銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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4.病院にて

 まず腰に、中核となる制御装置を巻きつける。

 見た目は少し大きめのベルト、といったものだ。防護のためのカバーもあるので、実際ベルトと言っても差し支えはない。

 

 次いで、脚部に実際に動きを補佐するためのパワードスーツを装着していく。

 下半身を覆う……しかし肌を完全には隠さない形状は、通気性も考慮したものだ。

 

 なおデザインそのものは見た目は()のコスチュームに近しい見た目をしており、()のファングッズと思うものもいるかもしれない。

 

 最後にスーツの先端部を制御装置に接続し、起動を入力すれば正真正銘完了だ。

 いくつかの電子音が響き、かすかな駆動音と共に制御装置からスーツ部分に向けて光の筋が走る。光はスーツの表面をなでるように順繰りに走り、最後は制御装置に戻る。

 

《システムオールグリーン。起動完了》

 

 そしてそんなアナウンスと共に、私は()に向かって大きく頷いて見せた。

 応じて頷いた()は、恐る恐るといった様子で椅子から立ち上がる。

 

 そう、立ち上がるのである。入院してからおよそ二ヶ月、立ち上がるどころか下半身を動かすことすらできなかったはずの彼――インゲニウムが、今、再び立ち上がった。

 

「た……立てた……」

 

 どこか呆然とした声で、インゲニウムがつぶやく。その視線は真下、己の下半身に向けられて釘付けだ。

 

 だが、これで終わりではない。そんな中途半端なものを造った覚えはないのだ。

 

「歩いてみてください。特別なことはいりません。ただ、怪我をする前のように」

「あ、ああ……やってみる……!」

 

 私の呼びかけに応じて、彼はごくりと生唾を飲んだ。

 私の後ろでは、既に喜びですすり泣く音がする。

 

 そして、誰もが固唾を飲んで見守る中、彼は。

 

「あ……ああ……! 歩ける……! 歩けるぞ!」

 

 スムーズに歩いて、泣いた。そしてそのまま、涙をぬぐうこともせず室内を歩き始める。

 

「兄さん……!!」

「ああ! 歩ける! 兄ちゃん歩けるぞ、天哉!」

「兄さん!!」

 

 さらに彼は、インゲニウムは。

 

 小走りになって弟に近づき。

 

 弟もまた、走るように兄に近づきがしりと抱擁を交わした。

 

 ターボヒーロー・インゲニウム、復活の第一歩であった。

 

***

 

 期末試験明けの日曜日。私たちは父上に連れられて再び保須の総合病院を訪れていた。

 そう、インゲニウム用のパワードスーツが完成したので、その試着のためだ。

 

 とはいえ試着なのでまだ完成ではなく、ここから実際の使用感などから細かい調整を施して調整を繰り返す必要がある。運が良ければその回数も減るが、こういう直接肌に接触する装備というものは、得てして一発で完全にフィットするものではない。

 

 と、いうわけで、私は兄弟揃って病院内をリハビリで歩くインゲニウムに続いていた。

 もちろんデータ収集と、不具合がないかの確認である。大体のところはS-14Oのサポートユニットがやってくれるので、私は調整の実作業を行っている。

 

 病院を上から下まで、ゆっくりとだがしっかりと回るインゲニウム。すれ違いざまに多くの人から驚かれ、祝福されるその姿からは、彼の人気のほどがうかがえる。

 

 そんな彼に付き添い少しずつ、何度も調整を重ねていく。その内容はシステム面もあれば、細かいパーツ同士のかみ合わせもあったりと多岐に渡る。中には見た目だけでなく、インゲニウムの体感でもほとんど差のないものもあったりするが。

 ともあれ回数を重ねるごとに、少しずつインゲニウムの動きが滑らかになっていっている。いい調子だ。

 

 このあとは中庭に出て、走っても問題がないかどうかを確認する予定だ。しかし見ている感じでは、走っても問題はない仕上がりになってきているように思える。

 

 いずれにせよ、インゲニウムは復活に向けて、順調に歩き始めたと言っていいだろう。

 

 ちなみに予定より試着までに時間がかかった点については、製作が遅れたのではなく、父上との日程がなかなか折り合わなかったためである。いかんせん父上名義で行っている作業なので、彼がいないと作業ができないのだ。資格を持たない身の上が恨めしい。

 今日は友引なのでどうにか都合がついたものの、それでも使える時間は午後の数時間だけだ。可及的速やかに何とかしたい。

 

 実は今日はクラスメイトたちに、林間合宿用の買い物に遊びに行こうと誘われていたのだが。インゲニウムのほうが先に予定に入っていたから、イイダも交え三人で泣く泣く諦めた経緯がある。行きたかったなぁ。

 今頃は、木椰区のショッピングモールでわいわいと賑わっていることだろう。あるいは早めに終わることができたら、合流できるだろうか。

 まあ、だからといって手を抜くことはしないが。

 

 そんなことを考えながら、まるで子供のようにはしゃぎながらも甲斐甲斐しく兄を世話するという、妙に器用なことをするイイダを後ろから眺めていた私であるが。

 

「こうして見てると、すごいです」

 

 それを一緒に見ていたヒミコが、感心したように言った。

 

 ちなみに父上は、インゲニウムの両親と話し込んでいてここにはいない。

 

「コトちゃんはいつもすごいってわかってますけど。でも、あんなアイテム造れちゃうんだから、ホントすんごいのです」

「……まあ、な。これだけは唯一アナキンにも並べるとは思っているよ」

 

 勝てる、とは言えないのが凡人の悲しいところではあるが。

 

「んー……」

 

 だが、ヒミコは納得していないようで、少しむくれた顔で私を覗き込んできた。

 

「……たまに思うんですけど、コトちゃんちょっと自分を低く見すぎじゃなあい?」

「客観的な事実だと思うがなぁ」

「そりゃ、ししょーと比べたらそうかもですけど……」

 

 ぷくりと頬を膨らませて、ヒミコが言う。かわいい。

 

 だがまあ、彼女の言いたいこともわからないではない。好いた相手がたびたび己を卑下していれば、思うところはあるだろう。

 

「……私、夢でたまーにコトちゃんの前世をコトちゃん視点で見ますけど。私にはそんなにすごい人ばっかりには思えないけどなぁ」

「どの時点の過去視をしているのかわからないが、ジェダイはそもそも能力をひけらかしたりしないからな。そう思っても無理はないよ」

「ますたぁさんは確かにすごそうな人でしたけどねぇ」

「ああ……マスター・ヤドルはすごいお方だよ」

 

 前世の私のマスター、ヤドルは女性のジェダイマスターだ。かのグランドマスター・ヨーダと同じ種族の方であり、かの方同様フォースの高い素養を持ち、深い見識と常なる向上心を持った立派なお方であった。一時期は、ジェダイ最高評議会のメンバーでもあったな。

 アナキンがジェダイに迎えられたあとに最高評議会からは降りたが、それに前後して私は彼女のパダワンとなった。その後の歴史を考えれば、私は彼女の最後の弟子ということになるのだろう。

 

 また、最高評議会を辞めても書籍や芸術品の収集、管理、研究を行うライブラリアン議会の議長は続けていた。私がこういう性格の人間として完成し、ナイト昇格後にジェダイアーカイブに配属されたのは、間違いなくマスターの影響もあっただろう。

 

 そんな方であったので、自然とマスターの周りは誰かしら人がいた。賢者は賢者を知るもので、そういう人はやはり優れた方が多かったなぁ。勉強になったものだ。懐かしい。

 

「……それってやっぱり、周りがすごすぎたってことなんじゃ?」

「んん……それは……確かに否定はできないかもしれない」

 

 マスターは同種族だったからか、グランドマスター・ヨーダとも親しかったからなぁ……。

 

「コトちゃん。ふつーね、前世があるって言っても、十歳の女の子がプロに勝ったりしないと思います」

「そうかなぁ」

 

 できそうな気がするけれどなぁ。あれは組手で、相手も全力ではなかったし。

 

「……はぁ」

 

 そう思ったら、ため息をつかれてしまった。ダメだこれはという顔をしている。

 

「……ま、いっか。私はコトちゃんが他から悪く言われないなら、それで」

 

 ただ、こうやってすぐに割り切れるのは彼女のいいところなのだろうな。

 

 ……というか、ふと思ったのだが。

 

「……今更なのだが、君はいいのか? 私が実は、合計したら君の倍以上の年齢に当たるという点については」

「? なんで?」

「いや、なんでって……年齢差とか、あるだろう?」

「えぇ? なんだっていいと思いますけど」

「……そうか?」

「うん。だって、愛に年齢なんて関係ないでしょ?」

「……まあ。うん……」

 

 言われてみれば確かに、私に恋慕する彼女も世間的には問題だった。十六歳が十歳に手を出すのは、この国では犯罪だ。

 それを考えれば、彼女が年齢差など気にするはずもなかったか。私が愚かであった。

 

 私の過去を私の視点で見ているなら、私の元の性別は知らないだろうが……私が元男だと暴露しても何事もないのだろうなぁ。

 

「私、もしも記憶がなくなっても……そのときコトちゃんがどんな歳でも、どんな姿でも、会ったら何回だって好きになるもん。だから、年齢なんて関係ないのです」

「ぅ……う、ん……あ、ありがとう……」

 

 い、いきなりそんなことを言わないでくれ。胸が苦しくなるじゃないか。

 ……うう、それに、なんだ。この病院、空調が壊れているのでは?

 

「……それに、コトちゃんて結構子供っぽいとこあるよ? クラスのみんなも別に歳のこと疑ってないし……だから、あんまり歳上って感じはしないかなぁ」

「バカな」

 

 それはちょっと信じがたいぞ。

 

 いや、嘘だよな? 私、そんなに子どものようなことをしているか?

 

 ちょ、ちょっと待て。待ってくれヒミコ。

 

「ヒミコ? 嘘だよな? からかっているんだろう? な?」

「ふふ。どーですかねー? んふふふふー」

「嘘だと言ってくれ!」

 

 言ってくれなかった。

 

***

 

 まあそんなトラブルもあったが、ともかく。

 

 全力で取り組んだこともあってかなんとかギリギリ時間内に収まったので、パワードスーツの調整は無事完了。装着したまま預けることになった。

 今後はしばらく使ってもらって、経過観察を行う予定だ。S-14Oのサポートユニットも一つ、諸々の備えとして置いていく。

 

 最後は細かい使い方や注意点などをしたためた書類を渡し、何かあったときのための連絡先も交換する。まあ、何も起きないとは思うが念のためだ。

 

 次はいよいよ、ヒーロー活動用のスーツを作ることになる。ただ、こちらはコスチュームとの兼ね合いもある。

 このままだと父上のスケジュールを圧迫してしまうし、いちいち人の諸々の手続きに仲介が必要になる点が煩わしいので、私はサポートアイテムとコスチュームに関する資格の取得を決意した。今度の合宿のとき、イレイザーヘッドに相談しようと思う。

 

「では本日はこの辺りで失礼いたします」

「ありがとう。何度でも言わせてほしい。ありがとう!」

「どういたしまして。……あなたの復帰を、私も待っています。どうかご無理はなさらず」

「ああ! 君たちが仮免許を取るまでには何とかしてみせるよ!」

「弟君共々、その日を楽しみにしております」

 

 そうして私はインゲニウムと握手を交わし、何度目かわからない号泣中のイイダとも別れて病院を後にしたのだった。

 

 まあそんな感慨深い別れも、クラスみんなで買い物に行っていたミドリヤがシガラキ・トムラと遭遇したという話で吹き飛んだのだが。

 

 なんというか、彼はあまりにも運がなさすぎるのでは? 行く先々で事件に巻き込まれている気がする。

 それとも、何か特殊な”個性”でヴィラン連合にマークされているのだろうか。

 

 ……しかしいずれにせよ、誰も被害が出なかったことは不幸中の幸いと喜んでおくべきなのだろう。

 

 今後、何もなければいいのだが……あるのだろうなぁ。この国では、二度あることは三度あるとも言う。フォースがなくとも予言できるぞ、これは。

 




ヤドルはスターウォーズのEP1で最高評議会のメンバーとして登場する、ヨーダと同種の人物です。
本作で提示された彼女の設定はレジェンズに準拠しています。

ちなみに主人公、アーカイブに配属になった理由をヤドル由来のあれこれの他に戦闘に適性がないから前線から遠ざけられた、と思っていますが、実際は本作EP4の幕間の後書きで書いたように、腹芸ができない子なので外交に適性がないと判断されたから。
実際の戦闘能力はそこまで低くはなかったのだけど、彼にとって同年代の比較サンプルがアナキンだったから・・・。

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