そして時間はあっという間に過ぎ、実技試験の日がやってきた。
筆記試験は全員それなりに手ごたえがあったようなので、ここがいよいよ最後の山場ということになる。
半日にも満たないとはいえ問題点を指摘しつつの実戦形式でしごいてあげたからか、アシドとカミナリはロボなら合格確実とばかりに開始前から元気を振りまいていたが……イレイザーヘッドの捕縛布の中から現れた校長が「内容を変更しちゃうのさ!」と宣言した瞬間に硬直した。
説明された理由は、予想通りのものだった。ステインとヴィラン連合によるヴィランの活性化が予想されるため、対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い内容を重視する方針へ舵を切ったのだという。
結果として提示された試験の内容は、クラスメイトと二人一組になって教師陣と戦うというものであった。これも予想通りである。
仮想敵としてイッシキのような元ヴィランが来なかっただけマシではあるが、厳しいことには変わりない。何せ雄英の教師は、みなプロヒーローなのだから。
「なお、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
そしてそう締めくくったイレイザーヘッドが、順に組み合わせを発表していく。
私の相方は……
「おっ、増栄か! お前がいるなら百人力だぜ、頑張ろうな!」
キリシマであった。
「ああ。よろしく頼む」
そして対戦相手は、セメントスである。
……なるほど、と思う人選だ。恐らくこの試験、各生徒の課題、問題点を指摘できる教師があてがわれているのだろう。私とキリシマの場合は、消耗を強いられた場合に弱いことかな。
キリシマに関してはそれに加えて、選択肢の少なさも、か。それらをどう補うかが見られるのだろう。
何せセメントスは、周囲にセメントでできたものがあればほぼ無限に戦える。……もちろん彼にも限界はあるのだろうが、何年もプロヒーローをしている彼の限界が、学生のそれより低いはずはないしな。
この傾向は他のペア、対戦相手を見ても同様であるので、予想は間違っていないはずだ。
ちなみにヒミコのペアはジローで、対戦相手はプレゼントマイク。目立った弱点がない二人ゆえに、単純に強敵があてがわれたように見える。
特にジローにとってプレゼントマイクは、戦闘面においては完全な上位互換と言っても過言ではない。大丈夫だろうか。
あと目を引く組み合わせとしては、ミドリヤとバクゴー。普段あまり仲のよろしくない二人なので、そういうところからの組み合わせなのだろうが……相手はまさかのオールマイトである。
現在の最強を前に、さて二人はどうするのか。気になる組み合わせである。無事に済めばいいのだが。
……といったことを考えながらの、試験会場への道中。キリシマとは簡単に打ち合わせを行ったが、彼は正面突破以外のアイディアを持っていなかったので、ああこれはまずいなと思った私である。
手持ちの選択肢が少ないことは仕方ないにしても、選択肢を増やそうとしないことは問題だ。
ゆえにテレパシーを用いて、セメントスに聞かれないように懸念、推測を伝え、まず無策で正面から相手に突撃しないことを確認しつつ、互いに意見を出し合い作戦を決めた。
……ああ、ちなみに話は逸れるのだが。
”個性”を用いてフォースを増幅することの是非について、アナキンは『”個性”だけを使ってのことなら生物活動の範疇であり、フォース的にほぼ問題はない』と答えた。
つまり”個性”によるフォースの増幅は、徒歩から疾走に変えて移動速度を上げるようなもので、よほどやりすぎない限りは問題にならないらしいのだ。
逆に、銀鍵騎士団のように”個性”が混ざりに混ざった未熟な機械技術や薬物などを用いると、フォース的に問題になるようだ。
先ほどの移動速度のたとえで言うなら、徒歩から燃費と排ガスが最悪な車に切り替えるようなものらしい。つまり騎士団が存在した時代、この星のフォースは乱れに乱れていたことになる。
そしてアナキンは、だからこそ私がこの星に生まれ変わったのではないかという仮説を立てていた。私の存在は、フォースに安定をもたらすためにフォースによって遣わされたのではないか、と。
もちろん明確な根拠があるわけではなく、かといって実証実験をするわけにもいかないので、恐らく立証されることは永劫ないだろう。
しかしそういうことであるなら、私は今まで通りにするだけである。私は私として、この星の自由と正義を守るために尽力するのみだ。私はきっと、そういう生き方しかできないから。
……ああそうそう。”個性”でミディ=クロリアンを増やすことについてはどうなのかと聞いたところ、アナキンは『永続増幅であればフォース同様問題ない』という回答をした。
つまり一時増幅の場合、生命の唐突かつ急激な出現と喪失になる。それは間違いなくフォースを乱すだろう、というわけである。
ただ、ミディ=クロリアンは細胞内で共生する生物である。ゆえにその増幅は、どちらにせよ命の創造にも等しいと思ったのだが……。
『そもそもの話、生命の創造はミディ=クロリアンも可能だからなぁ。人間一人を生み出すことすらできるんだから、永続増幅なら気にしなくていいと思うよ』
とさらりと答えられてしまい、絶句した。
ついでに、アナキン自身がそれによって生まれた存在であり、母親が処女懐胎であったとまで知らされて頭が痛くなった。どうやら、フォースも”個性”並みになんでもありらしい。
あとそれはそれとして、ヒミコが「じゃあ女の子同士でも赤ちゃん作れます?」とアナキンに迫って困らせていたのも頭が痛い。ノータイムでどちらが産もうか、と考えた私自身にもである……。
「どーした? 体調不良か?」
「いや……なんでもない。大丈夫だ、ありがとうキリシマ」
何はともあれ、今は試験に集中すべきだ。フォースのあれこれは置いておこう。フォースの増幅が問題ないなら、それでいい。
ということで、どう戦うかを話し合っているうちに会場に着いたのだが……。
「ビルの多い都市部を模した会場……ってことは」
まだ開いていない会場の入り口。その外からでも見える中の様子の一部に、キリシマが表情を硬くしてこちらを見た。バスの中で伝えたことを思い出したのだろう。
ああ、そうだな。想定される中でも一番難易度が高い状況になる。この試験、教師陣も相当に力を入れてきているな。
そう思いながら頷き、二人でセメントスに向かい合う。
試験の制限時間は三十分、と説明する彼から、捕獲を示すためのハンドカフスを手渡された。これを相手にかける、あるいは出口に辿り着いたらクリアとなるわけだな。
そして対戦相手の教師には、ハンデキャップとして自身の体重の半分になるよう、腕輪や足輪の形の重りを装着するとのこと。これは逃げるだけでなく、戦闘を視野に入れさせるためだろう。
「で、俺らは中央スタート、と」
「逃げて勝つためには指定のゲートを通らなければならないから、どうあがいても一度は接敵することになる形のようだな」
「けど逃げるなんて漢らしくねぇよなぁ!?」
「性別のことはともかく、逃げて勝つつもりはもちろんないとも」
「そうこなくっちゃな!」
位置についた私たちはそう言葉を交わし、互いに笑う。
『それじゃあ今から期末試験を始めるよ!』
と、そこにリカバリーガールのアナウンスが聞こえてきた。彼女は今回、治療を担当しながらアナウンスも行うらしい。
『レディィィーー……ゴォ!』
ともかく、合図が出た。開始である。
だが開始と同時に、私たちにコンクリートが襲いかかってきた。速攻、かつ持久戦を強いる。セメントスの得意分野だ。
「いきなり来たか!?」
「この状況で出鼻を挫くならこれが一番だろうからな」
「セメントス先生の方向、わかるか!?」
「任せろ。やるぞ、レッドライオット!」
「おうよ!!」
既にフォースの索敵で、セメントスがいる方向はわかっている。なので、打ち合わせ通りに私はキリシマ……レッドライオットをそちらに配置し彼の後ろにつく。
「行くぞ!」
「おう!」
掛け声と共に、レッドライオットはその場で跳躍した。と同時に、硬化する。
本人曰く「硬さなら誰にも負けねぇ」とのことで、実際彼の守りを抜くことは非常に難しい。だが彼の硬さは、そのまま破壊力にもなる。
であれば。
「はあッ!」
眼前には、既にコンクリートが何重にもなって押し寄せてきている。そうして間もなく飲み込まれる……というところで、私はいまだ空中にあるレッドライオットの背中に、全力のスーパーフォースプッシュを叩き込んだ。
日々鍛錬は欠かしていないので、私は”個性”もフォースも入学当時より成長している。その分肉体の成長が後回しだが、ヒミコとの体格差以外で困っていることはほとんどないので、構わない。
そういうわけなので、”個性”とフォースを組み合わせての全力スーパーフォースプッシュなどは、掛け算で増幅された結果なのでさらに磨きがかかっている。
するとどうなるか。簡単なことだ。目視すら難しいほどの勢いで、レッドライオットが射出される。
そして彼の身体は今、余人には侵しかねる鉄壁。そんな高硬度の物質が猛然と叩きつけられれば、コンクリートなどひとたまりもない。言うなれば人間砲弾だ。押し寄せる壁はどんどん砕かれていき、レッドライオットは一直線に、それもあっという間にセメントスへ向かっていく。
さらに、私も空に舞い上がって上からセメントスに向かう。一旦追い越し、変則的に軌道を変えてどこからでも彼を攻撃できるように動く。
その動きは、体育祭時の比ではない。能力の成長もそうだが、身体に取りつけたサポートアイテム(職場体験後に父上から渡された)が空中軌道の挙動を底上げ、かつ補正しているのだ。父上が私向けに新作した、彼譲りの立体機動補助装置である。
これにより、コンクリートの波のわずかな隙間を縫って死角からセメントスへ向かうことができる。ここまで細かい挙動は、この装置なしではできない。
もちろんセメントスもプロなので、すぐに対処してくるが……出力を上げたライトセーバーを全身で回転しながら振るえば、コンクリートなど豆腐みたいなものだ。すべて切り捨てて、セメントスに向かう。
さらに、ヒミコのような威力はまったくないが、音だけは一丁前のフォースブラストでセメントスの危機感を煽る。威力ではなく音を優先しているので、「ブラスト」というには中途半端だがそれはともかく。
こちらはブラフ以外の何物でもないが、近くで爆発音がすれば人間何かしら驚くものだ。
もちろん、威力がない音だけのこけおどしではすぐに慣れられるから、使うタイミングは絞るがね。
そしてその頃にはレッドライオットもセメントスの至近にまで到達していた。つまり私と合わせて、前と死角からの同時攻撃の形になる。
これにはたまらず、セメントスはその場から離れることを選んだ。コンクリートの波に乗って、さながらサーフィンをするかのように模擬市街地を移動し始めたのだ。
目立った機動力を持たないと思っていたが、ああいう移動方法もあるのだな。都市部では本当に強力な”個性”だ。
だが、それよりもなお私の空中機動のほうが速い。あっという間に追い越すと、スーパーフォースプッシュでセメントスをコンクリートの波から引き剥がす。
そして入れ替わりに反対の手で、スーパーフォース
対象は――
「――レッドライオット!」
「おっしゃああぁぁぁぁ!」
「なんと!」
セメントスの背後から、レッドライオットが迫る。
もちろんレッドライオットに空中を移動する術はない。だが、私にはある。させる術も。
そう、位置関係は整っていた。私、セメントス、レッドライオットの並びであり、高さも高中低と並んでいる。
私はその状態で、レッドライオットに向けてセメントスを吹き飛ばした。それとほぼ同時に、レッドライオットを引き寄せたのだ。
これにより、両者は空中で激突する。硬化したレッドライオットの身体は鋭く尖った天然の武器であり、そんな彼が近づくだけでもプレッシャーになる。ましてやセメントスのコスチュームは露出が多めなのだ。
それでも、普段のセメントスなら対処できただろう。いかに空中で、周囲に操れるものがないとはいえ現役のプロヒーローだ。実際、彼はレッドライオットが手にしたハンドカフスだけを狙って弾き飛ばそうと腕を動かしていた。
だが、その動きは鈍い。原因はそう、ハンデキャップの重りだ。身体の各所に着けられているそれは、腕輪や足輪の形をしている。
つまり、一番動きが阻害されるのは腕と足。これが勝敗を分けた。
「……! やれやれ、こりゃ完敗だ」
「! よっしゃあああ!!」
ハンドカフスが取り付けられたセメントスが肩をすくめながら笑い、地面に落ちていく。
対するレッドライオットは、拳を天に突き上げ歓声を上げながら地面に落ちていく。
私はすぐさま両者の下に回り込み、フォースプッシュを駆使して墜落の衝撃を緩和する。
セメントスを優先したのは、レッドライオットが”個性”ゆえに多少の衝撃が効かないからだ。ある種のトリアージである。
『報告だよ。条件達成、最初のチームは切島・増栄ペア!』
と同時に、リカバリーガールのアナウンスが聞こえてきた。こんな放送もするのか……確実にまだ終わっていないものたちを急かすためだな……。
まあそれはともかく。私はひとまず、レッドライオットを引っ張り起こすことにした。
「悪ィ、ありがとな!」
「いや、私こそ受け止めきれなくてすまない。怪我はないか?」
「見ての通りだぜ!」
立ち上がりながら、レッドライオットは笑みを浮かべて力こぶを作って見せた。うむ、本当に怪我はないようで何よりだ。
と、そこにセメントスが歩み寄る。
「思ってた以上にあっさりクリアされてしまったなぁ」
「市街地であなた相手の持久戦は、あまりにも不利ですので。加えて、我々の”個性”は使い続けることに向きません。速攻が最善と判断しました。結果としてほぼ力押しになってしまったので、そこは反省したいところです」
より具体的に言うなら、レッドライオットをもっと活かしたかった。協力が前提と思われるこの試験、私の力によるところがあまりに大きいやり方になったのは、私の力不足のように思う。
「いや、力押しでどうにでもなる状況なら、そうしてしまったほうがいい。下手に小細工をして負けてしまっては本末転倒だからね」
だがセメントスは微笑みながらそう答えた。若干認識に差があるようだが、まあ言わんとしていることはわかる。
「それに、
「いえ、あれはレッドライオットの案です」
「増栄……あいや、アヴタスと話し合ってるうちに思いついたんスよ。俺は機動力がないんで、普通にしてたら先生に近づくのはまず無理ッス。なんで、そこ補ってもらう必要があるなって。でもって、俺ならアヴタスの吹き飛ばしを受けても無傷で済むから、攻撃と移動が同時にできる! って感じッスね!」
「いいねぇ。急なマッチアップでも、お互いのできることを組み合わせればできないこともできるようになる。そこに目が行ったなら十分だろう」
彼は次いで周囲を見渡して、付け加える。
「市街地への被害も最小限だ。うん、文句なく合格だろうね」
この宣言に、レッドライオットは改めて喜びの声を上げたのだった。
さらっとぶち込まれる主人公の出生の秘密。
それがどうなったら原作に進むのかというと、
フォースの均衡がおかしいやんけ!早いとこ対処せんとあかんな!(主人公転生)
↓
主人公に個性が発現するも、ソフトクリームを増幅しすぎて餓死
↓
アカン、用意してたやつ死んでもうた・・・しゃーない、ワイが直接やったるで
↓
銀鍵騎士団関係者、様々な形で短期間に一斉に死ぬ
↓
これできれいさっぱりまっさらになったな! ヨシ!
↓
原作時空
こんな感じ。運命の分岐点はソフトクリーム。
ちなみに、アナキン・スカイウォーカーがミディ=クロリアンによる処女懐胎で生まれた存在、というのはスターウォーズの公式設定です。
もう一つちなむと、シリーズの元凶であるダース・シディアスの師匠、ダース・プレイガスは人工的にミディ=クロリアンに働きかけて生命を創造することができたらしいという設定があり・・・。
ええ、夢が膨らみますね! 暗黒面の力は素晴らしいぞ!
この設定を知ったときから、スターウォーズの設定使って百合を書きたいと思ってたんですよね・・・ええ・・・(その目は澄み切っていた
せっかくある設定なので、皆さんも書こう!