「ゆずちゃん?そろそろ何か食べなきゃ体を壊すわよ?」
襖を開けると、そこにはゆずの姿はもうなかった。
「姉さん?」
「やっぱり行ってしまったわ」
「……彼女は戦いの中でしか生きられないのかもしれないとは思っていたけど……。それなら鬼殺隊に声をかければよかったわね」
「あの子、目は死んでなかったもの。きっと今以上に強くなって、もう1度私達の前に姿を見せてくれる様な気がするわ」
「そうかしら。体も大きくないし、華奢だし、鬼と戦うのはやはり厳しいのに変わりはないわ」
「あら?えらく気にかけているわねしのぶ」
にっこりと笑みを見せるカナエに、しのぶは少しむくれ顔で「そんなんじゃないわ。ただ、……少し自分と似ていた気がしたから」とボソッと呟いた。
「フフ。女の身で鬼と戦うのは波半端な覚悟じゃ務まらないわ。もし、彼女がまた私達の前へ姿を見せてくれたら、継子にしようかしら♪」
「も~、姉さん!そう簡単に何でも言わないで!」
「フフフ」
1人窓から飛び出したゆずは、この5年間実弥と一緒に旅をした町を順番に巡っていた。その度に思い出すのは、実弥との思い出だった。
「あれ?ゆずちゃんじゃねぇか!その首の包帯大丈夫かい?」
話しかけてきたのは、以前この町に訪れた時実弥と一緒に立ち寄った甘味屋の店主だった。随分とおはぎを2人で食べたもんだから、顔を覚えてくれている様だ。
「ちょっと怪我をして……」
「そりゃいけねぇ。おはぎあげるからゆっくり休みなァ?」
そう言って、店主は懐からおはぎが入った小包を取り出して無理やりゆずの両手に握らせた。
「実弥君と仲良く食べるんだよ?」
その言葉は今の私の心には酷く突き刺さった。
「はい。ありがとうございます」
―ちゃんと笑えていただろうか。実弥の名前を出されると、あんなに泣いたはずなのにまた涙が溢れそうになる。
歩きながら口に頬張ると、トロっとした甘さが口いっぱいに広がっていく。懐かしい甘さに、胸の奥が熱くなっていく。
―駄目だ、強くならなきゃいけないのにこんなことで泣いてる様じゃだめだ。
ゆずはペチンっと頬を叩き自分を鼓舞しながら、足を進めた。
ゆずが向かったのは、この白いかざぐるまをくれた茂吉さんの家だった。
「ゆずちゃん!?さぁ、中へ入って!!君を待っていたんだよ」
茂吉さんは相変わらず優しく私を受け入れてくれた。
「実弥君から話は聞いているよ。俺は君たちに随分と助けられた。君たちの力になりたいんだ。だから遠慮なくこの家を―…」
茂吉さんは、私の顔を見て段々と喋るのをやめていく。
「ゆずちゃん?」
「実弥は1人で生きていくことを決めた。私もこれからは1人で生きていくつもり」
「そうかい。君が決めたのなら俺は何も言わないよ。でも、困ったことがあったらいつでも訪ねてくるんだよ?」
ー相変わらず優しい人だなぁ。
「茂吉さん。このかざぐるま、私と実弥にくれてありがとう。5年も一緒にいたのに、実弥と目に見えて分かる思いでって、このかざぐるまだけなんだ。これが私と実弥を繋いでくれる気がするの」
「まだ大事に持っていてくれていたんだね」
「私たちの大事な御守りだもの。そうだ、1つお願いしてもいいかな……?」
「なんだい?」
ゆずは実弥の手紙と一緒に添えられていた、カスミソウの花を渡した。
「花はいつしか枯れてしまうけれど、この花は実弥が最後に送ってくれた大事な花なの。押し花にしてずっと持っておきたいんだけど作れるかな……?」
そう言うと、茂吉さんはクスクスと笑いながら私を見ていた。
「なんだ、そんなことかい?お安い御用だよ」
茂吉さんは綺麗な押し花のしおりを作ってくれた。
「こんな感じでいいかな?」
「ありがとうございます!!」
ゆずは大事そうに受け取って、胸元にしまった。
「もう行くのかい?」
「はい」
「どこへ、…なんて聞いてもいいのかな?」
「家に帰ろうと思うんです」
「家に?」
「私の全てが始まった場所。私はそこに行かなきゃいけない気がして」
「ゆずちゃんならきっと強く生きていける筈さ。家に戻って、つらくなったりしたらまたここに戻っておいで?いつでも待っているからね」
「ありがとうございます茂吉さん。……行ってきます」
久しぶりに心から笑えた気がした。
「行ってらっしゃい!!」