つする。

 

 ――初めて()()()()唇の感触は、思っていた以上に柔らかく、瑞々しいものだった。

 

 そうして夕焼けの余韻の中で、正面から互いを抱きしめながら、思う。

 

 私はジェダイ失格だ、と。

 

 そして、重ねて思う。

 

 ()()()()()()()、と。

 




I will give you all my love.
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