銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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11.レスキュー・オーダー 3

 オールマイトから作戦決行と、”個性”および戦闘の許可を得た私たち。

 

 まず私とヒミコが、シールド女史の案内でパーティ会場上層部の、そのまたさらに上層部にある通風口から外へ出る。彼女がいなかったら、あるかどうかもわからない通風口を探してあてどなくさまよっていたかもしれない。彼女はそうは思わないかもしれないが、いいアシストである。

 

 通風口は、私くらいの背格好であれば問題なくくぐり抜けられるくらいのサイズだった。そこを抜ければ、タワーの内部はある程度空間に余裕がある構造になっている。

 最悪の場合、ライトセーバーで障害となるものを壊しながらダクトの中を匍匐で進む必要があると思っていたが、これは不幸中の幸いである。

 

 あとは隙間を縫って、簡単に外へ出ることができた。私に変身したヒミコも同様である。

 

「わあ、高ぁい」

 

 外に出て、開口一番に私の姿のヒミコがこぼした。

 その口調や表情に恐怖はない。むしろ遊園地でアトラクションに乗っているときのような感じであり、彼女にとってこの高さもさして問題ではないのだろう。

 

 そしてそれは、私にとっても同様だ。あまりジェダイアーカイブの外に出る任務の経験はない私だが、スピーダーでコルサントの上空を走り回ったことは不本意ながら、それなりの回数ある。あれに比べれば、この程度の高さなど恐るるに足らない。

 

 それでもなんとなく、私は問うてみた。

 

「怖いか?」

「んーん、ちっとも。だってコトちゃんと一緒だもん」

「嬉しいことを言ってくれるが、怖いと偽ってくっついてくれてもよかったんだぞ」

「やだなぁ、今の私はヒーロー志望のトガですよぅ。ちゃあんと時と場所は考えてるのです」

「ああ、そうだったな」

 

 少しすねたように返してきたヒミコに、私は一本取られたという心境で応じた。少し前の彼女なら、こうは言わなかっただろうが……その変化が嬉しい。

 

「でも……これくらいは許されるよね」

 

 そう思っていたら、頰に軽く口づけられた。

 

 根の部分は変わらないな、と思いながら私は肩をすくめる。

 

 ただ、どうせならヒミコ本来の姿でしてほしいところだ。そう思ったところ、はっとした様子で元に戻る彼女に、私は軽く目じりを下げて口元を緩めた。

 

 そうして吹き抜ける風を尻目に軽い口づけを返して、私たちはワイヤーフックを用いてタワーの上層部へと向かった。

 ワイヤーの長さは五十メートルほどなので、限界まで伸ばしたら一旦”個性”で飛び、改めてワイヤーフックを使って……という流れを繰り返すこと十二回。私たちは無事、タワーの最上階に辿り着いた。

 

 ……のだが。

 

「見て見てコトちゃん、ヘリコプターですよ」

「ああ。動いてはいないようだが……警備しているものがいるな。だが外見的にも精神的にも、まっとうな手合いではないようだ」

 

 そこはヘリポートになっていて、ヘリコプターが一機留まっていた。

 周辺には、見張りと思われるヴィランが一人。銃で武装している。だが手にしているだけで、即座に使える状態にはなっていない。

 

 つまりこのヘリコプターは救助に来た人間が乗ってきたものではなく、ヴィランがここから脱出するためのものと考えるのが妥当であろう。

 

 しかしヘリコプターのサイズは、今このタワーにいるヴィランの人数と明らかに釣り合わない。ヘリコプターの定員は、飛行機ほど多くはないのだ。軍用の輸送ヘリコプターはまた別だが、それに比べると明らかに小さいことだし。

 

 これは……まさか、最初から何人も見捨てることを前提とした計画ということか?

 

「なんと身勝手な」

 

 ひどいことを考えるものだ。経験上、そうした人間を見たことはそれなりにあるが、こういう手合いは何度見ても慣れないな。

 

「どうするの?」

「……ヘリコプターそのものを無力化したいところだが、それは管制室を制圧してからのほうがいいだろう」

 

 このタワーの制御がすべてそこで行われているのであれば、ヘリポートも確認できるようになっている可能性は高い。その状態で下手を打つわけにはいかない。

 

「だが見張りが一人しかいない上に、その姿が見えているのだ。ヘリコプター自体は無力化できずとも、できることはあるな」

「あは。アレ、やるんだねぇ」

「うむ。本番では初だが、演習でも有用ということはわかっている。使いどころだろう」

「はーい」

 

 ということで私は、気だるげに周辺をおざなりに警備している男に手を向ける。彼にフォースをそこに伸ばすとともに、”個性”を発動させる。

 するとどうだろう。男はほどなくしてがくりとその場に倒れ込み、眠ってしまった。

 

 これぞ私の新しい技。フォースと”個性”を合わせ、対象の睡魔を増幅することで眠らせる技だ。体育祭でミッドナイトを見て、使えそうだと思い開発した。そうだな……フォーススリープとでも名付けようか。

 

 ただ、シンプルに眠気を増すだけなので確実性はない。睡魔、という認識で増幅することでただ眠気を増すよりは効果があるのだが、それでも効かないときは効かない。

 特に、薬物などで興奮状態にある場合は難しいだろう。そこはミッドナイトの”個性”には劣るところだ。

 

 また、効果が出るまでに時間が少しかかるところも欠点と言えよう。一度に大勢を対象にできない点もだ。だからこそ、パーティ会場にいるヴィランたちを抑えることは難しかった。

 

 さらに言えば、燃費も悪い。私の増幅は、元となる要素が少なければ少ないほど、あるいは曖昧であればあるほど、必要なコストも多くなるという性質があるのだが、睡魔はその両方に引っ掛かる。場合によっては重ねがけも必要になるので、あまり多用はできないのだ。

 

 ただの睡眠なので、眠らせたあとも強い衝撃などがあると起きてしまうというのも欠点かな。なので、立っている人間を眠らせる場合は何らかの形で穏やかに身体を倒させる必要がある。私たちはテレキネシスを併用する。

 

 ……こうして特徴を挙げると欠点だらけだが、その代わりフォースの恩恵によって、射程はすさまじく広い。また対象を任意に選択できるので、この二点についてはミッドナイトには勝るはずだ。

 

 何せ相手の位置を正確に把握していれば、距離を無視して眠らせることが可能なのである。要は使いどころが別で、それをしっかり見極められるかどうかが重要というわけだな。

 

「さっすがぁ」

「それほどでもない」

 

 ともあれ男が眠ったことを確認した私たちは、周囲に気を配りつつ男を引き寄せ拘束。しかるのちに、ヘリポートの出入り口に向かう。

 

「こちらコトハ。ただいま屋上に到達した。併せて、敵の脱出手段と思われるヘリコプターを発見。ヴィランが一人警備していたので、眠らせておいた。ヘリコプター自体の停止は後程行う。これより最上階へ進入する」

 

 道中、私は懐から取り出したソフトボールほどの機械を使い通信を行う。

 

『こちら天哉。了解した、二人とも気をつけてくれ!』

『こちらデク、了解! 無理はしないでね!』

『こちら百、了解ですわ。……それと、パーティ会場は今のところ動きはありません。まだ焦らずとも大丈夫ですわ』

 

 その機械から、イイダたちの声が順に届く。彼らに了解を返して、機械をしまう。ひとまずは順調、と言ったところかな。

 

 ……この機械は、私が試作したコムリンクである。要するに、銀河共和国仕様のトランシーバーだ。現状この星で使用されているどの通信回線とも異なる回線による通信機であり、それゆえにヴィランに通信を傍受される可能性のない代物である。

 

 だが言った通り試作品なので、サイズは大きいし重量も十キロくらいある。通信可能範囲も、本来のコムリンクはどんなに悪い品でも五十キロほどは担保するのに対して、わずかに五百メートルと少しといった程度。

 さらに本来のコムリンクは電子データの送受信も可能なのだが、それもオミットしている。ゆえに、私に言わせれば試作も試作の未完成品であり、とても世に出せる代物ではない。

 

 何せジェダイが標準使用していたものとなると、有効範囲は軽く百キロに達したものだ。通話を暗号化する機能も持ち、サイズも重量も指二本でつまめるほど。雲泥の差とはこのことだろう。

 

 ただまあ、今はこれでも十分だ。シールド女史にもとても興味を示してもらえたが、それは置いておいて。

 

 なぜそんなものがここにあるのかといえば、明日の発表会に手ぶらで参加するのもどうかと思い、念のため試作品を持ち込んでいたからである。

 そう、昼間にシールド女史に言った試作品とはこれだ。私がアイランドに到着時、そしてここに来る前に大きなキャリーケースを引きずっていたのはそのためだ。

 

 今回はそれを、万が一に備え持った状態でタワーに来たわけである。こんなこともあろうかと、というやつだ。

 他にも備えとなるものは入っているので、ケースはタワーにも持ってきている。今はアシドに預けてあるが。

 

「さあ、行こう」

「うん」

 

 ともあれ。ヒミコに声をかけると共に、私はジェダイローブのフードをかぶる。ヒミコもそれにならう。

 

 由緒正しきジェダイのスタイルだ。懐かしさと共に、軽い高揚感を覚える。

 ここ最近、何度もジェダイにあるまじきことをしている私だが、やはり私の根幹はジェダイにあるのだなぁと何気なく思う。

 

 そうして私たちは、ヘリポートからタワーの内部へと進入した。

 この際、扉を不用意に開けては管制室にいる相手に気づかれる可能性があることから、開放は慎重を期してフォースハックで行った。

 

 フォースハックは回線や電子基盤に直接フォースを当てる必要があるため、そういった部分がむき出しになっていないものには効果が薄い。

 しかし薄いだけで、効果がないわけではない。元より私が一番得意な技でもある。多少時間はかかってしまったが、丁寧に技をかけることで警報装置や監視システムに干渉されることなく扉を開けることに成功した。

 

 ついでにこの島のシステムの仕組みをそれなりに理解してしまったが、それはこのあとシステム制御を取り戻す上で有用なので許してもらいたい。

 

 そうして入り込んだ最上階だが。

 

「……相手は四人か。なんとお粗末な」

 

 この階に詰めている敵の数があまりにも少なすぎて、思わず呆れてしまう。

 

 普通、こんな重要な施設を掌握したら取り返されることを警戒するだろう。ここを取り返されるだけで、ヴィラン側の優位性はほぼ失われるのだからなおさらだ。

 にもかかわらず、四人である。管制室に二人、その手前付近に二人だけ? 遊びに来ているとしか思えない配置だ。首魁の意図が読めない。

 

 あるいは、内通者の意見がそうさせたのか。

 ほぼ間違いなくシールド博士は内通者だが、どうも彼はそれなり以上に気を遣われているように思える。彼が何かしらの配慮を要求し、それが通ったからと考えればこの状況もあり得なくはない。パーティ会場での謎もだ。

 

 ただし、それをヴィラン側がどこまで、いつまで守るかは保証できない。ある程度泳がせたところで博士を裏切る可能性が大きいと、私などは思うぞ。

 裏切るのであれば、なおさらこの階にはそれなりの人数を配置すると思うが……おかげで本当に大して考えていない輩である可能性も、まだ否定できない。

 

 まあ、何はともあれやることは変わらない。

 

 私たちはヴィランのいるほうへ進み、管制室の手前までやってきた。もちろん、あちこちにある監視カメラなどを誤魔化しつつだ。フォースクロークはこういうときも役に立つ。

 私に変身していればヒミコも私と同水準でフォースを扱えるので、中に入ってからはずっと私に変身している。

 

 ただ今日はまだ一度も血を()()していないので、変身しなくていいときはしないでおいてもらったほうがいいだろう。

 最近になってまた変身効率が上がり、私に限って変身していられる時間もさらに増したようだが……”個性”まで使うとなると、その有効時間は加速度的に減っていく。念には念を入れたほうがいいはずだ。

 

「……よし、開けるぞ」

「了解した……なんちゃって」

 

 それとここ最近、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが……今それはしなくてもいいと思うぞ、私は。

 

 ともあれ管制室の手前の二人を眠らせ、拘束。そのまま中へ入る。ここでももちろん、フォースハックで扉を開けた。

 

 中には、随分とくつろいだ様子の男が分厚いガラス越しに二人。武装も傍らに置いた状態であり、敵地にいるという態度ではない。

 

 そんな連中を尻目にヒミコと視線で頷き合うと、二人でそれぞれにフォーススリープをかけて眠らせる。

 実にあっけなく済んだ制圧に拍子抜けしつつも、眠らせた男二人が倒れた衝撃で目を覚まさないようテレキネシスで緩やかに床に寝かす。

 

 そうして奥へと踏み込めば、いびきをかいている男が二人。眠らせた私が言うのもなんだが、暢気なものだ。

 

 ……む、タバコが落ちているな。火がついている。気が抜けているどころの騒ぎではないぞ、これは。いっそ教科書に載るレベルの怠慢だ。

 

 ともかくタバコは消して捨ててしまおう。それから眠りこけている男二人を拘束し、猿轡も噛ませて通信機器を身体から外しておく。

 

 途中、ヒミコには変身を解いてもらいつつ、ヴィラン側から通信が飛んできても対応できるよう、ヴィランの血を摂取してもらう。注射器の出番だ。

 最初の戦闘演習でも使ったこれは、採血時に痛みを与えない。父上に紹介されたサポート会社の製品だが、いい仕事をするものである。

 

 まあ、ヒミコ本人はどこの馬の骨とも知らない男の血を飲むことをとても嫌がっていたが。気持ちはわかるけれども、ここは我慢してもらいたい。

 

「……なんだ、随分とモニターが少ないな」

 

 その後、管制室の中央にて。設置されているモニター群を前に、私は一言こぼした。

 モニターには、このセントラルタワーのごくごく一部しか映っていない。タワー内部すべてを映すには、モニターがまったく足りていないのだ。

 つまり、他の場所を映すためには切り替える操作が必要になる。これでは全体を把握できないではないか。随分と小ぢんまりとしているな。

 

 ……ああいや、フォースなしに大量の画面を同時に認識はできないか。つまりこれは、常人に可能な空間認識範囲における最大限ということか? これならもう少し大胆に動いてもよかったな。

 だからこそ、暢気にタバコをふかして私たち学生の行動をすべて見過ごしていたあの二人は、素人としか言いようがないのだが。

 

 それはともかく。

 

 コンソールの前に立ち、一通りシステムに目を通す。実際は目視や実操作だけでなく、フォースによる感知も行っている。フォースハックの応用だ。

 

「……コトちゃん、どーお?」

「さすがに強力だな。この星で見てきた物の中では一番と言っていい。()()()()()()()

 

 銀河共和国のシステムは、もっと複雑で強固だぞ。

 そして私は、コンピューターに関しては多少自信がある。フォースハックもあるので、私に操作できないシステムはこの星には存在しない。

 

 この程度のシステムを相手に、短時間で掌握しなおせない程度の腕でしかないので、あくまで多少だがね。

 

「ただシステムを戻すだけであれば、五分もかからない」

 

 ゆえに、私はそう断言した。ヒミコが嬉しそうに、誇らしげににんまりと笑った。

 

 まあ、一気にシステムを復旧させるとヴィラン側に気づかれるので、段階を踏まねばならないのだが。そのため、実際にはもっと時間は必要になる。

 

 ともあれ私はコムリンクを取り出し、通信を入れた。

 

「こちらコトハ。管制室を制圧した。これよりシステムを順次解放していく」

 

 まずは警備マシンの無力化だ。島全体が人質、という状態は脱しなければならない。

 これらは一刻を争うので、作業は並行する。

 

 同時に、エレベーターを解放する。そうしたら、シールド女史たちを二百階まで案内する。

 これと同時に、イイダたちを下の階に案内だ。

 

 マルチタスクが連続するが……訓練中に事件に巻き込まれ、アストロメクドロイドが吹き飛んだスターファイターで宇宙戦をする羽目になったときに比べれば、大したことではない。やりきってみせるとも。

 

 そうして私は、フォースをみなぎらせながらコンソールに指を置いた。




ラブラブカップルがイチャつきながら戦場にエントリーしました。
久々に個性とフォースの悪魔合体タグが仕事しましたね。

ちなみにアストロメクドロイドってのは、スターウォーズのマスコットであるR2-D2(青くてピポピポ言ってるちっこいの)みたいなドロイドなのですが。
彼らが吹き飛ばされたスターファイターを操縦するというのは言うなれば、オートマ車を運転中にいきなり車内システムがミッションに切り替わったようなもんです。
アストロメクドロイドがやってる仕事は運転補助だけじゃないので、厳密に言うとそれに加えてナビもウィンカーもヘッドライトもろくに操作できない状態ですね。軽く地獄ですわ。

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