銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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10.レスキュー・オーダー 2

「俺は雄英高教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」

「飯田さんの意見に同意しますわ」

「私も同じくよ」

 

 状況を聞いたイイダとヤオヨロズ、そしてツユちゃんが即座に脱出を提案する。

 

 だが、それは不可能だ。

 

「無理だ。ここの警備システムはタルタロスと同レベルだぞ」

 

 正確に言うと、私だけなら恐らく可能だ。ヒミコも……恐らくできなくはないだろう。

 しかし、私たち二人だけが脱出しても意味がない。

 

「そうね。下手に外に出たら、その瞬間警備マシンが殺到してくるわ。そもそも物理的に封鎖されているから、普通の手段じゃタワーの外に出るだけでも難しいと思う」

 

 私とシールド女史の否定に、脱出を提案した三人は表情を悪くした。

 

「うげ、マジ?」

「じゃあ救けが来るまで大人しく待つしか……」

 

 さらに、ミネタとカミナリがどこか怯えを含む顔でこぼす。

 

 だがそんな二人を、ジローが叱咤した。

 

「それでいいわけ?」

「そーだぞ二人とも!」

「うん! 救けに行こうよ! どうせ逃げられないんだしさ!」

 

 彼女にアシドとハガクレも続く。ウララカも無言ながら何度も頷いている。

 

 が、ミネタが現実的な観点からこれを否定した。

 

「オールマイトまで捕まってんだぞ!? オイラたちだけで救けに行くなんて無理すぎだっての!」

 

 確かに、彼の言い分はある意味で正しいだろう。だが、オールマイトという安全神話に依存した考えでもあるだろう。

 

 何より、

 

「俺たちはヒーローを目指してる……何もしないでいいのか?」

 

 そういうことだ。トドロキが前を向く。カミナリとミネタは、彼に気圧されたように小さくうめいた。

 

 イイダたちはこれを否定しなかったが、顔はそれでもやめるべきだと言っている。しかし、内心はその限りではない。ヤオヨロズとツユちゃんも同様だ。

 

 ……ふむ、トドロキの言葉に同意的であるのは、ミドリヤをはじめアシド、ウララカ、ハガクレ、ジロー。この六人が主戦派と言ったところか。

 

 対して非戦派はイイダ、ヤオヨロズ、ツユちゃん、カミナリ、ミネタの五人。

 ただし前半の三人の意見は「ヒーロー免許を持たない自分たちが勝手に動くわけにはいかない」という社会規範によるものであり、心境としては戦闘も辞さない覚悟があった。

 

 一方、シールド女史は推移を見守っている。そして私はと言えば……。

 

「私はミドリヤたちに同意する。この状況、動けるものは私たちだけであり、また解決できるものも私たちだけだ」

 

 ということになる。

 

 そして、非戦派たちの懸念に対しても考えがある。

 

「資格云々については、オールマイトから許可をもらえばいい。私のテレパシーで詳細を話し、ジローが受け取る。その流れでな」

 

 この発言に、ミドリヤがどこか嬉しそうに顔をほころばせた。他の面々も、その手があったかと言わんばかりの顔をする。

 それは非戦派の面々もおおむね同様で、つまりヤオヨロズたちも進むか立ち止まるかしか選択肢がないのであれば、進むことに否はないのだろう。

 

「なので問題はそこではない」

「? というと?」

「正攻法では、どう動いても間違いなく敵に見つかり戦闘になる……ということだ」

 

 きょとんとした顔で問うてきたミドリヤにそう言ったところ、ほぼ全員が表情を硬くした。

 その状態から、ミドリヤが最初に抜け出しブツブツとつぶやき始める。

 

「……そうか、セキュリティは完全に掌握されてるんだ。それはつまり監視カメラとかセンサーも使い放題ってことで……隔壁とかそこら辺も自由に動かせるだろうから移動ルートを固定させて誘導させたりとかもできるな……そうすれば罠にだってかけ放題だぞ……」

「緑谷ちゃん、怖いわ。言ってることには全面的に同意するけれど」

 

 そういうことである。

 

 ただ、システムを完全に掌握されたのであれば、今私たちがこうしていることさえできないはず。にもかかわらず何も動きがない、という点は気になるところだ。

 もちろん、ここでそれを考えたところでただ推測を重ねることしかできないから、いずれ失敗を恐れず動く必要があるが。

 

 ともあれ私はツユちゃんに頷きつつ、他の面々に視線を順繰りに回した。

 

「ミドリヤの言う通りだ。ゆえに、正攻法で行くなら見つかることを前提にして作戦を立てる必要がある。他にも問題はあるが、何よりこれが一番大きな問題だろう」

 

 まあ、敵の行動がやけにちぐはぐだとか、ほぼ間違いなく内通者がいるとか、そういう問題もあるのだが。これは今気にすることではない。それらの問題についても、推測を重ねたところで結局やることは変わらないのだから。

 

「まず目的を設定しよう。私たちが最終的に達成すべき大目標。これはヒーローおよび人質を解放することでいいだろう。そうすれば、あとはプロの仕事だ」

 

 私の言葉に、全員の視線が集まる。視線で是非を問うが、否定は出なかったので話を続ける。

 

「大目標を達成するための中目標は、警備システムの奪還だ。シールド女史、Iアイランドのシステム制御はどこで?」

「このセントラルタワーの最上階にある管制室で行っているわ」

「なるほど。つまり中目標を達成するためには、このタワーの最上階に行く必要があるわけだ。ならば小目標。最初の問題提起に戻るな。気づかれずに最上階に行くためにはどうすればいいか?」

 

 この問いかけに、まずミドリヤが口火を切った。

 

「……二手に分かれよう。最上階へ向かいシステムを奪還する側と、パーティ会場の状況を適宜確認して動きがあれば知らせる側に」

「いや、最低でも三手だ。目的達成のために動いているものたちをどうにかする……最低限行動を遅延させる必要がある」

 

 その彼に、私は否を告げる。改めて全員の視線がこちらに向いた。

 中でも首を傾げたものたちを代表するように、アシドが口を開く。

 

「どーいうこと?」

「会場から連れ出された人間がいるとオールマイトが言っていた。目的は不明だが、これは目的もなしにする行為ではないだろう。そもそもの話、警備システムを掌握し、人質まで取ったヴィランが何もせずに突っ立っているはずがない」

「……なるほどな。その目的を達成されちまったら、ヴィラン側に人質を置いておく理由がなくなるから……」

「最悪の場合、大量の死傷者が出てしまいかねない、ということか……!」

 

 トドロキとイイダの言葉に、私は首肯で応じた。

 

 ……まあ、その人質の中に含まれているヒーローを、ヴィラン側が()()しようという気配がない点は非常に奇妙なのだが。

 

 何せ人質というものは、特定の人物を狙ったものでない限り一人いるだけでも機能する。そしてそれは、戦力や抵抗手段のないものであればあるほどよい。

 だから、ヴィラン側にヒーローを生かしておく必要はないはずなのだ。ましてやオールマイトがいるというのに、なぜ生かしているのか?

 

 その理由は現状不明だが、私個人の見解では内通者がいるであろうことと無関係ではないと思っている。

 

 ……と、それはともかく。

 

「そしてオールマイトが言うには、最初から現時点までで連中は外部と交渉を行うそぶりがなく。動きと言えば、人を連れ出しただけだという。ただその連れ出された人間は、シールド博士と助手の二人らしい」

「そんな!? じゃあ、まさかヴィランの目的はパパとサムさん……!?」

「いいえメリッサさん。あるいは博士の発明した何か、ということも考えられるわ」

「……確かに。それはあり得ないとは言い切れないわね……」

「つまり、博士たちを助けることも考えなきゃいけないわけだ。せめてどこに連れていかれたかわかれば……」

 

 ジローがむう、と唸りながら天井を仰ぐ。

 

 ひとまず、状況は大体共有できたか。

 であれば……私は傍らに視線を向けた。そこには私に変身した状態で目を閉じ、フォースを操っているヒミコがいる。

 

「ヒミコ、どうだ?」

「……歩いてないのに上に行ってる人が、四人います。エレベーターかなぁ。全然止まんないし、最上階に行くのかも? 他にタワーの中で大きく動いてる気配はないですよぅ」

 

 そう、彼女は今の今まで、可能な限りタワー内部の探査を行っていたのだ。もちろんフォースによる探査は万能ではなく、取りこぼしもあるだろうが……少なくとも活発に動いている人間を見つけることはさほど難しくない。

 

「……あと、パーティ会場近くの下の階で、寒そうにしてるのに動いてない人がいるのです。なんでかはわかんないけど、こっちに救出班もいるかも?」

「ありがとう。……どうやら要保護者がいるようだな。その中にあって、博士たちは上に連れていかれているようだ」

「……それって、遊園地でもやってた探知?」

「ああ」

「変身マジパネェな……」

 

 ミネタに頷きつつ、私は再度シールド女史へ問う。

 

「シールド女史。このタワーにあるもので、犯罪者が欲しがるようなものに心当たりは?」

「……いくつか思い浮かぶわ。たとえば、”個性”の影響を受けた植物がある八十階と百六十階の植物プラント。あるいは島全体のサーバーを一括管理してる百三十八階のサーバールーム。でも一番可能性が高いのは……」

 

 彼女はここで一度言葉を区切り、天井を仰いだ。その先の先にある、何かを見据えるように。

 

「……二百階。つまり最上階にある、保管庫。そこにはI・アイランド中の研究者が手掛けた、色んなものが厳重に保管されてるの。……世間に出せないようなものも、ね」

 

 そして告げられた心当たりに、ミネタやカミナリ、アシドやハガクレと言った面々が一斉に声を上げた。

 

『それだぁ!』

「……だろうな。博士たちが連れていかれたのは、その保管庫のセキュリティを突破するためか」

 

 ただ、これでも前述の謎と完全に合致しない。

 そしてそれを合致させようとすると、シールド博士こそが内通者なのではないかという推測が可能になってしまうが……これはやはり、今は置いておくとしよう。つまりヴィランが本格的に動く前に、博士を確保すればいいのだから。

 

「さて話を戻そう。つまり我々は、四手に分かれる必要があると考える。最上階に行き、警備システムを回復するもの。シールド博士らが強いられるであろう行為を遅延するもの。階下にいる要保護者を救助するもの。そしてパーティ会場を監視するものだ」

「……警備システムに行くやつだけ負担重すぎねぇ? 警備にバレるの前提なんだろ? そこがうまくいかなかったら、他全部破綻するやつじゃん」

「そうだな。なので、それについては私とヒミコがやる」

 

 おずおずと言うカミナリに私がそう返せば、様々な驚愕が私たちに向けられた。

 

「理由はいくつかある。隠密性と戦闘力を併せ持つことがまず一つ。それからシステムの掌握が可能な技術および知識を持つことが一つ。さらに、ヒミコの”個性”ならヴィランに変身して状況の異変をごまかせることが一つ。

 何より……私の身体なら適当な通風口などから外に出られる上に、空を飛んで一気に最上階まで行けることが一つ。ヒミコも、私に変身している今はそれが可能だ。

 つまり、ここまで敵に気づかれることを前提に正攻法を話してきたが、正攻法ではない方法で気づかれずに動けるのは私たちだけ。ゆえに、私たちが行く」

 

 そう言い切った私に、場が沈黙する。

 

 だが、ミドリヤがまず成否の可能性についてブツブツと検証し始め、次いでカミナリとミネタが確かにそれなら、と同調。

 さらに女性陣とイイダが心配そうにする一方で、トドロキは異論はないのか他をどうするのか聞いてきた。

 

「残りはどう考えてる?」

「監視にはジローが必須だ。次いで、あの場で身を乗り出して会場を覗き込んでも気づかれる可能性が低い、ハガクレ。状況判断役としてヤオヨロズが二人を統括し、念のため護衛……身軽で小回りが利く肉弾戦が可能なツユちゃんかミドリヤのどちらかを置けば良いだろう」

「うん、いいと思うよ」

「私も同意するわ。どちらが百ちゃんチームに入るかは一旦置いておくとして……」

 

 護衛役に名を上げた二人以外も、否はないらしい。

 

 そのツユちゃんには続きを促されたので、そちらも考えを述べる。

 

「救助に向かう組は、階下に向かうか博士に向かうかで分けることになるが……階下に向かう組にはトドロキがいたほうがいいだろう。寒そうにしているというなら、暖める役が必要だ」

「わかった、任せろ」

「それと階下に向かう面子は、偶発的にヴィランと遭遇する可能性が一番高い。パーティ会場のすぐ近くだ、気づかれる可能性も否定できない。ゆえにここには、対人制圧に向いた”個性”のミネタも加えるべきだと思う。そしてこの組は、イイダに統括してもらいたいがどうだ?」

「うむ、了解だ!」

「げっ、お、オイラもか!?」

「階下にいるのは女性のようだぞ」

「ここはオイラに任せとけ!」

 

 ミネタは本当にブレないなぁ。女性陣の視線が厳しい。

 まあ、芯もなくころころと意見を翻すよりはマシだろうが。

 

「最後に博士の下へ向かう組だが……シールド女史。行きますよね?」

 

 この問いかけに、周りが騒めく。当然だろう。シールド女史に戦闘経験は一切ないだろうから。

 だが、その心中にある決意は本物で、揺るぎない。

 

 それを指摘すれば、シールド女史は薄っすらと微笑んで、しかし間違いなく、大きく頷いた。

 

 彼女はシールド博士が連れていかれたと聞いたときから、そう考えていたのだ。そしてそれは少しずつ大きくなっている。

 しかし私は、それを咎めたりとめたりしない。

 

 なぜなら経験上、こういう人間はとめるほうが逆効果になりやすいと知っているから。ならばその意思をある程度汲みつつ、護衛と行動してもらったほうがいっそマシなのだ。

 

 無論、シールド女史ほどの才媛が非合理的なことをする可能性は、そこまで高いわけではないだろう。

 しかし、人間の心は元より非合理的なもの。私はそれを、ここ一ヶ月半ほどで特に痛感している。ならば、最初から備えておくべきだろう。

 

 そして何より……先ほどから、逐一探知し続けている最上階の状況をヒミコがテレパシーで知らせてくれているのだが。最上階に到着したあと、博士とその助手の周辺からはなぜか誰もいなくなったようなのだ。

 連れ去られた人間の周りに、監視役と思われるものがいない。これはあからさまに異常であり、この事件の内通者は彼らでほぼ確定したと言っていいだろう。

 

 しかしいずれにせよ、二人に戦闘経験はないはずだ。……いや、シールド博士はオールマイトの元相棒だから多少はあるだろうが、それにしても直接的な戦いは門外漢のはず。

 システムを取り戻したあとなら、戦力にならないシールド女史をそこに連れ込んでもさほど問題にはならないだろう。むしろ、そこが一番安全になる可能性すらある。

 

 もちろん、そんなことはどれもここでは口に出さないが。

 

「……アシド、ウララカ。すまないが、君たちはシールド女史の護衛を兼ねてもらえないだろうか」

「おっけーまっかせて!」

「わかった!」

「……そしてミドリヤ、ツユちゃん。監視班に入らなかったほうを、アシド同様の仕事を任せることになるがどうする?」

 

 この問いに、ミドリヤとツユちゃんは一度視線を合わせると、一つ頷いて視線を戻してきた。

 

「……僕が行く。実はさっき、メリッサさんから僕の”個性”を限定的とはいえほぼノーリスクで使えるアイテムをもらったんだ。使うときはいい状況じゃないだろうけど、それでも切り札として機能するから」

「ケロ。それに万が一パーティ会場でそれを使うことになった場合、周りに被害が出てしまう可能性もあるわ。だから、私が百ちゃんチーム。緑谷ちゃんがメリッサさんチームよ」

「了解した」

 

 妥当な判断だろう。

 

 その後組み分けを改めて口に出し、みなで是非を確認するが異論はなし。

 

 ならば――あとは行動あるのみだ。

 

「ちょちょちょ、ちょい待ち。増栄さんや、俺は? 俺のポジションは?」

 

 と、その前にカミナリが挙手をして己の顔を指差した。うむ、彼の名は今まで挙げなかったな。

 

 だがしかし。

 

「カミナリには申し訳ないのだが、待機だ。正直に言って、君の”個性”はこういう場では使い勝手が悪すぎる」

「そんなァ!?」

 

 電撃ができるという点は間違いなく強いのだが、彼の場合は指向性がないからな……。ただ放電するだけとなると、狭い屋内では仲間を巻き込んでしまう。

 

 その欠点は全員が理解しているのか、慰めようとは思っているものの、具体的な言葉が上がることはなかった。カミナリががくりと膝をつく。

 だがそれを見かねて、遂にヤオヨロズが前に出た。

 

「……あの、よろしければいくつか武器を作りましょうか?」

「頼むヤオモモ! ここに来て俺だけ何もやることがないとか、いくらなんでもそれは嫌すぎる!!」

 

 ……というわけで。

 

 カミナリは、女性がいることがわかっている階下に向かう、イイダチームに合流したのだった。

 




二人の英雄はいい作品だと思いますし、初見のときは素直に少年ジャンプだ楽しい! だったんですけど。
改めて見返すと、それはそれとして展開にちょっと強引だなと思うところがちょいちょい見えてくるんですよね。尺の都合かなとも思いますが。
なので、そこを主につつく感じの展開になりました。
これについては、I・アイランドの警備レベルをタルタロスと同等という設定にしなければ、もうちょっと何かやりようがあったんじゃないかとも思いますけどね。
本編でのタルタロスの情報が出れば出るほど、二人の英雄における緑谷たちの行動の危うさとウォルフラム以外のヴィランのアホさが際立つっていう・・・。

あと、パーティ会場の階下に要救助者がいるってのはオリジナルです。植物プラントが増えてるもそうですね。
要救助者については、原作より人数が多いので、今回ばかりはより細かく分割しないと手に余る・・・というか分割してなお手に余ったのでね・・・。
先に謝っておくのですが、監視班のメンバーの出番はもうほぼありません。活躍させたかったけど、無理でした。ボクの力不足です。本当に申し訳ありません。

・・・それはそれとして、フォースが便利すぎるんよ(震え声

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