その名に込められた意味とは。
それを名付けたのは誰か。
※真人と漏瑚が戦います。
※時系列は2巻の辺りですが、本誌バレがあるのでネタバレ注意です。
※時系列的に、真人が七海や虎杖と出会う前で領域展開を会得してない段階
※独自解釈あり
「さあ、やろうか漏瑚――ここなら術師共みたいに、いちいち帳なんて降ろさなくていいだろ?」
「ここは人間共も寄りつかん、残穢など気にせず来るがいい」
真人と漏瑚が向かい合っているのは、とある山中の開けた空間。
地下のマグマにより熱せられた火山性温泉から立ち上る湯気を、二体の呪霊がそれぞれ振り払うと、互いの姿を明確に捉えた。
ぷしゅッ――と、どこかで間欠泉が飛沫を上げる音が響いたのを合図に、二体は同時に術式を発動させる。
ボゴッ――と真人が立っていた付近の岩壁から極小の火山が盛り上がり、激烈な勢いの火炎が吹き出す。
対し真人は、チェスの駒サイズにしていた人間を変形――巨大化、その質量で以て押しつぶさんと漏瑚へ迫る。
「あちちっ……、さすがに速いね」
「あれを躱すか」
真人は自身の魂を変え、動物の脚を模倣。
それにより上がったスピードで、火炎を回避していたが、それでも少し焼かれた。
漏瑚は、先刻した湯気でも払うかのような軽い動作で手を振って火を放ち、迫った巨大な改造人間を消し炭にしている。
さて、ではそもそもなぜ彼らがこうして戦っているのか。
記録――。
――――などには残らない、彼ら呪霊だけのやり取りがあった。
□
「ボス? 俺が?」
「形式上だ。夏油とらやへのメンツもある」
「へえ。メンツ、ね」
人間のようだ――と真人は漏瑚の言葉に対しそう思った。
誰がボスだのメンツだの、漏瑚はどうにも繊細なところがある。
「気乗りせんか」
「いや」
花御もなにやら不安そうだ。
陀艮は「ぶふぅー」いつものような声を漏らしている。
少し思案する。
漏瑚の狙い。
彼が描くビジョン。
そして、ここで提案をタダで引き受けてやるかどうか。
「ならこうしようか――漏瑚が俺に勝てたらいいよ」
「……よかろう」
漏瑚が勝つ――つまり、弱い方がボスになるというおかしな構図にはなるが、今は終わった後のことはいい。
真人の興味は目先にある。
――漏瑚と俺、どっちが強い?
現状、話には聞いている五条悟や宿儺に敵わないことくらいは理解できる。
では、ならば花御は? 陀艮は? 漏瑚は?
術式の特性や呪力からおおよその結果は予測できるが、実際にやってみなければわからないことが多々あるだろう。
何事も挑戦。
何事も実験。
そういう過程を楽しんでみるのも、悪くはないだろう。
今はただ知りたい。
己の魂は何をすれば動く。どうすれば満たされる。
そのためには思いつくまま本能のままに動いてみるのが手っ取り早い。
□
漏瑚には漏瑚の。
真人には真人の。
それぞれの思惑を胸に、呪霊同士の激突は幕を開けた。
真人へと大量の虫が殺到する。
火礫蟲――鋭いトゲが真人の肉体へと突き刺さる。が、それでは終わらない。
イ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――という並の人間が耳にすればそれだけで気絶しそうな絶叫が迸った。
「うっさ」
――が、真人からすればそれがどうしたという話だ。
大音響で鼓膜を破られようが、魂の形次第でどうにでもなる。
例えば術師相手ならば、聴覚を潰せば背後からの攻撃も通りやすくなるかもしれない。
漏瑚ならば自在に小さな火山を出せるのだ。背後からの攻撃もし放題ではあるだろう。
さらに――爆発。
大量の虫が一気に弾け飛び、真人がいた地点に火柱が上がった。
「これまでか……」
決着した――そう思いつつ、漏瑚は立ち上る火炎の揺らぎ、その向こうで炭化した人型を見つめる。
真人は魂の形を変えるという破格の術式を持っているが、それには相手に触れる必要がある。
遠距離の攻撃手段を豊富に持ち、さらに自身の移動速度も高い漏瑚に触れるというのもそう簡単ではないだろう。
相性の問題だ。
近接メインの術師相手なら現状でも脅威になるが、遠距離に関しては後々の成長次第だろう。
いくらでも応用が効きそうな術式だ、すぐにでも遠距離にも対応するだろう。
などと、真人の今後の育成方針を考えているところへ――――……。
「はい、俺の勝ちね」
「な――っ!?」
無為転変――――必殺となる凶手が、漏瑚の背後に立つ真人から伸びていた。
トリックは極めてシンプル。
ただ爆炎の中で、自身と、自身と同じサイズの改造人間をすり替えただけ。
真人自身も、確かに爆炎に巻き込まれているが、どうということはない。どれだけ高い火力を誇ろうが、真人の魂には届かない。
「俺の術式さ、人間には効くけど呪霊にはどうかな?」
――――答えは簡単。
当然、有効だ。
なにせ真人自身が魂を変えている。
真人という呪霊の魂をいじれるのなら、漏瑚の魂も同様に操作可能なはず。
「まあ良い。これはいずれ見せておかねばならぬからな」
「負け確から何を見せるって?」
「領域展開――――蓋棺鉄囲山」
真人に背後から触れられている状態で、漏瑚は素早く印を結び、その名を告げた。
領域展開――――未だ真人の至らぬ呪術戦の頂点に座す技術、
瞬間、世界が塗り替わった。
元から戦いの場は火山の麓ではあったが、もはやそんな次元ではない。
火山内部――否、焦熱地獄の具現の如く煮え立つ世界が広がった。
漏瑚の生得領域――心象で作られた結界。
古来より人が恐れ、呪った風景そのもの。
人類の歩みの中で、火山の噴火により流れてた溶岩に飲まれ溶け消えた人間がどれ程いただろうか。
その全ての魂が呪った熱さを、漏瑚は顕現させることができる。
「ハハッ、いいね。そうか、これが……!!」
これが領域展開。
話には聞いていたが、やはり百聞は一見に如かずというやつだろう。
歯を剥いて笑う真人。
欲しい。どうすれば自身もこの術に手が届く?
己の領域は、魂は、どんな形で世界を塗り替える?
「少し、今の身の程を知っておけ」
このような表現が適切かは知らないが、漏瑚なりの〝親心〟であった。
真人は強くなる。だが今はまだ何も知らない。
漏瑚の放つ巨大な燃え盛る岩石。
遥かな空より飛来する星の欠片めいたそれが、真人を押し潰し、焼き尽くした。
必中かつ、領域の中和効果により、真人を魂ごと焼く。
今度こそ決着だ。
今の真人に領域はない。その段階で漏瑚に勝つことは到底不可能だ。
漏瑚はそれを言葉を尽くして説明する気はなかった。
こうして領域を見せておくことが、いつか真人の助けになるだろうと見越してのことだ。
□
「気は済んだか?」
「ああ。伊達に偉そうにしてないわけだ」
火加減には気を使った。
領域を解いて、倒れる真人に対し、付近の岩へ腰掛け、奇怪なパイプを咥えつつ話しかける漏瑚。
「縛りじゃないにせよ、負けは負けだ。言うことは聞くさ」
「言ったであろう、所詮は形式。真人、儂がお前に頭目としての心得を事細かに説くとでも?」
なぜ呪霊に、名前があるのか?
人間が名付けた? だとすれば、呪霊側が好んで呼び合うことはないだろう。
であれば呪霊同士で名付けることになるわけだが、では彼の名にはどのような意味が込められているのか。
人間は、嘘をつく。
なぜ嘘をつくか――――それは、弱いからだ。
強者が己を偽る必要はない。強者は、ただあるがままに振る舞うだけでいい。
千年以上前、きっと両面宿儺はそうしたはずだ。
そして今、漏瑚が彼に願うのはそれだ。
名付けるとは、そこに意味を込めること。
願いを込めること。
その存在を祝福すること。
あるいはその存在を規定する、呪いだ。
嘘偽りのない、真に純粋な、本物の人間であること。
そう願われた、あるいは呪われ――――彼は真人と名付けられた。
ただあるがまま、剥き出しの魂で振る舞い、人の時代を終わらせる。
だから漏瑚は、現状で最も強い己ではなく、いずれ己を超える強者となる真人をボスに据えたのだ。
蓋棺事定(がいかんじてい)
その人の生前の評価はあてにならず、死後になってはじめて定まること。
「蓋棺」は遺体を入れる棺の蓋を閉めるということから、死ぬことをいう。
「棺を蓋いて事定まる」とも読む。
引用元
https://yoji.jitenon.jp/yoji/026.html#:~:text=%E8%93%8B%E6%A3%BA%E4%BA%8B%E5%AE%9A%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6&text=%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E7%94%9F%E5%89%8D%E3%81%AE,%E3%81%84%E3%81%A6%E4%BA%8B%E5%AE%9A%E3%81%BE%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%82%82%E8%AA%AD%E3%82%80%E3%80%82
漏瑚、強いよね……みたいな