オイラの名前は峰田実。国立雄英高校のヒーロー科で、日夜ヒーローになるための厳しい修行に明け暮れるナイスガイさ。
……自称だって? うっせー、わかってんだよそんなことくらい。どうせオイラ童顔だし、身長だって六歳児くらいしかないよ! イケメンは滅んじまえ! ペッ!
けどよぉ、そんなオイラでもやっぱモテてぇのさ。たくさんの女の子に囲まれてチヤホヤされたい。キャッキャウフフしたい。性的な意味で。
なぜって? そんなん決まってらぁ。オイラ、女体って言葉を思い浮かべるだけで生きてる意味を実感できるのさ。物心ついたときから、ずっとそうだった。
オイラに言わせれば、女体ってのは全人類のふるさとなわけよ。実家なわけよ。
ならよぉ、実家に帰省したいって思うのは人として当たり前のことだよなぁ?
……ところがどっこい、オイラが実家に帰りてぇからって実家の前に立つと、実家は門前払いしてきやがる。そこをなんとか、って声を上げたら不審者扱いで、どうしてもなんとかなんねぇのかって詰め寄れば犯罪者扱いよ。
そんなの納得できねぇよなぁ! オイラはよぉ、ただ実家に帰りたいだけだってのになぁ!
……そんなわけだから、オイラ雄英に来た。見た目で実家から絶縁状を叩きつけられるようなオイラみたいなやつは、何かしら箔が必要だって考えたんだ。
そう、ヒーローって箔だよ。ヒーローってやっぱカッコいいじゃん? モテるじゃん? アゼルバイジャン?
だからよ、オイラみたいな非モテがモテるためには、ここが一番の近道だって思ったのさ。どうせヒーローになるなら、やっぱオールマイトやエンデヴァーの出身校、日本一の雄英がいいもんな。
……まあその雄英に来てつくづく思ったのは、ヒーローだからカッコいいんじゃなくて、カッコいいからヒーローなんだっつーことなんだけどよ。それは置いとくとして。
ともかく、オイラはモテたくて雄英に来た。ヒーローになってモテる! その第一歩としてな。
けど、せっかくの高校生活。ワンチャンここで可愛い女の子とお近づきになれないかなとも思ってた。
だってそうだろ? 高校生だぜ。女子高生だぜ。その肩書きだけでプレミアがつく。それがJKってやつなんだ。期待しないほうがどうかしてる。
だからよぉ、振り分けられた先のA組女子を確認したとき、オイラ、神に感謝を捧げたね。普段はそんなの信じてないけど、捧げざるを得ないと思った。それくらい、A組の女子のレベルは高かった!
それに比例して、オイラのやる気もうなぎ登りよ。入学初日のオイラは間違いなく希望に満ち溢れてたし、クラスメイトを確認したときそれは有頂天だったと断言できるぜ。
そうして始まった授業。最初のオールマイトの授業で、オイラは見た。
麗日に抱きついてくんかくんかして、おまけに吸血にまで及ぼうとしたトガの姿をな。
あれは……あれはマジでエロかった。火照ってほんのりと赤くなった頰! 興奮を隠しきれない荒い吐息! ちろりと垣間見える舌! あんなの見せられたらオイラのオイラは荒ぶって仕方ないってなもんよ!
ああいう顔をオイラに向けてほしい。オイラもあんな感じに抱きしめられたいし、くんかくんかされたいし、ぺろぺろされたいし、チウチウされたい!
なんなら注射じゃなくって、直にオイラに噛みついてチウチウしてくれてもいい! 干からびるまで……はさすがに困るけど、でもちょいと吸うくらいならいくらでも吸わせてあげるぜぇうへへへへへ!
……ってわけで、トガはオイラの中で狙いたい女子一位に躍り出た。顔はかわいいし、エロい。性格はちょっと自由だけど、それが猫みたいでまたなんともたまらない。おっぱいも大きいしな!!
麗日との距離がやたら近い感じからして、もしかしてそっちの人間かなとも思ったけど……そんときはそんときよ。百合はいいものだ。あわよくばその間に挟まりたい。
……そう思っていた時期が、オイラにもありました。
そうさ。意外に思われるかもしれないけど、オイラ百合の間には挟まりたい男だったんだ。
なぜって? いや、右と左に女の子がいたら、どっちも味わいたいと思うのが男ってもんだろ?
世の中に、百合の間に挟まる男絶対殺すマンが存在することは知ってた。でもそういう連中だって、実際のところは挟まりたいに違いないって思ってたんだよ。
……いや、確信していたって言ってもいい。今思えば、なんて浅はかなこと考えてたんだと思うね。
そうさ……百合には男が侵しちゃならねぇ領域ってもんがある。どうあがいても、男の入り込む余地のない、絶対的な聖域ってもんがな。
オイラがそれに気づいたのは、そう、あの忌まわしきUSJ事件の日だ。
あの日、オイラたち一年A組はバスに乗って移動していた。その中でのことさ。
トガが、増栄を抱いて膝の上に座らせていたんだ。
それだけじゃない。その状態で頭をなでたり、頬ずりしたり、キス寸前の距離で会話したりと、そりゃもうすんげぇ絵面だったんだよ。
極めつけは、そのときの二人の顔だ。トガは完全に恋する乙女の顔だった。それを嫌がることなく受け止める増栄の顔も、他のクラスメイトに向けるのとは明らかに違ってたんだよ。
それを見た瞬間、オイラの胸には言い知れない感情が湧いて出てきたんだ。最初は分からなかったけどな……しばらく二人を観察してて、わかったんだ。
ああ。
これが。
この感情が。
――「尊い」か。
ってな! 頭じゃなくて、魂で理解できたッ!
その解釈が間違いじゃなかったことは、わりとすぐに明らかになった。
USJに現れたヴィランたち。そいつら相手に、十歳児にもかかわらず一歩も引かずに戦った増栄が、限界を迎えたとき。
トガは、迷うことなく増栄をお姫様抱っこした。
増栄も、疑うことなくトガの首筋にすがりついた。
これは間違いねぇ! あの二人の間に、オイラは入っちゃならねぇ! そう確信したんだ。
……と、以上がオイラが改宗した経緯だ。
それからのオイラは、よく二人の様子を眺めるようになった。見てるとな、こう、尊いが高まって穏やかな気分になれるんだ。たまに死ぬ。そんな生活だった。
いやもう、二人のイチャつきぶりは、その後もとどまることを知らなかったからな。エロい顔するあやふや敬語系お姉さんが、お固い顔して案外チョロい幼女にぞっこん。幼女のほうも満更でもない。最高かよ。
ただそれはそれとして、実家に帰省したい……つまり女の子と仲良くなりたい、キャッキャウフフしたい(性的な意味で)と思うオイラがいるのに変わりはない。
トガと増栄に手を出そうとはもう思わないけど、他の女子は変わらず守備範囲だったからな。
けどある日、オイラは気づいちまったんだ。オイラが女体を求めてA組女子に近づくと、そこには必ずトガコトカップルもいるってことに。
これに気づいたとき、オイラ愕然としたね。オイラは無意識のうちに、百合の間に挟まる男になってたんだからよ!
それに気づけたのはたまたまだ。たまたま、授業終わりの更衣室で、女子更衣室に続く覗き穴を見つけたからだ。
あのときのオイラは、使命感に駆られていた。オイラのオイラも万歳行為に余念がなかったし、そこにスキマがあるなら覗くしかねぇ! と思ってた。
実家に帰れないなら、入れてもらえないなら、せめて実家を外から見たいって思うのは、ごくごく自然な流れだろ?
けど、覗き込んだ穴の向こうで、ギラギラと不穏に輝く金色の目が……瞳孔の開き切った赤い縁取りのダークネスな金色の目と、視線が合ったのよ。
超怖かった。ちびるかと思った。
そこにあったのは、トガの目だった。やたら勘のいいトガは、オイラの考えてることを見透かして、穴を逆に覗き込んできてたんだ。これが世に言う、「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」ってやつだぜ。
「みーーねーーたーーくーーん?」
トガはその穴からこちらを覗きながら、ヤベェくらいドスのきいた声を出してきた。悲鳴を上げて尻餅をついたオイラは、至極真っ当な感性の持ち主だと思う。
けど、そこでオイラは察した。気づかされたのさ。
女子更衣室を覗けば、女子の十人十色なおっぱいを眺められる。控えめに言って天国だ。
けどな、その中にはな、トガコトカップルも含まれるんだ。それに気づいたんだ。
あのラブラブカップルの着替えを、女体を、オイラが見る?
男のオイラが?
それは――許しちゃならねぇ大罪じゃねぇかよぉ!!
そうして己の罪に気づいたオイラは、二人に謝った。謝り倒した。
ついでに神様にも誓った。もう二度と過ちは犯さねぇって。もう二度と、百合の間には挟まらねぇ、ってな……!
まあ、期末試験のときはそれでも挟まりかけちまって、ケジメをつけなきゃならなくなったが。ケジメ自体に後悔は微塵もねぇ。
ただ誓ったのはいいんだが、一つ困ったことにもなった。
というのもだ。オイラは入学する前から、ヒーロー科の一年生が行く夏の林間合宿を超楽しみにしてた。
いや合宿そのものは別にどうだっていいんだよ。そこに風呂があって、女子も入ることが重要なんだ。入浴シーンがあることがな!
けど、オイラは入学後に改宗したんだ。トガコトカップルの間には挟まらない、その覚悟がある。そしてこの「挟まらない」には、二人の裸を見ることも含まれると思ってる。
じゃあ?
そうなると?
A組女子の入浴シーンも見れないってことになるよなぁぁーー!!
入浴シーンは見たい。たとえこの命に代えても。けど、そこには見てはならない禁忌がある。
オイラは悩んだ。多分、人生で一番くらいに悩んだ。悩みすぎて眠れなくて、枕を涙で濡らした夜もあった。
けど悩みに悩んで……ある日、ふと一つのことに気がついたのさ。
A組の入浴シーンが見れないなら、B組の入浴シーンを見ればいいじゃない!!
アハ体験だった。目から鱗が落ちまくったね。
そう、気づいちまえば単純な話だ。雄英のヒーロー科は、二組ある。そしてこれは経験則だが、こういう合宿系イベントは基本的にクラスごとに分かれるものの、行先自体は同じって相場が決まってるもんだ。
だから、そう。
オイラが狙うのは、B組女子!!
範囲は、狙える人数は狭まるが、ものは考えようだ。
手広く行くんじゃなくて、手の届く範囲で。そういう話だ。二兎を追う者は一兎をも得ず、って言うしな。欲張りは身を滅ぼす。
そうと決まれば、準備を整えなければ。
オイラの“個性”は捕縛するには便利だけど、それ以外には向かないからな。文明の利器に頼る必要がある。
そう、必要なものは、何よりもまずドリル……ッ!
待ってろよ林間合宿、待ってろよB組女子!
すべての女体を余すことなくこの目に焼き付けてみせるぜ……!!
この物語を書いてて、主人公以外の視点・・・しかも原作キャラの一人称を書く最初のキャラがまさか峰田になるとは、この海のリハクの目をもってしても見抜けなかった。
というわけで峰田視点で見るトガコトカップルでした。別名、百合の尊さに目と心を焼かれた男の話。
峰田は原作(というか小説版2巻)で、明確に百合の間に挟まりたい男として描写されているんですが、エロスに通暁する男であるからこそ、エロス全開で幼女に迫るトガちゃんに本気の百合を見出してしまったのですというお話ですね。
ついでに、本作ではカットした職場体験後の更衣室覗き事件の顛末もちょろっと。
原作とは異なる裁きが下っていました。裁きっていうか自首ですけど。
あとこれがなんで閑話じゃなくて幕間なのかというと、A組の風呂を覗かないという決意表明なので、当然若干だけど林間合宿編の流れが変わるわけで。
なので、一応この話は飛ばさないほうがいい話だろうな、という判断です。