七月末。私たちA組女子一同は示し合わせて、同じ飛行機でI・アイランドへやってきた。
入国審査は滞りなく終わり、まずはホテルへチェックインするため空港を出る。
すると目に飛び込んできたのは、既に相当に賑わう島の光景。人々が楽しそうに行き交う様子は、少し前にヒミコと行った遊園地を思わせる。
そんな光景に、年若い一同が釣られるように顔を輝かせるのも当然と言えよう。
右を見ても左を見ても実に盛況で、プレオープンでこれなら明日以降一般公開が始まったらどうなるのかと思ってしまうな。
と、私だけが特別大きなキャリーケースを引きずっての移動中にて。
「いやー……それにしても」
「すーっごい意外だよねぇ」
「うん、ほんと意外やった」
「確かにね」
「ですわねぇ」
「ケロ」
『まさか増栄(理波)ちゃん(さん)が飛行機が苦手だったなんて』
私は周りからの視線に耐えかねて、顔を逸らした。向けた先では、ヒミコが楽しそうに笑っていた。
だが笑いごとではない。揚力のみで飛行するなんて不安定な方法を、よく実行に移せたな地球人。推進装置が浮揚装置を兼ねているんだぞ? 何か起きたらどうするんだ。
実際、バードストライクのような事故は起こるときは起こっている。調べた限りでは、原因がはっきりわかっていない事故すらあった。元銀河共和国人として言わせてもらうが、正気の沙汰ではない。
おかげで飛行機の中では終始緊張しっぱなしであった。別に怯えて固まっていたとか、誰かにすがりついていたということはないが、いつ何が起きてもいいように気を張っていたので、とても疲れた。
一度疲れから眠ってしまったときは、目覚めた直後にとても焦った。ヒミコに抱きすくめられて落ち着いたが、あれは本当に心臓に悪かった。
前世と違って今の私は身一つで飛べるので、何が起きても私一人なら助かることは難しくない。それは事実である。
だが飛行機には大勢の人が乗っていたし、何よりヒミコやクラスのみながいる。彼女たちを置いて一人だけ助かろうなどとは一切思わない。
義務感や使命感からそう考えるのではない。仮に私がヒーローやジェダイでないにしても、彼女たちに何かあれば私は動くだろう。それくらい、彼女たちに対する愛着は既に持ち合わせているのだから。
しかしこれは、早急にリパルサークラフトを開発しなければなるまい。最近あまり手をつけられていないので、I・アイランドから帰ったら少し集中的に取り掛かりたいところだ。
「りぱるさーくらふと?」
「反重力装置を組み込んだ乗り物のことだ。かくなる上は何が何でも実現して見せる」
「SFだ!」
「マジ? そんなのまで造れるわけ?」
「君たち、信じていないようだが、笑っていられるのは今のうちだからな!」
今のこの星の技術レベルからして、確かにリパルサークラフトはフィクションの中のものに思えるかもしれないが。私はそれが存在する星から来たんだ。必ず実現可能だということを知っている。
そして造れるだけの技術力があると自負している。ならばできないはずはないのだ。
「ふふ、実現したらぜひとも教えていただきたいですわ」
「……まあ、そうだな。完成したら、まずは君たちにお見せしよう」
「楽しみにしてるー!」
「そうね、ぜひ乗せてもらいたいわ」
「そのときは自慢できちゃうね。反重力装置を使った乗り物に、地球で最初に乗ったんやーって」
「言われてみれば確かに!」
「いや、製作の過程で何度も私が試乗するだろうから、その称号は君たちには贈れないと思うが」
「それはそれ、これはこれ!」
そんな話で盛り上がる一同であった。
さて、そんなこんなでホテルである。泊まる場所は全員でひとまとめで同じホテル、同じ部屋だ。
しかし案内された部屋はいわゆるスイートルームで、とんでもなく広く、豪華な代物であった。ロビーでもそうだったが、ウララカなどは卒倒しかけていた。
ちなみに部屋は、八人でこの大きな部屋一つを取っている。ただし、その部屋はさらに細分化されており、さながら集合住宅の一室のよう。
寝室はその中に複数設置されており、二人一組で一部屋ずつという形になった。一部屋余ったのは文字通りの余談である。
私はもちろん、ヒミコと同じ部屋だ。高級な部屋ゆえに防音はしっかりしているようだが、念のため今夜は声を出さないようにしないとなぁ。
あとは、それぞれの部屋を結ぶ形で共同スペースがある。こちらには豪華すぎるソファと大きなテレビがどんと置かれており、他にも何やら色んなものがあった。
全員であれやこれやと話題の種にしてそれなりに楽しく盛り上がったが、最終的な結論は「私たちの手には余る」だ。ヤオヨロズなら十全に扱える……と言いたいが、酒関係は全員がご法度なので。
たぶん、この部屋で利用できるサービスの何割かは使用されないまま、滞在期間が過ぎるだろう。
……という有様だが、実は全員でまとまって同じホテル同じ部屋、しかもスイートルームに泊まるのには理由がある。
というのも、このホテルは招待したI・アイランド側が手配してくれたのだが、アイランド側がよほど父上を呼びたかったのか、提示された場所がこのスイートルームだったのだ。
たった二人だけでそのような豪華極まる部屋に泊まるなど、私にしてみれば言語道断である。元より贅沢を否とするジェダイだ。そんな無駄遣いはやめてくれと伝えたのだが……そこは先方も意地なのかプライドなのか、ともかく使うだけでもいいからと頑として譲らなかった。
だがちょうどクラスの女子一同で一緒に行くことになったので、ならばと思い連絡したら即座に許可が出た。で、こうなったというわけである。
「皆さん、お着替えは終わりましたか?」
荷物を置き、着替えを済ませ、部屋で一番豪華な共同スペースに向かえば、そこには既に全員が勢揃いしていた。私やヒミコも含め、全員がヒーローコスチュームのフル装備である。
本来なら、まだ免許を持たない私たちはこれを公共の場では着用できない。だが、I・アイランド内では生徒であってもコスチュームの着用が可能となっている。
つまり、コスチュームが使える機会である。そして、使えるなら使いたいと思うのが人情というものだろう。
……と、いうことに気付けるようになった辺り、私も少しは人の感情に詳しくなってきたのではないだろうか。
もちろん、私もコスチュームは使いたい。ジェダイ衣装を纏えるなら纏っておきたいのだ。なぜなら私はジェダイだからだ(最近かなり怪しいが)。
ということで、私たちは学校からの許可をもらって各自持参してきたというわけである。
「オッケー!」
「だよ!」
「ん、バッチリ!」
「こっちもOK!」
「私もよ」
「トガも行けますよぉ」
「右に同じく」
「では、エキスポに参りましょう!」
『おー!』
かくして私たちは、意気揚々と博覧会の会場へと繰り出した。
***
I・エキスポの展示内容は、大雑把に「映像展示」「作品展示」「参加型アトラクション」「土産ものの物販」四つに分けることができるようだ。
それらには一貫して「“個性”由来の技術や、それを利用した作品、道具」が関わっており、I・アイランドという場所の存在意義がいかんなく発揮されている。
また招待客の中には各国のプロヒーローも混ざっており、彼らとの交流も展示とは別の目玉として機能しているように見える。
彼らはみな一様にコスチュームを身に着けているので、目立つ。私でもとりあえず、見た目でどこかのヒーローかなと察することはできた。
ただ私はヒーローに詳しくないので、見かけた人物がどういう人物であるのか、どこの国の出身であるのか、といったことはまったくわからない。
「デクくんがいたらきっと全員解説してくれるんやろなぁ」
とはウララカの弁だが、同感である。彼はヒーローについては文字通りの生き字引だ。まあ、途中でとまらなくなる欠点もあるが。
ともあれ、展示である。まずI・アイランドの歴史や成り立ちについて紹介する映像展示を皮切りに、私たちは興味を抱いた展示に足を向ける。団体行動をしているので、ものによっては誰かが興味が薄いものもあったが……そこは譲り合いの精神だ。
それと参加型アトラクションは、大体のものが能動的に参加者が行動できるものがほとんどだったので、遊園地のアトラクションより楽しめた。
こういうものばかりなら、私も進んで遊園地に行こうと思えるのだが。文字通りヒミコと一緒に遊べるわけだし。はしゃいで何度も変身するヒミコはかわいかった。
ただ、これは“個性”の自由使用が認められているI・アイランドだからこそなのだろうな。
途中、親の代理で来たというイイダやトドロキとも合流し、総勢十人となった私たちは、次は最新ヒーローアイテムのパビリオンへ向かった。
事前に招待状と共に配布されていたパンフレットによると、ここに置かれたアイテムのほとんどは、かのノーベル個性賞を獲得したデヴィット・シールド博士の研究が何かしらの形でかかわっているらしい。実に興味深い。
その分人の入りも相当なものがあったが、かといって延々と行列ができているほどではなく。比較的スムーズに入ることができた。プレオープン招待、様様といったところか。
そうしてパビリオン内を順繰りに進んでいたときである。
「あれ? 緑谷の声が聞こえる」
ジローが首を傾げながらつぶやいた。
「緑谷くんのところにも招待が行っていたのか?」
「そういった話は聞いていないが」
ジローに応じたイイダに応じる私。トドロキも同意したが、あるいはと言葉を継ぎ足した。
「親戚に関係者でもいたんじゃねぇか」
「その可能性はありそうね」
が、この際彼がここにいる理由については問題ではないだろう。重要なのは、彼がここにいる、その一点だけだ。
「まーそれは置いとこうよ!」
「うん。デクくんも来てるなら、せっかくだしデクくんも誘ってみようよ」
「あら、でもご家族といらしていたとしたら、迷惑になりません?」
ヤオヨロズが遠慮がちに言う。
彼女の言葉にそれもそうだ、となるが、ここでヒミコが手を上げて提案した。
「じゃあ、まず響香ちゃんに調べてもらいましょーよ! 音で!」
「おっ、トガちゃんナイスアイデア!」
「えへへ、でしょー?」
「まあ……そういうことなら、やらせてもらいますかね……っと」
ということで、ジローはその場にしゃがんで耳たぶから垂れているイヤホンジャックを床に挿す。
彼女が聞き取りやすいよう、私たちは黙って結果を待つ。
そうすることおよそ一分。ジローが、「んん?」と首を傾げた。彼女の様子に、私たちも首を傾げる。
「耳郎さん、どうかなさいまして?」
「あの……さ、緑谷って兄弟いたっけ?」
「? 緑谷くんは一人っ子だったはずだが」
「ああ。俺もそう聞いてる」
「だよね。……じゃあ誰だろ、これ」
「?」
やけに歯切れの悪いジローに、再び首を傾げる私たち。
「いやさ……緑谷、若い女の人と二人っきりっぽいんだよね」
『ええ!?』
そうして告げられた言葉には全員が驚いた。
いよいよ映画「二人の英雄」編突入。
前半はまあそんなに変えようがないのでアレですが、後半は原作と比べてもわりと異なる展開になる予定です。
ちなみに四連休中に挿絵を描くとしたら、プールで浮き輪抱えてるところか飛行機でド緊張してるところか、どっちにしようかと悩んだのはここだけの話。
そうそう、ちなみついででもう一つちなむのですがね。
本編は主人公の一人称なので、本当に飛行機に怯えてなかったか、本当にトガちゃんにすがりついてなかったかは、読者の皆さん各自の判断に委ねられるものとします。
一人称はキャラクターの認識と実際が必ずしも一致しないため、想像の予知があるところが醍醐味ですよね・・・(仏イックスマイル