銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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12.レスキュー・オーダー 4

 まずは、パーティ会場のモニターに表示されているタワー外の映像を、別のものに差し替える。順当に警備システムを取り戻せたとしても、ここの映像から異常に気づかれる可能性があるからな。そのために必要な映像を複数見繕い、充てておく。

 

 この作業が終わる前に、なぜか監視もなく作業をしているシールド博士の様子も確認していたが……。

 

「一生懸命何か操作してますねぇ。見張りはねぇ、人間だけじゃなくってロボもいないみたい」

「その状態でわき目もふらず、か」

「早くアレを取り戻さないと、とかって考えてるみたいだったけど……」

「君もそう感じたか」

 

 ヒミコとの意見の一致に、思わず操作の手をとめてしまった。

 

 我々が感知した彼らの内心が正しいのであれば今回の事件、絵図面を描いたのはヴィランではなくシールド博士たちということになるぞ。ノーベル個性賞を受賞し、アメリカ時代のオールマイトの相棒を務め、そのコスチュームをすべて手掛けてきた男がやることとは考えづらい。

 

 ただ、私は我々の感知を疑うつもりはない。フォースが告げたものだから、ということももちろんあるが……どんなに考えづらくとも、状況証拠からしてそれが真実という推測にほぼ間違いはないだろうから。

 何より、シールド博士が黒幕だとすれば、ヴィランたちのお粗末な対応にすべて説明がつくのである。

 

 しかしだとすると……娘のシールド女史には少々辛いことになるだろう。ジェダイはこういう状況を試練と呼ぶが、親子の情を理解した今の私にはその呼称はどうにもはばかられる。

 

「出久くんたちが一緒だから、きっと大丈夫だよ」

「……そうだな。その辺りの励ましは、私などより彼らのほうが何倍も上手だろう」

 

 正直言って、私にはなんと声をかければいいのか見当がつかない。適材適所で考えるべきだろう。

 

 ……と、それはともかく。

 

「……こちらコトハ。エレベーターの制御を取った。ミドリヤチーム、動いてくれ。エレベーターまでの道は逐次指示する」

『こちらデク、了解! みんな、行こう!』

 

 まずはシールド女史を連れて、ミドリヤたちに動いてもらう。

 ただ、今いる場所に最寄りの地点でエレベーターを使うとなると、パーティ会場が近すぎる。彼らには一旦非常階段から上の階に上がってもらって、そこからエレベーターに乗り込んでもらう。

 

 さらに言えば、中央エレベーターはヴィランが使う可能性が高い。使わずともエレベーターの近くに何人かいるので、階数表示の点灯でエレベーターを使っていることに気づかれる可能性もある。

 なので、少し離れた場所のエレベーターへ向かわせた。直通ではないので、いくつか経由する必要はあるが、急いでヴィラン側に気づかれるわけにはいかないからな。

 

 その道中の隔壁は、システムをいじって順番に開けていく。最初から一気に開けられればいいのだが、並行して島全体のセキュリティをいじっているので、この形になる。

 

 とりあえずミドリヤたちを最初のエレベーターに乗せたあとは、イイダたちの番だ。

 

「こちらコトハ。イイダチーム、動いてくれ」

『こちら天哉、了解した! さあみんな、出動だ!』

 

 彼らに向かってもらうのは、パーティ会場のすぐ下の階だ。モニターで確認する限り、どうやらくだんの人物は冷蔵室に閉じ込められているようだ。

 その人物の格好が料理人のそれであること、冷蔵室に置かれているものがすべて食材であることを考えると、食材を取りに来てそのまま取り残されてしまったのだろう。見た目からして、若手かな。

 

 すぐにでも外に出してあげたいところだが、一般人でしかないであろう彼女をここで解放して、そのまま状況をよく理解せずにヴィランたちのところに移動されても困る。彼女にはもうしばらくだけ我慢してもらいたい。

 

 ただ、彼女以外の料理人は、パーティ会場に隣接した調理場で一様に人質と化していることを考えると、運が良いのか悪いのか、微妙なところだろうなぁ……。

 

***

 

 パーティ会場から離れ、下へ向かった飯田たち四人。非常階段を息を潜めて降りる彼らの顔つきは真剣そのものであり、またよどみがない。数か月とはいえ、ヒーローとしての訓練を積んできたからこそだろう。

 

 ここまで来る動機が少々不純な二人であっても、それは変わらない。彼らもまた、確かにヒーローの卵であった。

 

『こちらコトハ。扉を開放する』

 

 そんな中で、飯田が手にしたコムリンクから理波の声が響く。

 

 と同時に、目的の階に到着した彼らの目の前で扉が開いた。ここまでの道中、すべてがその調子だ。遮るものは到着と同時に開き、彼らを拒むものは何もない。

 

 順調に過ぎる流れ。しかしそれを成している人物が、クラスの頂点に立つ幼女であることを理解している彼らは疑わない。彼らはただ信じている。それだけの実績と実力が、理波にはあった。

 

「こちら天哉、フロアに入った!」

『こちらコトハ、了解。ではまずそこから右に。それから……』

 

 その理波から、相次いで指示が飛んでくる。彼女に従ってフロアを進めば、見えてきたのは食糧庫の文字。

 

「なーる、パーティ用の食材があるんだな」

「調味料もあるぜ。こんな大量の塩とか砂糖なんて、オイラ初めて見た」

「食材があることを考えると、消毒もせずに立ち入るのは気が引けるが……今は仕方あるまい」

「ここで寒そうにしてる、ってことは……救助対象はあん中か」

 

 食糧庫の中を、なるべく周囲のものに触れないようにしながら歩く一行。

 

 その中で、轟がある一点を指し示した。かすかに低音を響かせる、銀色の扉。冷蔵室である。

 

「この中に、今までずっと? うへぇ、ぜってー寒いじゃん」

「早く救けてやらねーとまずいぜ! ……委員長、オイラたちが開けるから周囲の警戒頼むぜ!」

「任せてくれ! ……こちら天哉。増栄くん、到着したぞ!」

『こちらコトハ、了解。……今冷蔵室のロックを解除した』

 

 通信と同時に、ガチャリと鍵が開く音がした。

 

 これに応じる形で、上鳴と峰田が扉を開ける。轟は右の袖をまくり、そこから炎を出して温める準備をする。飯田は出入口のほうを、鋭く睨みつけていた。

 

 そんな彼らの姿を、開かれた扉の向こうで見た女性は震えながらも安堵した顔を見せる。

 服はもちろん、帽子まで白一色のいでたち。それはまさに、万人がシェフという言葉から想像するであろう料理人の格好だった。

 

「大丈夫スか? 救けに来ました!」

「もう大丈夫、オイラたち雄英生です!」

 

 その女性に努めて優しく手を差し出して、上鳴と峰田は微笑む。それぞれが、己の一番決まった顔と信じる笑みである。

 

 彼らを見て、料理人の彼女は涙目になりながら懐に飛び込んだ。身長の関係で峰田はその対象から外れてしまって憤慨し、上鳴は得意げにドヤ顔を披露したことで両者は一瞬険悪になるが……。

 

 直後、彼女の関心が炎を纏わせてゆるゆると温め始めた轟にまっすぐ向かったのを見て、両者の友情は決裂を免れた。

 

「くっ、これだからイケメンは……!」

「オイラたちが一体何をしたっていうんだ……!」

「そういうとこじゃねぇのか」

 

 異性にすがりつかれてもなお、顔色一つ変えずに淡々としている轟に言われれば、二人とも沈黙するしかない。しかないが、しかしそれを認めたくないのが人情というものであろう。

 

「こちら天哉、要救助者を救助した!」

『こちらコトハ。了解、ありがとう。……君たちはすまないが、そのままそこに待機していてくれるか。近くに、パーティ会場に隣接の調理場に直通のエレベーターがあるはずなのだが』

「エレベーター……ああ、あれか。うむ、見つけたぞ!」

『警備システムを完全に復旧させると同時に、そこから調理場に踏み込んでほしいのだ。調理場にもヴィランがいて、料理人たちが拘束されている。

 もちろん、危険ということは重々承知している。だが調理場にはヒーローがいない。会場のヴィランはそこにいるヒーローたちがなんとかしてくれるだろうが、調理場のほうはどうしても反応が鈍くなってしまう。そこを補ってほしい』

「なるほど、それは確かに。了解した、それまで我々は待機している!」

『よろしく頼む。何か問題があったら、すぐに連絡を。では』

 

 通信を終えた飯田は、コムリンクを下ろして料理人の女性へ向き直る。長身の身体をかがませ、視線を女性より低くしながら。

 

「心細く、凍えておられたところ申し訳ありません。システムが復旧するまではもう少しだけ、僕たちの傍にいてくださいませんか。大丈夫! 何があっても我々が絶対、あなたを守ります。何者であれ、あなたには指一本触れさせません!」

「は、はい……ありがとうございます……!」

 

 そう答えた彼女の目の中には、ハートマークが浮かんでいた。

 

「バカな……! こんなところに伏兵が……!?」

「くっ……、確かに委員長、顔はいいよな……!」

 

 上鳴と峰田は、ずっと平常運転だった。

 

***

 

 イイダたちが救助を終えた直後に、管制室にミドリヤチームがやってきた。

 

「みんなー! 待ってたのです!」

「被身子ちゃん! 理波ちゃん!」

 

 彼らをヒミコが出迎え、少しだけ場の雰囲気が和やかになる。

 

「増栄ちゃん、はいこれ! 預かってたケース!」

「ありがとう、助かる」

 

 私はアシドから、コムリンクを入れていたケースを受け取る。

 

「コトハさん、パパたちは?」

「シールド博士たちなら無事だ。……この通りだよ」

 

 と同時に、シールド女史に尋ねられたので、モニターに保管庫で作業をしている博士たちの様子を映し出す。

 

 そこでは相変わらず、見張られることなく作業を続ける博士たちの姿。

 ミドリヤたちはこれを見てほっとしたようだが、話はそう単純ではない。

 

「安心しているところ申し訳ないが、あの場所にはあの二人以外誰もいない。警備マシンの類もだ」

「え……?」

 

 私の言葉に、全員が目を点にした。

 

 よくわからない、と言いたげなのはアシドだ。他の面々も似たようなものではあったがそれはわずかの間で、特にミドリヤに関しては即座に意味を理解したようで、顔を強張らせていた。

 

「ま、まさか……!? 増栄さん、シールド博士たち……!」

「ああ。今回の事件、首謀者は博士たちだろう。最低でも、内通者であることは間違いない」

「マジで!?」

「そんな……!?」

「ウソ……パパとサムさんがそんなことするなんて、あり得ないわ!」

「気持ちはわかる。だが、状況証拠ではあるが……」

 

 思わずと言った様子で声を張り上げたシールド女史に、私は推測を語った。

 

 大量のヴィランが一切気づかれずにここまでのことをした点。

 にもかかわらず、最上階やヘリポートにいたヴィランがあまりにも油断し切っていた点。

 

 私がオールマイト伝いに博士へ警告をしていたにもかかわらず、それが反映された様子が一切ない点。

 

 ヴィランが制圧した場にいるヒーローを一人も殺していない点。

 ヴィランが人質を取ったにもかかわらず、外に何も要求していない点。

 

 ヴィランに連れてこられたはずなのに、シールド博士たちに見張りがついていない点。

 

 そして何より、博士が「取り戻す」と思考している点。

 

 これらを説明した私に、しかし反論は来なかった。

 

 だが、それは絶望してのものではないとわかっている。話しながらでも、わかっていた。

 なぜならシールド女史は愕然としてはいたものの、同時に義憤の心を燃やしていたからだ。どうやら、ミドリヤたちに励ましてもらう必要はないらしい。

 

 そして彼女は、説明を終えた私に宣言する。

 

「もし……もし本当にパパたちが今回の事件を起こしたなら……私がとめるわ……!」

 

 そんな彼女に、ミドリヤたちは嬉しそうに頷いた。

 

 私の心配は余計なお世話だったようだ。私も思わず、表情を和らげていた。

 




白状しますが、峰田がクッソ書きやすいんですよね・・・。
尖った性格のキャラはハマる状況を用意すると本当に描写しやすい・・・。
逆にそうじゃないキャラは・・・うん・・・。
すまんな尾白君障子君・・・。

なんだかんだで不在にされることはめったにない二人ですけど、いたらいたで描写されるかっていうと微妙ですよね、この二人も。
原作からして活躍するシーンほとんどないしね・・・。
学校としては二十人って少ないけど、物語としては二十人ってクッソ多いんだよなぁ。

ボクは平均的が好きなので、全員に均等に出番を用意してあげたいんですけど、それやってて一番やりたいこと(百合)がおろそかになったら本末転倒なので、これからもすまない。あらかじめ謝っておく・・・。

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