銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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9.レスキュー・オーダー 1

 ヴィランがいる。その可能性を、ミドリヤからオールマイトに伝えてもらった。

 オールマイトは不審者がいないか警戒すると共に、ヒーローに会う機会があればそれとなく警戒を促すことを請け負ってくれた。

 

 また、ちょうどシールド博士と話し込んでいたところだったそうで、その彼にも話を通してくれた。

 任されたシールド博士は、セキュリティを見直したうえで強化するよう進言してくれるらしい。シールド博士は世界的な”個性”研究の権威だ。I・アイランド側も、そんな彼からの具申であれば無視することはないだろう。これで一安心だ。

 

 ……と、言いたかったのだが。

 

 レセプションパーティに備えて正装に着替えるため、ホテルに一旦戻った私はずっと嫌な予感を覚えていた。

 ……いや、違うな。ずっと、ではない。だんだん大きくなる嫌な予感を覚えていた、が正しい。

 

 最初はまだ、大したことはなかったのだ。だからみなには告げず、着替え始めた。

 しかしその途中、折れ線グラフが直滑降するような勢いで一気に周囲の気配が暗黒面に寄って、嫌な予感が大きくなるのだ。しかもそれが複数回起これば、疑いようもない。

 

 フォースユーザーがいるような雰囲気はないが……それでも、悪意が広がっている。そんな気がしてならないのだ。

 

 だから。

 

「……すまない、ヒミコ。私はこのまま行く」

 

 私は着替えないことを選んだ。

 

 この選択に、先に着替えを終えたヒミコが心底がっかりした様子で肩を落とす。

 その手には、私用のドレスがあった。プールに行った翌日みなでヤオヨロズ邸に集まり、散々に試着を繰り返して選び、貸してもらったものだ。

 

 服飾にはまったくと言っていいほど詳しくないのでなんとも言えないのだが、少なくともヒミコを始め全員から好評をいただいたドレスだ。私も鏡に映る自分を見て、なかなかいいなと思った。

 だからたくさん試着して疲れはしたが、それ以上に結構楽しみにしていたのだが……残念ながらお蔵入りだ。

 

 ちなみに明日の催しで使えばいいだろう、という指摘については残念ながら的外れである。なぜなら、明日は明日で別のドレスが用意されているからだ。私たちはどちらも使いたいのである。

 

「ドレスのコトちゃん、見たかったのに……」

「普段こういう機会がないから、私も君に見てほしかったよ。……だが、万が一のことを考えると、それはできない」

 

 いまだにしょんぼりし続けるヒミコをなんとか励ますが……ダメらしい。

 

 どうしたら元気を取り戻してくれるだろうか……と困っていたら、彼女のほうが動いた。

 

 ヒミコは私の前で膝をつくと、視線を合わせる。そうして唇に己の人差し指を当てると、上目遣いで請うてきたのだ。

 

「……キス、してほしい……。それで、我慢するのです……」

 

 これに対して私は、なるほどと思った。

 

 確かに、かつてと異なり今の私はヒミコと口づけを交わしているとき……うまく言えなくて恐縮だが、そう、強いて言うならば、満たされるような気分になる。きっとヒミコもそうなのだろう。

 心を通わせた相手であれば、口づけも立派な励ましやご褒美になるのだな。一つ賢くなった。

 

 ……まあでも、この手のものは乱発しないほうがいいだろう。どんなことでも下手に何度も繰り返すと、価値は下がるものだ。口づけも例外ではないだろう。

 

 何はともあれ、ヒミコがお望みであれば、私に拒む理由などない。

 

 私はヒミコが唇に指を当てていたほうの手首をつかむと、そっと横にずらして彼女の顔を露にさせる。

 そのまま身を寄せつつ、空いているほうの手を彼女の頬に添えて。

 

 口づけを、

 

「ん……」

 

 交わした。

 

 最初は軽く、触れる程度に。

 次は少し深く。それを何度か繰り返す。口づけてはかすかに離れ、もう一度……と、さざ波のように。

 

 唇が触れるたびに、互いの喉奥からかすかに声が漏れる。そうこうしているうちに、口づけという波は大きくなっていくのだ。

 さながら振り子が次第次第に大きく振れていくように。音と音が重なって、ものを震わせるように。

 

 やがてそれは、明確に違う形を取る。もっと、という欲求と。それから離れたくない、という欲求と。

 ゆえに私たちは唇と唇を重ねて、その状態のままさらに互いの唇を求め始める。それこそ()()ように……。

 

 ……いや待て。これ以上はいけない。

 

「ス、トップ……ストップだ、ヒミコ……」

 

 理性に思い切り頭を殴られて、私はまだまだ、もっとと言わんばかりに唇を差し出すヒミコを押しのける。

 

 彼女と……その、こうして口づけを交わすことは嫌ではないが、これでは際限がない。この辺りでやめておかないと、きっと延々と続けてしまうだろう。

 

 そう、何事もほどほどが一番なのだ。

 何より、思わず没頭しかけてしまったが、今はあまり時間がないのだから。

 

 ヒミコもそれは理解しているので、名残惜しそうに口元をさすっていたが、これ以上は何も言わなかった。

 

 それでも目は、「物足りない」と雄弁に語っている。この国の言葉では、「目は口程に物を言う」と表現するのだったか。まさにその通りで、そんな私しか見ていない瞳に、愛しさがこみ上げてくる。

 

 ああ。私、彼女のことが好きなんだなぁ。

 

「……続きは全部終わってからにしよう。な?」

「……うん。……ふふふ」

 

 私の言葉に、ヒミコはにまりと笑って応じた。

 

 ……終わったあとの()()()()は、長くなりそうだ。手加減してくれるといいのだが、少々危いかもしれない。早まったか。

 

 と、まあそんなこともあったが、何はともあれ私はヒミコをコスチュームに着替えさせてから部屋を出た。

 泊まっている部屋からではなく、その中の寝室からである。そのため出た先は、スイートルームとしての共有スペースだ。

 

 備えを持ち込むため、大きなキャリーケースを引きずりながらヒミコと共にそこに顔を出せば、既に全員が着替え終わって待っていた。

 

「あれ? 二人とも、着替えてないじゃん」

 

 私たちを見て、ジローが首を傾げる。彼女に続く形で、他の面々も同じように首を傾げた。

 

「ああ……実は」

 

 そんな彼女たちに、事情を説明する。

 みな半信半疑ではあったが、私の感知能力を知っているため最終的には真剣な顔で考え込んでしまった。

 

「ヴィランがいる可能性、か……」

「嫌な予感、というのは漠然としすぎてるけど……でも」

「ケロ。理波ちゃんの言うことだもの。信ぴょう性は低くないわ」

「実績あるもんね……どうしよっか?」

 

 アシドに話を振られたヤオヨロズは、今まで黙っていたが……毅然とした顔を上げて私たちを見渡した。

 

「万が一にでも可能性があるのなら、私は備えるべきだと考えますわ。一応、ヒーローコスチュームはドレスコード上、正装として認識されますので問題はないはずです」

「……だよねー! ちえー、せっかく着たのになー」

「……ウチとしては、こういうの似合うと思ってないし、ちょっとラッキーかもなんて思ったりもして……」

「わ、私も……こういうの初めて着るし、ちょっと自信なかった」

 

 ジローとウララカは控えめだな。十分すぎるほどに似合っていると思うが。

 

 まあ、そういう励ましは私ではなく、ヒミコがするほうが響くだろう。

 

「二人ともすっごくカァイイですよぉ」

「そ、そーかなー?」

「……アンタらほどじゃないし」

 

 ほら、二人ともまんざらではなさそうだ。

 

 まあそちらについてはともかく、だ。

 

「いいのか? 今から着替えなおすとなると、パーティに遅れてしまうが」

「遅れるとは言っても、開始の十数分ほどですわ。コスチュームなら全力で走っても大丈夫ですから、道中の移動は短縮も可能かと」

「そうね。飯田ちゃんには遅れる旨を伝えて、先に入っていてもらいましょう」

 

 そう言う二人にそれもそうかと頷いた私の横で、アシドが一人で復活する。

 

「……ま、見方を変えればヒーローとしてのカッコを、大々的にアピールできるチャンスかも?」

「あ、確かに! よっしゃ、そーいうことならいっちょ女を見せたろ!」

 

 ハガクレもそれに続き、かくして意見は統一された。

 

「なら、私たちは着替えを手伝おう」

 

 そして――事件は始まる。

 

***

 

「なんで揃いも揃ってコスチュームなんだよ!」

「そこはドレスだろうがよぉ!」

 

 とは、合流直後のカミナリとミネタ(彼らにはシールド女史が恩情でパーティの招待状を渡していたのだ)の発言である。

 

 まあ彼らの憤慨については無視するとして……私の懸念通りに問題は発生してしまった。

 

 私たちが律儀に待っていた男性陣、およびシールド女史と合流した直後のことだ。I・アイランドは前触れなく厳重警戒モードに移行したのである。

 これによりアイランド内の各エリアはそれぞれに遮断され、警備マシンが大量に放出されることになる。不用意に出歩いたものは、これによって即座に拘束されるわけだ。

 

 またエリアだけでなく主要施設も隔壁によって封鎖され、出入りすらも覚束なくなった。こちらも仮に不用意に外に出れば、拘束される運びとなるだろう。

 

 もちろん、通信も封じられた。外部との連絡は取れない。それは今私たちがいるセントラルタワーも例外ではない。

 

 さらに言えば、このアイランドに敷かれているセキュリティは、重度な上に社会的影響が大きい犯罪者を収容するタルタロスと同レベルのもの。これらの状況はまだ序の口だろう。現状ではここで一旦とまっているが、その気になればいくらでも悪辣に追い詰めることができるはずだ。

 

「メリッサさん、どうにかしてパーティ会場まで行けませんか?」

 

 そんな中、私から話を聞いていたために、男性陣では一人コスチュームのまま来ていたミドリヤが声を上げた。

 会場にオールマイトがいるはずだから、という彼に応じてシールド女史が案内をするということで、私たちはひとまず会場へ向かう。

 

 タワーの内部はあちこちが封鎖されている上、エレベーターなども停止している。なので普通であれば移動は不可能だが……そこは関係者。シールド女史が非常階段を提示し、そこから案内してくれた。幸い妨げられることなく移動はかなった。

 

 私たちがそうして踏み込んだのは、会場の天井付近のスペース。恐らくはスポットライトのような、演出用の装置を配置する場所だ。

 そこから会場を見下ろせば……銃器によって武装し、顔を隠した二十人ほどの男たちの姿が。そして彼らによって人質と化したパーティ参加者と……拘束されたヒーローたちの姿も見える。

 

 ヴィランたちの中心には、鉄仮面をかぶった赤髪の男。彼は耳に手を当てて、何やらぼそぼそと口を動かしている。どこかに指示を飛ばしているようだな。となれば、あれが首魁か。

 

 私はそれよりも会場内の様子に違和感を覚えたが……ひとまず、やるべきことを先に済ませよう。

 

「では始める。ジロー」

「ん、いつでもいいよ」

 

 私のフォースによって声を届け、ジローのイヤホンジャックで声を拾うのだ。

 

『マスター・オールマイト。今、フォースによってあなたに声を届けています。傍らにはジローが控えています。小声で構いません、応答を願います』

 

 返事はすぐに来た。

 

「ヴィランがタワーを占拠した。警備システムを掌握している。今やこの島の人々全員が人質だ。ヒーローたちも捕らわれた。ここは危険だ、すぐに逃げなさい」

 

 内容は端的で、こんなものであった。

 

 その内容に、やはり私は違和感を抱く。だが、引き出せる情報は引き出す必要があるだろう。

 

 その後、いくつかのやり取りを経た私たちは、情報の共有のため一旦会場から非常階段に引っ込んだのであった。

 




事件開始・・・なのですが、この9話は以前EP4の16話の後書きで書いた通り、百合の日に書いてたので、キスシーンが入りました。それも結構濃いやつ。
まあ初期稿だと気合いが入りすぎて、キス通り越して行為に及ぶ直前まで行ったので、書き直したんですけどね。

ところで、ディープキスってR15の範疇ってことでいいですよね?(掛かり気味

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