離れて近づいて 完結   作:月島柊

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第5話 極寒

 俺は当日6:28発高崎行きで高崎に向かった。高崎駅で乗り換えるときは結構寒く、フードを被るほどだった。

 

「寒いねー」

「お姉ちゃん、寒がりだもんね」

「へぇ、意外なところもあるんだな」

 

俺は水上行きの電車が入線してくる番線に向かった。

 

「ねぇ、蒼くんはさ、怖くなったりしないの」

「怖いってなんだ」

「私が裏切るとかさ」

「怖くないよ。信じてるから」

 

俺は水上行きの車内に入った。車内は暖かく、有希は手袋をとった。

 

「ぬくぬく~」

「なんだよぬくぬくって」

「暖かいってこと~」

 

咲希が俺に言った。ぬくぬくなんて聞いたことなかったし。上越線は乗務で一回も入ったことないが、湘南新宿ラインの前橋行きや、途中で長野原草津口行きに抜かされることがあるから知っていた。

 

「外は何度ぐらい?」

「多分10℃前後。土合はもっと寒いぞ」

 

多分2℃とかそのくらいだと思う。雪だって降ってるだろう。

 

「そしたらお兄ちゃんが暖めてくれる?」

「どうだろう、俺も寒かったら無理だな」

「大丈夫でしょ。蒼くんずっと暖かいし」

 

あ、そういう感じ?俺だって寒いときあるんだけど。

 

「俺だって寒いときあるぞ」

「大丈夫だって」

 

俺は打ち消された感じがしたが、すぐに立ち直り、席に座っていた。

 

 水上で乗り換え、土合で降りた。下り線のホームはトンネルの中にある。

 

「階段ながーい」

「460段くらいあったかな」

 

3人は上り始めた。

咲希が半分くらいの270段付近で俺に寄ってきた。

 

「疲れたぁ…おんぶしてぇ」

「しょうがないな…ほら」

 

咲希は俺に背中に乗った。俺はどんどん次の段へ上っていく。有希も負けないように追いかけてくる。

 

「あと5段だぞ」

「じゃあ降りる!」

 

咲希は背中から降りて3人でラストを上り、外に出た。

 

「しゃむっ」

「蒼くん…ぎゅーっ」

 

有希は俺に抱きつく。確かに痛いほどに寒い。けど、ここに来たいって言ったのは俺たち全員だし。

 

「ゆ、有希…一目につかないところ行こうか…」

「はーいっ」

 

俺は有希から離れないようにして建物のすみに行った。咲希は俺の脇に入って暖まっている。

 

「ふかっ」

 

有希が俺の胸に飛び込んでくる。柔らかい訳ないけど、ちゃんと暖まってくれている。

 

「ぬくぬく~」

 

またか。この「ぬくぬく~」って。暖かいってことでいいだろうけど、まだ慣れない。

 

「すりすりー」

 

有希は頬をすり付けてくる。頬が柔らかく、ぷにぷにしている。しかし、氷のように冷たい。

 

「寒いか?」

「うん…あ、蒼くん、あの時は──」

 

俺は有希の肩を押して俺から突き放した。

 

「…蒼くん…?」

「…あ、あ、悪い…」

 

俺は有希に謝ったが、もう手遅れ。

 

「蒼くん…教えてよ、あの時のこと」

「お兄ちゃん…」

「…分かった…話そう…」

 

 あれは今から6年前、高校3年生のころ。有希とは当時付き合ってもいないただの親友だったが、俺は有希が叩かれているところを見てしまった。2年生だった有希は力もないのに年上の3年生から見た目のことで叩かれていた。

 

「おい!何してるんだよ!久人!」

 

久人は普段から暴力体質のある男子生徒。成績も俺の半分ほどしかなかった。

 

「何って、お前の彼女?すっげーブサイクだからさ、イケメンのお前にはもったいねぇと思ってよ、今ぶちのめしてるところなんだよ」

「ぶちのめしてるって、大学行かないからって、お前…」

「だってこんなやつなんだぜ?やめた方がいいって!」

 

久人は有希を蹴り飛ばした。

 

「うぐっ…」

「ほら、こんな声しか出せない女だぜ?」

 

俺は久人の発言に怒りを持った。有希に向けて「ブサイク」だの、「もったいねぇ」だの、蹴り飛ばしたり。そんな中でも、久人はエスカレートしていった。

 

「どうなんだよ!」

 

掴んだのはまさかの首元。強く掴んでいる。有希は首を絞められて苦しそうに咳き込んだ。

 

「いい加減にしろ」

 

俺は小声でそう言った。

 

「あ?」

「いい加減にしろ!」

 

俺は久人に向かって走った。右手には拳を作って久人に突っ込む。

 

「ぐはっ」

 

久人は殴られてその場に倒れた。しかし、俺の怒りはそれだけでは収まらず、久人を数回殴った。たまたま先生がいたらしく、俺はその後職員室へ。事情を話しに行ったんだが、俺は久人から全て自分のせいにされて、処分は3ヶ月間の停学処分。有希が話しかけてきても、俺はまったく見る気もなかった。

 

 そんなときとは、いや、あまり変わってないけど、少しはよくなった。

 

「停学だったの?会わないと思ったら」

「あぁ。伝えてなかったからね」

 

俺は有希に言った。

 

「大丈夫だよ。よしよし」

 

有希は俺を優しく包むように俺を抱き締めた。いつもの好きだから抱きつく。という訳じゃない。安心させるようだった。

 

「有希…」

「もう私がいるから、心配しないで」

 

有希は泣き出しそうなのに我慢して俺を撫でていた。

 

「蒼くん…」

 

俺は冷えている有希の頬に手を当てた。氷以上に冷たく、俺の暖かみもすぐに奪われていった。

 

「有希…無理しなくてもいいんだぞ」

「無理してないの!今は、蒼くんと一緒にいたいから…だから…」

 

有希は思っていたことを全て話し、泣き出してしまった。

 

「有希…」

「お姉ちゃん、お兄ちゃんはきっと離れないよ」

「…ホント?」

 

有希は目をうるうるさせて俺を見た。

 

「あぁ。離れないよ。いなくならない」

 

俺は有希の冷えきっている頬を触って言った。寒さなんて、俺自身はもう忘れていた。

 

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