銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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ネタバレ覚悟で先に警告いたします。
ここから章末までの4話の中に、襲とは別に地球人フォースユーザーのオリキャラ(敵ではない)が登場します。苦手な方はご注意ください。
ただ彼に関してはそれよりも、今後の布石としての意味のほうが大きいので、大目にかつ長い目で見ていただければなと思う次第。


15.授業参観 上

 きっと私は、ヒミコのことを好いているのだろう。友人としてではなく、また親兄弟としてでもなく。

 

 それに気づいたのはいいが、しかしだからと言って何かが変わるわけではない。ただ、私からヒミコに話しかける機会、物理的に接触する機会が増えるくらいだ。

 

 あとは……そうだな。吸血のときに、私からも能動的に少し吸ってみたりとか。

 まあ、なぜかこの日のヒミコは逆に大人しかったのだが。何かを必死にこらえているようだったが、何だろうか?

 

 ともあれ、些細な変化ではあるが……別にそれでいいと思う。心を通わせたもの同士が何をするのか、私にはよくわからないが……お互いの意思がはっきりしているのなら、別段何か特別なことなど必要ないだろう。

 

 まあ、ヒミコのように周囲の目をはばかることなく、誰の目にも明らかなような行動ばかりするのは、さすがにやりすぎだろうなとは思う。

 でなければ、職場体験の初日にイレイザーヘッドに咎められることもなかっただろうしな。そこは反面教師にしよう。

 

 ……ヒミコの予言通りになったことが少々癪である、というのもなくはないが。なんだか負けた気分だ。

 いや、勝ち負けがどうのこうのという話ではないし、そもそもそんなことにこだわっているようではあからさまにジェダイ失格なのだが。

 

『ノーコメントで』

「そこは何か言ってくれないか」

 

 アナキンは黙して語らず、非常に生ぬるい目で私を見るだけであった。

 

 ともかく、一夜が明けて。

 

 今日は授業参観当日である。

 

 で、あったのだが。

 

「……相澤先生、来ないね?」

 

 習慣で、時間通りに全員着席した教室。だがチャイムが鳴ってもイレイザーヘッドは姿を見せず、困惑した様子でハガクレがつぶやいた。

 

 ツユちゃんが「遅刻かしら?」と応じ、イイダが由々しき事態だと騒ぐ中、私も首を傾げる。

 

 イレイザーヘッドは時間にうるさい人だ。少なくとも、私が知る限り彼がトラブル以外で定刻に遅れたことは一度もない。セロが言う通りイレイザーヘッドも人間なので、そういうこともあるだろうが……。

 

「少なくとも周辺半径三百メートル内に、イレイザーヘッドの気配が存在しない。何かあったのではないだろうか」

「な、なんだって!?」

「テメェ、なんでそんなことわかる」

「超能力の応用だな。実力者なら惑星単位で探査できるが、私程度ではこれくらいが限界だ」

 

 前からバクゴーが睨んできたのでそう返したら、一瞬目が開かれ次いでいつものような舌打ちが返ってきた。

 

 ちなみに私のフォース探査、有効射程距離はおおよそ五百メートルほどだ。同心円上に行う場合は、三百メートルほどが限界となる。

 

「ああ、昨日言ってたやつ。え? だとしたらマジでなんかあったんじゃねぇ?」

 

 私の能力の一端を、昨日垣間見たカミナリも少し離れたところで応じる。彼以外にも、私の力を知っているものはいるため、そこを中心に少しずつざわめきが広がっていく。

 

 と、そのときであった。クラス全員の携帯端末が、一斉に着信を知らせる音を響かせた。

 差出人は……

 

「相澤先生からだ……!」

「『今すぐ模擬市街地に来い』?」

 

 後ろからの声に続く形で、私は首を傾げる。それは私以外の全員もそうだった。

 

「市街地? なんで?」

「……あっ! 俺わかった! 相澤先生、あっちでまとめて授業……つーか手紙の朗読と施設案内するつもりなんじゃね? 合理的に!」

 

 その中で、カミナリが閃いたと言わんばかりに声を上げた。同意を求めるような彼の顔に、確かにと思う。

 

 思うが……同時に、届いたメッセージに何か妙な予感を覚える私もいた。

 

「ヒミコ、どう思う? 君の直感はどう言っている?」

「私はコトちゃんほど鋭くないのでアレですけどー……でもやっぱり、なーんかひっかかる感じするなぁ……」

「だよなぁ」

 

 そう会話する私たちに、ミドリヤも加わった。

 

「そうだよね……確かに合理的ではあるけど、でもだったら集合場所は最初から言っておきそうじゃない?」

「うむ。こういう二度手間なことを、イレイザーヘッドがするかというとどうも……」

 

 とはいえ、ここであれこれ話していても仕方がない。私たちは保護者宛の手紙を手にして更衣室に向かい、手早くコスチュームに着替えて校舎を出た。

 用意されていたバスに乗り込み、模擬市街地アルファに到着する。その中に入った私は、ガソリンの臭いを感じて首を傾げた。

 

 念のためと思いショージに頼んでみたところ、やはりガソリンの臭いが奥から漂ってくるという。

 これはもしかするともしかする。私は周囲を探査することにした。

 

 結果、ここにあってはならないものを感知して足を止める。

 

「……全員待て」

「どうした増栄くん? 早く行かねば遅刻してしまう!」

 

 バス停にイレイザーヘッドの姿がなかったため、中で待っているのだろうと判断したイイダ。彼に率いられる形で、模擬市街地を進んでいたクラスメイトを私は呼び止めた。

 

「恐らくヴィランがいる」

 

 そして告げた言葉に、全員が絶句する。と同時に、賑やかな面々から悲鳴のような声が上がった。複数の人間からどういうことだと問い詰められる。

 

「見知らぬ気配がある。これはいい。ひとまとめに固まっている様子からして、我々を見に来た保護者だろう。だがその近くに、暗黒面の気配がある。数は一つだが……非常に強い」

 

 問われたままに答える私。

 

 だが、その瞬間であった。ヴィランの気配が急激に大きくなった。より正確に言うと、フォースがはっきりとわかるレベルにまで増えたのだ。

 フォースユーザーだと? そんなバカな……と思うものの、これは現実だ。受け入れるしかないだろう。

 

 次いで、私が知る誰のものでもないフォースが私たちを通り抜けた。フォースによる探査だ。やり返された。思わずライトセーバーに手が伸びる。

 

 さらに直後、背後から音が聞こえてきた。思わず振り返れば、勝手に閉まっていく門が見える。

 

「……まさか」

「ケロ……閉じ込められた?」

 

 ヤオヨロズとツユちゃんが、恐る恐ると言った様子でつぶやいた。

 

 直後のことである。

 

『その通りですよ』

 

 応じる形で、どこからともなく男の声が聞こえてきた。聞き覚えのない声。

 音の出どころへ目を向ければ、そこにはスピーカーがあった。

 

『申し訳ありませんね。あなたがたの保護者さんは、全員捕まえさせていただきました。彼らの命が惜しければ、そのまままっすぐ中心部まで来ることです。……ああ、外部への連絡は無駄ですよ。通信妨害をしておりますので』

 

 機械で弄られてはいない、しかしどこかくぐもった声がそこから響いてくる。慇懃無礼な男の声だ。

 だがそこに、嘘や冗談の色はなかった。この声の主は、本気だ。本気で我々の保護者を害そうとしている。

 

 それを証明するように、遠くから叫び声や悲鳴が聞こえてきた。

 

 直後、慌てて動き出すクラスメイト。そのほとんどが、混乱の中に焦燥を抱えていた。程度の差はあるもののバクゴーですら例外ではないのだから、彼も人間なのだなぁと思ってしまったが、それはさておき。

 

 問題は、恐らく保護者たちのものと思われる声には、まったく恐怖や怯えがなかったことだ。

 まさかこれ、演習か? イレイザーヘッドお得意の合理的虚偽による。……にしては、ヴィランと思われる男からは本気で害意が感じられる。

 もしや、保護者側は非常事態に気づかないまま、演習だと思ったまま、ヴィラン役が本物にすり替わっているということだろうか。だとしたら相当まずい。

 

 おまけにガソリンの臭いがする。この状況でそんなものがあったら、嫌な予感しかしないだろう。

 

「全員落ち着け。このまま無策で向かっても敵の思うつぼだ」

 

 走りながら、私は声をかけた。もちろん、フォースを乗せてだ。これで少しは落ち着けるだろう。

 さらに言えば、多少だが私の言葉に従いたくなるような力も乗せた。あまりやりたくないことだが、事態が事態だ。下手に統率を乱すわけにはいくまい。

 

「けどよ……!」

 

 中でも特に焦りが強い一人、キリシマ。それだけ仲間想い、家族想いなのだろう。

 そんな彼に、重ねて慌てるなと告げる。

 

 次いで、ヤオヨロズに声をかける。ただし、フォースでだ。

 恐らく、敵は我々の会話を拾っている。敵に作戦が漏れる可能性は極力減らしたい。

 

 ただ体育祭で私と組んだメンツはこの仕組みを理解しているが、他はそうではない。なので、その説明(これについては全員に向けて)をできるだけ早く済ませた上でヤオヨロズに話しかける。

 

『ヤオヨロズ、武器を造ってくれ。遠距離攻撃ができて、かつ高速のものがいい』

(では、テーザーガンはいかがでしょう?)

『遠距離用のスタンガンか。ちょうどいい、それを頼む。できるだけ多く……ただし、すぐに形にしないでくれ。いつでも造れる状態で待機。できるか?』

(あまり多くはできませんが……できなくはありませんわ)

『よし。それ以外も、遠距離攻撃ができるもの……アオヤマとジロー、セロはいつでも放てるように準備を。バクゴーは悪いが待機だ。かすかに漂うガソリンの臭いからして、下手に爆破はできない状況である可能性が高い』

(ウィ、任されたよ☆)

(わかった!)

(お、俺もか!? ま、まあ、了解だ!)

「テメェ……この俺に指図とはいい度胸だなァ……!?」

 

 応じる他の面々に反して、バクゴーが表情鋭く言い放つ。

 セロやキリシマがこれを取り持とうとするが、バクゴーの内心は思ったより反発していない。さすがにこの状況で押し問答をしている場合ではないと理解していることと、周囲に漂う臭いからして自身の”個性”が封じられたも同然と思われることが理由のようだ。あと、私のことを一応は格上だと認めているということもあるか。

 

 それをわかっている私は他をなだめながら、話を続ける。今回ばかりは口でだ。

 

「いざというときは、バクゴー。君に指揮は任せるぞ。君ならこのクラスの人間であっても使えるだろう」

「……この俺を予備扱いしといて、失敗なんざしやがったらマジでぶっ殺すからな」

「了解した。まあ、君になら殺されても文句はないがな」

 

 マジかよ、と周りから少し引かれたようだが、わりと冗談抜きに本心である。私はそれだけ、バクゴーを買っているのだ。

 

 ちなみにイイダを指名しなかったのは、ステインとインゲニウムの一件から、身内が捕らわれている状態での指揮はまだ荷が重いだろうと思ってのことである。

 

 何はともあれ、続きだ。

 

『移動しながら立ち位置を変えてくれ。ヤオヨロズを中心に固める形で、大柄なものを前へ。小柄なものは左右だ。前に出るものは、攻撃の射線を遮らないよう注意してほしい』

 

 この言葉に、まずショージが先頭に立った。後ろにヤオヨロズがつく。

 既にショージは”個性”によって複腕を展開しており、ヤオヨロズの姿はほとんど前から見えないだろう。その両脇をイイダとセロ、トドロキ、バクゴーと身長の順に固め、さらに他の面々が続く。

 

『まず私が敵の注意を引き付ける。そして合図をしたら、遠距離攻撃ができるものは全員一斉に攻撃を放ってくれ。当たり所は考えなくていい。どこでもいいから当たるように放ってくれればそのスキに敵を完全に引き付けるから、他の面々は人質の救出を頼む』

 

 そして私がそう説明したところで、それが見えてきた。

 

 ぽっかりとした空き地。まるで周辺のものを雑に取り払ったような、地面むき出しの空間だ。瓦礫がそこかしこに転がっている。

 

 さらにそこに、穴が一つ。直径は数十メートルはあるだろうか。深さは遠目ではわからない。

 

 そんな穴の中央には、ぽつんと檻が設置されている。頼りない柱のような足場が、それを支えていた。

 穴の中からはガソリンの臭いが立ち上がっているので、あからさまに危険だ。

 

 そして穴の前には、中肉中背の男。全身黒一色の服装で固め、これまた黒い首輪に、黒い仮面を着けた男だ。髪も不自然なまでに黒い。

 だがその身体を、青い光が覆っていた。全身が薄っすらと発光するような……これがエンタメ作品でたまに見かける、オーラを纏った状態だろうか。

 

 男の前には、剣が地面に突き刺さっている。その近くには、赤黒い液体。さらにその中には、見覚えのある()()()。が浮いている。

 男は地面に刺さる剣の柄の頂点を覆うように両手を置き、姿勢よく佇んでいた。

 

 彼は私たちを見ると剣から手を離し、まるで一流のホテルマンが客を出迎えるように優雅に一礼して見せる。

 

「こっ、これは……!」

「ようこそ、ヒーロー志望の皆さん。お待ちしていましたよ」

「一体何者だ……!?」

 

 その後ろで、保護者たちが意味のある言葉を叫び始める。我々を呼ぶ声。彼らは檻の中に捕らえられていた。

 だが、やはり彼らの言葉には危機感が乗っていない。心の中にもそれは見当たらない。やはり、この事態を演習のままだと思っているようだ。

 

 そしてその中にいる、母上の姿を見とめた瞬間だ。私は、緩やかに意識が冷えていく感覚を味わった。

 恐らく、二度目となる感覚。一度目は自覚できていなかった感覚だ。

 

 アナキンがシスの奥義のようなもの、と言った状態に自らがあることには色々と思うところはある。だがなってしまったものは仕方がない。少なくとも主観の上では冷静なので、この状態で事態を収めるべく努めるしかないだろう。

 

「おっと、それ以上近づくのはおやめなさい。まあ、後ろの方々の命が惜しくないのであれば、存分に近づいていただいて構いませんが」

 

 そんな私をよそに、男は懐からライターを取り出した。

 周囲に充満するガソリンの臭いと合わせて考えれば、どういうことかは考えるまでもない。少し着火するだけで、大変なことになることは間違いない。

 

 これにはみな何も言えず、ぐっと口をつぐんで足を硬直させた。

 させるしか、なかった。

 

「さて、まずは自己紹介をいたしましょう。私の名前は……そうですね。『ルクセリア』とでもお呼びいただければ結構」

 

 男はそう言いながら、目の前の地面に刺していた剣の柄を見せつけるように撫でる。

 そこには――

 

「かつて、イレイザーヘッドに滅ぼされた組織の生き残りですよ」

 

 ――()()()()が、あしらわれていた。




ところで、感想でもここすきでもやたら峰田が人気なのなんでなの?w
いやボクも受けを狙ってるところはあるんで、それはいいんですが。
感想もここすきも、ありがたく頂戴しておりますしありがたく拝見しておりますし。ただ執筆を優先していて返信はかなり抑えているだけで、いつも励まされております。ありがとうございます。

ただ前話のラストシーンはボクの書き手人生の中でもトップ5に入るくらい、できがいいカップル成立シーンと自負してただけに「そっちかよ!?」と思ってしまったことは、お許しいただきたいですわ・・・。
いやもうホント、こんなに峰田が人気のヒロアカ二次がかつてあっただろうか?





というわけで、次のEP5の章末幕間は峰田の話にします。

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